ポケモンが現れた世界に生まれて   作:ダダダッダ

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二十四話

 四回目の認定試験。その前段階のテストの会場は、とある会社の会議室で行われていた。

 目の前のスクリーンに映されている映像のタイトルは、『鋼のすべて』というもの。炭素がどうたら、生産量がこうたらと、そんな内容だ。

 一時間あるこれを見れば、テストは合格という事らしい。こんなに長いテストのある試験場は、ここだけなのではないだろうか。

 

 全国でも試験所の数があまり多くない『はがね』タイプ。しかもゴールデンウィークという予約が殺到するはずのこの日に、空きがあったことを不思議に思っていたが、これを体験して納得した。

 数日前に予約を申し込んだのだが、そんな急な申請でも受理されるくらい人気がないのも頷ける。もっと調べておけばよかった。

 

 はがねタイプのポケモンは大好きだ。ルカリオもそうだし、他にも格好いい子や可愛い子が沢山いて、とても素晴らしいタイプだ。

 だがそれはポケモンが好きなのであって、鋼自体に興味がある訳ではない。

 いや、テストだからしっかり映像は見ているが、それでもつまらないと思ってしまうのくらいは許してほしい。

 

 だがそんな時間もやっと終わる、とても長い一時間だった。はやく外に出てポケモンバトルをしたい。今ならポケモン達へのお願いのキレが、いつもより良くなる気がする。

 

「―――」 

 

 しかし誰もやってくる気配がない、これは動いてもいいのだろうか、真面目に見ていなかったと思われはしないだろうか。下手なタイミングで立ち上がると、誰かが来た時に勘違いされそうで怖い。

 そうしてメニュー画面しか映さなくなったスクリーンを、ぼんやりと眺めること数分。そこでようやく誰かが会議室のドアを開けて入ってきた。

 

「申し訳ないね、白雪君!」

「いえ、僕は大丈夫です」

 

 彼は相当急いできたのだろう、汗が流れているし、息も上がっている。

 たしかに早く来て欲しいと思ってはいたが、そんな相手にあまり強くは言えなかった。

 

「それじゃあ、行こうか」

「あの…、もう少し休んでからでも…」

「いやー、もう部長は向こうに居るみたいだからね。遅れたらオジサン怒られちゃうよ」

 

 まだ少し息が上がっているので、もう少し休憩するように促したが、どうやら上司を待たせているようで急いでここを出たいらしい。

 それでこんなに急いで来たのか。何で遅れたのかは知らないが、社会人は大変だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よろしくね、白雪君。あ、これ私の名刺だよ」 

「よろしくお願いします。えっと、…部長さん」

「呼びにくいよね、好きな呼び方で大丈夫だよ」

 

 そういう事なら、ブチョーさんと呼ばせてもらおう。呼びにくい苗字だったので助かった。

 それにしても名刺なんて始めてもらった。受け取り方はこれでいいのだろうか、子供なので気にしなくてもいいのかもしれないが、あとで一応調べておこう。

 

「ごめんね。人が見ているけど、あまり気にしないでね」

 

 試験用のコートは会社の広い敷地の一画、駐車場の横に高いフェンスに囲まれて用意されていた。

 その様な場所なので、トラックの運転手や会社の従業員が、試験の様子を見る事もあるようだ。今も何人かが見学している。

 ここに来た時から思っていたのだが、祭日なのに普通に働いている、皆さんお疲れ様です。

 

「外からの撮影は禁止しているから、そこは安心してね」

「それなら大丈夫です」

「落ち着いてるね、大人でもガチガチになる人がいるんだけど」

 

 ガチガチになるような場所で試験を行うのはどうなのだろう、もしかして敢えてそうしているのだろうか。だとしたら、こういう所も人気がない理由なのだと思う。

 

「学校の授業で戦ってますから」

「ああ、そうか、ポケモン学校の生徒なんだね。見られるのは慣れているわけか」

「クラスメイトや先生が見てますからね」

「四つ目なんて早いと思ってたけど納得したよ」

 

 学校で見られ慣れているのもあるが、ポケモンの家族達がいて落ちる心配がないのも、緊張しない理由だろう。

 原作で大きな会場で戦ってきたエースバーンがいる。彼女ならこれくらいで緊張なんてしないだろうし、実力を発揮できずに試験に落ちるなんて事はまずない。

 他の子が緊張したとしても彼女なら三抜き出来る、不安なんて何もないのだ。

 

「ポケモン学校の生徒で、他の子は来ないんですか?」

「いやー…、噂が立ってるみたいで、子供は受けたがらないみたいなんだよ」

 

 ポケモン学校の生徒は他にも来ているだろう。そう思ったのだが、どうやら子供は噂を聞いて、この試験場自体を回避しているようだ。

 たしかにテストのあの映像と、じろじろ見られながらの試験では子供は来たがらないかもしれない。大人でも嫌だろうから仕方がない。

 

「まあそれは仕方ないか…。そろそろ始めようか、白雪君」

「はい。よろしくお願いします、ブチョーさん」

 

 ブチョーさんは少し悲しそうにしながらも、試験を始めようと言う。この後にも仕事があるだろうし、いつまでも話している訳にもいかないのだろう。

 こちらとしても早く合格して、家でみんなに祝ってもらいたいので問題はない。

 

「白雪君、絶対に勝たなくてはいけない訳ではないからね」

「はい」

「負けただけで不合格という事ではないから、最後まで諦めないで戦うんだよ」

「分かりました、最後まで戦います」

 

 今回の認定試験は、試験官と同じ数の三対三で戦う。

 向こうも手加減はしてくれるのだろうが、それでもポケモンはしっかり育てられているはずだ。同じ数の敵というのは厳しいのかもしれない。途中で勝てないと思い、諦めてしまう人もいるのだろう。

  

「お父さん、お願いね」

「うん、みんなと応援しているよ。頑張ってね、玲くん」

 

 しかしここには今、みんなや父が居る。情けない姿は見せたくないので、途中で諦める事なんて絶対にない。

 そんな父に、試験に出ないみんなのボールを預ける。外でみんなが応援してくれるのだ、頑張らないと。

 

「三匹決めたね、それでは位置についてね」

「わかりました」

 

 開始位置に立ちエースバーンのボールを優しく撫でると、彼女は震えて返事をしてくれた。準備は出来ているようだ。

 何時でも始めていいという気持ちを込めて試験官に目を向けると、向こうも分かってくれたようで頷いてくれた。

 

「それでは認定試験、始め!」

「お願いね、エースバーン!」

 

 試験官の開始の声に、両者は同時にボールを投げる。

 光の中から飛び出たエースバーン、腰に手を当て周りを見回す。観客達の姿に戦いの記憶を思い出したのか、その顔に笑顔を浮かべている。

 

 試験官が選んだ最初のポケモン、その種族の名はダイオウドウ。エースバーンは敵の姿をその目に捉え、高く高く鳴き声を上げた。

 

「走りなさい!」

「後ろに回って、エースバーン!」

 

 勢いを利用したダイオウドウの『たいあたり』は、しかし速さが足りない。気づいた時には、そこにはもう誰もいなかった。

 

 敵の後ろに回り込んだエースバーン、そのまま相手の尻に向かって『とびひざげり』を食らわせる。この距離では外しようがない、浮き上がるほどの衝撃によって、ダイオウドウは意識を落としたのだった。

 

「一発か、凄い子だね。だけど次はどうかな」

 

 恐らく試験官はこちらに合わせて弱点を突けるタイプの子を出してくるだろう。試験の趣旨としてはこちらもそれに対応した子を出した方がいい。

 しかしこれだけで交代では、エースバーンに申し訳ない。久しぶりの戦いをあんなに喜んでいるのに、それは可哀そうだ、このまま戦ってもらおう。

 

「出ておいで」

「そのままお願い、エースバーン!」

「バァース!」

「ダグダグダ」

「え…」

 

 試験官のボールから飛び出したのはダグトリオ、それもアローラの姿だった。

 この姿の子も日本にいたのか。何年か前にネットで調べてみた事があるが、アローラの姿はどの子も日本で確認されていなかったのだが、どうやら生息してはいたようだ。

 うちのアローラ娘を出した時の言い訳が思いつかず悩んでいたのだが、どうやら必要なかったようでよかった。

 

「安心していいよ、ちゃんとはがねタイプだから」

「あ、いえ…」

「髪が生えてるでしょ。何年か前に海外旅行に行ったときに見つけた子なんだ」

「え…あ、あの、日本には?」

「日本は…、まだ見つかっていないみたいだね」

 

 なんだ、日本で見つかった訳ではなかったのか。それならうちの子はどうやって出してあげようか、良い言い訳が思い浮かばない。

 まあいいか、気にしない事にしよう、何か言われても突然変異で誤魔化す。ポケモンは不思議な生き物なのだから、そういう事も絶対にないとは言い切れないはず。

 それに居ないと決まった訳ではない、いつか見つかるかもしれないのだ。

 

「さあ、試合再開だ」

「はい。エースバーン、火の玉だよ!」

「潜れ!」

 

 かえんボール―――

 地面の小石をそのまま蹴り抜き、炎を纏わせ相手へシュート!

 穴を掘ろうとしたしたダグトリオ。しかし残念、間に合わない。三匹まとめて炎に焼かれ、何も出来ずに倒れてしまうのだった。

 

「ええ…、速いなぁ…」

「バースッ!」

 

 嬉しそうにこちらに手を振る、ニコニコ笑顔のエースバーン。とっても可愛い、抱きしめたい。おっと今は試験中、手を振り返すだけにしておこう。

 

「んー、これはもう合格でいい気がするけど…最後まで戦えって言っちゃったしな…」

「えっと、できれば続きを」

「そうだね。うん、続きをやろう」

 

 よかった、続けてくれるようだ。このまま終わってしまっては、エースバーンのテンションが下がってしまう。

 一撃で倒してはいるが、それでも久々の戦いという事で、楽しめているようなのだ。そのまま笑顔で試験を終わらせてあげたい。

 

「頑張ろう、何とか一発!」

「グワァァ!」

 

 アーマーガア、『ひこう』『はがね』タイプのカラス型のポケモン。どんな育て方をしていたとしても、この子がダクトリオよりも速いという事はないだろう。外さなければ『かえんボール』一発で終わりだ、硬い子だけど耐えられるとは思えない。

 

「エースバーン!最後に気持ちよく、火の玉シュートだ!」

「バァースッ!」

 

 小石を蹴り上げ炎を纏わせ、そしてその場でリフティング。魅せる魅せるよエースバーン、観客も大盛り上がりだ。

 そんな彼女の敵に向ける瞳は、キラキラ輝いていた。

 

 

 

 

 

 

「四回目の試験、合格おめでとう…」

「ありがとうございます」

「いやー、硬さには自信のある子だったんだけどね…」

「タイプ相性は重要ですね」

 

 これで長い認定試験が終わる。前段階のテストの方が長くて辛かったが、エースバーンが喜んでくれているようなので、まあこの試験場を選んでよかったとしておこう。あまり人に薦めたい場所ではないが。

 

 とそこで妙案を思いついてしまった、紗更になら薦めてもいいかもしれないと。いやまだ出来ると決まった訳ではない、これは確認しなくては。

 

「あの、すみません、さっきの髪が生えた子なんですけど」

「え、うん。あの子がどうかした?」

「三つの頭で同時攻撃なんていう技、使えますか?」

「んー、試験内容に関わるから言えないんだけど…。まあ合格してるからいいか、使えるよ」

 

 よかった、あの技は使えるようだ。試験内容に関わるという事は、実際に試験で使っているという事だろう。覚えてはいるけど、試験には使っていないなんて事はないようだ。

 

 紗更がここで認定試験を受ければ、ピーちゃんはあの技を覚えることが出来るかもしれない。名前も分からない子を探して動画を見続けるよりは、不人気でもここで試験を受けた方がいいだろう。紗更の判断次第だが。

 

「はい、これで認定試験は終了」

「ありがとうございました!」

「白雪さん、書類はこちらで提出しておきますので」

「はい、分かりました、よろしくお願いします」

 

 ピンバッジを貰い、認定証に判を押してもらって、これで四回目の試験は全て終了だ。後はここの社員の方が書類を提出してくれるだろうから、こちらでやる事はもうない。

 しかし重要な事はまだ残っている。横に立つ父を見上げれば、こちらに向かって微笑んでくれた。さすが父だ、息子の事を分かってくれている。

 

「入口近くの建物でグッズなどを販売していますので、よろしければ見ていって下さい」

 

 もちろん行きますとも。

 

 

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