誤字報告もありがとうございます、いつも助かっています。
これからも応援よろしくお願いします。
「白雪くんで間違いないね?」
「はい、間違いありません。よろしくお願いします」
いよいよ五回目の認定試験が始まる。周りでは家族のみんなや友人達、今日知り合った中学生やその相棒。
沢山の人達が応援してくれているのだ、絶対に合格して見せる。
「一応確認するけど、五回目の試験だね?」
「はい、そうです。すみません、急な変更で」
「前日に知らせてくれたから構わないよ」
本当なら今日は四回目の試験のはずだったのだが、前日に別の試験を入れたために五回目に変更になったのだ。
もっと早く報告するべきなのだが、試験に合格する前にという訳にはいかなかった。まずないが、万が一落ちていたらそちらの方が迷惑が掛かる。何回も変更を要請することになるのだから。
家に帰ってすぐ連絡したのだが、それでも前日だ。急な変更で迷惑をかけてしまい申し訳なく思っていたのだが、構わないと言ってもらえた。
「ここは四回目も稀でね。テストの準備が必要だったから、無くなって逆によかった」
「そ、そうなんですか」
「運動不足の子達にもいい事だ。だから気にしなくていい」
変更になってよかったと言ってくれているが、そんな事ある訳がない。想像でしかないが手間が増えているのは間違いないだろう、少なくとも書類の用意などはあるはずなのだから。
だがいつまでも気にし続けるのは、こう言ってくれているこの方に逆に悪い。申し訳ないがお言葉に甘えさせてもらおう。
それにしても運動不足の子か、やはり試験回数によって出すポケモンを変えているようだ。恐らく今回の試験では、かなり強い子達が出てくるだろう。これは気を引き締めなければ。
「こちらこそ申し訳ないね、白雪くん」
「はい?」
「うちでは五回目の試験は初めてでね、勉強になるからと見学を薦めたんだよ」
周りを見れば大勢の子供やその保護者が試験を見学している。自分も他の子の試験を見ていたし気にしていなかったが、確かに他の子の時よりも多い。というかほぼ全員が見ているのではないだろうか。
なるほど、勉強になると薦めた結果がこれなのか。まあ、ここは初心者が来るような試験所だ。そこで普段やっていない試験をやるのだ、勉強にもあるだろうし見たい気持ちはわかる。自分だったら間違いなく見る。
「遊ぶためだけに来る子もいるので、ここまで多くなるとは思ってなかったのだよ」
「これくらいは大丈夫です」
「緊張はしていないかな?」
「はい、学校で慣れているので」
「そうか…。ありがとう白雪くん」
見学者がいるのは最初から分かってたことだし、見られるのも何時もの事だ、授業で慣れている。それにこれから大会で戦っていくつもりなのだ、このくらいで緊張していたらやっていけない。
試験官の方には迷惑もかけたのだし、罪滅ぼしということで、彼らの勉強になるというなら一肌脱ごう。
「出す子は決めているかね?」
「はい、この子達です」
「私はこの子達だ」
五回目の試験は、前回と同じく三対三で行う。ここに連れてきているのはルカリオ、マスカーニャ、オーガポンだ。
ルカリオだけで勝ち抜くつもりだったが、今回は今までの試験とは違うだろうし、二匹にも出番はあるかもしれない。
ボールを撫でると、彼女達は力強く震えて返してくれた。どうやら伝わったようだ。
他のみんなは父と姫光と一緒に、ボールの中から見ていてくれている。
「それでは開始位置に行こうか」
「はい、分かりました」
バトルコートの応援してくれている皆の側に向かう。開始位置に立ち、手を振ってくれている皆に手を振り返した。
振り返ってコートの反対側を見れば、試験官がこちらを見ている。両者準備完了のようだ。
「それでは五回目の試験を始める」
試験官の開始の合図に、後ろからの声が大きくなる。
家族や友人達の声援を背に、ルカリオのボールをコートに投げた。
「お願いね、ルカリオ!」
「久しぶりだが頼んだよ」
光の中から飛び出すルカリオ、主人の願いに静かに頷く。目の前にいる敵を睨み、気合を入れて構えを取った。
対する相手が繰り出したのは、いわ単タイプのウソッキー。挑戦者の姿を目に捉え、笑みを浮かべて悠然と構える。
「…ルカリオ、一回耐えて」
「カオ」
主人の指示を聞き入れて、敵に向かって歩くルカリオ。そんな彼女の行動に、敵も合わせて歩き出す。両者揃って敵から目を離さず、バトルコートの中央へ向かう。
両者の距離がどんどん縮まり、その瞬間が近づいていく。そしていよいよ攻撃が届くかという時、遂に両者が手を出した。
しかし響く音は無し、そこには動かぬ二匹の姿。敵の攻撃に備える構え、両者同時のカウンター。敵に痛痒を与えない、その行動に意味はないのか。いいや主人にとっては値千金、知れる情報はあるのだった。
「ルカリオ、一撫でお願い!」
「カオン!」
思った通り敵はカウンターを覚えてた。恐らく、いや、間違いなく特性は『がんじょう』だろう。五回目の試験だ、それくらいの事はしてくるはず。
だがあると分かっているカウンターなんて怖くはない。ゲームとは違うのだ、全力で殴る必要はない、軽い一発を当てればいい。
ルカリオの軽く叩くような攻撃。相手は二度目のカウンターを繰り出すが、しかしルカリオには大したダメージは与えられなかった。
「ルカリオ、インファイト!きっちり倒していこう!」
「カオ!」
デメリットはあるが仕方がない。ここで威力の低い技を出して、カウンターされるなんて御免だ。相手がどれくらい育っているのか目に見える訳ではないのだ、万が一にでも体力を残してはならない。
敵の懐に素早く飛び込んだルカリオ。その体に拳を打ち込み、しっかりと敵を倒したのだった。
「レイくーん!」
「いいぞー!レイレーイ!」
「おにーちゃ、すごいッ。おにーちゃッ」
大歓声。カッコいい姿を見せたいのに、みんなの声に表情が緩んでしまう。
こちらに戻って来たルカリオと一緒に手を振れば、みんなも笑顔で手を振り返してくれる。だめだ、喜びを抑えられそうにない。クールな玲くんは今日は諦めよう。
「よく分かったね」
「勉強してますから。カウンターは頭に入ってます」
「そうか、それじゃあこの子はどうかな」
試験官が繰り出す二匹目のポケモン。ボールから飛び出したのは『ほのお』『いわ』のマグカルゴだった。
ぐつぐつと煮え立つマグマのような体、これは絶対に『ほのおのからだ』だ、あの見た目だが間違いないだろう。
あれに触って火傷にならない訳がない、というか炭になってしまう、三十%とは何の冗談なのだろうか。バトルコートは大丈夫ですか?
というかバトル自体が大丈夫なのだろうか、体温が約一万度だというし、触れる事が出来ない。いや、ゲームのままな訳がないか、もしそうだとしたらこの距離では誰も生存できない。
それにしてもさすが五回目の試験、前回までとは違う。
一匹目からカウンターで潰しに来てるし、多分だが二匹目は状態異常を狙ってきているのだろう。原作のレベルの目安も当てにならないし、これは更に気を引き締めていかないと。
「ごめんねルカリオ、もう一回インファイトお願い」
「カオ」
ルカリオは敵に接触する技しか覚えていない。だがオーガポンに代わってもらっても、攻撃されて火傷してしまっては意味がない、このままルカリオで行く。
しかし時間をかけては『ほのお』が苦手な彼女に申し訳ない、威力のある技で出来るだけ早く終わらせよう。
真っ赤な炎を周りに出し始めるマグカルゴ、恐らくは『ふんえん』だ。やはり火傷を狙ってきている。
だがそんなものは気にしないとばかりに飛び込むルカリオによって、マグカルゴはその体を殴られて意識を落としてしまうのだった。
早くも二匹目を倒したルカリオ、しかしその代償に右手に火傷を負ってしまう。これは交代させてあげないといけない。
ここまで頑張ってくれてありがとうね、ルカリオ。後はオーガポンに任せて、ボールの中で安静にしててね。
「ルカリオ―――」
「カオン」
しかしルカリオの目が訴えていた。まだ自分は戦えると、ここで代えないで欲しいと。
彼女の右手を見る、そこには痛々しい火傷の痕。あれで痛くないはずがないだろう。
それでも彼女は手を握り締め、拳を作って戦えるのだと示していた。
「―――次もお願いね!」
「カオーン!」
ルカリオのそんな姿を見てしまっては、交代なんてさせられなかった。
大事な子に無理をさせるなんて主人としては以ての外だ、反省しなくてはいけない。だけどそれは後にする、今は少しでも早く敵を倒して彼女を休ませてあげないと。
周りでは先程と同じくみんなの声が響くが、今は応えている余裕がない。
ごめんねみんな、今は早く試験を終わらせて、ルカリオの火傷を治してあげたいんだ。でも応援はとっても嬉しいよ、ありがとうね。
「凄い子だね。それでは次はこの子だ」
「ドッサーイ!」
試験官もルカリオを会話で長く苦しめるつもりはないのか、話もそこそこに次の子のボールを投げる。
中から飛び出したのは『じめん』『いわ』タイプのドサイドン、二足歩行でサイの怪獣の様な見た目のポケモンだ。
この世界でも交換進化は出来ると知ってはいたが、原作と違うプロテクターのこの子の姿が気になってしまう。しかし今は試験を早く終わらせる方が先だ。
「ルカリオ!バレットパンチだ!」
「カオン!」
急いでいるからと雑に攻撃してはいけない、相手はたまご技にカウンターがある。火傷を負わせておいてそれはないだろうが、万が一があるのだ。
相手の特性は恐らくハードロック。こちらは火傷だし、バレットパンチなら仮に反撃されたとしても痛くはないだろう。
そして思った通り、相手はカウンターをしてこなかった。ルカリオの攻撃を腕を使ってガードするが、その衝撃によって後ろに数歩さがるだけだった。
彼女の攻撃に耐えたのだ、それだけ育っている子なのだろう。それでも軽くはないダメージを負ったのか、その顔を痛みで歪めていた。
「強い子だ。だけど更に硬くなったらどうかな」
「ドサーイ!」
鳴き声を上げてその場で身構えるドサイドン。分かり難いが、もしかして『てっぺき』だろうか。なるほど、火傷にして鉄壁で耐えて敵を削る作戦か。
硬くなったらと言っていたし、マシン技だが前例はある。天候も変わらないし、見た感じルカリオにも変化はない。てっぺきの可能性が高い。
だがそんなもので耐えられる訳がない。すでに一撃を与えているし、ルカリオは攻撃を伸ばしている子なのだ。
「ルカリオはとっても強いって教えてあげよう!」
「カオーン!」
インファイト―――
敵の懐に飛び込んだルカリオは、自分よりも大きな敵にその拳を打ち込む。
プロテクターの上からでも届く強い衝撃によって、ドサイドンはその大きな体を浮き上がらせ、そのまま地面に打ち付けられて仰向けで倒れてしまうのだった。
「終了。お疲れ様、白雪くん」
「ありがとうございました」
頑張ってくれたルカリオをボールに戻して、試験官の元へ歩いてく。彼女の火傷を治してあげたいけど、今は挨拶を先にしなくてはいけない。もどかしいが仕方がないのだ。
「白雪くん、傷薬を用意してあるから、今の子に使ってあげて」
「こちらはいいから、先に治療してあげなさい」
「すみません!ありがとうございます!」
どうやら受験生のポケモン用に傷薬を用意してあったようだ。さすが人気のある試験場、こういうところなのだな。
この世界の薬はとんでもない効能ではあるが、ゲームとは違いさすがに一瞬で治るほどではない。ルカリオの火傷はあとで原作アイテムを出して治してあげるつもりだ。
それでも応急処置になるので、薬を貰えたのはとても嬉しい。
先に治療していいとも言ってもらえたので、お言葉に甘えさせてもらおう。試験官の奥さんから傷薬を受け取り、ボールからルカリオを出してあげる。
「よかったね、ルカリオ。お礼しようね」
「カオーン」
「どういたしまして」
チューブタイプの火傷専用の傷薬を、ルカリオの手を取って優しく塗っていく。
彼女は何でもないような顔をしているが、痛くないはずがない、我慢してくれているのだ。
この様な怪我を負ってまで、主人のために戦ってくれたルカリオ。そんな彼女の主人だと胸を張って言えるように精進していかないと。
「頑張ってくれてありがとうね、ルカリオ。凄かったよ」
「カオーン」
試験官の奥さんからガーゼと包帯を受け取り、ルカリオの手に優しく巻いていく。実際に巻く経験はないが、学校で習っていてよかった。
自分の手に巻かれた包帯を見るルカリオの顔は、とても嬉しそうだった。
「ゆっくり休んで元気になってね」
「カオン…」
包帯を巻き終わり、これで処置は完了だ。ルカリオをボールに戻してあげる。
彼女は少し寂しそうな顔をしていたが、怪我を早く治してもらいたい、ボールの中で安静にしていて欲しいのだ。
「待たせてしまって、すみません」
「気にしなくていい、子供たちの勉強になる」
「ポケモンを大事にするって大事よね」
周りを見れば戦いは終わったのに、まだこちらを見ている。家族や友人達は分かるが、なんで知らない人達まで残っているのだろうか。
まあいいか、別にみられても問題はない、恥ずかしい事をしていた訳ではないのだ。
「では白雪くん、合格おめでとう。これがここのピンバッジだ」
「ありがとうございます」
「それと認定証を」
「はい、お願いします」
ピンバッジを受け取って、認定証の裏に判を押してもらう。これで五回目の試験も終了だ。
ルカリオに無理をさせる状況を作ってしまった、そこは反省しなくてはいけない。だがそれでも自分なりにしっかり考えて指示を出した。
応援してくれたみんなに、カッコいい姿を見せられただろうか。
「あ、グッズは向こうに用意してあるから心配しないでね」
「ッ、わかりました」
どうやらグッズ販売は奥さんが担当しているようだ。人気のある試験場なのだ、多くの受験者を捌くために役割を分担しているのだろう。
「今は他の子の準備があるから、少しだけ待っててね」
「はい、わかりました」
原作アイテムでルカリオを治療するのだ、逆にありがたい。
それに父が一緒でないとグッズは買えないし、家族や友人達が待ってくれている。みんなと話もしたいので、どのみち今すぐという訳にはいかなかったのだ。
「おにーちゃッ」
「ニャニャウ!」
「レイくん、おめでとー!」
「ピハッピッハー!」
試験官と奥さんに挨拶して、応援してくれていた皆の元へ戻ると、姫光が腰に抱き着いてきた。
妹の相棒のミーニャちゃんに、紗更やピーちゃんも一緒にいて、みんな嬉しそうに笑っている。笑顔の美少女達に囲まれるというそんな状況に、心が躍り出してしまう。
父や友人にポケモン達も笑顔で迎えてくれるし、この試験場を選んで本当によかった。