誤字報告もありがとうございます、いつも助かっています。
これからも応援よろしくお願いします。
「近くに誰もいないよね?」
「カオ」
試験が終わり現在は試験場の駐車スペース、ルカリオと一緒に車の中にいる。彼女の火傷の治療をするために、原作アイテムを出す必要がありここに来たのだ。
車の中なら窓の外から見えない高さで治療すれば、わざわざ覗こうとしなければ見られることもないだろう。
瀬川さんや他のみんなにも、試験の反省会を誰もいない場所でしたいと言ってあるので、邪魔しないようにと来ないでくれるはずだ。
それにルカリオがいるのだ。仮に誰かが覗こうとしても、気配やら何やらで彼女ならきっと気付いてくれるはず。
「いくよ、ルカリオ」
「カオン」
傷に響かないよう慎重に包帯を解き、『やけどなおし』の噴射口をルカリオの傷口に向ける。スプレータイプの使いやすい薬でよかった。原作アイテムにはどう使用すればいいのか分らない物もあるのだ。
そうして薬を吹き付けると、ルカリオの傷の赤みが一瞬のうちに目立たなくなる。続けて『まんたんのくすり』を使えば、彼女の傷はどこにも見当たらなくなった。
「大丈夫?痛くない?」
「カオ!」
体力を数値化してみることは出来ないので、用心のために全回復のどうぐを使った。痛みは残っていないはずだが、ここは現実でどうしても不安に思ってしまう。
なにしろ一瞬で傷が治ったのだ、そんなこと普通ならありえない。少し前のイメージに引きずられて、痛みが残ってしまう可能性だってないとは言い切れないのだから。
だがどうやらルカリオは痛みは感じていないらしい。元気に鳴き声を上げているし、表情も和らいでいる。
先ほどまでも彼女はその我慢強さで、表情から辛さを感じることは出来なかったが、今は心なしか治す前よりも穏やかな顔をしている気がする。
「よかった…、治ったみたいだね。あ、それでも今日はボールの中で安静にしていてね」
「カオン…」
完治していたとしても先程まで痛々しい傷を見ていたのだ、どうしても心配はしてしまう。今日一日だけはボールの中で安静にしていて欲しい。
ルカリオは少し寂しそうな顔をしたが、それでも想いを感じ取ってくれたのか、しっかりと頷いてくれた。
「…」
ルカリオの手に巻かれていた包帯を、バッグに仕舞うために折りたたんでいると、彼女が何か言いたそうにこちらを見ている事に気付く。
彼女の顔を見ればその視線は、正確にはこちらの手元に向かっていて、何やら包帯の事が気になる様子。
「…もしかして、まだ巻いていたいの?」
「カ、カオン!」
完治してもルカリオは包帯を巻いていたいようで、それだけ試験場での事が嬉しかったのだろう。そんなに喜んでもらえていたとは、主人としてはとても嬉しい。して欲しいと言うのなら、何度でも巻いてあげようではないか。
「どう?きつくない?」
「カオーン」
彼女は包帯の巻かれた右手を胸に抱いて嬉しそうな顔をしている。そんな彼女が可愛くて、ついつい抱きしめてしまう。
「カオン…」
胸に頭を預け大人しく目を瞑っているルカリオ。彼女の頭を優しく撫でれば、気持ちよさそうに小さな鳴き声を上げる。
これはしばらく離れられそうにない。あまり遅くなっては皆が心配するかもしれないけど、もう少しだけこの時間を堪能させてほしい。
さすがにこれ以上はみんなが心配する、そろそろ戻らないと。服を掴んで寂しそうな顔をしているルカリオを、断腸の思いでボールに戻す。
ごめんねルカリオ、後でいっぱいギュってしてあげるから許してね。
駐車場の入り口で待っていてくれた瀬川さんに、車の鍵を返してみんなの元へ向かう。
どうやら友人達は草地にシートを敷いて、その上でお喋りしていたようだ。みんなの相棒も一緒で、楽しそうに笑っている。
ポニータは少し疲れたのか伏せていて、そんな彼女に姫光とミーニャちゃんが寄りかかってお昼寝していた。
ちなみにポニータ以外のポケモン達は腰元にいる。ポニータのボールはホルダーに入りきらなかったのだ。
「レイくん、おかえりー!」
「おかえり、れいくん」
笑顔で挨拶をしてくれる友人達に返事を返して、シートの空きスペースに座り、マスカーニャを隣に出してあげる。
「お話ししようか、マスカーニャ」
「カニャ」
「今日はマスカーニャちゃんなのね」
「マスカーニャはあまり出してあげられてないからね」
「学校ではいつも、ユキメノコちゃんとオーガポンちゃんだもんねー」
「この子は優しいから、妹たちに譲ってあげちゃうんだよ」
ユキメノコとオーガポンは甘えたがりで、学校で機会があるといつも出たがる。マスカーニャは優しいので、出たいと思っていても妹たちに出番を譲ってしまうのだ。
そんな優しい彼女には、出来るだけ出る機会をあげたい。折角の外での交友の機会なので、出してあげようと思ったのだ。
今日はずっと試験のためにボールの中で待っていてもらっていたのだ、外の空気を存分に味わってほしい。
「レイくんのポケモン、みんないい子だねー」
「でしょー!自慢の子達なんだ!」
「カニャーン」
「急に目が輝きだしたわね。かわいいし気持ちは分かるけど」
みんな優しいし可愛い自慢の子達なのだ、褒められれば目くらい輝く。
腕に抱き着いてくるマスカーニャの頭を、反対の手で撫でてあげる。
「それに強いしな!」
「だね、最後の攻撃は驚いたよ。試験官のポケモン、重そうなのに浮いてたよね」
「ねー!あれすごかった!」
「その前の技もすごかったな!バレットパンチ!」
「すごく早かったね」
ここに来る前までは試験を甘く見ていた。すぐに終わってしまうので、友人達にあまり楽しんでもらえないかもしれないと思っていたのだ。
だがどうやら皆には喜んでもらえたようで、試験を見に来てもらって本当によかった。
「でも意外よね、ゆっきーが技の名前を付けるなんて」
「あ、えっと…あれは」
とそこで町田がその様な事を言う。学校の生徒たちは技に名前を付ける事が殆ど無いので意外に思ったのだろう。
学校では戦う相手がクラスメイトだけなので人数が少ない。技名があると覚えられてしまい、指示を出した時に動きを読まれてしまうからだ。
名前を付けて、しかもそれを試合中に叫ぶ者がいるとすれば、それをカッコいいと思うような、つまりはそういう子供くらいだ。
自分も普段は技名で指示はしていない、今回はルカリオの技の混同を避けるためにしたことだ。彼女の技は殆ど敵に近寄って殴るというものなので、しっかりと指示しないと間違える可能性があったのだ。
「別にバカになんかしないわよ。意外に思っただけだから」
「ちょっとかわいいよねー」
「そうね、ちょっと可愛いかもね」
「えっと、ちが…」
「そうだよな!可愛いじゃなくてカッコいいだよな!」
あの技の名前は自分が付けたわけではない、原作で使われている技名だ。しかしそれを言うことは出来なかった。
もちろん原作の技名を馬鹿にしている訳では決してない、いい名前だと思う。だけど子供がカッコよさで決めた名前と同じように思われるのは恥ずかしい。
「ママちゃん!バレットゴウタの練習に付き合ってくれ!」
「何よバレットゴウタって…」
「ぼくが行くよ。ぼく達の技も手伝ってね、こうきくん」
「おう!まかせろ!」
「え、きいつくん行くの?…なら私もいく」
「あ、まっ…、あれは違って…」
楽しそうに駆け出すコウキとゴウタくんに、それに続く須田とハミルくん。町田もふわわんちゃんと一緒に後を追い歩いて行った。
彼らの誤解を解きたかったが、何と説明すればいいのか分からなくて、伸ばした手が空中をさまよう。
「レイくんどうしたのー?」
「えっとササラちゃん…、さっきの技なんだけど」
「バレットパンチ?カッコいいよねー!」
「あ、うん…ありがとう」
彼女達は原作の事を知らないので、オリジナルだと思っても仕方がない。技の名前に問題がある訳ではないし、自分が勝手に恥ずかしがっているだけだ。
カッコいいと言ってくれる紗更の笑顔を見たら、何も言えなくなってしまった。これはもう受け入れるしかないようだ。
「レイくんも行こー」
「ごめんね、少し疲れたみたいだから、ここで休んでるよ」
「あ、そうだよね!レイくん頑張ってたもんね。それじゃあ私もここにいるねー」
「ううん、僕の事は気にしないで、皆と楽しんで来なよ」
少し疲れたというのは嘘ではない。ルカリオの火傷の心配もあったし、二日連続の試験で意外と疲れが溜まっていたようだ。
「むーん…、分かったー。何かあったら呼んでねー」
「そこまで疲れてる訳じゃないから大丈夫だよ。だけど心配してくれてありがとうね」
心配そうに何度も振り返る紗更に、笑顔で手を振り見送る。疲れたといっても、そこまで心配してもらう程の事ではないのだ。
それに紗更にみんなの元に行ってもらった主な理由は、疲れではなく―――
「ごめんね、マスカーニャ。ちょっとだけお願い」
「カニャ」
「くぉぉぉぉ…」
―――羞恥心に耐えられそうになかったからだ。
横に座っているマスカーニャの膝に、顔をうずめて唸る。
「違うんだよぉぉ…」
「カニャ、カニャン」
紗更の誤解を受け入れたからといって、羞恥心が消えたわけではないのだ。彼女は原作の事を知らないので仕方がないのだが、小さな子供と同じように見られるのは恥ずかしい。
マフラーやら何やらで今までも恥ずかしい事はしてきたが、あれらは自分からやった事だ。今回の件は思わぬ方向から来た恥ずかしさで、簡単には吞み込めそうになかった。
「カニャー」
「ありがとう、マスカーニャ…。大好き…」
「カニャ…」
マスカーニャが座る位置を調整し頭を優しく撫でてくれる。そんな彼女の優しさに甘え膝に頭を乗せて上を向く、膝枕である。
目を瞑ってマスカーニャの膝の柔らかさを頭の後ろに感じていると、技名を叫ぶ友人達の声が遠くから聞こえてきた。バレットゴウタ!恥ずかしげもなく叫べる高貴のキャラが羨ましい。
だけどキーツくん、高貴に乗せられたのかもしれないけど、ハミルオブジャスティスは止めた方がいいんじゃないかな。声が上ずるくらい恥ずかしいなら、もう少し控えめな名前がいいと思うよ。
「おにーちゃ、ヒカリもいっしょ」
「おぅふッ」
とその時、姫光の声が聞こえてきて、腹の上に重さが生じる。目を開ければ妹が抱き着いていて、胸に顔をうずめていた。
ポニータやミーニャちゃんも近くにいて、どうやら彼女達は一緒にお昼寝したいようだ。
ちなみにミーニャちゃんはテブリムのお墨付きが出ていて、力の暴走の心配はもうない。
「そうだね、ヒカリちゃん。みんなでお昼寝しようか」
「うんッ」
「おいでポニータ、ミーニャちゃん」
「ポニィー」
「ニャウ」
「ごめんね、マスカーニャ。もう少しだけ膝いいかな?」
「カニャーン」
ミーニャちゃんが嬉しそうに寄り掛かってくる。ポニータも近くに伏せて、すぐに寝息を立て始めた。
姫光の背中を優しく叩きながら、マスカーニャの頬を撫でる。とても心安らかな時間だ。
「ただいまー」
「ピハー」
「おかえりササラちゃん、ピーちゃん。向こうはもういいの?」
そんな風にみんなでお昼寝していると、紗更とピーちゃんが戻って来た。彼女達はみんなが起きないように、声を小さくしてくれている。
「うん。レイくんが気持ちよさそうに寝てるから、わたし達もーって」
「ピハー」
「え、寝るの?ここで?」
「うん…、ダメかなー?」
「いや、ダメなんてことはないよ」
寝るのが駄目なんて事はない。シートに寝そべるのに抵抗はないのなら止めはしないが、風も少し吹いているのでスカートが捲れないようにだけは気を付けて欲しい。ガン見しない自信がないのだ。
「レイくんは、他の技にも名前つけてるのー?」
「う、うん…、そうだね。一応つけてはいるかな」
せっかく姫光やマスカーニャ達に癒されて忘れかけていたのに、思い出してしまった。やってくれるではないか。
「あのねー、わたしいい名前が思いつかなくって」
「う、うん」
「レイくんに教えてもらった技、名前つけて欲しいなーって」
「え、僕が付けるの?」
「ダメかな…?」
「ダメじゃないけど、いいの?」
「うん、お願いレイくん」
相棒が使う技に名前をつけてもらい、それを実際に使うなんて、紗更は恥ずかしくないのだろうか。
しかし彼女は少しも恥ずかしく思っていないようで、嬉しそうに笑っている。
そんな紗更の笑顔を見ていたら、恥ずかしく思っていたことが馬鹿らしく思えてきた。
思い返せば、紗更も他の友人達も一言も馬鹿にするような言葉は言っていない。笑ってはいたが、それに嫌な感情は感じられなかったし、今も遠くで楽しそうに技の名前を叫んでいる。
今日の試験の時だって、姫光や父に他の応援してくれていた人たちも、誰も馬鹿になんてしていなかった。
周りがしていないからと恥ずかしい事だと決めつけて、自分だけが勝手に恥ずかしがっていたなんて馬鹿みたいだ。
ポケモンのみんなにも分かり難い指示をしていたと思う、反省しなくては。
「そうだね。それじゃあ、トライアタックなんてどうかな?」
「うん、それにするッ、すごくいい名前だねー」
「ピハッピハー」
「絶対に覚えようねー、ピーちゃん」
「ピハー」
それに仮に誰かに馬鹿にされたとしても、友人達や家族が傍にいてくれるのだ、なら何も問題なんてない。紗更の嬉しそうな笑顔を見ていたらそう思えてくる。
「んー…」
「あ、ごめんねー、うるさかったよねー…」
「へいきー…」
おっと、少し声が大きくなってしまっていたようだ。姫光が起きてしまった。ごめんねヒカリちゃん、もう少し寝てていいからね。
妹の頭を優しく撫でてあげると、すぐに気持ちよさそうに寝息を立て始める。
人差し指を一本だけ立てて口元に持っていき、紗更と二人で一緒に笑いあった。