ポケモンが現れた世界に生まれて   作:ダダダッダ

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二十九話

「皆さま!おはようございます!」

「おはよう、コウキくん。…どうしたの?」

「おはよ。珍しいわね、こんなに早いなんて」

「おはよー。いつもギリギリなのにねー」

 

 ゴールデンウィークが明けて最初の日、早朝のまだ人のあまり居ない教室。

 ユキメノコを抱きしめながら、紗更や町田にその相棒達とみんなで楽しくお話していたら、高貴が真剣な表情で挨拶をしてきた。いつもギリギリに登校してくる彼が、こんなに早く教室に来るなんて珍しい。

  

「今日は皆さまにお願いしたい事があり、早く来ましてございます!」

「ちょっと…、その変なの止めなさいよ。気持ち悪いから」

「うん…そうだね。コウキくん、こっちからもお願い、普通に話して」

「ユキー…」

 

 何やら高貴はお願いがあるようだが、変な言葉遣いが気になって話を進められそうにない。ポケモンのみんなも、普段との違いに怯えているので止めて欲しい。

 ユキメノコの頭を撫でながら高貴に普通に話すように頼む。

 

「あ、はい…」

「それで、お願いって何よ?わざわざ早く来て」

「昨日の夜とかにコネクトでもいいのにね」

「急いでたけど、頼み事するんだから会って話さないとな」

 

 頼み事は直接会ってしたい。なるほど、そういう理由で早起きしたのか。

 しかしそこまでする必要のある頼みとは何だろうか。出来るだけ叶えてあげたいとは思うが、まずは聞いてみないと。

 

「コウキくん、お願いって?」

「勉強を教えてください!」

 

 勉強…、あの高貴が?

 ポケモン関係以外の成績をあまり気にしない彼が、早く登校してまで願う内容がそれなんて意外だ。みんなもそんな彼を不思議そうに見ている。

 

「べんきょー?それがお願いなのー?」

「ピハー?」

「あんたも成績を気にするようになったのね」

「おはよう、みんな。どうしたの?」

「あ、おはよう、キーツくん」

「おはよう、きいつくん。それがね―――」

 

 そんな風にみんなで驚いていたら須田が登校してきた。彼は友人達の驚く様子に不思議そうな顔をしていて、町田がそんな彼に高貴の事情を話していった。

 

「え?こうきくんが?」

「ビックリだよねー」

「その、次のテストで七十点とらないといけなくなりましてー…」

「七十点か。驚いたけど、そのくらい別にいいよ。ね、みんな?」

「まあ、そうね。それくらいはね」

「次の月テストなんだっけー?」

「算数だったと思うよ」

 

 驚いたがそのくらいの事なら特に問題はない。小学生の算数くらいなら教える事に不安はないし、他のみんなも成績は良いのだ。

 高貴に教える事が嫌な訳がないし、友人達もそうだろう。

 あえて言うなら家に帰るのが少し遅くなるので、ポケモン達とのふれあいの時間が減るが、優しいみんなは高貴が困っていて嫌がりはしないだろう。

 

「あっ、えっと…、実は四つ全部なんだ…」

「四つって国語、算数、理科、社会?」

「そうじゃない?コウキくん、ポケモン関係の授業は成績はいいし、殆ど実技だから」

「はい、そうです…」

 

 どうやら教えて欲しいのは四教科だったようだ。

 七十点を取るくらいなら、少し勉強を教えてもらうだけで済む。それなのにあんな頼み方をするなんて変だとは思っていたが、そういう事だったのか。

 

「あんた、どうしてそうなったのよ?」

「そのー…お父さんにゴウタの石を買ってって頼んだら、テストでいい点とれって」

 

 なるほど、進化石を買ってもらうための条件だった訳か、そういう事なら一肌脱ごう。ゴウタくんの成長した姿は見たいし、友人のためなのだ、教える時間が伸びるくらいは別に問題ない。

 それに石を使えば進化できるかもしれないと言ったのは自分なのだし、これくらいは手伝ってあげたい。

 

「僕はいいよ。石のこと教えたの、僕だからね」

「わたしもいいよー」

「何日か無理な日もあるけど、それ以外ならぼくもいいよ」

「教えてあげるけど、真面目に勉強しなさいよ?」

「あ、ありがとーな!みんな!」

 

 他のみんなも高貴に教える事に異存はないようだ。

 しかしこちらは良くても、ポケモン達には少し長いだろう。テストは毎月、最初とその次の金曜日に、二教科ずつ行われる。四教科なので二週間かかるのだ。

 幸い次の金曜日に最初のテストがあるが、それでも全部終わるのは来週の金曜だ。

 

「場所は教室でいいかな?ポケモンのみんなを見ていたいんだ」

「そうね、図書館だと出せないから」

「いいよいいよ!全然いいよ!」

 

 よかった、ポケモンのみんなが寂しがってしまうので、勉強しながらでも出来るだけ見ていてあげたかったのだ。

 勉強で構ってもらえなくなると思っていたのか、腕の中で少し寂しそうにしていたユキメノコ。そんな彼女の頭を優しく撫でる。

 

「ユキメノコも一緒に勉強しようね」

「ユキー」

「みんなも順番にね」

「―――」 

 

 腰元のボールを撫でれば、みんなも嬉しそうに震えだす。

 あとは家族や迎えに来てくれる瀬川さんに伝えれば、多少帰るのが遅くなっても問題ないだろう。友人のための勉強会に駄目だとは言わないはずだ。

 

「あ、一応確認だけど、今日の放課後からでいいんだよね?」

「おう!みんな、よろしくな!」

「絶対に点はとりなさいよ?…絶対よ?」

「はい!絶対とります!…ごめんな、もう少し軽くしてくれって、お父さんに言ったんだけど…」

「いや、石を買ってもらうのに七十点は十分軽いわよ」

「やさしいお父さんだねー」

 

 あの馬鹿みたいに高い進化石を、誕生日などの特別な日でもないのに買ってもらうのに、四教科のテストで七十点は対価としては軽すぎるくらいだ。

 息子の成績を心配してこの様な条件を出してくれたのだ、とてもいいお父さんではないか。

 

「えー…、軽いかー?」

「こうきくん、前の算数のテスト、何点だった?」

「…四十二点です」

「あんたには厳しすぎる条件なのね…」

「次のテスト、算数と社会だけど…」

「四日で間に合うかなー?」

 

 最初のテストまで今日を合わせて四日しかない、そんな短期間で二教科の三十点アップなんて出来るのだろうか。

 引き受けた以上はしっかりと教えるが、どうしても不安に思ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一時間目の授業が終わって、今は小休憩の時間。みんなで高貴の机の周りに集まり、授業中の彼の様子について話し合っていた。

 

「あんた、真面目に受けてて何で点とれないのよ?」

「分かりません…」

 

 高貴は別に、授業態度が悪いわけではない。寝たりもしていないし、ノートもしっかりと取っていて、普段から真面目に授業を受けているのだ。

 それなのに何故か彼はテストでいい点を取れていない。町田も不思議に思っているし、高貴も原因が分からないようだ。

 

「こうきくん、ちょっとノート見せて」

「お、おう」

「むー…ん、ちゃんと書けてる…よねー?」

「汚いけどね…」

 

 高貴のノートは汚かった。

 いや、いい方が悪かったか。別にノート自体が汚れているなどという事はない、文字が汚いのだ。

 

「コウキくん、これ、自分で読める?」

「え…、う、お……何とか」

「そこはしっかりと読めなさいよ、自分で書いたんだから」

「あれ?こうきくんの字ってこんなだった?」

「キレイではないけど…読めはしたね」

 

 須田が疑問に思うように、普段の高貴の字は綺麗とまでは言えないが、読めないという程ではなかった。彼はなぜ、このような字でノートを取っているのだろうか。

 

「いや、消すの早すぎてキレイに書けないって」

「あー…そういう事ね」

「もしかして、先生が黒板に書いたこと全部ノートに取ってる?」

「え、そうだけど…みんな違うん?」

「ぜんぶは書いてないよー」

 

 この学校では、普通の小学校で習う物とは別にポケモン関係の授業もある。そんな多くなった教科数でも滞りなく教えるには、各授業の内容を濃くする必要あるのだろう。

 なので黒板に書くことも多くなり、書かれた文字もすぐに消されてしまう。それはつまり一回の板書でノートを取る時間が短くなるという事だ。

 

 高貴はそんな短い時間で、無理に全ての内容を書き写そうとするから、そればかりに集中して授業も碌に聞けていないのだと思われる。

 文字も汚くなって、後で見返すことも出来なくなっているのだ。それではノートを取る意味は殆どないだろう。

 

「―――だから授業をしっかり聞いて、必要だと思った所だけ書いてみたら?」

「でもよ…書いてないとこで大事なことがあったら…」

「それなら僕が書いたノートを後で貸してあげるよ。一回やってみたらどうかな?」

 

 少なくとも今のまま続けて、何も頭に入らない状況よりはいいはずだ。何をノートに書くかを取捨選択するために、理解する必要があるのだから。

 それに大事なところを書けなかったとしても、ノートを貸してあげるので必要なら後で書き足せばいい。みんなも高貴のためなら貸してくれると思うので、それだけの数のノートがあれば書き洩らしは殆どないはずだ。

 もちろん人によって理解しやすいやり方は違うだろうが、練習でやってみるくらいはいいと思う。

 

「それなら、ぼくのも貸してあげるよ」

「わたしもいいよー」

「汚すんじゃないわよ」

「みんな、ありがとうな…、やってみる!」

 

 どうやら高貴は試してみる気になったようだ、気合を入れている。

 次のテストに出題されるのは先月に習った範囲だと思うので、今日の授業の内容は今回は関係ないだろうが、それでもこれからの為になる。彼の成績が少しでも上がってくれたらいい。

 

「なあ白雪…、ちょっといいか?」

「え、いいけど…。どうしたの、相田くん?」

 

 と、その時クラスメイトの相田が話しかけてきた。

 彼から話しかけて来るなんて珍しい、友人達も少し驚いている。

 

「午後のバトルの授業、俺と戦ってくれないか」

「えっと…、戦うのはいいんだけど、対戦相手は先生が決めるから」

 

 戦うこと自体は問題ないが、授業の対戦相手はこちらで勝手に決められない。担任のハルハルセンセーが成績で決めているからだ。

 こちらは今のところ無敗なので、戦う相手はそれに近い戦績の者になるだろう。相田は五年生になって何回か負けているので、恐らく今日は戦わないはずだ。

 

「いいんだな?それなら先生には俺が頼んでくる」

「え」

「用はそれだけだから」

 

 しかし相田は先生に頼んでまで次の対戦相手にしてもらうと言う。代えてもらう事が出来るのかは分からないが、そうまでして今日の授業で戦いたい理由があるのだろう。彼がこのような事をするのは初めてなので少し戸惑ってしまう。

 そしてそんな彼の用事はそれだけのようで、彼は話し終わるとすぐに自分の席に戻っていった。

 

「何だったんだろうな?」

「分かんない…」

「よかったわね、なっつん。今日は負けなくてすむかもね」

「や、やってみないと分からないだろ!バレットゴウタがあるからな!」

 

 高貴も五年生になってから勝ち続けているのだ。無敗の子は他にも数人いるが、もしかしたら今日の対戦相手は彼だったかもしれない。

 そして彼が相手だとしたら負ける事はまずないだろう、戦っていれば町田の予想通りになっていたと思う。

 タイプ相性もあるし、攻撃を受ける事もなく一撃で終わる。残念だがバレットゴウタという名の『ねこだまし』はユキメノコには効果がないのだ。

 あとゴウタくんはバレットパンチを覚えないよ、タイプが違うけど『ふいうち』があるから、もう少し待っててね。

 

「あ、先生が来たよ」

「さっき教えてもらったの忘れてないわよね」

「そんなすぐに忘れないって!」

「頑張ってねー!」

 

 ドアの窓からハルハルセンセーの歩く横顔が見えた、どうやら休み時間は終わりのようだ。

 相田について気にはなるが、今は高貴の方が心配だ。彼には頑張って欲しい。

 

 

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