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「白雪くん、相田くん、位置についてね」
「順番だね。行こうか、ユキメノコ」
「ユキー」
昼休みが終り、広い体育館でのバトルの時間。ポケモンや友人達と一緒に壁を背に座って話していたら、順番が来たようで担任に名前を呼ばれる。
どうやら対戦相手の変更の許可は得られたようで、相田も一緒に呼ばれていた。
「白雪!」
声援を送ってくれる友人達にユキメノコと一緒に手を振り、バトルコートの開始位置へ向かっていると、相田に呼び止められる。
何やら試合前に何か話したい事でもあるようで、彼はこちらに歩いて来ていた。
「…あの、な…出来たら…、この前の試験で出してた…」
「試験って…、認定試験のこと?」
「ああ…」
「相田くんも来てたんだ」
「…たまたまな」
どうやら相田もあの場にいたようだ、間違いなくライバルが試験を受けると聞いて見に来ていたのだろう。たまたまなどと言っているがそんな訳がない。この辺りからそれなりに離れているのだから。
地元民ではないのだ、自分で試験を受けるか呼ばれるかしなければ、わざわざ行くことはないはず。
友人達を呼ぶために教室で話していたので、恐らくそこで聞いて気になったのだろう。
「それで…、試験で出してただろ?あの…」
「ルカリオっていうんだ」
「…そいつと戦わせてくれないか?」
「ルカリオを出すのはいいけど…」
ルカリオに戦ってもらうのは特に問題ない。学校に育成ポケモンとして登録していないので、彼女の強さをアピールしないと成績に響くだろうが、別のポケモンで戦うこと自体は認められている。
しかし相田との対戦にというのは少し悩んでしまう。今は落ち着いて話せているが、試合で勝った時にどうなるかが分からないからだ。
ユキメノコでも勝つのは変わらないが、ルカリオの場合はセイくんの進化先の種族なのだ。ライバルが後から捕まえたポケモンが、自分の育ててきたポケモンより圧倒的に強いというのはプライドが傷つくだろう。
彼とは最近は話していないし睨まれる事もあった。それでも二年生の頃は友人として付き合っていたのだ、どうしても心配してしまう。
「二人とも、早く位置につきなさい」
「はい!白雪、頼んだからな」
担任の声に相田が急いでコートの反対側に走っていく。そんな彼の姿を目で追いながら、こちらも開始位置に向かう。
相田は認定試験を見ていたのだ、彼女の強さは知っているはず。それでも戦いたいとは、何か考えがあるのだろうか。
出来たらユキメノコと一緒に戦いたかった。ルカリオを出してもいいと言ってしまったし、相田はもうコートの向こうにいるので今から撤回は出来ないのだが。
「ごめんね、ユキメノコ。今回はルカリオに戦ってもらうね」
「ユキー」
開始位置に着き、一緒に来てくれていたユキメノコにボールに戻ってもらう。彼女は相田とのやり取りを見ていたので、大人しく頷いてくれた。
「白雪くん、別のポケモンに戦ってもらうのね?」
「はい、そうです」
「わかったわ。それじゃあ二人とも、ポケモンを出してね」
先生の言葉を受け、相田がセイくんをボールから出す。こちらもそんな彼に合わせて、ルカリオにコートに出てもらう。
新しいポケモンを出すと聞き注目していた生徒たちが、光に包まれ飛び出た二匹の姿を見て驚きの声を上げている。
「ルカリオ、学校では初めてだけど、今日もお願いね」
「カオン」
主人の願いにしっかりと頷いたルカリオ、彼女はコートの反対側を静かに見つめる。そこには緊張しているのか動きの硬いセイくんがいて、どうやらルカリオも彼を心配しているようだ。
「準備はいいわね?それでは始め!」
「セイ!走れ!」
「ルカリオ、バレット!」
試合開始の合図の声に、相田がセイくんに走るように指示を出す。セイくんはそんな主人の言葉に頷き、電光石火の速さでこちらに向かって来た。
相田はルカリオの強さを目にしているはず、そんな彼の指示がこれ。もしかして意表を突いたつもりなのだろうか。確かにまっすぐ突っ込んで来るだけだとは思わなかった。
しかし残念だがこんな事では取り乱したりはしない、作戦がこれだけだというのならバレットパンチで終わりだ。
「セイ!」
だがどうやら、それだけで終わりではなかったようだ、相田が相棒に大きな声で指示を出す。
主人の指示に体を限界まで地面に落とすセイくん。彼は己に振り抜かれたルカリオの拳を、その両腕を使い必死に逸らす。
セイくんは逸らしきれなかった衝撃と無理な体勢によって地面を転がってしまうが、それでも勢いを利用して何とか起き上がり、ルカリオの後ろに回り込んだのだった。
やられた、まさか『でんこうせっか』を攻撃技として利用しないで、この様に使うとは。
背後のセイくんにルカリオは振り向きざまに拳を振るう。しかし彼も大人しく殴られる訳がない、必死にルカリオの後ろに回り込む。
拳に肘、足も使い、何とか攻撃を当てようとするルカリオ。彼女は頑張っているのだが上手く当てることが出来なかった。
小さい体のルカリオよりも、更に小さなセイくん。そんな彼にあの距離でウロチョロされては、ルカリオの攻撃力を発揮することは出来ない。時おり掠る事もあるが、しっかりと当たらない攻撃では殆ど効いていないようだ。
「ルカリオ、離れて!」
「離されるな、セイ!」
一回仕切り直そうとルカリオに指示をするが、相田も黙っている訳がない、離されないようにセイくんに指示を出す。
彼女は素早さを伸ばしていない。セイくんは素早さも育ててもらっているようで、いくら育成状況が違うと言っても差はあまりないみたいだ。ルカリオは上手く距離を取ることが出来なかった。
何とか離れられないかとセイくんに拳を振るうルカリオ。
そんな彼女の攻撃を必死に避けながら、ルカリオの背後に回り込み続け、時おり殴りつけているセイくん。
どうやら先ほどのすれ違いざまのルカリオの攻撃で怪我したらしく、その攻撃は弱弱しい。それに彼女も体力は多いのでそれほど効いていない様子。
それでも攻撃されている事実に変わりはない、ダメージは重なり続けていく、このままにする訳にはいかないのだ。
「一回止まってルカリオ!ルカリオなら大丈夫、落ち着いて迎え撃とう」
主人のために必死に戦ってくれているルカリオ、そんな彼女に落ち着いてもらうために笑顔で呼び掛ける。
確かに相田達には意表を突かれた。ルカリオも上手く攻撃を当てられなくて、不安に思っていただろう。しかし落ち着いてしまえばどうってことない作戦だ。無理に追いかけるからドツボにはまる、冷静に対処すればいい。
主人の笑顔に落ち着いたらしいルカリオ、彼女も笑顔を返してくれる。
そしてこちらを向いたまま、背後のセイくんを気にすることなく、拳を腰だめに構えいつ攻撃されても対応できる体勢に入るのだった。
「―――」
「キャ…」
敵が背を向けたまま動かなくなった形のセイくん。ルカリオの背後で足を止め、不安そうに主人をチラチラ見ている。
カウンターは彼も使えるので、攻撃してはいけないのは知っているのだ。どうしたらいいのか分からないのだろう。
敵の力は今までの攻防で知っている。そんな恐ろしい相手と至近距離で、このまま制限時間まで何もしないのは緊張に耐えられない。いつ拳が飛び出すか分からないのだ。
だからといって離れてしまえば、それこそ終わりだ。勝ち目が無くなってしまう。
「ッ、な…殴れ、セイ!後ろからだ!」
不安そうな相棒の姿に相田が指示を出す。後ろからなら反撃されたとしても避けられるとでも思ったのだろうか。
しかし残念、避けられなかった。主人の指示に気合を入れて拳を振るったセイくんだったが、それに反応したルカリオの拳を顔に受けてしまう。
攻撃に意識を割いているセイくんでは、今の集中しているルカリオの攻撃を避ける事が出来るはずがない。
痛みを我慢してのセイくんの攻撃、カウンターのダメージもそれに伴い威力の弱いものになる。それでもセイくんは顔面に受けた事で、後ろにたたらを踏んでしまった。
「ルカリオ、今だ!」
セイくんがよろめき離れたことで、殴るのに丁度いい距離になる。すかさず出された主人の指示に、ルカリオはその拳を彼の顔面に叩きつけた。
手加減の全くないその攻撃によって、セイくんは吹き飛び床を転がって、ピクリとも動かなくなってしまうのだった。
「そこまで!みんなお疲れ様」
うつ伏せで反応のないセイくんを確認した先生によって、試合終了の合図が出される。
その言葉を聞いたルカリオが、こちらに向かって歩いて来る。
「お疲れ様、ルカリオ。頑張ってくれてありがとうね」
「カオン」
「ごめんね、痛かったよね。すぐに薬を塗ってあげるからね」
軽いものだったとしても、あれだけ攻撃を受けたのだ。薬を塗らないなんていう選択肢はない。ルカリオと手を繋ぎ、授業用の傷薬が置かれたステージに向かって歩いて行く。
後ろから先生の生徒を呼ぶ声が聞こえる。どうやら次の試合は紗更と町田のようで、これはとても時間が掛かりそうだ。
ステージの上に置かれた箱から薬を手に取り振り返ると、ルカリオが少し暗い顔をしていた。そんな彼女の視線の先を追えば、薬を取りに来る事もなく、体育館の隅で膝を立てて座り俯いている相田の姿。
ルカリオはセイくんが治療してもらえるのかを心配しているのだろう。以前からルカリオは彼の事を気にしていたみたいだが、進化前の種族ということで思う事があるようだ。
「そうだね、心配だよね…」
「カオ」
「薬、届けてあげようか」
「カオン!」
「でも、今はルカリオの治療が先だよ」
相田は試合に負けたからといって、腹いせに相棒の傷をそのままにするような子ではない、悔しくて頭が回っていないのだろう。誰かが気づかせてあげれば、しっかりと治療してくれるはずだ。
先生は授業の進行があるので、生徒一人のためには動けないだろう。
他の生徒たちは、相田の話しかけるなと言うかのような雰囲気で近づけない様子。どうやら自分しか動ける者がいないようなのだ。
負けた相手に話しかけられるのは嫌かもしれないが、セイくんを傷ついたままにはしたくない。渡したらすぐに離れるので許してほしい。
「他にぶたれた所ない?」
「カオン」
結構殴られていたように見えたのだが、どうやらそうでもなかったらしい。それにあまり分散もしていなかったようで、それほど薬は必要なかった。
「戦ってくれてありがとうね、ルカリオ」
「カオ」
治療が終わったので、嬉しそうな顔のルカリオにボールに戻ってもらう。相田には薬を届けるつもりだが、渡したらすぐ離れる予定なので、ルカリオは出ていない方がいいのだ。
相田を見れば今も体育館の隅で俯いていて、そんな彼に向かい歩いて行く。
「…」
話しかけることが出来るくらいまで近づいても、こちらに気付く様子がない相田。
それほどまでに思い悩んでいるであろう彼に声をかけるのは躊躇われるが、このまま何もせずに戻る訳にはいかない。
「相田くん、薬もってないよね…。ここに置いておくから」
「…」
「えっと、それだけだから…」
返事はないが、きっと聞こえているはず。これ以上は鬱陶しいだろうから離れる事にしよう。
仮に聞こえていなかったとしても薬は目の前に置いたので、周りに目を向ける事が出来るようになったら気付いてくれるだろう。
「…なあ」
「え?」
友人達の元へ戻ろうと背を向けようとした時、相田が話しかけてきた。
声は小さいし顔を俯けたままなので気のせいかと思ったが、間違いはなかったようだ。彼はそのまま声を出し続けている。
「あのポケモン…、捕まえたの最近だよな?」
「えっと、…うん」
「…いつ?」
「…一カ月くらい前」
「おかしいだろ…何で言うこと聞くんだ…」
相田の言う通り、ルカリオ程の強さを持ったポケモンが、一か月という短期間で子供の指示を聞くくらい懐くことなど普通ならありえない。
恐らく彼は、捕まえたばかりのポケモンとの薄い信頼関係を突こうとしたのだろう。
確かにその様なポケモンだったとしたら、先ほどの状況では信頼していない者の指示を聞く筈がない。自分の判断で敵を倒そうとしていたと思われる。
そしてそんな感情に任せて暴れるだけの相手なら、先程の作戦を続けていればいずれ勝てたかもしれない。たとえ制限時間で勝ち切れなかったとしても、どちらが優勢だったかは誰の目にも明らかだ。
「同じポケモンなのにッ、何で後から捕まえた奴に負けるんだよッ」
「…」
原作で育てているとはいえ、その事を彼は知らない。この世界では一カ月と少ししかルカリオと一緒に過ごしていないのだ。
リオルのセイくんを育てている相田からすれば、そのような相手に負けるのは理不尽に感じるだろう。
言う事を聞かないポケモンによる力のごり押しならまだしも、しっかりと指示に従っての結果なのだから。
「どうすれば勝てるッ。訓練を増やすかッ?」
「相田くん…」
「分かってる、これ以上は無理だってッ」
「…」
「セイには嫌われてるんだ、そんなことしたら逃げられるッ」
「相田くん、セイくんは…」
「大事にしてやってないんだ、嫌われるよなッ」
どうやら相田はセイくんに嫌われていると思っているようだ。彼も普段のセイくんへの態度に思う事はあったのだろう。
しかしセイくんが彼を嫌っているなんて事はないはずだ。そうでなければ訓練を増やすまでもなく、今頃はとっくに逃げ出していただろう。
それに相田はセイくんを大事にしていないと言っているが、どうしてもそうは思えない。
「ううん…、相田くんはセイくんを大事にしてるよ」
「馬鹿にしてんのかッ」
「バカになんかしてないし、凄いとも思ってる。嘘じゃないよ」
「?…凄いって何だよ、意味わかんねぇよ」
「僕ね、知ってると思うけど、この前の試験でルカリオに怪我させちゃったんだ―――」
五回目の認定試験の時、ルカリオに火傷をさせてしまった。彼女には近接技しか覚えさせていなかったので、『ほのおのからだ』の相手をそのまま殴らせてしまったのだ。
ルカリオには威力のない遠距離技を覚えてもらうよりも、今のままの技構成で戦ってもらった方が早く敵を倒せていいと、そう決めつけていた。
だがここは現実なのだ、原作とは違い痛みがある。威力が出なかったとしても、直接殴らなくても済む方法を考えておくべきだった。
それに比べて相田はどのような状況にも対応できるように、柔軟な考えでセイくんを育てている。
遠距離技で『しんくうは』を覚えさせているし、先制技は一つでいいと自分なら切って捨てるだろう『でんこうせっか』も、先ほどの様に使っている。
自分では原作に引っ張られて思いつかなかった考えだ、素直に凄いと思うし見習っていきたい。
それにセイくんを大事にしていなかったら、この様な技構成にはなっていないはずだ。強さだけを求めたらもっと別の選択肢があるのだから。相棒の事を想って必死に考えたのだと思う。
セイくんもそんな相田の想いを感じているから、褒められることがなかったとしても、彼の元からいなくなったりしないのだろう。先ほどの試合でも主人のために痛みを我慢して、頑張って戦っていたのだから。
「―――だからね、大事にしているなって思うし、セイくんも嫌っていないと思う」
「…」
少し落ち着いてきたようなので、相田の隣に座る。
今まで気づかなかったが、友人達が心配そうにこちらを見ていた。
「相田くん…、責めてる訳じゃないんだけど、どうしてセイくんを褒めてあげないの?」
「…」
「試合に勝った時とか、もっと褒めてあげればって…」
相田がセイくんを大事にしているからこそ不思議に思う、どうして彼をしっかりと褒めてあげないのかと。
試合に勝っても一言声をかけるくらいで、嬉しそうにもしていないし、そんな彼の様子にセイくんはいつも寂しそうにしているのだ。
「勝てる奴には、勝って当たり前だろ…」
「え?」
「簡単にできる事を褒めるのは、馬鹿にしてるみたいだろッ」
どうやら彼は、勝って当たり前の相手では、逆に馬鹿にしているみたいでセイくんを褒めてあげられないようだ。
しかしそれはどうなのだろう、あまり人の考えにどうこう言いたくはないが、少し考え過ぎではないだろうか。
自分のために戦ってくれているのだ、相手の強さに関係なく褒めてあげてもいいと思う。セイくんだって、そんな事で馬鹿にされたとは思わないはずだ。
「俺だって褒めてやりたいよッ、でも強い奴には勝てないんだよッ」
「…」
「勝てるのは相性のいい奴とか、弱い奴だけだッ。それもお前が教えたら勝てなくなるッ」
恐らく勝てなくなった相手とは諸岡のことだと思うが、そこまで強さが離れていないのだ、負けたとしても相性の悪い相手にいい勝負が出来ているのだから十分に凄い事だと思う。
相田は理想が高くなっているのだろう。少しの事では満足できず、褒めてあげられなくなっているのだ。
「捕まえたばかりなら、もしかしたらってッ。お前に勝って褒めてやろうってッ」
「それで…」
ライバルに勝てたら、セイくんを褒めてあげられる。
厳しいだろうが捕まえたばかりのポケモンならもしかしたらと思い、少しでも早く戦おうと対戦相手の交代を願ったのだろう。
「お前は強いポケモンばかりで分かんないよな…羨ましいよ」
「おい、お前な!ふざけんなよ!」
とそんな時、高貴が目の前に立ち、相田に向けって怒鳴りつける。
相田の話に集中していて、彼が来ていたことに気付かなかった。
「レイレイは弱くてもちゃんと可愛がってるからな!」
「こ、コウキくんッ、大丈夫だからッ」
「戦えなくてもな!みんなを大事にしてんだよ!」
「……悪かった、…ごめん」
「うん…」
「ッ…」
高貴の剣幕に自分が何を言ったのか気付いたのか、相田が謝ってくれた。
そんな彼の事を睨みつけていた高貴も、素直に謝った彼の姿に興奮が冷めてきたようで、何も言わずに相田とは反対隣りに座ってくる。
高貴の怒鳴り声に驚いてこちらを見ていた皆も、彼が大人しくなった事で試合観戦に戻りだす。一人取り残されていた須田がこちらに来ようか迷っているようだが、今は止めておいた方がいいので手を振って伝えてあげる。
ハルカ先生も大丈夫ですよ、喧嘩なんてしていませんから。安心してみんなの試合を見てあげてください。
「…えっと、褒めるのに強さは関係ないと…思うんだけど」
「…」
「僕のために戦ってくれるんだから。頑張ったねって…、ありがとうねって…」
「…そうだな、オレだって褒める。ゴウタが頑張ったんだから絶対にだ」
敵の強さに関係なく、自分のために頑張って戦ってくれたのだ、絶対にお礼はするし褒めもする。高貴も同じ考えのようで、しっかりと頷いている。
確かに彼の気持ちが分かるとは決して言えない。
自分にはこの世界では最初から強いみんなが居た。試合に負けたことはないので、その悔しさは分からないのだ。
そんな自分が単純に褒めてあげればいいと言うなんて、軽率だったかもしれない。
それでも自分のために頑張ってくれた子を褒めてあげる、それ自体は絶対に間違ってはいないはずだ。
「相田くん、セイくんが頑張ってくれて嬉しくない?」
「…嬉しいけど」
「ならセイくんに言ってあげなよ、いつも頑張ってくれてありがとうって」
「今まで厳しくしてたから…、急に優しくするのはおかしいだろ。育てるの諦めたと思われる…」
「言ってやればいいじゃねぇか!これからも一緒に頑張ろうって!」
「それに…俺のこと嫌いだろうし…。いやな奴に優しくされても…」
「何言ってんだよ!セイを見てたら分かるだろ!」
「絶対にないよ、誰のためにあんなに頑張ってると思ってるの」
先ほども言っていたが、彼はそれだけセイくんに嫌われていると思っているのだろう。
だがそんな事は絶対にないのだ、普段のセイくんの様子を見ていたら分かる。相田に好きになってもらおうと、いつも必死に頑張っているのだから。
「安心しろよ、セイは相田のこと嫌ってないから」
「相田くんもセイくんのこと好きでしょ?」
「……好き…だけど」
恥ずかしそうな顔をしながらも、素直にセイくんの事を好きだと言う相田。そんな彼の言葉を聞き、今まで眉間に皺をよせていた高貴が表情を明るくする。
よかった、どうなる事かと思ったが丸く収まりそうだ。
確かに怒鳴られたりもして少しは思う事もあるが、それでも彼とは友人付き合いをしていた仲なのだ。仲良く出来るに越したことがない。
それに相田がこうなったのは、前世の恩恵があるこちらにも原因があるのだ。彼だけを責める事は出来ない。
「なら大丈夫だ!ほら、出して優しくしてやれって!」
「セイくんの治療がまだでしょ。頑張ったねって言ってあげなよ」
「いや、まだ寝てるだろ…。あんなに強く殴られたんだ」
セイくんの近くで素直に好きと言うなんて相田らしくないと思ったが、どうやら気絶していて聞いていないと思っていたようだ。
どうりで傷の手当もしないで座っていた訳だ、起きるのを待っていたのだろう。
「―――」
「―――」
「聞いてたのか?」
しかしどうやらセイくんは起きていたようだ。
腰のボールに手を当てて確認していた相田の顔が、段々と赤くなってきている。話を聞かれていたことが恥ずかしいのだろう。彼のこの様な顔は初めて見たが、分かりやすいタイプだったのだな。
「セイくん起きてたね」
「痛いだろ、セイ!もう大丈夫、相田が治してくれるからな!」
「ほら、相田くん」
「…ッ、ああッ、分かってるよッ」
赤い顔のままボールからセイくんを出す相田、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。相棒の事を好きなのはおかしな事ではないのだから。
「…セイ、治すぞ。手を出すんだ」
「ンキャ!」
『え?』
「…なんだよ?」
「キャ?」
セイくんに手を出させ、その上でチューブから薬を出そうとする相田。その姿に高貴と声を揃えて驚いてしまった。
「コウキくん、これって普通なのかな?」
「いや…どうだー?俺だったら塗ってやるけどなー」
「だよね?僕も塗ってあげるかな」
傷薬は塗ってあげるものだと思っていたが、もしかしたらポケモン自身に塗ってもらうのが普通だったのか、自分が過保護過ぎたのだろうか。
そう思ったが、どうやら高貴も塗ってあげる派のようだ。
考えてみれば他のみんなも、相棒の治療をするときは塗ってあげていた。
相田とセイくんが不思議そうに見てくるから、こちらが間違っているのかと思ってしまったではないか。
「人それぞれで、やり方は違うだろうけど…」
「ああ、まあそうだな…。けど、これからは優しくするぞ!って時になー…」
「ねー…」
「ッ、分かったよッ。セイッ、目を瞑るんだッ」
「ンキャー」
赤い顔の相田くん。薬を指の上に出し、セイくんの顔の痣に塗っていく。攻撃するようルカリオに頼んだのは自分なのだが、とても痛そうだ。
しかしセイくんは痛みなんて気にしていないかのように、主人に薬を塗ってもらえている事を喜んでいる。相田もそんなセイくんの嬉しそうな顔を見て、表情が穏やかになっていた。
「ね、分かるでしょ?セイくんは相田くんの事が大好きだって」
「…ああ」
「よかったな、相田!大事にしてやんないとな!」
「ああ…、そうだな…。大事にするよ」
「相田くん、忘れていることがあるよ。大事にするなら言ってあげないと」
「え?…あ、ああ、言ってやんないとな…」
どうやら相田も、セイくんに好かれていると分かったようだ。
大切な事を忘れていたのはいただけないが、セイくんの可愛さに思考が飛んでしまうのは仕方がない。これからは大事にすると言っているし、これで一件落着だ。
「セイッ、よくやったッ」
「キャッ!ンキャー!」
「いやいや待ってよ、相田くん」
「そりゃーないだろ、相田くん」
「な、なんだよ?」
「ンキャ?」
前までとあまり変わらない!
いや、以前よりは声に感情が籠っている。セイくんも喜んでいるので彼らにとっては問題ないのかもしれない。
だがこれはどうなのだろうか。彼らの関係にあまり口出ししたくは無いが、もう少し言葉を足してあげてもいいと思う。
せっかく心機一転の機会なのだ、恥ずかしいかもしれないが、相田にはもう少し頑張ってもらいたい。
「どう思います?コウキさん?」
「もっと言ってあげる事があると思います、レイレイさん」
「なんだよ…、褒めてるだろ?」
「いやー…足りないだろ…」
「相田くん。僕がポケモンのみんなを可愛がっているところ、いつも見てるよね?」
「…見てない」
「いや、いいよそれ!見てんだろ!」
ライバルの事が気になって、いつもチラチラ見てくる相田。彼は認めたくないようだが、分かりやす過ぎて、皆にばれているのだ。誤魔化せる訳がなかった。
「あんな感じで、セイくんを可愛がってあげたらどうかな?」
「そうだな!やってみろよ相田!」
「ふざけるなッ、あんなの出来るかッ」
いきなりというのは少しハードルが高いだろうし、人それぞれで考えは違うのだ、まったく同じようにする必要はない。それでも参考くらいにはして欲しい。
「あんなのって酷いな、ポケモンのみんなには好評だよ?」
「そういう問題じゃないッ」
「わかる、最初は恥ずかしいよな。でも一回やってみろよ、暖かくてどうでも良くなるから」
「セイくんもして欲しがってるよ。期待を裏切るの?」
我が家のポケモン達には大好評なのだ。高貴も真似してゴウタくんを可愛がっているが、どちらの顔も蕩けきっていて、とても嬉しそうにしていた。
セイくんはその光景を思い出したのか、主人に向けて期待するような目を向けている。
「ッ、で、きる…かッ」
「キャ…」
僕式可愛がり術。相田は恥ずかしくてどうしても出来ないようで、顔を赤くして勢いよく立ち上がってしまう。ボールを手にしているので、セイくんを戻すつもりなのだろう。
そんな彼の姿を見て、セイくんは残念そうに俯いてしまった。
「ッ…、セイッ、今日はよくやったッ。これからも頼むぞッ」
「キャ、ンキャー!」
「今はボールの中で休むんだ」
しかし相田は最後にセイくんの頭を優しく撫でてあげていた。
ボールの中に戻っていくセイくんは、とても嬉しそうに笑っていたのだった。