これからも応援、よろしくお願いします
誤字報告助かりました、気付いていませんでした
「おさんぽいこー、レーくん」
「やぁ」
翌日。
玲はベビーカーの前で母を困らせていた。
暖かい光が降っていて、絶好のおさんぽ日和。
外ではスズメがちゅんちゅん鳴いている、玲も負けじと甘えた声で鳴いていた。
母に嫌な思いをさせてなるものかと、首に抱き着きイヤイヤを発動。
公園に行ってはいけない、昨日のママさんに会うかもしれなのだ。
子供たちとの交流は癒される、オタチのチョー太くんは大好きだ。
だがそれ以上に母が大好きなのだ、許すまじママさん。
「お友達はいいの?」
「まーまぁ、ばうぅ」
「わんお!わんお!」
ママと遊びたいのだ、バウちゃんも一緒がいいと訴える。
バウちゃんも母の周りを走り回り、帰還を促している。
母は嬉しそうな顔をしながら、玲の頭を撫でる。
その手つきはとても優しかった。
母は玲を胸に抱きながらリビングに向かっている、どうやら上手くいったようだ。作戦成功、コングラチュレーション。
ソファーに座らされおさんぽ用の服を脱がしてもらった。
バウちゃんがソファーに飛び乗り嬉しそうにしっぽを振っている。
うむッ、見事な采配であった。玲は自画自賛した。
コートを脱いだ母はソファーに座り玲を膝に座らせた。
バウちゃんが母の横で伏せながら尻尾を振って、こちらをじーっと見ている。
渡邊さんが母に紅茶を出していて、緩やかに時間が流れていった。
暇である。
罪悪感が湧く。母は玲を思って公園に行こうとしていたのだ。
それを母やバウちゃんと遊びたいと訴えて、取りやめさせた。
なのにしていることは母の膝の上に座っているだけ、バウちゃんも暇そうにしている。
これでは母の思いを踏みにじっただけではないか。
これはいけない、何かないかと考え思いつく。
これより次のミッションを開始する。
「まぁま、まぁま」
「どうしたのレーくん」
玲は床に向かって腕を伸ばす。下に気になるものがある、私はあそこに行きたいのだと。
母を見上げ口を開く、甘えた声に願いを込める。
母が腕に力を籠める。これは成功か失敗なのか、心の臓が早鐘を打つ。
「まぁー、まぁま」
「お床がいいの?」
「奥様、掃除はばっちりです。埃一つありません」
ナイスアシスト渡邊さんッ、母が玲を床に下す。
ミッションコンプ――――いやまだだっ!
重要なのはここからだ。
後ろに転び足を延ばす、そのままくるりと半回転。
足を曲げてひざを床に、腕を伸ばしてご照覧あれ。
一歩一歩堂堂前進、これが男の生き様である。
ハイハイであった。
「レーくんすごいわ!みてみて渡邊さんッレーくんすごいの!」
「はい奥様、ご立派でございます」
「わんお!わんお!」
母は両手を口に当て、目を見開き喜んでいる。かわいい。
渡邊さんは目をつぶり、胸に右手を当て何度もうなずいている。胸に。
バウちゃんがしっぽを振り、誇らし気に鳴いている。プリティー。
うむっ、喜んでもらえた成功だ。今度こそミッションコンプリートッ。
「ハイハイ、レーくん。ハイハイ、じょうず」
「ボォボォ、ボワォ。ボォボォ、ボワォン」
「お上手でございます」
母が手をたたきながら応援している。
バウちゃんが玲の横を歌いながら歩いている。
渡邊さんは危険がないよう周りを見ながら声援を送ってくれる。
みんなが楽しそうにリズムを取って、玲の行進に合わせて音頭を取っている。
玲は嬉しかった、自分の成長を喜んでもらえることが。
だから調子に乗ってしまった、もっともっと見てくれと。まだまだこんなものじゃないと。
あなた達の家族はちゃんと育っているのだと。
玲は歩みを止め、横にいるバウちゃんに抱き着く。
疲れたのかなと、母が息子を抱き上げるために近づいてくるが待ってほしい。
焦んないでよお母さん、止められてなるものかと急いで両足に力を籠める。
つかまり立ち。しかし残念筋力が足りない、そのままつぶれ転がってしまう。
バウちゃんが玲の顔を舐める。
母と渡邊さんの表情は、かわいらしいものを見たように優し気だった。
残念がってくれれば救われたものを、玲の思惑に気付いてもいない事に羞恥心が湧く。
悲しい感情に心の制御がきかない、玲の瞳に涙があふれる。
「あぁぁぁぁぁ―――――――――」
ありがとうバウちゃん。ミッションフェイルド…。
玲は母の膝の上に座っていた。その表情は笑顔で、おっぱいを飲み母にあやされお昼寝し、気力十分で満足げに笑っていた。
どうやら先ほどの醜態を忘れることが出来たようだ。
現在時刻は二十時。
渡邊さんは帰ったが、父が帰ってきて家族揃ってリビングでくつろいでいた。
弛緩した空気が流れている。みんな安心しきった表情をして、ゆるやかに時が過ぎていく。
玲はこの時間が大好きだった。
バウちゃんが欠伸をする、つられて玲もうとうとしてくる。
「―――続いてのニュースです。全国の認定試験を通過した―――」
「うぁあ、あぁー?」
「レーくんテレビ見たいの?」
「あぁ、もうそんな時期なんだね」
と、そこで流れたニュースが気になって、玲の意識が覚醒する。
テレビに吸い寄せられている玲の視線に、父が小さかった音量を上げてくれた。
玲はテレビにくぎ付けだった、テレビの内容に興奮していた。
ニュースでは全国各地から認定試験を突破した、トレーナーの映像が流れていた。
カビゴン、ブーバー、ゼブライカ。有力選手だと思われる選手の手持ちも映る。
ギモー、ゴビット、ドデカバシ。認定試験のハイライトがどんどん映し出されていく。
玲は興奮している、ポケモンが戦っている姿に。
歓喜している、ポケモンバトルが存在していた事実に。
もしかしたらと思っていたのだ、ないのかも知れないと。
この世界から見れば動物同士を戦わせるというのは、闘犬のような一種のブラッド・スポーツのようなものなのではと。忌避観を持つものがいるのもしょうがないと。
だからバトル自体がない、あってもマイナーな物なのかもしれないと。
だがテレビに映っている。おおやけに映している。
戦闘自体は大したものではない。タイプ相性も覚えきれていないようだし、交代自体を忌避しているのかごり押しが目立つ。
だが玲は楽しんでいた、ポケモンが一生懸命に力を競い合わせている姿に。生きたその姿に。
玲は決めた、なってやると今決めた。
全国各地の認定試験、おそらくジム戦のようなもの。それに挑んで現在テレビに映っているような、そんなトレーナーになってやると。
チャンピオンになってやるとならない所が、少し小さかった。
知識はあっても実際に育てるとなると自信があまりなかった。
(ボールをそろえているんだ)
選手の腰にあるボールを見る、同じものが五個並んでいた。右手に持つものも含めて全て同じだ。
見た目は知識にあるどのボールとも違っていて、どうやらこの世界では選手ごとにカスタマイズしているのかなと考える。
先日公園で見たような、飾り気のない白一色の物をもつ選手もいる。
だが大抵の者がオリジナルで揃えていた。
ボールの中から出た粉が花火のように弾けたり、一瞬だけ強く光ったりしている。
そんな光景を見て夢が広がる。
テレビのニュース番組は終わっていた、野球中継が流れている。
興奮を抑えるために息を吸い、満足げに長い息を吐く。
頭の中に将来を描く。
広い広いスタジアム、遠くの客席は満員御礼。張り詰めた空気に、こちらを睨む対戦者。
右手にオリジナルのモンスターボール、同時に投げ合いバトル開始。
ポケモンに指示を出す自分、対応する相手選手。
玲は妄想の世界に沈んでいく。
「眠っちゃったみたい」
「すごく興奮していたから疲れたんだろうね、かわいい寝顔だ」
「レーくんはポケモンさんが大好きねぇ」
「自分の仕事を応援してくれているみたいで、なんだか恥ずかしいよ」
母の手が優しく息子の頭をなでる、それを見つめる父の顔は微笑んでいて。
バウちゃんは嬉しそうな顔で寝息をたてていた。