ポケモンが現れた世界に生まれて   作:ダダダッダ

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三十一話

 私立翔星小学校、この学校には男女別に更衣室が用意されている。

 他の学校では教室で順番に着替えるというのが一般的らしいのだが、それでは不便だということで作られたのだろう。

 なにしろ体育はもちろん、ポケモン関係の授業でも制服のままでは不都合なものが多いので、ほぼ毎日着替える必要があるのだから。

 

 現在そんな更衣室の中で学校の制服に着替えている。ポケモンバトルの授業が終わり、残りはホームルームだけだからだ。

 鏡の前に立ち、そこに映る自分の姿を確認する。髪が少し乱れていたので手櫛で整えて、これで着替えは完了だ。

 脱いだままだった体操服を丁寧に畳み、体操着袋に入れて肩にかける。友人達を見れば、どうやら須田はもう少し時間が掛かるようだ。

 高貴は既に制服に着替えて、長椅子に座っている。彼と一緒に須田が着替え終えるのを待つことにしよう。

 

「…そういえばキーツくん。筋肉ついてきたみたいだね」

「ほんと!?」

「うん。少し逞しくなった気がする」

「んー?…おぉ、ホントだ。少しデカくなってる」

「そっかー!やっと効果が出始めたのかー!」

 

 鏡の前で自分の二の腕をモミモミしていた須田、彼は兄のような立派な筋肉が欲しいらしい。

 ただ単に成長して体が大きくなっただけだとは思うのだが、悲しそうな表情で鏡を見ていたので、つい褒めてしまった。

 いや、分かり難いが筋肉もついてきているはずだ。高貴もデカくなっていると言っているのだから。

 

「弱いトレーニングしか出来なかったけど、効果はあったんだ!」

「よかったな、スダーン!」

 

 須田は週に何日か家に早く帰って、兄と一緒にトレーニングをしているらしい。

 どうやら彼の兄は十五歳になってジムに通い出したらしく、そこで教えてもらった効率のいいトレーニング方法を、兄弟で試しているようなのだ。

 

 しかし残念ながら須田は軽めのトレーニングしかさせてもらえないらしい。小学生のうちから強い筋トレはデメリットがあると聞く、恐らくそのためだろう。

 それに加え、彼は筋肉が付きにくい体質のようで、あまり変化は見られないのだ。

 

「お兄ちゃんみたいになるにはもう少し…。んー、でも止められてるから…」

「やりすぎると身長が伸びなくなるって聞くよ?」

「スダーンの兄ちゃん、身長もデカいからな」

「そうだね…、焦っちゃダメだよね」

 

 正直に言うと今の可愛い見た目のまま方が、彼に似合っていると思う。だが本人が兄のようになりたいと頑張っているのだ、応援してあげたい。

 さすがにあれほどの筋肉を付けるのは厳しいとは思うが。

 

「あ!ごめんね、すぐに着替えるから!」

「ゆっくりでいいよ、まだ時間あるし」

「向こうもまだ着替えてないだろうしな」

 

 自分だけが着替えていない事に気付いたらしい須田。

 だがホームルームまでの時間は、着替えを考慮して少し長く設けられている。まだ余裕はあるのでそんなに急ぐ必要はない。

 それに紗更と町田もまだ着替え終えていないだろう。それでは早く着替えて教室に戻ったとしても、場所が変わるだけで三人なのは一緒だ。

 

「なあ、白雪…」

「どうしたの、相田くん?」

 

 とそんな風に、須田の着替えをのんびり待つつもりでいたら相田が話しかけてきた。

 彼はばつの悪そうな顔をしていて、何やら言いにくい話のようだ。

 

「外に出る?」

「いや、ここでいい…」 

 

 人がいる場所では話しにくいだろう。場所を移すかと思ったのだが、どうやらここでいいらしい。周りを見れば他の生徒は着替え終えて教室に戻ったようで、自分を含めて四人しかいなかった。

 高貴と須田はいても問題ないのだろう。

 

「その、な…、さっきはごめん…」

「え?あ、うん。いいよ、もう気にしてないから。さっき謝ってもらったしね」

 

 授業中に謝ってもらっているので相田の事は許していたのだが、どうやら彼はあれからずっと気にしていたようだ。

 

「えっと…、夏木もごめん…」

「?…オレは何も言われてないだろ?レイレイが気にしてないならいいよ」

「…そう、か…」

 

 何やら相田は、謝罪を受け入れてもらった事に戸惑っているようだ。簡単には許してもらえないとでも思っていたのだろうか。

 だがこちらからすれば、そこまで大袈裟に考える事ではないと思っているのだ。

 彼がした事と言えば対戦相手とポケモンの変更の要求、それと少しの嫌味くらいだ。

 彼と戦うのは担任に認められているので授業の一環だし、その内容にだって不正はなかったので特に思う事はない。

 嫌味だって授業中に謝ってもらったと思っていたので、とっくに許しているのだ。そんな顔をされても困ってしまう。

 

 だからといって、このまま放って置くのは少しかわいそうか。どうしたらいいか分からないのだろう、視線をさ迷わせてしまっている。

 須田にまで視線を向けていて、今回の件には関係のない彼に申し訳ない。とても居心地悪そうにコソコソと着替えている。

 

「そんなに気にしてるならさ、みんなで勉強会するんだけど、相田くんも来てくれない?」

「え、勉強会?」

「コウキくんにみんなで勉強を教える事になったんだけど―――」

 

 今日の放課後から高貴の勉強を見る事になったのだが、彼一人に教えるだけならそんなに人数はいらない。一人か二人で十分で、他の者は何もしないで見ているだけになってしまう。

 それでは時間を無駄にしてしまうので、折角なのでみんなで宿題を終わらせたり、授業で分からなかった場所を教え合おうという事になったのだ。

 

 相田は成績がいいので皆に教えることも出来るだろう。

 教え合える人数が多くなれば、それだけ勉強も捗るだろうし、宿題も早く終わる。つまりポケモンを可愛がる余裕が出るという事だ。それはとても素晴らしい、是非とも彼には来てもらいたい。

 

「相田くん成績いいでしょ?分からないところ教えてもらえたらなって」

「おお、そうだな。勉強おしえてくれ!それでチャラだ!」

 

 高貴にもこちらの考えが伝わったようで、合わせてくれている。

 これで今回の件を手打ちということで、相田には納得して欲しい。

 

「行って…いいのか?」

「うん、来て欲しいな」

「テストでいい点取らないといけないんだよ。な、たのむ!」

 

 何となくで言ってみたが、良い案なのではないだろうか。

 順位付けの様な形でクラスが離れたことで関係がこじれてしまったが、そうなる前はライバルとして仲良くやっていけてたのだ。出来る事なら前の様な関係に戻したい。

 

「あ、ああッ、分かったッ。何を教えればいいんだッ?」

 

 嬉しそうな表情の相田、乗り気なようでよかった。

 この様子なら勉強会を切っ掛けとして、その先も仲良くしていけそうだ。

 

「次のテストが算数と社会だから、算数でいいんじゃない?」

「そうだねキーツくん。時間があまりないし、社会は出そうなところだけを暗記でいこうか」

 

 話題が勉強会の事に移ったので、須田が合流してくる。

 今まで居心地の悪い思いをさせてしまって申し訳ない。 

 

「算数か、どこが分からないんだ?」

「全部だ」

「?いや、全教科を教えるのは別にいいけど、今は算数の分からないところを教えてくれ」

「算数の全部だ。分かるところが分からない」

「…なあ白雪、夏木は何を言ってるんだ?」

 

 恐らく相田はテストで悪い点を取ったことがないのだろう。普通に授業を受けているのに、何も分からないと言う状況が想像できないのだ。

 だが彼にはしっかりと高貴の現状を知ってもらう必要がある、これから一緒に勉強会を行う仲間なのだから。

 

「コウキくん、前回の算数の点数は?」

「聞いて驚け、四十二点だ!……やめて、そんな目で見ないで」

 

 不思議そうな、悲しそうな、何とも言えない眼差しを高貴に向ける相田。

 そんな視線に耐えられないのか、高貴が目を逸らしてしまう。

 

「ああ、いや…、四十二点なら全く出来ない訳ではないんだな。それならよかった」

「サービス問題と、あとは記号問題を勘で当てたみたいだね」

「いや夏木…、前回のテストって四年のおさらいだろ?それで…」

「これから頑張っていくので…」

「…まあいい、それならスパルタで行く。覚悟しろよッ」

 

 相田も昔のように、またみんなと一緒にいたいと思っていたのだろう。声に気合が感じられる。

 高貴には大変かもしれないが、どうか彼の想いを受け止めてあげて欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうね、ユキメノコ。助かったよ」

「ユキー」

 

 ホームルームが終わって生徒の少なくなった放課後の教室。これからここで勉強会が始まる。

 窓側から二列目の一番前、町田のお陰で紗更の隣にしてもらえた自分の机。ユキメノコと一緒にそれを回転させて、後ろの須田の机にくっつける。

 隣では紗更もピーちゃんと一緒に、同じように机を動かしていた。

 

「ほら、始めるから、あんたも動かしなさいよ」

「お、おう!すぐ動かす」

 

 通路を挟んだ反対側の隣の席では、高貴が町田に声をかけられている。

 慌てて椅子から立ち上がるそんな彼を見ていたら、その奥の方でこちらを見つめたまま佇んでいる相田の姿を目に捉えた。

 先程はあんなに意気込んでいたのに、何を躊躇っているのか。

 

「何してるの相田くん、早く来なよ」

「ッ…あ、ああ」

 

 不安そうにこちらに近づいて来る相田。

 久しぶりで輪の中に入りにくいのかもしれないが、心配しなくていい。

 みんなには既に伝えているが、誰も拒む事なく快く受け入れてくれているのだから。

 

「相田くん、算数のノート忘れないでねー」

「大丈夫だ、出してある」

「相田くん、そこの席お願い」

「ああ、わかった」

 

 紗更と町田が不安そうな彼を気遣って声をかけている。

 そんな彼女達の優しさに、安心したのだろう。まだ少し声は硬いが、それでも相田は嬉しそうにしていた。

 そんな彼も合わせて皆で一緒に席を動かし、九個の机を三列で並べる。ポケモンもいる事を考えても、これだけあればスペースは十分だろう。

 

「どうやって座るー?」

「ああ、夏木の隣は俺にしてくれ。しっかりと教えないといけないからな」

「それじゃあ、わたしも。しっかり見てあげるから安心しなさい」

「お、お手柔らかに…」

 

 どうやら高貴の両隣は決まったようだ。少し厳しそうな教師達だが、あの二人なら彼の頭に知識を叩き込んでくれるだろう。

 そういう事ならこちらは宿題を終わらせることにしようか。後でみんなに見せてあげるのだ。

 

「それじゃあ、僕はここで。ユキメノコも座る?」

「ユキィ」

「うん、いいよ。おいで」

 

 ユキメノコのお気に入り、正面からギュッ。どうやら勉強会の間はこの体勢でいたいようだ。

 もちろん嫌な訳がない。甘えん坊な彼女を抱きしめて、頭を優しく撫でてあげる。

 

「出るんだ、セイ」

「キャ」

 

 こちらをジッと見つめていた相田。主人に抱き着くユキメノコの姿に思う事があったのか、彼もセイくんを出すことにしたらしい。相棒用に椅子を動かしていて、とてもいい感じだ。セイくんをいっぱい可愛がってあげて欲しい。

 しかし何故かセイくんは、主人の用意した椅子に座らずに、こちらに歩いてきた。何か用でもあるのだろうか。

 

「キャ!」

「どういたしまして。これからもよろしくね、セイくん」

 

 どうやらセイくんは、相田との件のお礼をしたかったようだ。嬉しそうにお辞儀をしてくれた。

 彼に向かって右手を出せば、笑顔で両手で包んでくれる。その手はとても硬く、主人のために頑張ってきた事が感じられる。

 

「すごい手だねセイくん。今まで頑張ってきたんだね」

「ンキャー」

 

 つい握ってしまい不味かったかと思ったが、どうやら褒められたことが嬉しいようだ。照れてはいるが嫌がってはいない。

 可愛らしいポケモンの可愛らしい照れ顔とはやはりいいものだ。心が飛び跳ねそうになる。

 

「…」

「大丈夫だよ相田くん、セイくんは相田くんの事が大好きだから。ね?」

「ンキャ!」

 

 しかしそんな相棒の姿に、相田が顔をしかめてしまっている。今まで自分に向けられることのなかった表情で悔しいのだろう。申し訳ない、少し配慮が足りなかった。

 だが安心して欲しい、セイくんは主人の事が大好きなのだ。今まで出せなかっただけで、これから君にも向けられるであろう表情なのだから。

 

「セイくん、相田くんが寂しがってるから行ってあげて」

「キャ、ンキャー!」

「寂しがってない!」

 

 恥ずかしがらなくてもいいではないか、誰も馬鹿になどしないのだから。

 高貴が笑いを堪えているのは気にしなくていい、そういう意図では絶対にないのだ。

 

「…セイ、俺はこいつの勉強を見ないといけないんだ。白雪に遊んでもらいなさい」

「キャ」

「あ、待ってごめん!笑ってないから!」

「ンキャ」

「ど、どういたしまして!」

 

 高貴の勉強を更に厳しくすることに決めたらしい相田。セイくんの面倒を見てあげられないようで、彼に頼まれてしまった。

 だがそう言う事なら任されようではないか。高貴にもお礼をしてからこちらに歩いて来るセイくんを、快く迎え入れる。

 

「ここに座ってね、セイくん」

「ンキャ」

「一緒にお勉強しようね。これ使ってね、何でも描いていいから」

 

 セイくんに予備のシャーペンを渡し、目の前にノートを広げてあげる。

 嬉しそうな彼の笑顔がとても可愛らしい。

 

「すごい!絵が上手なんだね、セイくん」

「キャ!」

 

 両手でシャーペンを挟み、一生懸命お絵描きしているセイくん。そんな可愛らしい彼の姿を、みんなが優し気な眼差しで見つめている。

 相田も高貴に厳しい目を向けているが、どことなく楽しそうな雰囲気だ。

 この感じならこれからも彼等とは上手くやっていけそうだ、勉強会に誘ってよかった。

 

「あの、相田さん?出来たら向こうみたいに優しく…」

「それでテストに間に合うわけないだろ。いいからこの問題を解くんだ」

 

 高貴には少し大変かもしれないが、二週間の辛抱だ。

 出来る限り協力するので、何とか頑張って欲しい。

 

 

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