ポケモンが現れた世界に生まれて   作:ダダダッダ

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三十四話

 今日は六回目の認定試験の日。

 後部座席のドアを開き、車から降り目の前の建物を見上げる。

 はやみスイミングスクール、三階建てで奥行のある、とても大きな建物だ。

 みずタイプの試験場なだけあり、バトルコートはもちろん、水泳用とは別にポケモン用のプールも用意されているのだろう。これだけ大きいのも頷ける。

 

「大きな建物ねー。ここでレーくんが頑張るのねー」

 

 反対側のドアを開き、母が下りてきて口を開く。今日の付き添いには母が来ているのだ。息子の認定試験を見るのは初めてなので、朝から楽しそうにしている。

 本当だったら今日も慣れている父に来てもらう予定だったのだが、母たっての希望で交代してもらった。前回の試験の後の楽しそうな姫光の様子を見て、息子を応援したいと思っていたのだろう。

  

「絶対に受かってくるよ」                                                                                                                                                                                                                                    

「応援してるわね」

 

 ブーメランパンツ姿を見られるのは少し恥ずかしいが、母には赤ん坊の頃から体の隅々まで見られているのだ。応援してもらうのは嬉しいし、そのくらい何てことない。

 姫光はダメだが。

 妹にあのような姿は出来れば見せたくない。父と一緒に家でお留守番していて欲しい。

 

「行こう、お母さん」

「ええ」

 

 手を伸ばし、母の左手を優しく握る。

 握り返してくれる暖かな手の感触が心地いい。昔に比べ近くなってきた母の顔を見上げれば、嬉しそうに微笑んでくれている。

 

「階段を昇ればいいのかしら?」

「そうみたいですね、案内が出ています」

 

 後ろから歩いて来ていた瀬川さんが、案内表示を見ながら言う。どうやら入り口は階段を上った所にある大きなガラスドアだけのようだ。

 案内に従って、横に広い階段を母と手を繋ぎながら登っていく。

 

 ガラスドアの前に立ち、中を見てみればどうやら人はあまり居ないようだ。レッスンの時間割りの都合か、丁度人がいない時間なのだろう。

 まあこちらとしては都合はいい。人が少ない方が並ばなくていいし、話も早く進むだろう。

 扉を開けて母と一緒に、建物の中に入っていく。

 

「すみません。認定試験の予約をした白雪ですけど」

「白雪様ですね。…?あの、六回目で間違いありませんか?」

「間違いありません」

「えーっと…、失礼ですが、本人確認が出来るものは何かありますか?」

「保護者の物でいいですか?」

「はい。それで問題ありません」

 

 手元の書類とこちらの顔を何度も確認している受付のお姉さん。六回目の受験者がこのような子供だとは信じられないのだろう。

 申請する時に年齢も打ち込んでいるのだが、前例は間違いなくないだろうし、それも仕方がない。

 

 認定証を出そうと思ったが、その前に母が代わりに保険証を出してくれた。どうやら保護者のもので問題ないらしい。

 

「確認ですが、試験を受けるのはお子さんで間違いありませんか?」

「ええ、間違いありません」

「…失礼しました。こちらの書類にご記入ください」

 

 最後に母が受けるのかと確認する受付のお姉さん。それでも間違いがないと知り、ようやく受け付けてもらえた。

 

「一緒にテストを受けるポケモンはいますか?」

「はい、います」

「あまり大きくない、水を怖がらない子でお願いします」

 

 試験の案内によれば、前段階のテストではポケモンと一緒に水に浸かるらしい。一人で受ける事も出来るらしいのだが、せっかくのポケモンとのプールだ、この機会を逃してなるものか。

 マスカーニャは人前で濡れるのを嫌がるが、オーガポンなら問題ないだろう。体もそんなに大きくないし、水を怖がる事もない。

 

「それでは水着をこの中から選んでください」

「…違うのは色だけですか?」

「はい。形は全て同じものです」

 

 どうやら水着は三タイプあるようだが、違いはラインの色だけのようで、形はどれも同じだった。

 出来れば学校用の水着で受けたかった。去年の物で少しサイズが小さいが、それでもロングタイプなのでこちらの物より恥ずかしくはない。

 水着の代金分、試験料が高くなっているなんて事はない。ただで貰っている様なものなのだが、どうしてもそう思ってしまう。

 

「青でお願いします」

「サイズに間違いありませんね?」

「はい、大丈夫です」

 

 サイズは家を出る前に学校の水着で確認している。大きさに違いはあまり無いだろうし、一つ大きな物を頼んでおけば問題ないはずだ。

 

「それでは奥にある更衣室で水着に着替えてください」

「分かりました」

「時間までにそちらのマットが敷かれた場所に居てくださいね」

 

 試験まであとニ十分。受付などで時間を取られると思い早く来たのだが、どうやら用心し過ぎたようだ。着替えにそこまでの時間はいらないだろう、余った時間はどうするか。

 出来れば人に見られる場所で水着のままで居たくない。更衣室の中で時間を潰していようか。

 

「行ってくるね、お母さん、瀬川さん」

「行ってらっしゃい。お母さんはそこに座っているわね」

「行ってらっしゃいませ、玲様」

「お母様、よろしければこちらのアンケートにご協力ください」

 

 瀬川さんの様呼びに不思議そうな顔をしている受付のお姉さん。そんな彼女からアンケート用紙を受け取っている母から離れ、更衣室に向かって歩いて行く。 

 集合場所とやらを見て見れば、壁も二面にしかなく、周りの視線から遮るようなものは何もない。

 建物の入り口からは見えないが、それでもこのような場所で水着姿で居なければならないとは。ここに来たことを後悔してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーガポンとマスカーニャ、彼女達に相性のいい試験場。

 それだけが条件なら他にも候補はあるし、別の場所にすればよかったかと思っていたが、とんでもない。ここにしてよかった。

 

「足を伸ばしてー、体を前に倒してねー」

 

 目の前には試験官のお姉さん。水着姿がとってもいいね!

 どうやらここの水着の際どさは、女性用にも適用されていたようだ。

 

「ぽ、ぽにおー」

「ゆっくりだよー、オーガポン」

 

 オーガポンと一緒にマットの上に座り、お姉さんの真似をして体を前に倒していく。

 お姉さんのように体を倒そうと頑張っているオーガポンがとても可愛い。

 

「こうやるんだよー!」

「背中押してあげるねー!」

 

 そして何と特別ゲスト、ここの水泳教室に通っているらしい二人の少女達。

 隣に座りお手本を見せてくれている田中さんと、背中を優しく押してくれている鈴木さんだ。

 

 どうやら彼女達は水泳教室が終わって親御さんの迎えを待っていたようで、そこにカッコいい男の子が現れたので、新しい水泳仲間かと勇気を振り絞って話しかけてくれたようなのだ。

 モジモジしている彼女達の姿はとても可愛らしかった。久しぶりにこの感覚を味わえてとても嬉しい。

 

 自分は両親のお陰で顔がいい。学校でもモテてはいるようなのだが、相手がいると思われているのか、こういう感じで話しかけられることは最近ではあまり無かったのだ。

 紗更とおててを繋いだりしているので、そう思われても仕方がない。町田のサポートもある彼女相手では、勝ち目はないと思われているのだろう。

 紗更とのスキンシップはとても嬉しいので何も問題はないのだが。

 

「次は足を開いてー、またまた体を前にー」

 

 水着姿で大胆に開脚するお姉さん。柔軟体操だとしても、その姿で足を開くのは目のやり場に困る。とても嬉しいのだが、ここには母や瀬川さんもいるのだ。

 一歳の時から風呂場で母に鍛えられているので、視線を気取られるようなヘマはしないが、それでも細心の注意が必要なのだから。

 

「見て見て白雪くん!ほら!」

「わたしも出来るよ!」

 

 なんでそんな平気な顔をしていられるのだろう、水泳教室でいつもしているから慣れてしまっているのだろうか。

 ハーフパンツなので水着よりはマシだが、それでも二人の少女が足を開いている姿は目に毒だ。

 彼女達の親御さんもうちの母と一緒に見学している。今は『仕方のない子ね』とでも言うかのような顔をしているが、邪な感情を少しでも感じ取られればどうなるか分からない。これはより一層、注意を払わなくては。

 

「す、すごいね二人とも!柔らかいんだね!」

「ぽにおー」

「僕もオーガポンも、そんなに倒れられないよ」

 

 足を左右に伸ばし、胸を床に付けている少女達。人間とはここまで柔らかくなるものなのか。

 

「毎日やってれば出来るようになるよ!」

「手伝ってあげるね!」

「え?ちょ、え!?」

「手、伸ばしてー!」

 

 正面に座り足を開き、鏡合わせのように足を合わせてくる鈴木さん。

 手を伸ばすよう言われたので恐る恐る従えば、素早く手を掴まれてそのまま引っ張られてしまう。これはいくら何でも大胆過ぎやしませんか?

 

「足を伸ばすんだよー!」

「ま、まって!」

 

 背中に体を押し当てて、膝を手で押さえてくる田中さん。まだ小さな二つの膨らみ、それでも柔らかさはしっかりと感じることが出来る。

 

 二人とも怪我をしないように加減はしてくれているので、強い痛みを感じることはない。

 だがそれが逆に、大胆な彼女達から思考を逸らすことを許してくれなかった。

 先ほどまでのモジモジしていた少女たちは何処に行ってしまったのだろうか。出来たら早急に戻って来てほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オーガポン、水は大丈夫?」

「ぽに!ぽにおー!」

 

 少女たちの猛攻を耐え忍び、何とか保護者の皆様にも怪しまれずに柔軟体操を乗り切って、現在バトルコート横のプールにオーガポンと一緒にいた。

 プールの底は段差になっていて、限度はあるがどの大きさのポケモンも立って息が出来るようになっている。

 オーガポンも水に浸かって楽しそうに遊んでいて、その可愛らしい姿に先程の少女たちによる心の疲れが癒されていく。

 

「水は平気みたいねー」 

「はい。怖がったりはしていません」

「それなら大丈夫そうねー。出て来てー」

 

 コート上でボールを放り投げる試験官のお姉さん。光に包まれ飛び出てきたのはフローゼル、みずタイプのイタチのようなポケモンだ。

 フローゼルはプールに飛び込み、オーガポンの周りを泳ぎ始める。

 その動きはとても速く、流石みずタイプのポケモンだと感じさせる。

 

「この子にテストしてもらうんですか?」

「そうよー。三分あげるから、この子を捕まえてねー」

 

 水中のフローゼルを三分以内に捕まえる。オーガポンが立てる範囲にしか行かないと思うが、それでも大変そうだ。

 

「オーガポン、頑張ろうね!」

「ぽにお!」

「あ、失敗しても不合格じゃないから。プールを壊さないように気を付けてねー」 

 

 なんだ、捕まえることが出来なくても不合格ではないのか。

 確かにみずタイプのポケモン相手にこの条件は少し厳しい。六回目の試験とはいえ、前段階のテストなのだ。

 それに捕まえないと不合格では、合格しようと頑張りすぎて施設を壊してしまう恐れがある。バトルコートならともかく、プールを壊してしまうのは大問題だ。

 主人も近くにいるし、テストでそのような危険は冒せないだろう。

 

「オーガポン、無理しなくていいからね」

「ぽに」

「そーそー、軽い遊びみたいに思って楽しんでねー。それじゃ、スタートー」

 

 お姉さんの合図を聞き、泳ぐスピードを上げるフローゼル。先程までも厳しいと思っていたが、これは捕まえるのは無理だろう。

 

「ぽに?ぽにお?」

「フロ、フロロロロ!」

 

 泳ぐ姿を目に捉え、走り寄ってもそこにはもう居ない。フローゼルは背後で飛び跳ねて、手を叩き鳴き声を上げている。

 そんなフローゼルを追い必死に水をかくオーガポン、それでも追いつくことが出来ていない。

 

「三、二、一、おわりー」

「フロロロ」

「ぽにおー…」

「頑張ったねオーガポン。ありがとうね」

 

 オーガポンも頑張ってくれたのだが、三分ではとても足りはしなかった。

 終了の合図に、背中を丸めて残念そうな顔をするオーガポン。とぼとぼと歩いてきた彼女を抱きしめて頭を撫でてあげる。

 遊びだと言われていてよかった、そうでなかったら彼女は今以上に落ち込んでいただろう。

 

「さっきも言ったけど、不合格じゃないから落ち込まないでねー」

「不合格じゃないって。試験ではオーガポンの凄いとこ見せてあげようね」

「ぽに!」

 

 オーガポンは試験で頑張ろうと鳴き声を上げてくれている。

 よかった、元気になってくれた。

 確かにフローゼルには追いつけなかったが、それは水中での事。試験はバトルコートの上で行われるのだ。

 試験ではオーガポンの強さを見せつけようではないか。

 

「どうだった?速かったでしょー?」

「えっと、はい。水中で追いつくのは無理そうです」

「そうなのよー。水中のみずタイプポケモンは怖いの」

 

 フローゼルはとても速かった。たとえオーガポンが本気で追いかけたとしても、捕らえることは出来なかっただろう。

 

「その子はくさタイプだと思うけど、相性がよくても水中では関係ないの」

「フロロロロ」

 

 確かに水中ではみずタイプポケモンには勝てないかもしれない。相性が良かったとしても、攻撃を当てることが難しいし、息が長く続かないので攻撃を耐え続けることも出来ない。

 

「だから相性がよくても油断しちゃダメよー」

 

 今回のテストは注意喚起を目的としていたのだろう。たとえタイプ相性がよくても、環境次第でいくらでも変わるのだと。

 試合で勝てるからと驕ってはいけない、みずタイプの試験官としてそれを教えてくれたのだ。この教えを無駄にしてはいけない。

 

「はい、気を付けます!ありがとうございます、先生!」

「ぽにお!」

 

 

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