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マスカーニャと一緒に風呂を出て、今は我が家の洗面室。
床に敷いた大きなタオルの上で、マスカーニャが暗い表情をしている。
今この子は軽くふいただけの状態なのだが、ボサボサになった自分の姿を受け入れられないのだろう。お風呂の中では可愛らしく笑ってくれていたのに、今は見る影もなく曇っている。
「カニャン…」
「大丈夫だよ、マスカーニャ。すぐに整えてあげるからね」
だが心配することは何もない。マスカーニャとは何年も一緒にお風呂に入っていて、そのたびに綺麗に整えてあげているのだ。
今回も満足させてあげるので安心して欲しい。
「熱くない?」
「カニャン」
先ずは顔から始めよう。左手にドライヤー、反対の手にはスリッカーブラシ。温風を横から当てながら、優しく撫でるように毛をといていく。
マスカーニャは気持ちよさそうに目を細めていて、その可愛らしい表情を見ていると動悸が激しくなってくる。もっと見ていたいのだが、ブラシをかける面積が狭いのですぐに終わってしまう。とても残念だ。
マスカーニャのこの仮面、実は顔の一部で外すことが出来ないのだ。今もそうなのだが、原作でも目をつぶる時、仮面の目元も動いている。
汚れが溜まらないよう境目に気を使わないといけないが、仮面は毛で出来ている訳ではないので、ブラシをかける必要はないのだ。
もちろん仮面に手を抜いている訳ではない、風呂場でしっかり洗ってあげている。
「次は頭を綺麗にしようね」
「カニャ」
ドライヤーを脇に挟み、マスカーニャの毛を空いた手で触れる。
引っかからないよう気をつけながら、右手のブラシでとかしていく。
マスカーニャは気持ちよさそうに歌っていて、痛がる様子は今のところない。
自分の腕が成長しているのもあるが、この子の髪に痛みがないので、引っかかる事があまりないのだ。
「うん、頭はオッケーかな」
「カニャ…?」
「大丈夫、可愛いよマスカーニャ。見てみる?」
「…カニャン」
不安そうな表情のマスカーニャ、風呂場の鏡で見た自分の姿を思いだしてしまっているのだろう。
だが安心して欲しい。この僕がオッケーを出したのだ、中途半端に終わらせやしない。頭と顔まわりだけだがしっかりと可愛く仕上げている。
どうやらマスカーニャは主人の言葉で見てみる事にしたらしい。手鏡を受け取り、恐る恐ると自分の顔の前に持ち上げる。
「ね?可愛いでしょ?僕、ドキドキしてきちゃった」
「カニャーン」
褒めてもらったのが嬉しかったのだろう、マスカーニャが抱き着いてくる。
首から下がまだ湿っているので濡れてしまうが、こちとらトランクス一丁だ、多少濡れても構いやしない。それよりマスカーニャに甘えてもらう方が重要なのだ。
頬をスリスリしてくれてとても嬉しいし、もう少しこのままでいさせてあげよう。
とはいっても濡れたままでは体に悪いので、ドライヤーをかけながらだが。
「濡れたままだと体に悪いから、このまま乾かすね」
「カニャン」
ドライヤーを反対向きに持ち、マスカーニャの背中に温風を当てる。
少し持ちにくいが問題ない、今まで何度も経験している。我が家のポケモンは甘えん坊ばかりなので、抱き着かれたままというのは初めてではないのだ。
「カニャ、ニャーン」
気持ちよさそうに鳴き声を上げ、頬をスリスリしてくれるマスカーニャ。
とても可愛いのだが、だからこそ今までの分を補うかのように甘える姿に申し訳なく思う。この子は普段なかなか甘えることが出来ていないのだ。
みんなのお姉ちゃんのマスカーニャは、他の子が主人に甘えたがっていると、自分が甘えたい時でも譲ってしまうのだ。
一度に何匹も相手をするのは大変だろうと、主人を気遣ってくれているのだと思う。
夜に一緒のベッドで眠るなどの順番の時は良いのだが、それ以外の普段の生活では遠慮してしまっているのだ。
「いつもありがとうね、マスカーニャ」
「カニャン」
他にも、暇そうにしている子がいたら一緒に遊んであげたりしてくれる。
家の中で出られないポニータのボールに話しかけてくれたり、盛り上がっている話に入れないテブリムと一緒にいてくれたり。
眠そうにしているバウちゃんの隣で、一緒にお昼寝してくれたり。家族のみんなが仲良く過ごせるように協力してくれているのだ。
「マスカーニャがお姉ちゃんしてくれるお陰で、すごい助かってるよ」
「カニャ」
マスカーニャには凄く助けられている。この子がいなかったら、今の様にみんな仲良くという訳にはいかなかっただろう。
原作知識があるとはいえ、それだけでこれだけ多くのポケモンと生活できる訳ではない。自分だけで育てられるなんて決して言えない。
今はマスカーニャのお陰で何とかなっているが、これから先どんどん家族が増えていく。自分も成長できるように頑張るつもりだが、これからもこの子の助けは必要なのだ。
「でも僕は大丈夫だから」
「カニャ?」
「マスカーニャには遠慮せずに、もっと甘えて欲しいんだ」
だがこのままでは駄目だ。
確かに何匹も同時に甘えてくるのは大変なので、マスカーニャの助けは有り難い。
だからといって、そのせいでこの子が甘えることが出来ないなんて、そんな事あっていい訳がない。
学校の宿題や他の用事などで遊んであげられない時はもちろんあるが、それ以外の時間ならいくらでも甘えてもらってもいい。マスカーニャのためならどんなに大変だろうと頑張れるだろう。
他のみんなも協力してくれるだろうし、誰かが犠牲になるのではなくて、みんなで支え合って仲良く過ごしていきたい。
「マスカーニャのためなら、いくらでも頑張れるから。我慢なんてしなくていいんだよ」
「カニャーン…」
「遊んであげられない時もあるから…、その時はいつもみたいにお願いするけどね」
自分一人で皆の面倒を見る!そう言えたらいいのだが、今の自分ではとても出来そうにない。
我慢しなくていいなんて言っておいて情けないが、マスカーニャの力が必要なのだ。
「ちょっと情けないけどね…」
「―――」
そんな風に自分を不甲斐なく思っていると、鼻の頭に湿った感触。
驚きに思考が一瞬飛んでしまう。
思考が戻り見てみれば、マスカーニャの顔は肩の後ろで、表情はもう見えなかった。
「―――マスカーニャ」
「カニャ…」
「ありがとうマスカーニャ。僕も大好きだよ」
顔は見えないがどんな表情をしているのかは、不思議と分かる。首に抱き着いているマスカーニャを、抱きしめ返し頭を撫でる。
この子にここまでしてもらったのだ。自分を卑下してばかりではいけない、主人として自信をもって進んでいこう。
「あ、ごめんマスカーニャ!背中、続けるね」
「カニャーン」
そうして数分抱き合って、ようやくブラシの事を思い出す。
今は五月で寒くはないが、このままでは体を冷やしてしまう。この子のお陰で心も体も温かいので自分は問題ないのだが、マスカーニャが心配なので少し急ぐとしよう。
風呂場と洗面室を掃除して、ようやくリビングに戻ってこれた。
主人として後始末はしなくてはいけないのだが、掃除する範囲が少し広くて疲れてしまった。
「カ、カオッ」
「いいんだよルカリオ。寝てていいからね」
ソファーに座り舟を漕いでいたルカリオが、主人が戻ってきた事に気付き立ち上がろうとする。
しかしそれでは、彼女の膝に頭を乗せて寝ているエースバーンが起きてしまう。
眠いのを我慢することはないし、二匹の心温まる光景を崩したくない。是非そのまま眠っていて欲しい。
「カオン」
「バスッ?…バァス」
やはり限界だったのだろう。主人の言葉に素直に頷き、目を瞑るルカリオ。
エースバーンは少しの振動で一度起きかけたが、目覚めることなくルカリオの膝でいびきをかき始めた
うむ、とても可愛い。
周りでは他のみんなも気持ちよさそうに眠っているし、とても素晴らしい光景だ。
ここに居るだけで、今日の疲れが段々と癒されていく。
「ありがとうね、レーくん。でもお風呂入る時に流すから、洗わなくてもよかったのよ?」
「ううん。そのままにはしておきたくなかったから」
みんなが起きないような小さな声で話しかけてくれる母。洗わなくてもよかったとは言うが、流石に毛量の多い子とお風呂に入ったのだ、そのままにはしておけない。
「ピカピカにしておいたから、ゆっくり入ってね」
「ありがとう。でもレーくんはもう入らないの?」
「僕はもういいかな。プールでシャワーも浴びたしね」
一回風呂に入ったのだ。プールでシャワーも浴びているし、まだ少し早い時間だが、今日はもうこれ以上入る気にならない。
「そう…。レーくん頑張ってたから洗ってあげたかったのに、残念だわ」
「おにーちゃ、おふろ、はいらないの…?」
「う、うん。お兄ちゃん、もうお風呂入っちゃったんだよ」
「わかった…」
悲しそうな姫光の表情、そんな顔しないで欲しい。
母も残念そうにしているし、一日一緒に風呂に入らないくらい良いではないか。
「あ、あしたッ、明日お風呂に入るからッ。髪洗ってあげるからね」
「…ほんと?」
「本当だよ、約束する」
「わかった。おにーちゃ、やくそくね」
良かった、どうにか納得してくれた。明日は約束通り、髪をいっぱいワシャワシャしてあげよう。
そういえば最近ミーニャちゃんをお風呂で見ていない、もしかしたら明日は彼女も一緒かも知れない。そうだとしたらテブリムも洗ってあげようか。あの子をお風呂に入ったのは最近だが、特に問題はないだろう。一応聞いてはみるが、仲良しのミーニャちゃんと一緒で喜んでくれると思う。
「テリィ…」
「ニャウ…」
そんな彼女達を見てみれば二匹は仲良くお昼寝していて、その可愛らしい寝顔を見ていると、こちらまで眠くなってくる。
駄目だ、もう限界だ。今日はカーペットの上で、ポケモン達とお昼寝しよう。
少し行儀が悪いが、この誘惑に抗えそうにない。
「マスカーニャ、ご一緒していい?」
「カニャッ」
カーペットの上で丸くなっているマスカーニャ。そんな彼女に近づきよく見てみれば、ボールを抱え込んでいて、どうやらポニータを寝かしつけてくれていたようだ。
「―――」
「あ、ごめんね。起こしちゃったね」
声を聞き嬉しそうに震えるポニータのボール、起こしてしまったようで申し訳ない。
「お昼寝しに来たんだよ」
「―――」
お昼寝だと言ってみるが彼女のボールは震え続けていて、どうやら興奮している様子。これは一回遊んであげないと眠れなさそうだ。
しかしポニータと外で遊んでいると、眠っている皆が起き出してしまうかもしれない。せっかく気持ちよさそうに寝ているのに、それは可哀そうだ。どうしたものか。
「そうだ。ごめんね、少し待っててね」
「カニャ?」
「―――」
良い事思いついた。母にお願いしてみよう。
二匹に断り、母の元へ歩いて行く。
ポニータの興奮を鎮める方法は、何も外で遊んであげる事だけではない。しばらく撫でてあげれば段々と眠くなってくるはず。
一回出してあげる必要はあるが、それは家の中でもいい。彼女はいい子なので、みんなが寝ている所で騒ぐことはないだろう。大人しくしてくれるのなら母も出すことを許してくれると思う。
「お母さん、ポニータを出してあげたいんだけど、ダメかな?」
「走り回らないならいいわよ」
「ちゃんと言っとく。ありがとうお母さん」
思った通り、母はポニータを出すことを許してくれた。
今までも何回か許しを貰っているし、走り回った事もない。駄目だとは言われないと思ってはいたが、許してもらえてよかった。
「ポニータ、ボールから出ていいよ。みんな寝てるから静かにね」
「ポニィー」
「一緒にお昼寝しようか。マスカーニャも一緒にね」
「カニャ」
「ポニィ、ポニィー」
遊んでほしそうに摺り寄せてくるポニータ。しかしそんな彼女も頭を優しく撫でていると、大人しく体を伏せてくれた。
「ごめんね。また今度、遊んであげるからね」
「ポニィ」
やはりポニータはいい子だ、言えば分かってくれる。今までも家の中で走り回ることはなかったのだ、もうずっと出してあげてもいいのではないだろうか
もともとポニータを出さないと決めたのは、四本足で走り回ると危ないという理由からだ。会ったばかりで性格も把握しきれておらず、不安だったのだ。
その不安が解消されているのだから、出すことに問題はないと思う。
だが待てよ、それでは次に来る新しい家族に何と言えばいいのか分からない。
その子は少し大きな子で、走り回らなくても物を壊す恐れがある。
その子だけボールの中で、他の家族は全員出れるとなると不公平ではないだろうか。いや、それは今のポニータも同じか。
とても悩ましい。あとで父達に相談しよう。
「カニャ…」
「ポニィ…」
だが今はお昼寝だ。
せっかくポニータと家の中で寝れるのだから、相談するのは後にしよう。
マスカーニャに抱き着かれ、ポニータを撫でながら眠りにつく。何て最高の気分なのだろう。