ポケモンが現れた世界に生まれて   作:ダダダッダ

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三十八話

「ユッ、…ユキィ」 

「ごめんねユキメノコ、吃驚したよね。すぐに音が鳴らないようにするからね」

 

 休み明けの月曜日、まだ他の生徒が誰もいない朝早くの教室。自分の席に座りユキメノコを抱きしめていたら、机の上に置いておいたタブレットが音を鳴らす。

 どうやらマナーモードにするのを忘れていたようで、音に驚いたユキメノコが、腕の中で悲しそうに鳴いている。

 せっかく甘えてくれていたのに申し訳ない。これ以上この子を悲しませないように、急いで設定を変えなくては。

 ユキメノコの頭を撫でながら、反対の手をタブレットに伸ばす。

 

「よかった、返してくれた」

「ユキ?」

「田中さん。昨日お父さんにお願いするって言ってた子だよ」

  

 時間が経ち暗くなった端末の画面。操作するために光をつけたら、そこには水泳少女の田中さんの名前。どうやら今の着信音は、彼女からのメッセージを知らせるものだったようだ。

 もしかしたら返してくれないかもしれないと思っていたが、杞憂だったようだ。

 

 実は彼女からメッセージは初めてではない。昨日の夜にも送られて来ていたのだが、その時は寝ていて返事を返せなかったのだ。

 試験の疲れが出たのだろう。ポケモン達と仲良く昼寝をしたというのに、祝勝会が終わってすぐに眠ってしまったらしい。気付いたら朝で、ベットの上でマスカーニャと抱き合っていた。

 

 せっかく送ってくれたというのに、放置してしまい申し訳ない。

 田中さんが起きているであろう時間に返事を送ったのだが、無視した形になったので、もしかしたら返してくれないかもしれないと不安に思っていたのだ。

 全てのメッセージにすぐさま対応するなんて、そんなことは考えていないが、せめて初めてのものくらいは出来るだけ早く返したい。

 

 ちなみにもう一人の少女、鈴木さんからもメッセージは送られてきていた。彼女は寝てしまう前だったので、しっかりと返している。 

 

「新しいお友達が出来るかもしれないね」

「ユキー」

 

 そしてそんな彼女からのメッセージの内容は、ポケモンを捕まえることが出来そうだというもの。どうやら父親の知り合いにポケモンを連れている人が居たらしく、近いうちに捕まえに行けるそうだ。

 一体彼女はどんな子を捕まえるのだろうか、今からとても楽しみだ。うちの子達と仲良くしてくれる子だったら嬉しい。

 

「ごめんね、ユキメノコ。少しだけ待っててね」

「ユキィー」

 

 抱き着いているユキメノコに断りを入れて、田中さんのメッセージを確認する。

 彼女のトーク画面は喜びの言葉で溢れていて、その文字を見ているだけで彼女の笑顔が想像できてしまう。

 やはり新しく家族を迎えるというのはいいものだ。自分のことではないのに、こちらまで嬉しくなってくる。僕も早くあの子を出してあげたいものだ。

 

 次に我が家に迎える子は決めているのだが、出してあげるのは少し先になる。本当なら直ぐにでも出してあげたいのだが、絶対に怪しまれるので、そういう訳にもいかないのが悩ましい。

 あの子のタイプはこの辺にはまず居ないし、少し遠出した所でそれは変わらない。捕まえた後の上手い言い訳が思い浮かばないのだ。 

 

 だが夏休みに入れば、いよいよあのイベントがやって来る。それで行く施設がどのような場所なのかは詳しくは知らないが、恐らくそこでなら怪しまれずに捕まえられるだろう。

 今は五月の中頃で、夏休みまで二カ月と少しある。とても長く感じるが、それまでに六回目試験の残りなど、他のイベントもあるのだ。暇なんて事は間違いなくないので、あっという間に時間は過ぎ去っていくだろう。

 

「田中さん、時間大丈夫かな…」

 

 そう考えながら文字を打っていたら、思ったより時間が経っていたようで、もうすぐ八時になる。田中さんは大丈夫だろうか。

 僕のように既に学校にいるのなら問題はないのだが、理由もなくこんなに早く登校しないだろう。という事は彼女はまだ家にいるはず。

 いつも何時に家を出ているのかは知らないが、そろそろまずい時間になっているのではないだろうか。もしかしたら気付いていないのかもしれない、一応確認しておこう。

 

【田中さん、学校の準備は大丈夫?】

 

 

 

【ごめんね白雪くん学校行くまた話そうね!】

【うん、また話そうね。行ってらっしゃい】

 

 やはり危ない時間だったのだろう、文字から焦りが感じられる。

 会話を楽しんでくれたようで嬉しいのだが、少し申し訳ない。もっと早く確認してあげればよかった。彼女が遅刻しないよう祈っておこう。

 ユキメノコを撫でながら、新しい文字が流れなくなったコネクトの画面を閉じる。 

 

「田中さん、遅刻しないといいけど」

「ユキィー」

「おっと。もー、可愛い子だなー!」

 

 どうやら寂しがらせてしまったようで、ユキメノコが頬を擦りつけて甘えてくる。その姿はとても可愛らしくて、心が飛び跳ねてしまう。

 だが確かにトークに集中していて、撫で方が少しおざなりになっていたかもしれない。これは全力でナデナデしてあげなくては。

 

「れ、レイくん、ユキメノコちゃん、おはよー…」

「おはよう、ササラちゃん。どうしたの?」

「ユキィ?」

 

 とそんな時、紗更が教室に入ってきた。

 今日も彼女はとても可愛いのだが、その表情は何故か暗い。何かあったのだろうか。

 

「な、何でもないの。えっと、誰か遅刻しそうなのー?」

「ああ、別の学校の子だよ。コネクトしてて遅刻しそうになってるみたい」

 

 どうやらユキメノコとの会話が、廊下まで聞こえていたようだ。

 イチャイチャしていたので少し恥ずかしいが、知らない生徒ならともかく相手は紗更なのだ、聞かれても問題ない。

  

「そ、そうなんだー。かわ…えっと、楽しい話だったんだねー…」

「うん。その子、今度初めてポケモンを捕まえるから、楽しみだねーって」

「初めての、ポケモン…。そ、そうだよね!初めてのポケモンは楽しみだよねー!」

「どんな子かなー。オーガポンを気に入ってたから、可愛い系の子だと思うけど」

「ポケモン!ポケモンは可愛いもんねー!」

 

 大抵のポケ校生の鉄板ネタなのだ、紗更の気分も上向かせること間違いなし。

 思った通り暗かった紗更の表情が、初めてのポケモンという話題で輝きだした。

 やはり彼女は明るい表情の方が可愛い。

  

「僕の戦うところ見て決めたみたいだから、少し恥ずかしいけどね」

「……そうだね。レイくんの戦うところ、カッコいいもんねー…」

 

 と思ったら、また暗くなってしまった。

  

「……」

「ササラちゃん?」

「……」

「ユキィ…」

 

 鞄を机に置き、椅子を引いて真横に座る紗更。腕が触れ合う程に距離が近い。体温が感じられて嬉しいのだが、返事がないので同時に辛い。

 ユキメノコも落ち着かない様子で、腕の中で頻りにポジションを変えている。

 

「あのね、レイくん…」

「な、なに?ササラちゃん?」

「次の、その…試験なんだけど、見に行っちゃダメ…かな?」

「次の試験場は…」

 

 試験を見に来てくれるのは嬉しいが、果たして見学できる試験場はあるのだろうか。

 

 この辺りには多くの試験場があるが、六回目以降に限定するとその数も大分少なくなる。

 試験官になるために必要な資格が六回目からは別の物になるらしく、取得するのが難しくて保有者が少ないのだろう。

 なので僕が次に受ける七回目の試験場も多くはない。

 得意なタイプを選ぶと更に減るし、そんな数少ない相性のいい試験場が見学できるスペースを用意しているかは、まだ調べていないので正直分からない。

 

「…うん、いいよササラちゃん。次の試験、見に来てよ」

「いいの?」

「僕もササラちゃんに応援して欲しい」

 

 だが見つからないと決まった訳ではない。探してみる前から断ることもないだろう。

 それにこの段階まで来たら相性なんて対策されているだろうし、タイプに拘るのは逆に危ない。苦手な相手でなければどこでも問題ないはずだし、それなら見学スペースのある試験場くらい見つかるはず。現に前回はそうだったのだから。 

 というかよく考えたら、今までの試験場も事前に言っておけば、友人を呼ぶくらい許してもらえそうだった。会社の敷地内で戦った四回目は、少し怪しいが。 

 

「わたし、頑張って応援するね!」

「楽しみにしてるね」

「楽しみなのはわたしだよー」

 

 うむ、やはり紗更は笑顔が一番可愛い。こんな可愛い笑顔で美少女が応援してくれるのだから、見学席のある試験場くらい探すべきだろう。

 

「応援してくれるって。一緒に頑張ろうね、ユキメノコ」

「ユキー!」

 

 紗更の雰囲気が明るくなったので、ユキメノコも嬉しそうだ。

 

「あ、そうだよ。六回目の試験、合格おめでとうねー」

「ありがとうね、ササラちゃん」

「ごめんねー、言うのが遅くなって…」

「謝ることないのに。とっても嬉しいよ」

 

 今は笑顔だが、先ほどまでは暗い表情をしていたのだ。余裕がなかったのだろうし、遅くなったくらいで何かを言うつもりはない。祝いの言葉をくれるだけで、とても嬉しい。

 そこに可愛い笑顔まで加わっているのだから、文句なんてとんでもない。罰が当たってしまう。

 

「それに、まだ半分残ってるしね。だから次の試験は少し先になりそう」

「あ、そっかー。道路の試験があるもんねー」

 

 六回目の試験は特別だ、これに受かれば一般道などでポケモンを出せるようになる。その関係で前回受けた実技試験とは別に、運転免許試験場で学科試験を受けなければならないのだ。

 

 教習所に通うという手もあるが高い費用が掛かってしまうし、何十時間もの授業を受けることになるので合格できるのが大分先になる。

 それでは八回目の試験を受けられるのがいつになるか分からないので、ポケモンリーグの参加締め切りに間に合わなくなるかもしれない。

 それなら自分のペースで勉強して、最初から試験場で合格を狙った方がいいと思ったのだ。

 

「創立記念日に受けに行くから、試験はその後だね」

「あと一カ月…、長いねー」

「うん…。でもそれ以上早く出来なかったから…」

 

 学科試験は平日にはやっていない。学生が試験を受けるには、長期休みまで待つ必要がある。だがそんなに待っていられないので、創立記念日に受けに行くことにしたのだ。

 本当ならもう少し早く受けたかったのだが、学校をズル休みしてまで受けに行くのは駄目だろう。親も許してくれるはずがない。

 それに勉強時間も足りなくなるだろうし、これ以上早く受けても合格できるか分からない。この日がベストなのだ。

 試験まで一カ月切ったので申し込みもした。

 無事受け付けてもらえたので、あとは猛勉強して合格するだけだ。

 

「でもこれだけ日にちがあれば勉強もできるし、丁度よかったかもね」

「試験むずかしそうだもんねー。あ、ならわたし、勉強手伝うよ!」

「え、手伝うって?」

 

 勉強を手伝うと言っても、試験のために出来ることは暗記くらいだ。

 過去の問題もネットで調べられるし、昔の物だが瀬川さんから教習所の教科書も借りている。勉強に必要なものは揃っているので、してもらう事が思い当たらない。

 紗更はどのように手伝ってくれるのだろうか。

 

「宿題とか。他にも何かあったら見せてあげるねー」

「それは凄く助かるけど。本当にいいの?」

「レイくんにはいつも助けてもらってるし、これくらい全然いいよー」

「ありがとうね、ササラちゃん。おかげで試験に集中できそうだよ」

 

 宿題の時間を試験勉強に充てられるのはすごく助かる。

 こう言ってくれているのだし、お言葉に甘えさせてもらおう。 

 

「どうしたのー、ピーちゃん?」

 

 とその時、紗更の腰元でボールが震える。

 何やらピーちゃんが何か伝えたい事があるらしい。

 

「ピハー!」

「おはようピーちゃん」

「ユキー」

 

 体を小さくしたまま、紗更の膝の上に飛び出したピーちゃん。何度見ても器用だ。

 別に一度大きくなる必要はないのだが、原作を考えるととんでもない技だ。最初から回避率が最大まで上がっているなんて、とても恐ろしい。

 事前の技の使用は禁止されているが、それが無かったら対戦環境が壊れていたところだ。

 

「ピハ、ピハッピハー」

「ピーちゃんもレイくんの応援がしたいって」

「え、本当?」

「ピハー」

「ありがとうね、ピーちゃん。とっても嬉しいよ」

「ピッハァ」

 

 ピーちゃんまで応援してくれるとは、今日は何ていい日なのだ。

 可愛く踊ったりしてくれるのだろうか、とても楽しみだ。

 

「ピハー」

「頭を下ろして欲しいみたいだよー」

「頭?わかった。ごめんねユキメノコ、少しだけ離れててね」

「ユキー…」

 

 頭を下ろして欲しいそうなので、抱き着いていたユキメノコに一度離れてもらう。

 悲しそうな鳴き声に心が痛むが、終わったら抱きしめていっぱいナデナデしてあげるから、少しの間だけ許して欲しい。

 

 紗更の膝の上で笑顔で待ち構えるピーちゃん。頭を下げやすいように椅子をずらし、そんな彼女に向かって頭を下げる。

 ユキメノコには少し悪いが、応援への期待に胸が高鳴る。近くに紗更の太ももがあるからドキドキしている訳では決してない。

  

「ピハー、ピハー」

 

 そうしてドキドキしながら目のやり場に困っていると、頭に触れる優しい感触。なんとピーちゃんが頭をナデナデしてくれている。

 もしかしてと少し期待していたが、まさか本当にしてもらえるとは。

 なんて素晴らしい応援なのだ、力が湧いてくる。これならどんなに難しい問題が出たとしても、絶対に合格できるだろう。

 

「ありがとうね、ピーちゃん。最高の応援だよ」 

「ピハァー」

「ユキィー!」

「あ、ユキメノコもしてくれるんだね。嬉しいよ」

 

 ピーちゃんに張り合ってユキメノコも頭を撫でてくれる。

 今日はどうしたのだろうか。朝からこんなに素敵な時間を過ごせるなんて、揺り戻しが起きそうで怖い。

 

「あ、わたし…、ううん。何でもない」

 

 残念、紗更は恥ずかしくて撫でられないようだ。腕を組んだり手を握ったり、そちらの方が恥ずかしいと思うのだが、それなら仕方がない。

 いや、二匹の美少女が撫でてくれているのに、紗更にまで期待するなんて贅沢過ぎる。それこそ罰が当たってしまう。

 彼女は笑顔をくれたのだ。既に十分すぎるほど応援してもらっているではないか。

 

「みんな、ありがとうね。合格できるように頑張るよ」

 

 この応援を力にして、試験を乗り越えよう!

 

 




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