前の話を見ていない方は、そちらもお願いします
順番はどちらからでも問題ありません
なんでこの子を見せてくれなかったのパパ、子供は絶対よろこぶって。確かに元気だ、柔らかい表現だが間違っていない。危ないことも分かるので、だったら最初から見せないようにという考えも理解はできる。しかし目の前の子を見たら、納得なんてとても出来なかった。
「グゴゥッー」「ガゴゥッー」
「パパッ、この子達かっこいい!かっこいい!」
「そう、怖くない?」
「うんっ、こわくない!やさしいよ」
ジヘッド、らんぼうポケモン。そう乱暴だ、父がこの子を息子に近づけないようにするのも分かる。だが玲を見る目は優しくって、とてもいい子なのだ。今も頭同士で喧嘩はしているが、それも玲にどちらの方が気に入られるかみたいだし。ぶつかって玲が倒れたりしないように、伏せてなるべく動かないようにしてくれている。
「おなまえなんていうの?」
「ギンガくん、男の子だよ」
「かっこいいなまえだねっ」
玲は言う、喧嘩しないように両方の頭に。どちらかを贔屓したと思われると、両頭が争ってしまう。首の間に頭を入れて、両方の首を優しく撫でる。
父は育てるのが上手いのだな、ジヘッドの進化条件を思い出す。ドラゴンタイプなので育てるのは大変だったはずだ。前にテレビに出てた子達、同じくらい強そうなギンガくんを見て、父のことが気になりだすが―――
「ギンガくん、だいすきぃー」
「グォゥ」「ガォゥ」
優しいぞかっこいいぞ、みんな大好きドラゴンポケモンのギンガくん
二つの頭でリズムを取って、玲を背に乗せのしのし歩く。今はギンガくんと遊ぶのが先だ。
「レーくんおっぱい欲しいの?」
「んーん」
現在玲は風呂に入っていた。いまだ母親と風呂に入っているのだ。もちろん変なことではない。四歳児だ、一人で風呂などありえない。
しかし玲は普通ではない、中身は成人男性だ。動きはぎこちないが大抵のことは一人で出来る。一人で風呂に入ることなど訳はない、それでも玲は母と風呂に入る。
母が一人で風呂に入ることを許さない、危なくてそんなことはさせられるはずがない。そんな理由を言い訳にして、玲は母と一緒に風呂に入っている。
多少の恥ずかしさはあるが慣れたし、そんなことを物ともしない一緒に入る大きな理由がある。
おっぱいを見るのが大好きだからだ、触れるのが大好きだからだ。男の子だから許してほしい。
母親の体だという事も分かっている、性を感じているわけでは決してない。ただ単におっぱいが大好きなのだ。
だがおっぱいが好きだと言っても、さすがに吸う事には羞恥心が湧く。
玲は授乳は卒業したのだ。四歳でも吸っている子はいるだろう、多少卒業が遅かったとしても何も言われないだろう。
惹かれてしまう、あの丸い二つのふくらみに。大きな二つの山に。
だが玲は卒業したのだ、決意をもって卒業したのだ。
たまに、本当にたまに誘惑に負けて吸ってしまうことは許してほしい。男の子なのだから。
卒業生でも母校に挨拶はゆるされるだろう?
しかし見つめすぎたようで、母が視線に気づいてしまった。なんとか誤魔化さなくては。
「おなか、おおきいねぇ」
もちろん悪口では決してない。おめでただ、第二子だ。母は子供を授かったのだ。
女の子のようで、玲は妹ができると聞き歓喜した。可愛がろう大事にしようと決意していた。
「もうすぐお兄ちゃんになるのよ。お耳当ててみて、お兄ちゃんよろしくねって言ってるわ」
母のお腹に耳を当てる。ポコポコと不思議な音がする、この音を聞いていると心が穏やかになる。
以前プチッという音がして血相を変えたが、問題ないらしい。
「ママお体あらってあげる」
「ありがとぉレーくん、おねがいね」
母に無理はさせまいと、体を洗うと玲は言った。自分は男だ、母にどんな苦労があるかわからない。
どんなことが負担になるかわからない、出来る限り手伝おう。
スポンジを泡立て母に当てる、体を洗いながら顔を見る。笑顔だった、嬉しそうだった。
この笑顔を守っていこう。これから生まれる妹も合わせ、家族の笑顔を守っていこう。
いーち、にーぃ、さぁーん――――
親子の声が響いてる。
しーぃ、ごーぉ、ろーく―――
優しい時間が流れていく、玲は今幸せだった。
風呂上がりにリビングで、玲は一人でソファーに座っていた。右隣が定位置の母はいなくて、少し心細かった。向かいのソファーに父がいて、その横でバウちゃんが寝てはいる。しかし、普段と違った状況に玲は不安を感じていた。
母は少し早めに寝た、風呂から上がってすぐに寝床に入っていた。いつもと違う母の動き、心配したのだが眠くなっただけだと言われた。玲くんは起きてていいのよと言われ、リビングで一人座っているのだ。落ち着かなかった、テレビの音だけの空間が。静かな時間をうめるため、何かないかと話題を探す。
そんな時に玲は思った、父は何をしている人なのだろうと。
広い家に豊かな生活、家計が苦しいそぶりもない。家政婦も毎日来ていて、美人な奥さんもいる。自分もギンガくんも父が大好き、育成上手で頼れるパパさん。前世のことは覚えていないが、こんな生活していなかったはずだ。それだけは絶対だ、確信している。どんな仕事をしていれば、ここまでの暮らしをしていけるのだろう。聞いてみたい、奥さんの件は特に。
ちょうど目の前には父がいる、ソファーに座って優雅に紅茶を飲んでいる。
こんな時間に紅茶とは、寝不足になってしまうぞ。明日の仕事は大丈夫?健康でいてねパパ。
「おとーさんの仕事ってなにー?」
「んー、玲くんはトレーナーさんってわかるかな?」
「わかるよっ、いっしょにテレビで見た。たたかう人だよね」
「正解。パパはね、その人たちを応援してるんだ」
応援とは何だろうか、どうにも答えがフワフワしている。よくわからないので詳しく聞くと、なんとポケモンセンター等の業務を行っている会社で働いているらしい。
あの花札屋は関係ないだろう、ポケモンがいつから出始めたのかは知らないが大分昔から歴史は変わっているのだ。テレビでも聞き覚えのない名前の会社ばかり見る。
まったく別の会社がポケモンセンター業務を扱っていて、その会社に父が務めているのかな?これ以上聞くのはおかしいかもしれない、子供の質問内容では聞けることが少なすぎて厳しい。
「すごいんだねパパ、ぼくもおうえんしてくれる?」
「うん、玲くんが大きくなったらきっとね」
今日の質問はこれくらいにする。応援してくれると言ってくれているし、バックアップを期待しておこう。玲は豪邸を見まわしながら思った。
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―――九月三日の夜八時。
母が入院した、陣痛が来たのだ。
時おり痛そうにしていて、そろそろなのかなとは思ってはいた。母には悪いと思ったが気楽に考えてた、妹が生まれるのを楽しみにしていたのだ。しかし辛そうな母を見て考えを改めた、当たり前だが軽く考えていいものではない。
母が言うには間隔が短くなってきたらしい。男の自分には分からない、だが数分ごとに腹に強い痛みが来るなんて考えただけでも恐ろしい。
痛みを想像することしか出来ない自分が、変わってやりたいだなんて軽々しく言えない。そばで元気づけることぐらいはしたいのに、それも出来ないのがつらかった。
そんな風に玲が落ち込んでいると、渡邊さんが近づいてきた。今日は家に帰らず玲の面倒を見てくれているのだ。父は病院に行っていて心細かったので、渡邊さんがいてくれてとても嬉しい。
手にはオレンジジュースを持っていて、玲の姿を見ていられなくて出してくれたのだろう。
「奥様にはご内密に。歯磨きはお忘れなきよう」
変な言葉遣いに少し笑ってしまう。どうやら玲を笑わせて元気づけようとしているようだ。
不器用な優しさに心が温かくなる、ありがとう渡邊さん。
いつまでも落ち込んでいてはいけない、こんな兄では生まれてくる妹に笑われる。
玲は不安を消し飛ばし、オレンジジュースを飲むことにした。
「さぁ、歯磨きのお時間でございますよ。イーッでございます、イーッ」
「イーッ」
「シャカシャカー」
―――渡邊さん?歯磨きくらい自分でできますよ?
もちろん分かっている、不安であろう自分のためにしていることは。
「失礼いたします―――さぁ、この胸に飛び込んで来てください。ご遠慮なさらずに」
―――そこまでしなくても大丈夫ですよ?
ソファーに座り玲を膝に乗せ、胸に飛び込んで来いという渡邊さんに玲は頭を抱えた。