TSした幼馴染と下着を買いにいくだけのお話

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TSした幼馴染と買い物にいくだけのお話

 

 いつもと変わらぬ放課後、よく通う駅前のファストフード店。

 

 向かいの席に座っているのは、短めの黒髪にパッチリとした目の活発そうな印象の女子。そんじょそこらのグラビアアイドルでも中々見かけないのではと言わんばかりのスタイル。二年前までは僕と同じ男だった幼馴染の和泉悠希だ。

 後天性TS病なる──実際はもっと長ったらしく難しい名前らしい、不可思議かつ世の理にすら喧嘩を売っているんじゃないかと思われる物にかかってからというもの、目を見張るような美少女になってしまった。

 とはいえ、それでも子供の頃からの友情にはなんら変わりなく、高校二年生になってからも変わらず僕にとって大切な友人だ。

 いつもは趣味やゲームの話、授業や今日あった馬鹿な出来事を駄弁りながら豪快にハンバーガーを食べるのに、席に付き話し始めてからどこか落ち着きがなく、どうも様子がおかしい。

 

「一輝、ちょっとお願いがあるんだけどさ……」

「なんだよ改まって、気持ち悪い」

「失礼だな」

 

(悠希の様子がおかしかったのはこれか……)

 いつもなら僕から何かお願いする事はあるのだが、こいつが僕にしかも改まってお願いをするなんて何とも珍しい。

 

「それで、お願いってなんだよ」

「あぁ、えっと……実はさ……」

「うん」

「パンツを買うのに、付き合って欲しいんだ」

「……は?」

 

 パンツって、下着のパンツか? それともズボン? はたまた履いてないから恥ずかしくないとか言う昔に流行ったあれか?

 目の前の美少女の口から出た言葉を咀嚼しかねて、自分の背に宇宙が浮かび始めた僕を後目に悠希は続ける。

 

「いや、さすがに一人で行くのはちょっと不安で……」

「馬鹿。不安とかそういう話じゃないだろこっちは男だぞ」

「大丈夫だって、一輝ならそういう趣味なのかなって思われるだけだから」

「大丈夫なわけあるか! そもそも今までも自分で買ってたんだろ? なんで今更僕が付き合う必要があるんだ」

「そりゃ買ったことはあるけど。でもそれは病院で間に合わせに買ったのとか、通販でサイズを当てずっぽうで買ったやつでさ……」

「サイズって……お前、まさか……」

「こうなった時に測ったきりだし、フィッティングとかもしてないから微妙に体に合わなかったりでさ……ちゃんとしたの欲しいんだ」

「いやまぁ……分からんけど分かる、でも何で僕がそれに付き合う必要が──」

「お願いだって! 母さんには自分で買うから大丈夫ってずっと言っちゃってるし、クラスの女子には何か頼み難くて……」

 

 そう言いながら、手を合わせこちらに懇願する悠希を見ながらどうしたものかと考える。

 彼──もとい彼女には、幼い頃から色々と世話になってきたし、世話もした。それを置いておいても親友が恥を忍んでお願いしてきた頼みだし、なんとかして聞いてやりたい。

 恥を忍んで頼んできた事が、こちらにとってはなんとも言い難い内容なのはどうなんだと思わなくもないが。

 とはいえ流石に女性用の下着売り場に恋人でもない男の僕が付いていくのはどうかという気がしなくもない。かといって慣れない場に一人で突撃させるのも少々可哀想な気がする。見た目美少女とはいえ女の子二年生だし……。

 そうやって悩んでいる僕を見ながら、彼女はダメ押しの一言を放ってきた。

 

「頼れるのは、一輝しかいないんだ!」

「うっ……」

「この通り!」

 

 そこまで重ねて言われては、流石に断りづらい。

 

「はぁ……わかった」

「ホント!?」

「これっきりだからな」

「やった! ありがとう一輝!」

 

 僕は観念して、一つ大きく溜め息をついて了承する事にした。すると途端にパァっと笑顔になる幼馴染。

 悠希は元々整った顔はしていたが、女性になってからは、こういうところが本当にズルイと思う。なってしまった経緯はどうあれ、掛け値なしに美少女なのだから。まぁ本人の中身はあまり変わってないのだが。

 

「それで、いつにすんのさ」

「今からで!」

「…………」

 

 こういう所が無ければ、もっと可愛げがでるだろうになと思いつつ、一口で残りのハンバーガーを口の中に押し込む。普段なら食べ終えた後も駄弁ってから帰るところを今日はさっさと切り上げてしまった。

 それもこれもこいつのお願いとやらを断れなかったからに他ならない。なんで断れなかったんだ僕は。

 そうして僕等は席を立ち、荷物を手に取った。

 

「一輝! 早く行こう!」

「はいはい」

 

 

 

 

 店を出た後、悠希が行きたいという店に向けて一緒に歩いていく。何も知らない人から見れば、美少女とそれに釣り合わない地味男のカップルにでも見えるのだろうか?

 僕の心境などつゆ知らず、悠希は歩き出す。僕もその隣をただ歩いて行った。

 

「ごめん。本当に嫌だったら断ってくれていいからさ」

「いいよ、別に」

 

 そうだ、断ろうと思えば断れたはずなんだ。それが出来なかったのは……

 

「一輝?」

「……なんでもない」

「変なの」

 

 隣で笑いながら、こちらに顔を覗き込んでくる幼馴染に、僕は思わず視線を反らす。

 

「それで、何処の店?」

「駅前の百貨店。そこに下着専門店があるみたいだから」

「へぇ」

 

 ちゃんと調べてたのかと感心しつつ、僕等は駅前に向かっていった。

 そうして他愛もない事を喋りながら歩いていると、目的の店が入っているという駅前の百貨店に到着した。

 

「それじゃ、早速だけど行こうか」

「あ、あぁ」

 

 いよいよかと思うと緊張してきた。ただの買い物なのに。……悠希の下着だが。僕は気を取り直す為に、軽く深呼吸をすると意を決して下着専門店へと向かう。

 

「一輝、こっちだって」

「あ、ああ……」

 

 店内に入るとそこには女性ものの下着がズラッと並んでいる。色とりどりの布地が僕達を出迎えてくれた。

 

「なんか、すごいね」

「うん……」

 

 ゴクリと生唾を飲み込みながら進むと、目的の売り場へと到着する。周りには当然のように女性ばかりで男の人は皆無だ。場違いにも程がある。ここに来るまでも、周りの視線が痛かった。まぁ仕方ないと言えば仕方ないのだが。

 そんな事を思っていると悠希が話しかけてきた。

 

「ねぇ? 一輝はどういうのが好き?」

「は?」

「だからどういう下着が好き?」

 

 ……なにを言っているんだこいつは。

 

「悠希……言ってる意味がよく分からないんだが?」

「ただの参考。どれ選べばいいのか迷っちゃってさ。だから一輝はどういうのが良いかなって」

「僕の好みは関係ないだろ……買うのも着るのも悠希だろ?」

「だからこそ、だよ。相手に見せるための物でもあるんだし」

 

 だからって僕の好みは関係ないだろう。僕の好みは。

 結局本気で言っているわけじゃなかったのか、話もそこそこに悠希は自分で選び始め、店員さんにサイズの採寸も頼んでいた。こうなると付き添い兼荷物持ちにしかならないであろう黒一点の自分は手持無沙汰になってしまう。

 仕方なく少し離れたところまで行き、周りにある色とりどりデザインも様々な下着達に視線を巡らせる。

(色々あるのは分かってたけど、こんなにあると目移りしてしまうな)

 と、若干アレな事を考えていると、悠希から声がかかる。

 

「一輝ー、ちょっと来てくれない?」

「どうしたんだよ……」

 

 呼ばれて声の方へ向かうと試着室の前に着く。

 

「ちょっとこれ着けてみたから見て欲しくて」

「は? え、ちょ……」

「いいからいいから」

 

 そう言って腕を掴まれ強引に引っ張りこまれると、そこには華やかな下着を身に着けた悠希の姿。下着──それも女性用の事など露ほども詳しくないが、レースをあしらった精巧な作りに若干生地から透けた肌。体のラインに沿うようなデザインは、それだけで彼女のスタイルをより際立たせていた。

 そんな下着を見に纏い、頬を染めながら恥ずかしそうにしているその様はまるで芸術品のようで……

 

「……どうかな?」

「どうってよく似合って……じゃない!」

 

 いきなり引きずり込まれ感想を求められたので、ついそのままに対応しそうになってしまったけどそんな事を言ってる場合じゃなかった。

 

「……いきなり何するんだ! 僕を変質者にでもしたいのか!?」

「大丈夫だって、個室なんだし誰かに見られる心配なんてないからさ」

「いやそういう問題じゃ……」

「それとも……私がこういう下着を付けてたらおかしい?」

「おかしくなんてない……と思う。ただこんな状況はおかしい」

「そうかな? 昔はお風呂だって一緒に入ったし、裸だって見てるでしょ」

 

 それはお前が女の子になる前だ、と内心毒づきながら試着室を出る。これ以上この中にいたら通報されかねない。付き添いだけだと思っていたのに、とんでもない事に巻き込まれた。

 試着室から出ると、近くに居た店員さんがこちらを見て微笑ましそうに、それでもやっぱり困ったように苦笑していた。騒いでごめんなさい。あいつが悪いんです。

 そんなやりとりをし、手持無沙汰で見て回るのも他のお客さんに迷惑かと思い店の入口まで行き待っていると、しばらくして袋を手にした悠希が戻ってきた。どうやら無事に買えたようだ。

 

「お待たせ」

「おう。じゃあ帰るか」

「えー、もう少しブラブラしようよ」

「まだ何か見る気か? いい加減疲れてきたんだが」

「大丈夫だって。次は楽しくて疲れなんか忘れる場所に行こう!」

 

 そういうと悠希は僕の手を掴み、ぐいぐいと引っ張っていく。相変わらず強引なやつだ。こういう所は子供の頃から全然変わっていない。

 そうして連れて来られた先はゲームコーナーだった。近頃はクレーンゲームばかりの所が多くなってしまったけど、ここはまだ格ゲーに音ゲーその他諸々、様々な機体が並んでいる。最近は足が遠のいていたが、悠希とは子供の頃によく一緒に遊びにきていた場所だ。

 

「やっぱりここは不思議と落ち着くね」

「まあ、確かに。ここにはずいぶんお世話になったもんな」

「懐かしいなー。私も一輝もまだ子供の時はここでよく遊んでたっけ。それから二人とも色んなゲームにはまったんだよね」

「悠希は今じゃ格闘ゲームとかでも上位ランカーだしな。それにしても、本当にあの頃と全然変わらないなここ」

「そうだね。あれからもう何年も経つのに……。なんだか嬉しくなる」

「まあ、色々変わったものもあるけどな」

「それって私の事? それとも……」

「色々だよ」

「ふーん」

「それよりさ、せっかく来たんだし何かやるか?」

「そうだね。せっかくだから久しぶりにアレやろうかな」

「アレか……」

 

 悠希が指差したのは体感型のダンスゲームの筐体だった。今ではすっかりマイナー気味になってしまったが、僕と悠希はこのゲームのシリーズをよくプレイしていた。

 悠希が筐体にコインを投入し曲の選曲が始まる。

(しかし、昔と比べるとかなり曲数が増えているみたいだな……これは選ぶのが大変そうだ)

 そんな事を考えながら画面を見つめていると、不意に横から声がかかる。

 

「一輝はどの曲がいい?」

「いや僕は……」

「いいから。ほら早く」

「わかったよ」

 

 仕方なく僕が曲を選ぶ事にした。

(どれが良いだろうか? 最近あんまり触ってないしなぁ。初心者向けってのもなんだし、とりあえず中級者用の位のこれで)

 曲を選び、難易度を選択する。難易度は『NORMAL』だ。

(流石に『HARD』以上はキツイだろうし、これくらいでいいはずだ)

 そしてゲームが始まった。

 

 

 

 

「ふぅ……」

「やっぱり体動かすから疲れるね」

「ああ、でも結構楽しめたんじゃないか?」

「うん、お陰様で。一輝は? あんまり踏めてなかったけど、久しぶり過ぎた?」

「まぁ、そんなところだ」

 

 実の所、悠希の動きをチラチラと見ていたせいであまり集中出来ていなかったというのもある。

 なにせグラビアアイドルのそれを超えるようなスタイルの持ち主なのだ。プレイ自体は飛び抜けた物でもなかったのに、ちらほらとギャラリーが遠巻きに見始めていたのは間違いなくそれだろう。

 正直に言う必要はないだろう、間違いなく調子に乗る。絶対に乗る。そして揶揄われる。

 

「それよりそろそろ時間も時間だし、今日はこの辺にして帰らないか」

「うーん……そうだね」

 名残惜しげな悠希に帰りを促す。外に出ると既に日が落ち、暗くなり始めていた。空を見上げると一番星が輝き始めている。

「それじゃ帰るか」

「うん。今日は付き合ってくれてありがとう」

「ま、たまにはこういうのも悪くないんじゃないか? ……また行こうな、試着室に連れ込まれるのはごめんだが」

「あはは! ごめんごめん、もうしないから」

「ぜひともそうしてくれ」

 

 そうして僕達は店を後にした。家への帰り道、僕の隣を歩いている悠希は鼻歌を歌いながらどこか満足そうに見える。僕はそんな彼女の横顔を見ながら、今日一日の出来事を思い出していた。

(妙な事もあったけど、やっぱり悠希と遊ぶのは楽しかったな)

 そんな事を思っているうちに、いつの間にか家の近くの公園まで来ていた。結局、今日はずっと振り回されてばかりだった気がする。

 

「ねぇ一輝、ちょっと座っていかない?」

「……そうだな」

 

 僕達は公園のベンチに腰掛ける事にした。夕方という事もあり、他に人の姿は見当たらない。

 しばらくすると悠希が話を切り出した。

 

「今日は本当にありがとね。私だけじゃあれだけ色んな物見て回れなかったと思うし」

「それは別に良いんだけどさ。……その、なんだ」

「ん?」

「変わったよな悠希」

「変わったって?」

 

 キョトンとしながらこちらに問う。

 

「いや、あの頃とはだいぶ変わったなって思ってさ。そりゃ見た目もだけど、喋り方とか雰囲気も前よりずっと女の子らしくなったというか……」

「まぁ……これでも女の子だからね。二年目だけど」

「自分の事も私って言うようになったよな。去年までくらいは俺って言ってたのに」

「……色々吹っ切れてきたしね。男に戻れないって言われちゃった諦めというか……まぁ色々」

 

 20年ほど前から出始めた後天性TS病というものは、何とも不可思議な病気で身体が変わる途中に高熱が出て、身体が変容しきるまで寝込むくらいでそれ以外に重大な事が起きるわけでもないそうだ。

 ただし、その変化は不可逆で戻ることはないと言われている。お湯をかけたり、何かしら妄想したら戻れたらよかっただろうに。

 

「そういうものなのか?」

「分かんないけど、そんな感じかな」

「……そうか。でもやっぱり、一緒に学校行き来するだけじゃなくこうして一緒に遊ぶのは楽しいよ。悠希も楽しんでくれていると嬉しいんだけど」

「うん、勿論。一輝と一緒にいるの楽しいし、好きだよ」

「そうか、それならよかった」

 

 そう答えてくれた事が嬉しかった。

 

「またどっかに行こうな」

「うん、次は何処がいいかな?」

「そうだな……。せっかくだから遠出もしてみたいな」

「例えば?」

「水族館とか、プールとか」

「いいねそれ。行こうよ!」

「よし決まりだな」

「うん!」

 

 そうして僕達はまた出かける約束をした。

(そう言えば、女になった悠希と遠出するのは初めてだな……これもデートになるのか?)

 ふとそんな事を考えていると、不意に視線を感じたのでそちらに目を向ける。すると悠希がこちらを見つめていたのだ。その表情は儚げでどこか切なそうにも見えた。僕は慌てて目を逸らし、誤魔化すように話題を探す。

(何か話さないと)

 そう思った僕は、ふと思いついた事を口にした。

 

「そ、そういえばさっき買ってた下着ってどんな感じだったんだ?」

(出てきた言葉がよりにもよってこれとか馬鹿か僕は)

「どんなって……着け心地? それともデザイン?」

「ど、どっちもかなぁ……なんて……」

「うーん……じゃあさ」

「?」

「一輝が見たいなら……見せてあげよっか?」

 

(え……)

 

「なんてね。冗談だよ」

「あぁ……そうか、そうだよな!」

「一輝の変態、エロ星人。……でも」

「でも?」

「見せてもいいかなって思う位には……」

 

 そこで言葉を切ると僕に顔を近づけてきて

 

「今日はありがとう」

 

 そう言いながら僕の耳に息を吹きかけてくる悠希。驚いた僕がそちらを向くと、頬を染めながら楽しそうに笑う悠希の顔。

 

「……帰るか」

「うん」

 

 そして、僕達は再び家路につく。しばらく歩いた後、ふと思い出したように悠希が言った。

 

「ねぇ、さっきの話の続きなんだけどさ……」

「ん? どの話?」

「一輝が見たいって言った時の」

「あ、ああ。あれか」

「一輝になら、見られてもいいかなって思ってるって言ったでしょ」

「……言ってたな」

「その時は、ちゃんと責任取って貰うからね?」

「……善処します」

「よろしい」

 

 

 


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