暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
今回も来たか。
私、イルメリアは気が重い。弟子にして欲しいと言う言葉は即決で受けた。毎回そうだし、別に其処までは良い。
双子は非常に難しい弟子だ。
育てるのもそうだし。それを最高率化するのも。万を超える試行回数を経て、ようやくコツは掴めてきたけれど。
それでも、幾つもあるハードルを一つずつ越えていくのは、本当に大変だ。
まず最初に二人の腕前を見る。
いつもそうだが、論外レベルである。半人前どころか、ひよこ以下だ。
どうダメなのかを、順番に丁寧に説明していく。
騎士団は深淵のものと連携しているので。
試験に受かる前でも、最初の数回はただで護衛してやるという話は既についている。
後は、数回の護衛分で採取できる材料で。
この二人が、試験を突破出来る所まで、実力をつけさせなければならない。これが最初のハードルだ。
何度か、いっそのことと思い。二人のアトリエに住み込みで指導したことがあったのだが。
それは上手く行かなかった。
だから今は、アトリエから宿題を出して。それをクリアさせていくように切り替えている。
「すっごくわかり易いです!」
「そう、じゃあ試してみて」
「はい!」
目の前で調合をさせ、丁寧に教えていくと。
呑み込みはそれなりに早い。
あのソフィ=ノイエンミュラーも。最初は驚かされたのだが。実は書籍学習が苦手なタイプで。プラフタと出会うことで才能を開花させたらしい。もっともソフィーの場合は、最初から魔術師として一流レベルの実力を持っていたらしく。戦闘での手腕には事欠かなかった事も大きいそうだが。
この双子も、書籍学習が苦手だとしても。
馬鹿にする理由は無いのだ。
まあ嫌になるほど繰り返しているから、この双子にどう教えれば良いのかは、知っているだけ、という事もあるのだが。
「弟子にするといっても、私はさっきみたいに仕事が忙しいから、四六時中ついている訳にはいかないわ。 宿題を出すから、必ずそれを欠かさずやるように。 期日もつけるわよ」
「うわ、き、厳しいですね」
「……いい、錬金術は数字を管理する学問なの」
これは基本だ。
あの天才と私が認めるフィリスでさえ、天然とは言え無意識にやっていた。
どれだけの素材をどういう日程とコストで集めるか。
分量をどう管理するか。どう調合するか。
全て緻密な数字が関わり。
その数字が重なりあった先に、錬金術の花が咲くのである。花を大輪に、より美しくするには。
より細かく数字を管理していかなければならない。
「宿題をきちんとこなすのは、数字管理の第一歩よ。 ましてやその格好だと、お金を稼ぎたいとも思っているんじゃないの?」
「うっ、その通りデス」
「スーちゃんっ!」
「いいのよ。 錬金術師は、蹂躙者ではあってはならないけれど、貪欲なくらいでいいのだから。 お金を稼ぎたいというのが理由でもかまわないわ。 ただし、必要以上に奪うことはあってはならない」
すっと、私は声を絞る。
双子の操縦術は。
嫌と言うほど繰り返した中で、充分に覚えていた。
「さあ、教えたことを元に、宿題をやってきなさい。 それと、分からない事があったら、何度でも聞きなさい。 何度でも教えてあげるわ。 一度で分からない事、分からない事を聞く事、失敗する事、謝る事は恥ずかしい事でも何でも無い。 むしろ分かっていないのを分かったつもりになって、大惨事を引き起こす方が目も当てられないわ」
言い聞かせると、一旦二人を帰らせる。
まず順番に、やらせるべき事は決まっている。
次の採集に出る前に。
簡単な護身用の爆弾を作れるようにする所までは育てる。魔術が得意な錬金術師は、爆弾を一とした、道具にこだわる必要は最初の内はない。だが、この世界は過酷だ。どれだけ魔術が得意でも、ネームドレベル以上の獣になってくると、素の力では対抗不可能になってくる。
だから爆弾にしても拡張肉体にしても、魔術の増幅道具にしても。
己の火力を凌ぐ攻撃手段は、早い内から確保しなければならないのだ。
アリスが戻ってくる。
「騎士団への納入終わりました」
「そう。 ご苦労様。 命じておいたヴォルテールの方との連携は」
「済ませてきました。 上手くやっているようです」
頷くと、調合に戻る。
騎士団には、今までアトリエヴォルテールからしか、必要資材の納入がなかった。アルファ商会からも提供するという案が上がっていたのだが。先代王の時代は、腐敗商人の既得権益とつながった汚職官吏が、それを邪魔していた。先代の時代にアダレットの宰相をしていた深淵のもの幹部「毒薔薇」も、全ての腐敗を除去できていた訳では無かった。
ミレイユ王女を旗頭に大なたをふるって。
ようやく害虫の駆除が終わり。
そしてやっと今では、風通しが良い状態になって来ている。
双子を育てた後に、力を使い果たしてしまっていると、それはそれで問題だ。
今回もアルファ商会は、蓄積してきた資産の六割を作戦に投入するが。
逆に言うとそれ以上の資金投入はできない、という事も意味している。
アトリエヴォルテールには、本人達も気付かないうちに、ソフィーが手の者。つまりホムンクルスを紛れ込ませているが。
私もラインウェバー家にそれをされていた事はもう知っている。
ただアリスは、文字通り命がけで私を助けてくれた。
だから今は。アリスを全面的に信頼しているし。
アリスもそれに答えてくれている。
アンチエイジング処置をしているアリスは。
世界の終わりまで。
私と一緒に戦ってくれている。
今回失敗したとしても。
それに変わりは無いだろう。
悔しいが。
ソフィーが張り巡らせた蜘蛛の糸は。
もはやアダレットを覆い尽くし。
そして全てが彼奴の目的通りに動き始めている。それがもっとも効率が良いことは、私もフィリスもはっきり分かっている。非人道的だが、このまま放置すればもっと非人道的な事になる。
誰かが犠牲にならなければならない。
私は、その犠牲になるつもりだ。
他に方法がないのだから。
さて、順番に一つずつ。
今回もこなして行こう。
今度こそ。双子を育てきりたい。
そう考えているのは。
記憶を引き継いでいる私もフィリスも。話を聞いている全員も。それに、恐らくは、あのソフィーも同じなのだから。
凄惨な世界の終末を避ける為。
私は敢えて。
今回も手を血に染める。
(続)
既に一万を超えたリトライ。
それを知っているから、イルメリアの心はとても重い。
今回こそ、世界の詰みを打開するため。
イルメリアは那由多の彼方にある可能性を拾うため。
双子の育成に取りかかるのです。