暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、バカンスと銘打って

既に深淵の者本部。通称魔界には、深淵の者幹部があらかた集まっていた。

 

ルーシャを家を送り届けたイルメリアは、自分の席に着く。

 

大きな一歩が踏み出された。

 

これから会議をして、今後の予定を再確認しなければならない。

 

周囲の時間をソフィーが停止させる。

 

無駄な時間を取るわけには行かない。

 

今、皆相当に忙しいのだ。

 

時間など止めてしまい。

 

その後、それぞれが個別に動けるようにする。

 

つまり自分達だけ時間を多く他人より持っている訳で。

 

この辺りも、深淵の者の絶対優位性を揺るがないものにしている理由だった。

 

なお、時間を止められるレベルの錬金術師は。

 

現時点では、深淵の者以外には一人もいない。

 

会議を主導していくのはルアード、つまりアルトだが。

 

淡々とした報告が続くので、聞いているだけで良かった。

 

ファルギオルの撃破。

 

予想通りの双子の成長。

 

そして今後の成長計画のフローチャート。

 

それらが、立体映像込みで示される。

 

激情家で知られるイフリータが、大いに頷いている。此奴も、万回繰り返してもどうにもならなかったファルギオル戦の話を。時間が戻る度に嘆いていた一人だったし。今回の結果は、自分の事のように嬉しいのだろう。

 

「僕からは以上だ。 それぞれ続いて報告して欲しい」

 

「それでは私が」

 

毒薔薇が立ち上がる。

 

アダレットでの工作を担当している此奴は、ここのところ汚職官吏の芽を摘むだけで良いと、楽そうにしていたが。

 

会議で率先して発言することは滅多になかった。

 

それが、率先して動いたと言う事は。

 

何かあった、と言う事だ。

 

「今回の一件で、ファルギオル撃退作戦を最前線で指揮を執ったミレイユ王女の、アダレット国民からの支持はうなぎ登りになっていますが。 しかしながら、ミレイユ王女が長く王都を留守にしていた隙を突いて、旧派閥の残党が動いているのを確認しました」

 

「旧派閥というと、あの庭園王の」

 

「はい。 先代王の無能さを利用して、私腹を肥やしていた一団です。 不正に取得した財産はあらかた没収しましたが、まだコネを利用して、腐敗商人の一部と結託し、何やら目論んでいる様子です」

 

「面倒くさいな。 消すか」

 

毒薔薇が、その苛烈な意見に首を横に振った。

 

此奴らは、腐敗官吏ではなければそこそこに能力があるため、実際に汚職さえしなければ使い路があるというのである。

 

甘いという声も上がるが。

 

しかし、アダレットは当面災害復旧と、多少なりとダメージを受けた騎士団の復興で忙しく。

 

此処で粛正をしている余裕は無い、と毒薔薇は言い切った。

 

ふむと鼻を鳴らしたのはイフリータである。

 

「寄生虫共でも、使い路がある内は生かしておけと」

 

「そういう事です」

 

「その甘い考えが、先代の時の腐敗を産んだのではあるまいか」

 

「イフリータ」

 

アルトがたしなめると。

 

イフリータは口を閉じる。

 

イフリータは最古参の幹部だけあって、アルト、つまりルアードには絶対の忠誠を誓っている。

 

その忠義は、イルメリアから見ても絶対。

 

何があっても、イフリータが裏切る所は想像できなかった。

 

魔族は元々、信仰の形も人間とは違う。

 

内なる信仰を大事にする、と考える種族で。それはどうやら、パルミラに救われて此方の世界に来る前からそうだったらしい。

 

「悪魔としての仕事」も、単に神にそう言われたからこなしていただけらしく。

 

それ故に、滅ぼされそうになったときは理不尽さに慟哭した、というわけだ。

 

仕事をしていただけなのに。誰よりも真面目に、貴方が言ったとおりにしただけなのに。どうして滅ぼされなければならないと。

 

とはいっても、イルメリアから言わせると、其処が兎に角危ういとも思う。

 

ヒト族が欲望が強すぎ、獣人族が戦闘に重きを置きすぎ。逆にホムが殆ど自分の身を守ることに頓着しないように。

 

魔族は生真面目すぎて、柔軟性に欠ける。

 

人間四種族はみなこんな調子で致命的な欠陥を抱えているわけで。

 

世界の破滅には、この欠陥がそれぞれ相互作用し、暴走を引き起こしてしまうのだ。

 

「毒薔薇。 君に任せても大丈夫か」

 

「以前と違って、アダレットの王宮はほぼ完全にコントロール下にあります。 早めに芽を潰しておけば問題は無いかと」

 

「そうか。 では任せる」

 

「お任せを」

 

続いて立ち上がったのはシャドウロードである。

 

アンチエイジング処置で更に若返って、イルメリアと同年代か、更に若くさえ見える。

 

錬金術の才能はないが。

 

この世界最強の魔術師の一人である。

 

深淵の者から支給されている装備類を身につける事によって、その力量は普通に対高位の邪神戦でも通用する。

 

何より存在そのものが書庫とさえ言われる豊富な知識と。

 

それ以上に狂気的なまでの継続作業を淡々とこなせる精神力から。

 

比較的深淵の者幹部では新参にもかかわらず。

 

尊敬を集めている者だ。

 

「ソフィーどのの支給してくれた装備類を用いて、ヒト族の故郷の世界に侵入。 データを回収出来るだけして来た」

 

「おお。 それで解析は」

 

「現状では解析を始めたばかりだ。 書物は殆ど残っておらず、情報も見たことが無い規格で、しかも壊れているものばかり。 まあ、この世界が終わるまでには全て解析して見せるとも」

 

「うむ……」

 

シャドウロードはとにかく実直だ。

 

此処でシャドウロードに仕事を任せることは、采配としては恐らく完璧なものになるだろう。

 

幹部がそれぞれ進捗を話して行き。

 

最後にソフィーが立ち上がる。

 

「続いて双子に、「海」の攻略を行わせます」

 

「ふむ、予定通りだが……何かひと味を加えるのかね」

 

深淵の者に属する錬金術師、ヒュペリオンに、ソフィーは頷く。

 

嫌な予感しかしないが。

 

それは即時で適中した。

 

「フィリスちゃん、アレを」

 

「はい」

 

フィリスが映像で展開したものを見て。

 

思わずイルメリアは立ち上がりかけていた。

 

よりにもよって。

 

海棲ドラゴンだ。

 

ドラゴンは、陸上のものよりも、水中に住まうものの方が強くなる傾向がある。例えば、ラスティンの第二都市であるフルスハイムを壊滅させかけたのは、上級ドラゴン。その上級ドラゴンは、水棲ドラゴンだった。

 

奴は竜巻を引き起こして、巨大な湖をまるごと掌握。

 

津波で、フルスハイムを一気に壊滅させようと目論んでいた。

 

もう少し、処理が遅れていたら、フルスハイムは滅びていた。

 

人口一万の都市を一瞬で消滅させる怪物。

 

それが上級ドラゴンだ。

 

そして、後から聞かされている。

 

奴も、ソフィーが用意した、フィリスを育てるためのエサだったと。目の前が真っ暗になる。

 

あの時の事を、思い出したからだ。

 

「次の双子のエサに、これを使用します」

 

「確か、ソフィーどのが捕獲していた個体だったな。 珍しい小型の水棲ドラゴンだと聞いていたが」

 

「小型でも実力は相応ですよ。 少なくとも、今の双子よりは上です。 極限まで弱体化させたファルギオルを倒したくらいで慢心されても困りますのでね。 次は此奴と、不思議な絵の中で戦って貰います」

 

「ふむ……確かにそれくらいのスパイスは必要か」

 

何故納得する。

 

ヒュペリオンの言葉に、頭がクラクラした。

 

ソフィーはまだまだ、容赦をするつもりは微塵もない。

 

確かに双子はフィリスに比べると成長が格段に遅い。イルメリアよりも遅い。それは分かっている。

 

だが、此処まで痛めつけすぎると。

 

潰してしまうのではあるまいか。

 

しかし、効果的な反論も見つからない。

 

口惜しいが、やらせるしかないか。

 

会議が終わる。

 

フィリスを呼び止めると、軽く話をする。

 

「フィリス、貴方はどう思うの」

 

「どうって。 イルちゃんは、これくらいしないと双子を上手く育てられないって思わない?」

 

「思わないわよ」

 

静かな怒りを込めて返すが。

 

フィリスは涼しい顔だった。

 

「やっとファルギオルを越えられた所だし、一息つきたいのも分かるけれど。 あの双子、このままだと腐るよ」

 

「このままだと潰れるわ!」

 

「わたしはそうは思わない。 ソフィー先生が必ずしもいつも正しいとは思わないけれど、今回は賛成かな……」

 

「じゃあ条件。 助っ人を容認して貰えるかしら」

 

フィリスがしばらくは双子の監視役につく。

 

そして生殺与奪の権限も握る。

 

だから、此処ではフィリスに話をしておかなければならない。

 

「助っ人ねえ。 ドロッセルさんに頼むの?」

 

「そうよ。 もう一人は欲しいけれど、貴方は許可しないでしょう?」

 

「うん。 元々かなり強めに調整したホムンクルスのオイフェも側に付けているし、これ以上は戦力過剰かな」

 

「……」

 

フィリスは。

 

世界の終わりを何度も見る度に、何度も泣いた。

 

元々賢者の石を作りあげた頃には、既に壊れていたけれど。そのうち、イルメリアが必死に耐えている闇への誘惑に、もう抗うのが馬鹿馬鹿しくなったらしかった。

 

今でも、優しい所はある。

 

家族に対しては、優しいままだ。

 

だがもう昔の優しいフィリスはいない。今此処にいるのは、破壊神だ。

 

唇を噛む。

 

世界が詰んでいるのは事実だが。

 

しかし、これ以上の非人道的行為は。どうしても、イルメリアには認められるものではなかった。

 

 

 

(続)




というわけで、残念ながらすぐにバカンスと言う名の次の試練開始です(無慈悲)
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