暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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この作品世界の海は作品世界の状況を示すように超危険地帯で、基本的に人間なんかが入って生きて出られる場所ではありません。現実世界の空母打撃群が五分もたない魔郷です。

だからこそ、海にあこがれをもつ者もいる、というわけです。


1、海の底は

今月分の義務を、まとめて王城に納入しに行く。

 

ちょっとだけ作れたプラティーンを使って、シールド発生装置を作った。シールドの魔術自体は、リディーがそのまま展開出来る程度の代物だし、別に難しく無い。動力にプラティーンを用いる事。それを錬金術で増幅すること。持ち運びが簡単で。モルタルなどを使って、城壁に埋め込める小型の品である事。場合によっては取りだして、メンテナンスができる事。

 

これらを総合すると。

 

煉瓦に偽装し、シールド発生装置としての機構は内部に組み込んでしまう。

 

盗難などを防ぐためにも、これがベストだった。

 

お薬の類も全て納品し。

 

更に騎士団用の装備も納入し。

 

これで納入物はおしまい。

 

後は二日後にある、騎士団の任務に同行するだけだ。

 

ただ、任務の内容はまだ聞かされていない。

 

これは恐らく機密もあるのだろう。

 

リディーとスールに出来るのは、どんな任務にでも対応出来るように、準備しておくことだけ。

 

それだけだ。

 

「はい、納入受けつけました。 今回も素早い納入ですね」

 

「いえ。 それではよろしくお願いします」

 

ぺこりとリディーが頭を下げる。

 

こんなに早く納品できるのも、リディーががっちりスケジュールを組んでいるからで。スールだったらこんなには出来なかっただろう。

 

錬金術は少しは出来るようになってきたかも知れないけれど。

 

根本的な所がやっぱりまだまだ駄目だ。

 

頭を振って、雑念を追い払うと。

 

アトリエに戻る。

 

途中、鍛冶屋の親父さんの所で、銃弾を補給していく。

 

スールの銃が、戦闘で使い物になるようになったと聞いて、親父さんは喜んでいたけれども。

 

それと同時に、銃弾の扱いにはくれぐれも気を付けろとも、念を押された。

 

それは分かっている。

 

流石に至近距離で撃ったりしたら、たかが拳銃弾でも死ぬ。

 

よくあるのが、ジャムった時に、銃口を覗いたりして。暴発して、そのままあの世行き、というケースで。

 

それについては、お母さんに最初に銃を習ったときから、教わっている最中毎回必ず。絶対にやらないようにと、徹底的に釘を刺されていた。

 

アトリエに戻った後。

 

裏庭で、幾らか試し打ちをする。

 

ファルギオル戦で、やっと安定した遠距離攻撃手段を手に入れたスールである。

 

銃の扱いについては練習を続けてきたけれど。

 

今後はもっと精度が高い銃撃と。

 

二丁拳銃を使った高速での精密射撃が必要になる。

 

スールの性格からしても。

 

機動力で攪乱しながら、相手に確実にダメージを蓄積させていき。

 

そしてバトルミックスで大きいのを叩き込む為の布石にする。

 

それが一番だろうと思う。

 

お母さんの銃は。

 

あくまで保険。あくまでお守り。

 

本当に相手にとどめを刺すのは。

 

スールにとっての切り札である、バトルミックスでやるべきだ。

 

お母さんも、そう願うだろう。

 

いつまでも娘が、自分の遺産に頼りっきりという状態は、好ましいとは思わないはずである。

 

移動しながら、何度も的に向けて撃つ。

 

立ったまま撃つのではなく。

 

敢えて横っ飛びしながら撃ったり。

 

バックステップしながら撃ったり。

 

動きながら、正確に的に当てることを意識しながら、練習をする。

 

多分だけれども。

 

アンパサンドさんに教わった、あのうねうね動く奴で。今まで使わなかった筋肉を、しっかり使っているのが効いているのだろう。

 

銃撃の正確さは。

 

今までに無く上がっていて。

 

かなり全力で走りながらでも。

 

的には命中させることが出来る。

 

ただ、もしも今後銃を使っていくのなら。

 

手数を稼がなければならないので。

 

的に当てる、だけではだめだ。

 

大量に弾を叩き込みつつ。

 

その全てを当てる。

 

それくらいの事が出来なければ、拳銃をメインウェポンとして活用していく事など、到底無理だろう。

 

しばし練習した後、アトリエに入ると。

 

リディーがもうご飯を作ってくれていた。

 

黙々と食べる。

 

言いたいことははっきりしている。

 

お父さんの事だ。

 

本当にどうしたのか。

 

この間、ファルギオルを倒す前に顔を見て以来。ずっと帰ってきていない。

 

本当に何処で何をしているのか。

 

そもそもお父さんは、どうしてこう徘徊するようになってしまったのか。

 

話ができなければ。

 

何を考えているのかも分からない。

 

勿論話をしたところで、何を考えているか分からない場合もある。でも、だからといって、それで相手を軽んじることがあってはならない。

 

あの氷の洞窟で。

 

灼熱の世界で。

 

スールはそれをはっきりと理解したし、思い知らされた。

 

食事を終えると。

 

リディーが言う。

 

「やっぱり間違いないみたい。 さっき聞いて来たんだけれど、お父さん王都を出たみたいだよ」

 

「前も、何度か出ていたみたいだね。 何処で何をしているんだろう……」

 

「深淵の者に、変なちょっかいとか出していないと良いけど」

 

「!」

 

そうか。

 

その可能性を失念していた。

 

スールは思わず口を押さえてしまう。

 

ある程度以上の錬金術師なら、深淵の者の存在は知っている、という話はスールも聞いた。お父さんも知っていて不思議じゃ無い。

 

そしてリディーとスールは、現状深淵の者の掌の上で転がされているのと同じ。

 

まさか、それに不満があって。

 

深淵の者と、単身ネゴをしようとしているのだとしたら。

 

それは、正に自殺行為だ。

 

絶対に勝てっこない。

 

お父さんは、全盛期には腕が良い錬金術師だったかも知れないけれど。

 

深淵の者には、あのソフィーさんがいるのだ。

 

あの人に対してちょっかいなんて出したら。

 

それこそ、その場で殺されるだろう。

 

ファルギオルを殺した今だからよく分かる。

 

ソフィーさんの実力は、ファルギオルなんかとは比べものにならない。

 

多分人間の領域を、遙かに超えてしまっている。

 

もしも、リディーとスールを守るために、深淵の者と事を構えようとしているのだったら。絶対に止めなければならない。

 

死ぬだけだ。

 

それだけは、嫌だ。

 

感情が薄くなってきている自覚はスールにもある。

 

だけれど、震えが足下から上がってくるのが分かる。

 

リディーも、俯いていた。

 

「お父さん、どうにかして連れ戻さないと」

 

「でも、居場所も分からないんだよ」

 

「……」

 

「もう、やだ……」

 

せっかく美味しいご飯だったのに。

 

何もかも台無しになった気分だ。

 

スールは俯いたまま、本音を零してしまう。

 

せっかくファルギオルを倒したのに。

 

もしもお父さんが死んだりしたら。

 

せっかくの、必死の勝利が。

 

全て台無しになる気さえする。

 

しばし気まずい沈黙が続いたけれども。それを破ったのはリディーだった。やっぱり根本的に憶病なスールよりも、リディーの方がこう言うときは動ける。

 

「まだ、決まったわけじゃ無いから、落ち着いてスーちゃん。 これから、お父さんをどうにかして説得する方法を考えよう」

 

「うん……」

 

「時々お父さんはアトリエに帰ってくるし。 その時に、今度こそ、腰を据えて話そうよ、ね」

 

「分かってる」

 

それしかない。

 

ただ、リディーとスールが、非常に危ない場所にいるのは事実なのだ。お父さんは、或いは。

 

深淵の者にとって、都合が良い人質なのかもしれない。

 

確かにお父さんとルーシャを抑えられたら。

 

リディーとスールは、もう両手を挙げて降参するしか無くなるし。逆らうという選択肢も消失する。

 

現在は力が無いから逆らえない。

 

だけれども、もしも今後力をつけていったら。

 

深淵の者は、どう動くか分からない。

 

その時までに。

 

どうにか、お父さんとルーシャを、守る方法を考えなければならない。

 

それが当面の課題だろう。

 

後は二人で、申し合わせて立ち上がり。遠出のための準備を、しっかり確認しておく。

 

散々遠出はしてきた。

 

今では遠出はまったく苦にならない。

 

今回は誰と一緒に行くのかは分からないけれど。それでも、恐らく困る事はないだろう。

 

問題はネームドなどとの交戦が発生する場合。

 

ファルギオルに勝てたのは、相手が極限まで弱体化していたからで。

 

恐らく強いネームドには。リディーとスールが戦った状態の、極限弱体化ファルギオルよりも強いのがいる筈だ。

 

そういうのとぶつかって、慢心して死ぬ事だけは避けなければならない。

 

だから爆弾もお薬も準備。

 

そして、少し悩んだのだけれど、ネックレスをもう一つ、それぞれに配ることにした。

 

増強できる能力の倍率が高いのが理由である。

 

宝石による力の増幅効果が大きいので。

 

皆に配れば、以前イル師匠が言っていた最低条件。

 

ネームドとやりあうときには、最低でも四つか五つの錬金術装備を身につけろ。その条件を、クリア出来る。

 

今までは、単純に護衛についてきている人達が強かったから、その条件を達成していなくても何とかなっていた。

 

それだけの話である。

 

今後は自衛できて。

 

それどころか、周囲を守れるようになる。

 

それが絶対条件だ。

 

もしもお父さんが、リディーとスールのために無茶をしているのだったら。心配しなくても良いくらい成長した所を見せる。

 

それで解決できるかもしれない。

 

少しだけ、スールの頭の中にも、光明が点る。

 

今は、それを温めていくしか無い。

 

二日はあっと言う間に過ぎ。

 

指定通り、城門に集まる。

 

来ているのは、アンパサンドさんとマティアス、フィンブル兄。ルーシャとオイフェさん。

 

それと、久々に顔を見るフィリスさん。

 

それだけだった。

 

フィリスさんは土砂災害対策で引っ張りだこだったと聞いているのだけれど。一段落したのだろうか。

 

そう思ったのだけれど、違った。

 

フィリスさんが手を叩く。

 

「はい、今回は近場の街にて、インフラ整備をします。 主に作業はわたしがやるから、皆は周囲の警戒と、人夫の護衛をよろしくね」

 

「えっと、近場ってどの辺りですか?」

 

「話は最後まで聞くように」

 

笑顔のままフィリスさんがいう。

 

思わず悲鳴を零しかけて、何とか飲み込むことに成功した。

 

フィリスさんは、どうもリディーもスールも良く想っていないらしい。それについては、何となく分かる。

 

どうしてそうなのかは分からない。

 

はっきりしているのは、この人の機嫌を損ねたら、その場で殺されると言う事。それも、これ以上もないほど残酷に、だ。

 

リディーとスールが殺されるならまだいい。

 

下手をすると、ルーシャやお父さんが殺される。

 

逆らう事は。

 

絶対に出来ない。

 

「今回はちょっと特殊なお仕事でね。 内海を外海と隔てている、堤防の手入れをする事になるの」

 

「!」

 

「うふふ、というわけでわたしにしか細かい所はできないんだなこれが。 みんなは主にわたしが処置した土砂とかを、人夫が運び出す護衛ね。 意味は、これでわかったね」

 

言葉も無い。

 

アダレット王都は海に面しているが、それは入り江で。

 

内海と外海を、堤防で区切っている。

 

その堤防は、大きな犠牲を出しながら、アダレットが国策で作ったもので。色々と伝承が残っている。

 

堤防を作り上げた王が、「堤防王」として未だに名前が残っている程で。

 

堤防王は、下手をすると初代の武王に次ぐほどの名声を持っている。

 

アダレットの民なら、子供でも知っている有名人だ。

 

逆に言うと、200年前の錬金術師迫害前。

 

そもそも海に近付くことそのものが禁忌だった時代に。内海を漁が出来る安全な場所にした功績はとてつもなく大きく。

 

更に言えば、内海には大型の獣も存在しないため。

 

一部では、なんと海水浴なんて贅沢な事が出来る。

 

もっとも、それでも監視が常に必要な事に変わりは無く。

 

年に何度か、内海に入り込んで来た獣の駆除を、騎士達が総力戦態勢で行うし。

 

また、それでも駆除しきれなかった獣によって。

 

被害もまた出るのである。

 

今回は、フィリスさんという、インフラ整備の恐らく世界最高の達人が出てくれる。しかもこの人、多分ドラゴンくらいはものともしない実力の持ち主だろう。確かに、サポートがあれば充分。

 

だが、堤防の外は文字通りの魔境だとも聞いている。

 

護衛に関しては、本当に気を遣わなければ危ない。

 

それは、スールにさえ分かる程度の事だ。

 

「戦力が少なすぎるのです」

 

ずばりアンパサンドさんが言う。

 

確かにその通りだ。

 

現在騎士団は各地に散って、過酷な任務の真っ最中。この仕事に人員を廻せるとはとても思えない。

 

イル師匠も毎日いる訳では無く、時々空飛ぶ荷車みたいなのに乗って、何処かにすっ飛んでいく。

 

アンパサンドさんだから、フィリスさんに堂々ともの申せるわけで。

 

実際、隣でマティアスはびびりまくっていた。

 

「ああ、それなら大丈夫。 わたしの知り合いの手練れが、それなりの数もう来てくれているから」

 

「……分かりました。 信じるのです」

 

「うふふ、じゃあれっつごー!」

 

フィリスさんは楽しそうだ。

 

そのまま、城門を出て、森の中を行く。

 

入り江になっている堤防に注いでいる川は、確か森を出た後。川に沿って海に向かい。その近くにある街の側を通っている筈。

 

この川の出口にも、大きな柵が張られている筈で。

 

或いは、そのメンテナンスも今回は行うのかも知れない。

 

川の近くを歩いていると。

 

もの凄く荒れている、という印象を受けた。

 

長雨による水量の増加で、川が暴れたのだろう。

 

幸いもう土は乾いているようだけれど。

 

川の縁の辺りは、おぞましい抉れ方をしている場所が幾つもあった。多分、今後時間を掛けて補修するのだろう。

 

下手をすると、こういう所から、水害が起きるからである。

 

獣は今の時点では殆どしかけてこないが。

 

川には近付きすぎないようにと、森の中で話はされている。

 

言われなくても分かっている。

 

川の中にいる獣は、陸の獣とは桁外れなのだ。

 

前にも実物を見たし。

 

絶対に不用意に近づきなんてしない。

 

海水浴なんて出来る内海がそも例外なのであって。

 

本来、川も海も。

 

人間が近づける場所ではないのだ。

 

フィリスさんはかなり速く歩いているが。

 

幸い今は、それに追いつくことは難しく無い。

 

問題は獣の襲撃だが。

 

現時点では、それも確認されなかった。

 

ほどなく、海の側の街が見えてくる。

 

広義では、アダレット王都の一部。出城のような役割を果たしている街だ。規模は人口800人ほど。

 

一度だけ足を運んだことがあるが。

 

殆ど滞在することは出来なかった。

 

なお、港には城壁が作られている。

 

此処は内海に面しておらず。海の獣に対抗する手段が無いから、である。

 

海に近い事もあって、この街は堤防の管理と、河口の管理に殆ど特化している文字通りの最前線。

 

殆ど子供の姿を見ることも無く。

 

暮らしている人の中には、手指を欠損している人も珍しく無かった。

 

それはそうだろう。

 

この街が、非常に危険な場所だというのは一目で分かる。

 

内海と外海は、そもそも色からして違う。

 

そして、この辺りは潮風の影響も強く。

 

自給自足できるだけの作物も作れないし。そもそも、危険な場所が多すぎて、畑など作る余裕が無いのだろう。

 

食糧は基本的に外側から運び込んでいる様子で。

 

街を守っている森も、極めて貧弱だった。

 

こんな王都の近くなのに。

 

何だか、溜息が零れてくる。

 

フィリスさんはひょいひょいと、はしごも使わず、見上げるような高さの城壁に当たり前のように身体能力だけで跳び上がると。

 

手をかざして、周囲を確認。

 

流石にこの人に関して、もう驚くことは無い。

 

あれくらいは出来て当然だろうとも思う。

 

何しろ、ファルギオルと、速度で互角以上に渡り合っていたのだから。

 

しかも今考えてみると。

 

あれは恐らく、手を抜いていた可能性も高いとスールは思う。

 

かなりの数の荷車が、堤防の辺りに用意されている。フィリスさんが、壁からひょいと飛び降りてくる。

 

勿論怪我なんてする筈も無い。

 

「すぐに取りかかれそうだね。 じゃあ作業を開始するから、海側に展開。 獣の襲撃から人夫を守って」

 

「分かりました」

 

リディーは何も言わず、そのまま歩き始める。

 

マティアスは、おいおいとぼやいたが。

 

しかし、人夫はみんな出稼ぎに出てきている、戦士では無い普通の民ばかりだ。

 

守らない訳にもいかないと思ったのだろう。

 

すぐにリディーの後を追う。

 

なお、堤防の近くには、どうみてもただ者では無い傭兵が数人いて。いずれもが、一目で分かるほどの凄まじい使い手ばかりだった。

 

これが、フィリスさんの言っていた、「知り合い」達なのだろう。

 

十中八九深淵の者関係者と見て良さそうだ。

 

先に、皆には装備品は配ってある。

 

作業の音頭に関しては、フィリスさんがとるのかと思ったが。

 

傭兵の中にいた、魔族の戦士が、手を叩く。

 

どうやらこの人が、人夫達を指揮するらしい。

 

「これより、大量の土砂が運ばれてくる。 それを皆で、指定の位置まで捨てに行って欲しい。 全自動式荷車の使い方は知っているか」

 

「はい、問題ありません」

 

人夫達の返事に頷くと、魔族の戦士は、予定通りに、と指示。

 

そうだ、全自動式荷車。

 

こういう所で使われているのは初めて見る。

 

確か、追従や停止などの機能がついていて。更に事故を避けるために、自動停止機能までついているという。

 

力がない子供や老人でも簡単に扱えるため。

 

貧しい民でもこういう力仕事に参加できる、非常に便利な品だと言う。

 

近年爆発的に普及しているらしく。

 

今後は、空飛ぶ荷車とあわせて、更に普及するだろう事は確実だとか。

 

勿論、リディーとスールにも話は振られる。

 

「フィリスどのから話は聞いている。 貴殿らが護衛の錬金術師と騎士だな」

 

「はい。 お願いします」

 

「うむ、此方こそ頼りにさせて貰う」

 

魔族は基本的に真面目だが、この傭兵もそれに変わりは無いようだ。

 

まず持ち場について説明を受ける。

 

そもそもこの場所自体が、普段は封鎖されている状態で。

 

まあ理由は当然、獣がいつ襲撃をしかけてくるか分からないからだ。

 

フィリスさんがこれから単独で堤防の上で作業をするが。

 

それでも、獣よけの封鎖を解除する瞬間に隙が出来るし。

 

何より外海の獣の危険度が段違いのため、瞬間の隙でさえ油断は一切出来ない。

 

そう説明を受ける。

 

この辺りは、知っているけれど。

 

再確認する必要がある。

 

だから、スールは何度も頷いていた。

 

何しろ、深淵の者で働いているだろうこんな強そうな魔族の戦士が、一切油断をしていないのである。

 

どんな獣が出てくるか、知れたものではない。

 

スールは水際で、ルーシャと一緒に獣に対応。これは恐らく、ルーシャがガードを、スールが勘で敵の攻撃を察知して備えるためだ。一応、何が得意で何ができるかは説明したら、即座に持ち場を割り振られた。

 

リディーは少し下がって、けが人が出た場合の対処。

 

オイフェさんとマティアスはスールとルーシャの少し後ろで待機。

 

そしてアンパサンドさんはフィンブル兄と遊撃。

 

土砂を捨てに行く、街の外側の方は、別の部隊が守りを固めているらしく。

 

其方は必要ないそうである。

 

まあ、それならいいだろう。

 

スールは、堤防の外側。外海を見る。

 

まるで引きずり込まれるような、真っ黒だ。

 

「スー。 あの海、深さはどれくらいだか知っていますの?」

 

「いや、分からないけど」

 

「人の背丈の数千倍、だそうですわよ」

 

「え……」

 

それって。

 

高山地帯と同じくらい、と言う事か。

 

一応、何カ所かに非常に背が高い山があるとは聞いた事がある。だけれども、海はそもそも、全てがそんな深さなのか。

 

シールドを展開し。

 

そして海を見張りながら、ルーシャは言う。

 

「幼い頃、スールが好きだった海賊話、覚えています?」

 

「うん。 彼方此方に出かけていって冒険する奴だよね」

 

「あれ、全部大嘘ですわよ」

 

「……分かってる」

 

嘘だとわかり始めたのは、屈強な船乗り達でさえ、絶対に外海に出ないと知ったときからである。

 

基本的に獣が危険すぎて出られないのだ。

 

アダレット王都の側にある内海でさえ、たまに非常に危険な獣が出て、専門の騎士団が駆除するが。

 

ぞっとするほど巨大なのが水揚げされて。

 

こんなのが海にはいるのかと、唖然とさせられる。

 

そして、最初に、あまりにも巨大な獣を見た時。

 

海賊譚は嘘だと思い知らされた。

 

曰く、冒険をし。

 

彼方此方から宝を見つけ出す。

 

悪党ではあるが勇気を持ち。

 

決して不必要な殺戮はしない。

 

そんな夢のある存在は。

 

いるわけがない。

 

匪賊の実物を見てから、その考えが嘘では無いこともよく分かった。

 

この世に義賊なんてものは存在しない。

 

己のポリシーに沿って、義を持って行動する賊なんて、夢物語に過ぎない。

 

幾つもの現実を見て、子供は大人に無理矢理させられる。

 

そう、あのお化け達の森で。

 

教えて貰ったように。

 

今ではスールも、海賊なんてのはこの世界に存在しないし。

 

もし存在しうる環境だったとしても、匪賊と同等の残忍な外道だっただろうとも思う。

 

フィリスさんが指示を出したのだろう。

 

荷車が来て、大量の土砂を捨てて、戻っていく。

 

本当に翼がついて飛んでいる。

 

金属の翼で、羽ばたくような事は無いので。恐らく高度な浮遊魔術を使っているのだろう。

 

あれは確かに、使えたら便利そうだ。

 

人夫が作業を開始。

 

さて、此処からは。

 

一秒だって気を抜くことは出来ない。

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