暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、青い海の果て

堤防の応急処置作業が終わった翌日。

 

リディーとスールは、王宮に呼び出される。

 

特に不都合の類は無かったはずだ。

 

だけれども、緊張する。

 

英雄としてもてはやす風潮はあったにはあったが。

 

ミレイユ王女は冷静で。

 

実際に雷神を食い止めていた三傑や。

 

体を張って雷神の侵攻に対応した騎士団。

 

更には、その後の災害復旧に奔走した騎士達傭兵達一人ずつに称賛の声を掛け。リディーとスールだけを特別扱いする事も無かった。

 

昔だったら、バカみたいに調子に乗っていたかも知れないが。

 

そもそもネージュに不思議な絵の具の事を教えて貰わなければ、雷神を倒す事なんて絶対に無理だったのだ。

 

今では、相応に謙虚になれているつもりである。

 

少なくとももはや自分は凄いとか。また上手くなったとか。そんな寝言は頭の中には無い。

 

しばし受付で待たされる。

 

そして、困惑した様子で、役人が来る。もう少し待って欲しい、というのだ。

 

来た役人が、たまに受けつけにいる若い不慣れなヒト族という事もあって、不安が更に後押しされる。

 

ミレイユ王女はまだ各地を災害復旧のために飛び回っているという話だし。王宮が機能不全に陥っていないと良いのだけれど。

 

そう思っていると。

 

いつもは見かけない、勲章をつけたヒト族の老人が姿を見せる。

 

どうやら大臣の一人らしい。

 

元騎士隊長、という所だろうか。

 

顔にあるもの凄い向かい傷といい。

 

歴戦の強者の風格があり。

 

相手を容赦なく見定める、鋭い光が目には宿っていた。

 

「君達が雷神を仕留めた錬金術師だね」

 

「はい。 リディーです」

 

「スール、です」

 

「うむ。 わしは防災大臣のバズラルムという。 ミレイユ王女殿下の言づてを預かっているので、下のエントランスに来て欲しい」

 

なるほど、此処では聞かせられない話か。

 

頷いて、ソファから立ち上がり、エントランスに行く。

 

いつの間にか、アンパサンドさんがいて。周囲を警戒していた。

 

此処はお城の中なのに。

 

びりびり嫌な予感がするが。

 

それはすぐに現実のものとなった。

 

不思議な絵画が陳列されているエントランスに出る。たくさんの不思議な絵画があるのだけれども。

 

奥の方に、音を防ぐ魔術で守られた一角がある。

 

絵から丁度今、パイモンさんが出てきて。挨拶してすれ違う。フーコ達が火竜と住んでいる絵だ。どうやら鉱物資源を回収しに行っていたらしい。何人かの騎士も護衛が終わってほっとした様子だ。

 

いずれにしても、今は話している時間もない。

 

大臣は、既に防音区画で待っていたし。

 

待たせるわけにも行かなかった。

 

アンパサンドさんは防音区画の外で待機。周囲に鋭い視線を向け続けている。

 

「さてと、本題に入ろうか。 君達は既に聞いているかも知れないが、アダレットに面する内海……それを外海の巨獣どもから守っている堤防が、根本的なメンテナンスを必要としている。 三傑の一人フィリスどのから正式に依頼があってな。 しかも、アダレットの国家予算の十年分は最低でも掛かる、というとんでも無い話で頭を痛めている」

 

「それ、目の前で聞きました……」

 

「マティアス……王子が、青ざめてました」

 

「そうであろうな。 王子殿下から話が上がって来たときには、正直わしも立ちくらみを起こしかけた」

 

それはそうだろう。

 

雷神対策。

 

それにこの記録的な長雨の後始末。

 

ただでさえ、アダレットの国庫はすっからかんに近い状態の筈。

 

勿論雷神を倒した事により、来年以降は多少は余裕が出てくるだろう。

 

三傑が、今まで倒せもしなかったネームドを散々駆除しているという話も聞いている。彼方此方の街で、畑を拡大したり。道を整備したりして。経済活動が活発になるだろう。ただしそれは、あくまで来年以降は、だが。

 

200年前の愚行のおかげで。

 

アダレットは未だに、多くの負債を抱えてしまっている。

 

ラスティンもかなり酷い状態のようだが。

 

それ以上にアダレットが酷すぎるのだ。

 

この堤防の問題だって。

 

錬金術師を迫害するような愚行を犯していなければ。毎年少しずつ整備したりして、ちょっとはマシになっていた筈である。

 

「そこで、調べて欲しい絵がある。 これは依頼の一部で、もしこれを突破したら、Bランク昇格の試験を受ける資格を与えようと思う」

 

「!」

 

Bランク。

 

そうなると、高位の錬金術師として認められる、と言う事。

 

なるほど、流石にBランクともなると、明確にボンクラとは線引きをする、というわけか。

 

スールとしても、今の実力でCランクというのは過剰ではないかと思っているので。

 

むしろそれくらいで丁度良いと感じる。

 

リディーは頷く。

 

スールも、少し遅れて頷いていた。

 

「分かりました。 調査、してみます」

 

「うむ。 アダレットの方でも、何とか予算圧縮をしなければならないと考えていてな、情けない話だが。 今回の応急処置だけでも、相当な金を三傑に対して払っている状況で、国家予算の十年分などという金はとても出せぬ。 海についての具体的な情報は知っているかも知れないが実際には無きに等しい。 何しろ外海に出た船など、生還出来る訳がないのでな……」

 

「分かります」

 

「うむ……」

 

浅瀬を行く船でさえ、とんでも無い巨獣に襲われて。あっと言う間に転覆、船員は皆殺しというケースが珍しくもないらしいのである。

 

アダレット王都に面している内海は。

 

たまに事故が起きるくらいで。

 

それだけ安全、という事である。

 

海産資源も確保するために。

 

アダレットでは、王都を守る堤防は、死守しなければならないのだ。

 

大臣に連れられて歩く。

 

そして、ついた絵は。

 

昔読んだような海賊が、勇ましく右手で剣を振りかざし。左手には宝が入った箱を抱え。そして巨獣達を蹴散らし、海を冒険している絵だった。

 

嗚呼。

 

海への憧れ。

 

ありもしない海賊冒険譚。

 

それに関する夢を詰め込んだ絵だと、一目で分かってしまう。

 

「この絵はかなり特殊で、入るといきなり海中に放り込まれる、と言う事だ。 まずは海中を移動出来る手段を手に入れてくれ。 擬似的に再現されているとは言え、此処は海の世界。 内部を調査して、可能な限りの情報をレポートとして提出して欲しい」

 

「ええと、私達だけ、ですか?」

 

「ヴォルテール家のルーシャ嬢と、それに気鋭の錬金術師アルト殿にも同行して貰う予定だ。 三人からのレポートを確認し、少しでも予算を圧縮できないか、会議を行うつもりでな」

 

なるほど。

 

いずれにしても、まずは水中で活動する道具の作成、からか。

 

流石に外海ほどの巨獣がいきなりお出迎え、と言う事は無いだろう。

 

何しろ海についての微笑ましい夢を形にした絵画なのだ。

 

だが、コレを書いた錬金術師も。こんなあり得ないピカレスクロマンなんぞが夢想に過ぎないことは理解している筈で。

 

海の中を行くのであれば、相当に危険なはずだ。

 

準備と、イル師匠への相談が必要である。

 

「分かりました。 準備が出来次第、調査させていただきます」

 

「うむ。 頼むぞ」

 

大臣が戻っていく。アンパサンドさんも、それについてすぐに姿を消した。

 

それにしても、大臣が直接話に来るとは。

 

今腕を上げているリディーとスールを、それだけ国でも重視している、と言う事なのだろうか。

 

いや、違う。

 

三傑が桁外れ過ぎるから。

 

何とか人間の範疇にあるリディーとスールを、上手く活用しようと思っているのだろう。

 

雷神とガチンコでやりあっていたイル師匠とフィリスさんの事は、騎士団でも目撃していたはず。

 

既に人間がどうこうできる相手では無いことも理解しているだろうし。

 

何より深淵の者の事もある。

 

安易に依存する訳にもいかないし。

 

どうにかネゴをして行くのに、必死というわけだ。

 

とはいっても、あの大臣もそんな必死なふりをしているだけで。深淵の者の所属者かも知れない。

 

「お金かなりあるし、今回の探索は専属でドロッセルさん雇おうよ」

 

「うん。 でもさリディー、その前にまず海の中を移動する手段だね……」

 

「そうだね。 海の中でも動ける、くらいだと非現実的過ぎるから。 例えば海の中を移動出来る乗り物とか、或いは魔術で泡を作って、体の周囲に固定するとか……」

 

「戻って資料を調べて、それからイル師匠に相談だね」

 

頷くと、一旦アトリエに戻る。

 

海は遠大だ。

 

同時に人間が踏み込める場所ではない。

 

今、スールは。

 

其処に。

 

仮の世界とは言え。

 

足を踏み入れようとしている。

 

 

 

(続)




というわけで海のヤバさを描写したあと何をするかは分かりますね。

はい。

双子に海に入って貰いましょう。

まあそのままの海だと死ぬので、不思議な絵画の海ですが。

勿論これを考えたのはソフィー先生です。いきなり本当の海……それも外海でないぶん優しいですね。
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