暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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はいバカンスの開始です。

バカンス(当社比)ですが(笑)


未踏の闇世
序、海


海に関する不思議な絵画について調べるように。その依頼を受けたリディーは、まず見聞院に出向く。

 

資料を少しでも調べなければならないからだ。

 

大量の本をまず集めて。

 

海について、少しでも分かっている事を調べていく。

 

元々浅瀬でも、巨獣に襲われる事が多く。

 

非常に危険な場所である、という事でどの書物も一致している。一流の錬金術師が、為す術無く獣に襲われ食われたとか言う記述もあり。古い時代から、魔境の中の魔境だと、認識されていたのだとすぐに分かる。

 

勿論その脅威を胸に刻むのは大事だが。

 

もっと大事なのは。

 

まず足を踏み入れる方法だ。

 

海について調べていく。

 

まず海についてだが、水では無く塩水で満たされている。流石に誰でも知っていることだが、しかしその理由はよく分からないらしい。

 

先達が分析したところによると、川の水よりも更に海の水は栄養が濃いらしく。拡大して確認すると、たくさんの小さな生き物……獣がいるのだという。

 

この豊富なエサが。

 

あの巨体を支えている訳か。

 

もっとも、陸上の獣も、放置しておけば際限なく巨大化するわけで。

 

海にエサがいなくても、巨大に獣は成長するのかも知れないが。

 

フィリスさんが泡を纏って海に飛び込んでいるのを見たが。

 

あれについても調べて見る。

 

空気の定着は魔術として存在しているようなのだけれど。

 

理屈を見るだけで、思わずへの字に口を結んでしまうほど難しい。

 

理解出来なくはないけれど。

 

まずどうすべきか。

 

金属板に魔法陣を描き込むにしても、かなりの大きさが必要になるし。

 

何よりも、空気は濁るらしい。

 

確保した水槽の中で実験した錬金術師の記録が載せられているが。

 

この空気定着の魔術を使って、泡を作り。

 

中に小型の獣を入れて確認した所。

 

かなりの短時間で、獣は死んでしまった、と言う事だった。

 

勿論実験に使ったのは小型の獣で。

 

それでも短時間で死んだ、と言う事は。

 

ちょっとやそっとの空気では、複数人数が活動するのはかなり難しいという結論が出てくる。

 

そうなると、空気を常時供給するか。

 

それとも水中で活動しない、という選択肢が出てくるが。

 

しかし、今回頼まれているのは、海中という環境の調査なのである。

 

アダレットとしても、国家予算十年分なんて言われて、流石にそのまま無策で金を出すわけにはいかないし。

 

フィリスさんが言うには、根本的に手入れをしないと、いずれどうにもならなくなるという話らしい。

 

そうなってくると。

 

いずれは、大規模補修をしなければならない訳で。

 

やはり、誰かが調査をしなければならないのだ。

 

問題はもう一つある。

 

あの不思議な絵画があるエントランスに、機材を持ち込まなければならない事だ。

 

そもそも不思議な絵画そのものが国宝クラスの品であり。

 

今は錬金術師に、ミレイユ王女の提唱する国策で提供されているに過ぎない。

 

アレは本来。

 

リディーやスール程度の存在が、見る事すらかなわないほどの代物なのである。

 

スールがまた本をどっさり持ってきたので。

 

幾らかの本を渡して、返してきて貰う。

 

見聞院の本は、特定のルールに沿って格納されていて。片付けはスールでも簡単にできる。

 

それは有り難い話だ。

 

「リディー、何か分かりそう?」

 

「フィリスさんが泡を纏って海に入ってたでしょ?」

 

「うん。 あれ、獣とも水中でかなりやり合ってただろうね」

 

「それもあるけれど、調べて見ると、あの空気の泡、あっと言う間に駄目になるみたいだよ。 駄目になると、死んじゃう」

 

げっと、スールが呻く。

 

まあそうだよなあともリディーは思う。

 

そもそも、水中と陸上では環境が違いすぎるのだ。

 

それだけ空気は貴重だと言う事なのかも知れない。

 

家に閉じこもって暖炉を焚いていると、それだけで何か気分が悪くなることもあるくらいだし。

 

多分人間の体という奴は、空気に対してとてもデリケートなのだ。

 

だからこそ水中は魔境。

 

どれだけ泳ぎが達者でも、水中に入れば人間はただのカモ。

 

陸上でさえ、獣の脅威は度を超しているのに。

 

ただでさえ水中の活動が苦手な人間が、獣に対抗できるわけが無いのだ。

 

代替案を出していく。

 

会話は建設的に進めなければ意味がない。

 

「乗り物を使う?」

 

「エントランスに持ち込めないよ」

 

「それもそうか……」

 

「空気を常時供給できれば話は別なんだけれどね」

 

少し考え込むと。

 

スールはまた本を探しに行く。

 

本を読むのは苦手みたいだけれども。

 

本そのものを探すのは、持ち前の勘もあって、スールは得意なようだった。実際、駄目な本も持ってくるけれど。面白い本が確かに混じっている。

 

しばし集中して本を読んでいる内に。

 

面白い資料を見つけた。

 

浅い川で実験した錬金術師の記録だ。

 

水中での活動について、という論文で。

 

実際に、どのようにすれば水中で人間が動けるのかについて、詳しく記している。

 

記録そのものは、300年ほど前のラスティン。

 

どうやら写本らしく。

 

比較的本そのものは新しかった。

 

アダレット王都にも活版印刷をしてくれる機械技術者はいるし。

 

多分そういう人が写本してくれたのだろう。

 

研究について見ていくが。

 

やはり水中で人間が生きるには、主に二つの事をクリアしなければならない。

 

一つは空気。

 

そしてもう一つは、獣から身を守ること、である。

 

お風呂に入っていると、その内指先の肌がしわしわになってしまうけれど。

 

アレを例に出すまでも無く、元々人間は水の中で生きる生物ではないのだ。だからこそ、錬金術師は浅い川で実験をした。それでも、獣は寝ているときなどを見計らって、襲ってきたそうだが。

 

その実験記録に目を通す限り。

 

やはり空気の泡が非常に重要であるらしい。

 

常に入れ替えをしないと、徐々に意識が混濁していき、やがて死に到るという。

 

また、獣は泡なんて気にもせずにしかけてくる。

 

この二つから導き出される答えは。

 

まず第一に、水中では機動力が落ちることを意識する。

 

泡を纏ったまま歩いたとしても、それは同じだろう。

 

そして第二に泡は常に何らかの方法で入れ替える。

 

これについては、錬金術の資料を幾つか確認する。

 

空気を定着させる魔術はいくらでもあるのだけれど。空気を入れ換えるとまでなると、また相談しに行かなければならないだろう。バステトさんも、流石に其処まで専門的な術は知っているかどうか。

 

そして第三に。

 

さっさと陸に上がるか、大きな獣が入れない位置を探す。

 

其処を拠点とするためだ。

 

不思議な絵画ということで、或いは大きな獣はあまり多くはないかも知れないけれども。その代わりレンプライアが出ることは容易に想像がつく。

 

しかも水中が主体の絵となると。

 

レンプライアは大繁殖していてもおかしくない。

 

今回は、あくまで海を調査するために。

 

擬似的に作られた海の調査、という実験的な試みである。

 

躓いてはいられないし。

 

そもそもアダレットだって、無意味に高ランクに錬金術師を昇格させるつもりもないだろう。

 

既にイル師匠はSランクにまで昇格していると聞いているが。

 

逆に言えば、イル師匠のような人はSランクに相応しい。リディーとスールは、とてもではないがそうではない。

 

そんな事は自分でも分かっている。

 

まずは、確実に力をつけていかなければならないのだ。

 

また、スールがどっさり本を持ってきたので。

 

夕刻まで、ああでもないと意見を交わしながら、本を確認。気になるものをメモしていく。

 

そして、夕刻に二人で別行動。

 

今回は、スールに王宮での手続きと、フィンブルさんへの約束の取り付けを任せる。

 

代わりにリディーは、バステトさんに専門的な術の確認をしにいく。

 

この間、堤防を管理している街に行って、ルーシャに聞かされたが。

 

海の深さは、人間の背丈の数千倍だという。

 

勿論内海はそうではないだろうが。

 

それでも百倍以上だとか。

 

これから入る海の絵がどうなのかは分からないが。

 

一度、二人だけで軽く入ってみて、戦略を立てたい。

 

そのためにも、バステトさんに、アドバイスを受けておきたいのだ。

 

バステトさんは相変わらず気むずかしそうにしている。

 

話を聞くと、この間のファルギオル戦で、知り合いが何人か現役引退を余儀なくされたという。

 

そうか。それは悔しいだろう。

 

力が足りなくてごめんなさいと謝ると。

 

バステトさんは、大きくため息をつく。

 

「リディー。 お前は何一つ悪くは無い。 私が怒っているのは、この理不尽な世界に対してだ。 今回も、いやいつもそうだ。 真面目で才能もある奴がどんどん死んで行くのがこの世界なんだよ。 私より魔術の才能がある奴も、尊敬できる戦士もどんどん命を落としていった。 その一方で、匪賊みたいなクズはのうのうとのさばったりもしている」

 

顎をしゃくられる。

 

ぐるる、と不機嫌な声をバステトさんが出す。

 

猫の顔をした獣人族であるバステトさんも。獣人族らしい、戦士としての強い本能を持っている。

 

戦士としての第一線を引退した今も。

 

匪賊に殺された事が、親を失った原因になっている子供が多くいる孤児院を見ると。色々思うところもあるのだろう。

 

そしてさっきの言葉からしても。

 

魔術を積極的に教えてくれるのは、目の前で見てきた理不尽を。

 

少しでも減らしたいという意図があるのは、疑いが無い処だった。

 

「それで、今日の用事は」

 

「海に潜りたいと思っていて」

 

「死ぬぞ」

 

「はい。 そのままでは確実に」

 

頷くと、バステトさんは、幾つか教えてくれた。

 

魔術の専門家であるバステトさんだ。流石に色々と詳しい。そもそもバステトさんは、意識の一部を飛ばして、少し深めの湖の中を覗いてきたことがあると言う。

 

その結果は、おぞましいものだったそうだ。

 

「住んでいる獣の大きさが違いすぎる。 水があると言う事は、其処に住む生物はとてつもなく大きくなれると言う事だ。 しかもすばしこい。 獰猛で、貪欲で、更に陸上で生きるのとは関係無い姿形も採れる」

 

「……」

 

「水の中で動きにくいというのもあるが、もう一つ大きな問題もある」

 

「それは……」

 

暗いのだと、バステトさんは言う。

 

水は澄んでいるように見えるが、ある程度の深さまで行くと、陽の光は届かなくなっていくという。

 

それは、盲点だった。

 

確かに、あんまり検証した記録が無いのだ。

 

そういう話は、書物に残りづらいのかも知れない。

 

幾つか、順番に話をしていく。

 

そうすると、バステトさんはアドバイスをくれた。

 

「まず空気を纏って固定する魔術。 これは簡単だが、問題はそれだけだと短時間で命を落とす。 そこで、空気を何かしらの方法で持ってくる必要がある。 それは魔術の領域を超えている。 師匠にでも相談しろ」

 

「はい。 分かりました」

 

「次に灯りだ。 周囲の全周を照らすくらいの灯りが必要になる。 そもそも海の中の地形もフラットではないだろう。 下手をするとクレバスに真っ逆さまだ。 暗い中を行動するにしても、一寸先も見えない状況だと、大きめの獣に一口で食われて全滅という可能性を捨てられない」

 

ぞっとする話だが。

 

確かに、そうやって備えておかないと危ないだろう。

 

頷いて、メモを追加。

 

後は技術的な話を聞いていると。

 

シスターグレースに呼ばれた。

 

「お夕飯にします。 バステト、準備を」

 

「はい。 今伺います」

 

「リディー、貴方も来なさい」

 

「え、でもスーちゃんが」

 

スールについては、バステトさんが使い魔を飛ばして、連絡してくれるという。まあスールも一人で夕食を作るような真似はしないだろうし、此処は甘えてしまうのが吉だろうか。

 

何か材料がいるかと確認。

 

お金はあるのだ。

 

少しでも、孤児院を兼ねている教会のためになる事をしたい。

 

この世界の神様が、どうしてこんな理不尽を放置しているのかは別に今はいい。

 

此処でしか生きていけない子供達がいるし。

 

シスターグレースは、そんな子供達にスキルを仕込んだ上で、生きていけるようになるまで面倒も見てくれる。

 

リディーもスールも、本当に一番大変だったときに面倒を見てもらった身だ。

 

多少の恩返しはしたいのである。

 

「それならば、買い出しをお願い出来るかしら」

 

「はい。 あと、フリッツさんとドロッセルさんはどうしましょう」

 

「二人は今、どちらも騎士団に頼まれてそれぞれ別の方向で仕事をしています。 まだ数日は戻って来ないでしょう」

 

「分かりました」

 

そうだ。

 

まだ災害復旧で、騎士団は相応に忙しそうにしている。

 

戦略級の傭兵ともなると。

 

各地で引っ張りだこだろう事は想像に難くない。

 

年長の子供達と一緒に、買い出しに行く。

 

もうすぐ教会を出る子供達は、年齢では無く、基本的にスキルを身につけた事が基準になる。

 

例えば、ホムのお店などで働く場合には、ヒト族のお店で働くよりも、スキルを重視した実践的な人間が要求される。

 

また騎士団などでは、戦闘能力が重視され。まず戦えることが採用条件になる。

 

そう言った場所で、暮らせていけるスキルが身につくと。

 

教会を離れる事になる。

 

年は様々だけれども、10歳ほどで教会を出て、今アルファ商会で下働きをしている獣人族の子もいるらしく。

 

その子は魔術が使える事を見込まれて、雇われたそうである。

 

教会にお金を入れてくれるほど稼げているそうなので。

 

下働きと言っても、かなり評価されているのだろう。

 

何人かと一緒に、買い出しに出て。

 

そして、呼ばれて来たスールと一緒に、教会で夕ご飯を食べる。

 

しばらく暖かい時が流れる。

 

シスター達はみんな料理が上手だし。

 

何より、良い食材が入らなくても。料理でカバーできるだけの力を持っている。

 

子供達はみんな満足そう。

 

あまり良くない孤児院だと、子供が酷くて悲しい扱いを受けている事もあったり。荒んでいる事も珍しくないらしいけれど。

 

近年はそういう孤児院は減っているらしいし。

 

この教会で、そんな荒んでいる様子の子供はいない。

 

シスターグレースが如何にスペシャリストとして高い技量を持っているのか。それがよく分かる。

 

夕食が終わった後。

 

二人揃って、別室に呼ばれる。

 

シスターグレースは、音避けの魔術を掛けると。

 

咳払いした。

 

「ロジェさんの目撃報告が入りました」

 

「えっ!?」

 

「お父さんは何処に……」

 

「それが……」

 

アダレットの第二都市。人口一万を少し超える街にて、公認錬金術師の所で手伝いをしているのを目撃されたというのだ。

 

一体何を考えているのだろう。

 

長く働く様子は無かったが。

 

アトリエの主は、自分と同じくらい出来ると言っていたとか。

 

この公認錬金術師も、そもラスティンで難しい試験を突破している人で。近年の状況変化に伴って、ラスティンから招聘された人だから。相応の凄腕だろうに。

 

「無事だったのなら良かったよ」

 

スールが胸をなで下ろす。

 

昔とは態度が雲泥だ。

 

実はリディーも意見は同じだけれど。此処は黙っておく。帰ってきて欲しいけれど、何か目的があって動いているのだろうし。

 

何より、深淵の者にちょっかいを出したりするような自殺行為に出ていないことが分かっただけでマシだ。

 

「とにかく、ロジェについてはまた何かあったら情報が行くようにします。 二人とも、ロジェは難しい状況にある事を忘れないであげなさい」

 

頭を下げて、礼を言うと。

 

教会から帰る。

 

さて、今日は寝る前に、レシピを考えておきたい。

 

帰り道に、まとめた話をスールとしながら。

 

どうするか、考える。

 

そしてレシピが出来たら、イル師匠に相談。

 

一週間以内に。

 

モノにしなければならない。

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