暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
これが非常に高い壁ですが……
まあ雷神に比べれば楽な相手です。
とても良心的ですね。
イル師匠の所に出向いて。
二つの道具について、まず意見を聞く。
一つは、空気の泡を発生させる装置。水の中に入った後、これを自動で起動させ。周囲の水を押しのけることによって、一緒に入った人達が行動できる空間を作る。
仕組みとしては、シールドをまず魔術で発生させ。
そのシールドの内側にある水を、外に押し出す。
二つの魔術を組み合わせる難易度が高いものだが。
どうにか作れるようになったプラティーンを基盤に魔法陣を組み込み。
更に荷車にセットすることで、荷車を中心とした陣形を組んで移動する事を基本に、水中での行動を可能とする。
もう一つはランタンである。
とはいっても、海の中が想像以上に暗いことは容易に想像がつく。
使い魔の使い方も教えて貰ったけれど。
それについては、別にリディーがそのまま魔術として使えば良い。
問題は暗い事を解消する必要がある、と言う事で。
以前教えて貰った空中避雷針のレシピを参考に。
常時浮遊する実体と。
其処に、非常に強烈な光を発する魔術を仕込む。
これで、水中を快適、とまではいかないにしても。なんとか歩けるだけの体勢は整うはずだ。
そして、もう一つ。
最大の問題をクリアしなければならない。
説明して、レシピを見せると。
イル師匠は頷いた。
「後一歩という所ね。 レシピの此処と此処は直しなさい。 もうちょっと頑張れば、もう私がレシピを見なくてもよいわ」
「本当ですか!」
「ありがとうございます!」
「……それでもう一つというのは、空気の供給ね」
流石はイル師匠だ。
そして、イル師匠は出してくる。
小さな石のようなものだった。
「これはエアドロップといって、高圧縮した空気が入っているわ。 水を垂らすと、空気が外に出てくる仕組みよ。 これを開発した錬金術師は、口に入れて海の中を移動しようと思っていたらしいけれど、言う間でも無くそれは自殺行為だから絶対にやっては駄目だからね?」
「はい、分かっています」
「よろしい。 エアドロップの本当の使い方は、空気の泡のシールドを作るとして、その中で常に新鮮な空気を供給する事よ。 そしてもう一つ問題が出てくる」
頷くと。
イル師匠は、指をパチンと鳴らした。
どうやらそれだけで、複数の魔術を発動させたらしい。
詠唱もしていないのに。
シールドが発生して、リディーとスール、更にイル師匠を包む。
そして、いきなり耳がきーんと鳴り始めた。
「!?」
「あまり良い気分はしないでしょう」
「はい、コレは一体……!?」
「気圧というものよ」
もう一度指をイル師匠がならすと。
シールドが解除され。
一気に楽になった。
スールがへたり込んで、激しく咳き込んでいる。
イル師匠が、順番に、丁寧に説明をしてくれた。
「空気は見えないけれど、水と同じように常に存在しているものなの。 そして、空気は濃かったり薄かったりする。 これは高い山に登ってみればすぐに分かるわ」
「は、はい……」
「そして空気は濃すぎても害になる。 つまり、常時さっきの空気のシールドから空気を放出しつつ、空気を追加しなければならない。 そういう事よ」
なるほど。
実例込みで教えてくれるのは、とても有り難い。
メモを早速とる。
そして、エアドロップのレシピについて確認。
もう一つ重要な、最初に空気を纏うシールド発生装置のレシピについても、手を入れる必要がある。
魔法陣の修正が必要だ。
もう一つ、聞いておきたい事がある。
「錬金術の布についてなんですけれども」
「その服、相当に思い入れがあるんでしょう?」
「はい。 でも、ヴェルベティスが作れるようになったら、せめて裏地には仕込みたいかな……って」
「ヴェルベティスはね、元々生半可な金属より切れ味が鋭いくらいで、下手に触れるだけで出来が悪い場合は指が飛ぶくらい危険な代物よ」
ぞっとすることを言われるが。
イル師匠は、咳払いした後、ちゃんとアドバイスをくれる。
「強い魔力を含んだ布であったら、まずはモフコットあたりから目指しなさい。 獣から刈った羊毛を加工して、布にするときに魔力を込めるようにする事で、布自体に強い防御効果や、場合によっては身体能力強化を付与できるわ。 ベルヴェティスは少なくともハルモニウムを作れるくらいの実力が要求されるし、貴重な素材も必要になるけれど、モフコットくらいなら今の貴方たちにならすぐに作れる筈よ」
「はい、調べて見ます」
「よろしい。 それと、このおなかをガードする装備。 発想は悪くないわ。 ベルトでフィリスが似たようなものを作っていたのを思い出すわね」
そうか、やはりおなかを守る事の重要性は、誰もが思いつくのか。フィリスさんが昔作ったのだとしたら、発想も間違っていないのだろう。
とりあえず、必要な事は全て聞いた。
此処からは、アトリエに籠もって、調合の時間だ。
手分けして動く。
まず、プラティーンのインゴットを作る。
お金はあるので、コルネリアさんの所で、前に作ったインゴットを増やして貰う。お金は掛かるけれど、これは必要な出費だ。まだプラティーンはかなり作るのに時間が掛かってしまう。
他の道具類を作る時間を圧迫してまで、費やすほど時間は余っていない。
その間に、まずはエアドロップを作成する。
エアドロップは、複数種類の鉱物をすり潰し、其処に何種類かの薬草を混ぜ込むことによって丸薬のようにして作り出す。
これに水を足すと、爆発的に空気を産み出す。
しかしながら、あまりにも水の量が多すぎると、さっきのシールドの中で起きた事よりも、更に酷い事になるのはほぼ確実。下手をすると、命が危ないかも知れない。
エアドロップそのものは、はっきり言って作るのはそれほど難しくも無かった。
ありふれた鉱石ばかり。薬草もそう大したものはない。
二人だけでネージュの絵画に出かけていって。
ちょっと素材を回収してきて、それで充分に揃った。
ネージュの要塞はもう中には入れてくれそうに無いけれど。
そも要塞の外に拡がっている空間にもレンプライアはでないし。
堀以外には獣もいない。
もの凄く平和で、静かな世界だ。
ネージュの命令を受けたらしい命を持った鎧が、調合に必要らしい素材を回収しているのを見かけるけれど。
彼らはリディーとスールを見ても襲ってくる事はなく。
外の世界よりも、とても安全である事が一目で分かる。
こんな所に住んでいたら。
人は心安らかになれるのだろうか。
そうとさえ、思ってしまった。
エアドロップを作成した後。
それを一旦合金の箱に入れ。
少しだけ水を垂らして、どんな風に空気が出てくるかを確認する。空気については、危ないので、捕まえてきた小さな兎(フィンブルさんに手伝って貰った)を実験材料にして、大丈夫かどうかを確認。
幸い、何の問題も無く。
シールド内に満ちた空気が、兎を殺すような事はなかったし。
リディーとスールが吸っても平気だった。
これなら、大丈夫だろう。
後は、箱を操作して、空気が一度に出過ぎないようにする。強度だけならプラティーンに迫る合金だ。ちょっと空気に内側から押されたくらいでは壊れない。
続けて、装置類を順番に作っていく。
まずランタンだが。
これについては、避雷針を前に作ったので、難しくは無い。ましてや灯りを発生させる魔術は、殆ど基礎みたいなものだ。
本人が使うとなると素質が関わってくるらしいけれど。
錬金術で発動させるなら、さほど難しい魔法陣も必要ない。
更に言えば、避雷針を作った時に、その信頼性は既に確認済みである。
しかもイル師匠に太鼓判を貰っているレシピ。
作って見ると、非常に便利だ。
自動で自分の上を飛んでくれて、しかも周囲を照らしてくれる。ランタンを持つ必要がない。
かなり高級な品になるけれど。
上空から奇襲される可能性がある場所以外では、相当に役に立つはず。上空から奇襲される可能性がある場合は、シールドが必須になるが。そもそも人間にとって上は死角なので。
危険な飛行生物や、上空からの奇襲が想定される場所では、常にシールドを準備しておくのが当たり前なのである。
街の外を歩いて、使用感を試してみる。
一応アダレット王都にも、魔術の灯りを灯す街灯があるのだけれども。
それより遙かに明るくて、まるで昼間になったかのようである。
ちょっと驚く通行人もいた。
だが、これに目をつけたのは。
むしろコルネリア商会だった。
コルネリアさんに呼び止められる。
「その浮遊する灯り、面白そうなのです。 もうレシピはラスティンの本部に登録したのです?」
「えっ? いえ……」
「ならば登録の代行をするのですよ。 ラスティン首都のライゼンベルグでレシピ登録をすれば、そのお金は二人に入るのです。 いっそのこと、販売ルートを此方に任せてくれれば、手数料も支払うのです」
スールと顔を見合わせる。
今までもお薬を騎士団に納入してはいたが。
金食い虫になっていたコルネリア商会から、逆にお金を貰えるというのは、とても有り難い話だ。
一も二も無く受ける。
こういう所からも。
少しずつ実力がついてきたのが分かって、嬉しい。
続けて、プラティーンのインゴットから、シールド発生装置と、空気定着装置改を作り出す。
これは気圧を測定して、気圧が高くなってきたら空気を放出するように魔法陣を追加したものだ。
その分必要なプラティーンインゴットは増えたが。
そもそも、空気という文字通りの生命線が、これほど気むずかしいとは思っていなかったし。
これ以上もないほど扱いづらいとは知らなかったので。
必要な出費である。
黙々と魔法陣を二人で彫る。
時間は容赦なく過ぎていく。
お父さんはどうにか無事。
それが分かって、リディーは少し心に余裕ができたのかも知れない。スールと時々雑談しながら。
確実に道具を仕上げていく。
ある程度で、もうスールだけに加工を任せてしまって問題ない、と判断。
内臓ガードと名付けた、おなかを守る装備品を作る。
この間、海からの防衛線で手に入れた、獣の鱗を見て思いついた防具だが。
肝心の鱗そのものは使えなかったものの。
おなかを守るのには、鱗状の形状は最適と言う事がわかったので、利用はする。
ただし、大きすぎると、動く時に邪魔になってしまうので、柔軟性も必要になってくるし。サイズは小さい方が好ましい。
以前フィリスさんがベルトで作ったという話を聞いて。
理にかなうと思った。
そこで、ベルトに引っかける形で、ガードを出来るようにする。
まず強力な獣。ネームドの毛皮を用いる。
ネームドの毛皮は強い魔力を秘めているのでうってつけだ。これをベースにして宝石を包む。
宝石は以前フーコと火竜の世界で散々原石を見つけてきたので、特に問題はない。
ネームドの毛皮には増幅の魔術。
更に宝石に身体能力を強化する魔術を刻み込み。
宝石がちょっとだけ露出するようにして、毛皮で包む。
この露出はリディーなりのおしゃれだけれども。
ただ、宝石が露出していると、盗人に目をつけられる可能性もあるので。見た目、ガラス玉程度に見えるように、工夫はしておく。
更に、これをベルトに固定するためのフックを作るが。
このフックには、ネームドの毛皮を細く切って作ったヒモを用いる。
これによって、ナイフで切ったくらいではとてもではないが歯が立たない強度にする事が出来る。
仕組みは簡単だけれど。
効果は絶大だ。
勿論値段は張るけれど。マティアスさん、アンパサンドさん、フィンブルさんと。リディーとスール。後一人。
例えば、今度は海という危険な場所に行くので、ドロッセルさんに出来れば声を掛けたいけれど。
それくらいの人数分くらいなら、今の力量ならさほど無理せずにも作れる。
ルーシャともそろそろレシピについて情報の交換をしたい。
ルーシャは今Cランクで、Bランクの試験を受けている最中らしいので、もう少しで追いつく所だけれど。
どうやら相当に苦戦している様子で。
何か助けになるかも知れない。
そう思って、六つ分の「内臓ガード」を作った後、ルーシャのアトリエを見に行くと。
ルーシャは鬼気迫る顔で調合を続けていた。
声を掛けるのは悪いと思ったので、使用人に話をして、帰ることにする。
何だか、ルーシャは最近笑顔が減った。
戦闘ではとても頼りになるし。
何度も命を助けてくれた。
だけれども、ルーシャには笑っていて欲しいし。
側にいて欲しい。
なんであんな風に馬鹿にするようになってしまったのか、自分でも悲しくてならない。幼い頃は、ずっとルーシャをお姉ちゃんと慕っていたのに。
ともかく、情報交換は、不思議な絵の探索後でも別にかまわない。
何より、今度入る絵は、ネージュの要塞同様、他の錬金術師が入っていない、という話である。
どうせ最初の探索後には反省会も必要になるだろう。
その時に、話せば良かった。
アトリエに戻って、装備やお薬などを確認。
昔は作るのに一苦労だったナイトサポートは、もうスールがぱぱっと量産してくれるようになっていた。
騎士団に納入するナックルガードも、スールは手慣れた様子で、片手間に作ってくれる。
思うに、細かい作業は兎も角。
何度か繰り返したものに関しては、スールは非常に上手に作れるのかも知れない。
リディーは、どうなのだろう。
ふと、スールを見て。そして不意に心配になる。
敵に対しての攻撃性が増しているのが目に見えて分かるのだ。
リディーだって、おかしくなりはじめている自覚はあるが。
スールはわかり安く、戦闘では凶暴になって来ている。
リディーは。
どうおかしくなってきているのだろうか。
少なくとも、もうリディーは。ネージュと話したいまだからこそだが。「みんなのために」という言葉を、素直に口から発する事は出来ない。
「みんな」が、「違う」「怖い」と言う理由で救国の英雄であるネージュを迫害し。
何より死にまで追いやった事が、ファルギオルの再臨と暴虐を食い止められない元凶になった事を思うと。
もう、周囲を一切信用できなくなってきているのは事実だった。
リディーはそういう風におかしくなっているのか。
だとしたら。
おかしくなって良かったと思う。
今後、リディーは。
ただ自分が信じるもののためだけに歩きたい。
その信じるものの中には。
少なくとも、「みんな」を自称する人間は。
きっと含まれていない。
ぼんやりとしていると、スールに呼びかけられた。
一瞬意識が飛んでいたので。
すぐには対応出来なかった。
「リディー!」
「……どうしたの?」
「……何でも無い」
「うん、何でも無いよ」
二人で、チェックする。次の探索に必要な道具類。実験も済ませてある。後は現地での実践。
いつもやってきた事だ。
そしてこれからもやっていく事。
なにも不都合は無い。
スールはさっき、何をあんなに顔をくしゃくしゃにして慌てていたのだろう。
それがどうにも、分からなくなりつつあった。