暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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準備が終わったのでいよいよたのしいバカンスです。

一般的なバカンスと違う?

当社比ではバカンスです。


2、深い深い闇の底

お城のエントランスに、時間通りに集まる。

 

いつもと装備が刷新されていることに気付いたのか。マティアスさんが、真っ先に声を掛けてきた。

 

「ようリディーとスー。 またご機嫌な道具を作ったのか?」

 

「うん、きっと驚くよ」

 

「俺様、今日遺書書いてきたんだ」

 

さらっと言うマティアスさん。

 

唖然としているフィンブルさんの前で、マティアスさんは死んだ目で、もう自棄になっているのかはつらつと言う。

 

「何か海の中に放り出されるんだろ今度の絵。 俺様今度こそ死んだわ。 この間だって、国家予算の十倍って口にしたら、姉貴に踵落とし貰って、頭がくだものみたいにはじけるかと思ったんだぜ。 姉貴って俺様より力持ちでさ、城の床が凹んで大変!」

 

「殿下、少し休んだ方が良いのではないのか」

 

「大丈夫大丈夫。 姉貴の言う事を聞かなかったら確実に殺されるし、それだったらまだ生き残る可能性がある所に行く方が良いから!」

 

重症だなとリディーは思ったが。

 

しかしマティアスさんは、ある意味前向きだ。

 

ルーシャが大きくため息をつく。

 

隣では、無言のままオイフェさんが突っ立っていた。

 

今日は、皆に加えて、ドロッセルさんに来て貰っているが。

 

しかし、本当に都合良く間に合ったのだろうか。

 

深淵の者が手を回したのでは無いのだろうか。

 

そう思えてならなかった。

 

今日のお目付はフィリスさん。フィリスさんとドロッセルさんは、前にも聞いていたが、一緒に戦い抜いた仲らしい。フィリスさんは何とも思っていなさそうだし。ドロッセルさんは、心配の一つもしていないようだった。

 

「海かー。 湖だったら、装甲船にのって、フィリスちゃんと一緒に潜ったんだけれどね」

 

「装備がしっかりしていないと危ないですからね。 わたしもこの間海の中で堤防直したんですけど、時々冷や冷やしましたよ」

 

「うっそだあ」

 

「うふふ」

 

嘘を見抜かれて笑ったな。

 

そうリディーは思ったけれど、あえて口にはしない。

 

アンパサンドさんが咳払い。

 

姿勢を正すと。

 

今回持ち込んだ装備について説明をする。

 

まず絵に入る前に、シールドを展開。ついでに空気を定着させる。

 

そして絵に入った後は、エアドロップを起動。

 

常に新鮮な空気が、シールド内に供給され。

 

そして多すぎる空気は、シールドの外に出るように調整する。

 

なおこの時展開するシールドは、水を防ぐ以上の事は出来ないので、戦闘に関しては基本的にガードが主体になる。道具、特にドナーストーンを主体に用いていくことになる。

 

リディーとルーシャはシールド担当。

 

他の皆は、泡のシールドを突破した獣を、秒で仕留める。

 

それを意識して欲しい。

 

そう説明すると、皆頷く。

 

一応空気シールドの範囲は、それなりに広くしてある。

 

大きすぎる乗り物はエントランスに持ち込めないので、これは仕方が無い。不思議な絵は国宝だし、この警備が厳しいエントランスから持ち出すのは色々厳しいし。

 

ともかく、これから入る事にする事を告げる。

 

マティアスさんが精神的にかなり参っているようだけれど。

 

フィンブルさんがサポートしてくれると此処は信じる。

 

楽しそうにしている海賊達の絵に触れる。

 

次の瞬間には。

 

世界が、いきなり変転していた。

 

今までの不思議な絵画の比じゃない。

 

文字通り、世界がぐるんとひっくり返ったかのようだった。

 

何が起きたのか分からないうちに、灯りが点る。

 

シールドは起動。

 

息は出来る。

 

点呼。

 

全員いる。

 

そして周囲は、既に真っ暗。灯りがなければ、何も見えないだろう。。まずは、事前に想定していたとおり、使い魔を飛ばす。一応灯りは複数用意してきた。しかも、シールドのギリギリに飛ばしている。これは明るい側から暗い方はよく見えなくなるからである。少しでも戦力差を補うためだ。

 

全てはイル師匠と話して決めておいた事である。

 

まず最初にやるべき事は。

 

使い魔を海上まで飛ばして、陸地を探す事だ。

 

そこを拠点に、海を調べる。

 

「ごめんなさいアンパサンドさん。 狭い場所で大型との戦いをさせてしまいます」

 

「そう思うなら、さっさと陸上を探すのです。 或いはもっと戦いやすい環境に切り替えるか」

 

「はい」

 

容赦の無い言葉だが。

 

これはアンパサンドさんだけではなく、全員に危険が及ぶから、の言葉である。

 

それくらいはリディーにも分かっているので、何も言うつもりは無い。

 

アンパサンドさんは厳しい人だけれども。

 

彼女は自分にも誰よりも厳しい。

 

そうでなければ、回避盾なんてリスクが最悪の戦闘スタイルを続けていられない。

 

まず、最初の予定通り、使い魔を飛ばす。

 

その間ルーシャだけがシールドを張る事になるので、緊張が高まる。

 

灯りが照らしている範囲だけでも、相当な数の巨獣が見えているのだ。此処が内海である事を祈るしかない。

 

「今のところ殺気は感じないのです」

 

「急ぎます」

 

海底とはいえ。地下からしかけてくる獣がいるかも知れない。

 

どんどん使い魔を浮上させる。形は四角錐なので、獲物と思われることもないだろう。

 

その間は動けない。

 

灯りに興味を持ってくる獣はいるようだけれど。

 

定期的に海中にドナーストーンを放り込んで起爆させ、追い払う。

 

大きいのが興味を持つ前に。

 

早めに移動しなければならない。

 

「使い魔、海上に出ました!」

 

「陸地は」

 

「……あります、小さめの島! 船……停泊していますけれど、壊れています」

 

「絵に描かれていた海賊船だね。 でもなんで壊れてるんだろう」

 

あくまで脳天気なフィリスさんの言葉。ドロッセルさんは最後の保険。大物が仕掛けて来たときのため、待機して貰う。

 

でも、彼女は此処にいる面子のなかでフィリスさんを除くと唯一、別に何があっても問題なく生還出来る。故に余裕なのだろうとも思う。

 

ちょっとエゴイスティックだとも感じるけれど。

 

それを言い出したら、多分みんな大なり小なりそうなはずで。

 

完全にエゴを排除できた人間がいたら。

 

それは超人か魔物だ。

 

そこまで思って、気付く。

 

ひょっとして、ソフィーさんは。

 

そんな領域まで達しているのではあるまいか。数回しかまだ会っていないが、それでもその推察は間違っていない気がする。

 

ぞっとする。

 

本当に、怪物の掌の上で転がされているのだと、思い知らされてしまうし。

 

何よりも、此処から生きて帰らなければならない。

 

絵では楽しそうにしていた海賊達だが。

 

この絵のなかでは、実際にはどうなっていることか。

 

愉快で話が分かる、芯も持ったピカレスクロマンの海賊だったらいい。

 

此処は不思議な絵画だ。

 

そんなあり得ない存在がいても不思議では無い。

 

そもそも法則が異なる世界なのだから。

 

賊が常に凶悪という訳でも。

 

匪賊のように人を食ったりする訳でも無いだろう。

 

ともあれ、使い魔を少し海上から高い位置に飛ばし。視界をある程度共有しながら、移動を開始する。

 

海底にも深い溝がある可能性はある。

 

使い魔の移動速度と、海上に出るまでの時間を換算する限り。

 

幸い、此処は内海だ。

 

あまりにも非常識すぎる獣はでないと信じたい。

 

アンパサンドさんに言われて、マティアスさんが剣を地面に突き刺し、わかり安く大きな溝を掘っていく。

 

力自慢の(ミレイユ王女は更に上らしいが)マティアスさんだ。

 

柔らかめの海底の岩盤に傷をつけるくらいは問題も無いのだろう。

 

フィリスさんが、時々良い岩とか、珊瑚の類とか。或いは真珠を持っている貝。動きが遅い魚などを教えてくれる。

 

言われるままに捕まえて。

 

荷車に乗せていく。

 

一抱えもある魚も珍しくない。

 

二連結にしている荷車も、もう作ってからだいぶ時間が経つし。

 

そろそろ改良を加えて、全自動式にしたい所だ。

 

この探索が終わったらそうしよう。

 

そして、全自動式にした後は。

 

飛行キットのレシピを入手して。

 

空を飛べるようにもしよう。

 

それで探索がぐっと楽になるはずだ。

 

かなり光が届くようになって来たので。

 

灯りを一旦消す。

 

そうすると、海面が頭上に見えてきた。

 

かなり浅いが、それでも水深はリディーの背丈の三十倍から四十倍というところだろうか。

 

出来るだけ急いで、砂浜に通じている地点か。

 

或いは陸にでられそうな場所を、見つけるしかない。

 

灯りは今の時点では必要ないだろう。

 

周囲に最大限の警戒を続けながら。

 

できる限り気配を消して、そろりそろりと歩く。やはり遠くに、とんでも無く巨大な獣が、悠々と泳いでいる。

 

あんなのに襲われたら、総力戦になるし。

 

勝てたとしても消耗しきって、撤退しなければならなくなる。

 

そんな事になったら、ここに来た意味がなくなる。ドロッセルさんがいても同じ事だ。

 

ともかく、急ぐ。

 

「こっちは駄目だな。 崖になっているようだ」

 

フィンブルさんが言う。

 

一番目が良いフィンブルさんの言葉だ。使い魔と視線をリンクして、良さそうな場所を探すしかない。

 

少し島への移動経路を変えて進むが。

 

しかしながら、いきなり。

 

殆ど瞬くような速度で、尖った魚が突貫してきた。

 

ルーシャよりも先に、オイフェさんが動く。

 

彼女が凄まじい勢いで、手刀で海底に叩き落としたそれは。

 

長槍のように尖っていて。

 

殺意の塊のような形状をしていた。

 

大きさはリディーの背丈ほどもある。

 

フィンブルさんがぼやく。

 

「これは、たまに網に掛かる奴だな。 海中ではこんなに速く動くのか」

 

「攻撃性も高く、あの位置から此処まで飛んでくると言う事でもあるのです」

 

「全方位警戒してください」

 

まだぱたぱた暴れている魚をマティアスさんが真っ二つにすると。

 

荷車に乱暴に放り込む。

 

あんなのに周囲から波状攻撃でもされたらたまったものではない。空気を封じているシールドの強度は、移動速度との兼ね合いもあって、あまりあげる事が出来ない。獣も自由に入ってこられるという事を意味している。

 

また、尖った魚が飛び込んでくる。

 

それも二回連続。

 

ルーシャがシールドを展開するが、魚はシールドに突き刺さった。

 

ルーシャのシールドは、ある程度自壊することで、致命打を避ける仕組みになっているようなのだけれど。

 

それでもこんなサイズの魚が、半ば貫通するなんて。

 

流石に魔境で生きているだけの事はある。

 

ドロッセルさんは即応していて、もしルーシャのシールドがもたなくても、多分対応してくれてはいた。しかし、それでもひやりとした。

 

もう一方から飛んできた魚は、一瞬でアンパサンドさんが首を叩き落とし、更に通り過ぎた瞬間に海底に蹴り落とした。

 

その結果、荷車に胴体だけがぶつかり。

 

頭が高速で海底に突き刺さった。

 

そう、海底に突き刺さるほどである。これは下手な金属製の剣よりも、危険なのではあるまいか。

 

予想は当たる。

 

移動しながら、この魚の警戒をしなければならず。

 

そして、六回に渡って襲撃を受ける。

 

昔だったら、スールと抱き合ってぴーぴー泣いていたかも知れないが。

 

今は恐ろしいとは感じても。

 

心を折られるような事は無かった。

 

ドロッセルさんも、本当に危ないときは動いてくれたし。本当に料金分の仕事はしてくれる。

 

冷静に、丁寧に敵襲に応じながら、島の近くまで移動。

 

「此処も駄目だ。 先にクレバスがある」

 

「ありがとうございます、フィンブルさん。 もう少し東に迂回しましょう」

 

「……海の中が厄介だと言う事は知っていたし、漁師達の話も聞いていたつもりだったんだがな。 やはり話半分だったんだろう。 海に落ちたらまず助からないという言葉は、これを見る限り本当だな。 しかもこの絵の世界は、まだ手心が加わっている可能性が高いんだろう?」

 

フィンブルさんが牙を剥いて周囲を見る。ドロッセルさんが苦笑い。多分湖に潜ったという話からして、その時の状況と比べているのだろう。

 

一瞬も油断できない場所。

 

そう態度で示すことで、周囲に警戒を促している。

 

クレバスを迂回して、巨大なクラゲが泳いでいるのを横目に行く。

 

海中産の亀らしいのが、そのクラゲを一瞬にして捕食。

 

人間の数倍はありそうなサイズだったのに。

 

横殴りに一口である。

 

ぞっとするが。

 

今は相手にしていられない。

 

クレバスを抜ける。

 

上り坂になっているので、そのまま移動し、ほどなくどうやら海岸に出られそうな場所だと判断した。

 

まず海岸に出てから。

 

その後は、来る途中の経路に、剣で溝を掘りつつ。

 

何カ所かに、持ち込んである杭を打ち込んでいく。

 

これは最短経路を先に確保しておくためで。

 

イル師匠とも、事前に打ち合わせはしておいた。

 

何かあった時のためにも。

 

どうせ島に上がってからが本番なのだろう事も考えて。

 

島までの経路については、しっかりと何も考えずとも、移動出来るようにしておくためである。

 

「息が苦しくなったりはしていないですか?」

 

「問題ない」

 

「大丈夫なのです」

 

「……探索を続けます」

 

ヒト族であるリディーは大丈夫。

 

獣人族であるフィンブルさんも、ホムであるアンパサンドさんも平気。

 

魔族の戦士が来ていたら、また話を聞かなければならなかっただろうけれど。今此処にはいないので気にしなくてもいい。

 

ただ今後の事を考えて。

 

少しでもデータは増やしておいた方が良いだろう。

 

最初に絵の中に出現する地点まで戻った。

 

ほぼ直線で、あの島まで行く事が出来る。最初に彫った溝の方は、×印をつけておく。これで間違うことも無いだろう。

 

一度、絵の外に出て。

 

シールドを解除。

 

ひっきりなしに、あの剣のような魚の襲撃を受けたこともある。

 

あと、水に濡れてはいるけれど、かなりの数の鉱石も手に入った。

 

乾かしてみないと何とも言えないけれど。

 

これ、プラティーンの鉱石ではないのか。

 

だとしたら、有り難い話である。

 

軽く、外で反省会をする。

 

最初にアンパサンドさんが、提案。

 

「他の錬金術師への注意喚起を幾つかした方が良いのです」

 

「はい。 受付で話してみます」

 

「それとさリディー、あの灯り。 多分だけれど、いる場所を教えているようなものだし、もっと離した方が良くない?」

 

「……でもそうなると、水中になっちゃうね」

 

それがネックだ。

 

前の避雷針も、雨の中で使う事は想定していたから、耐水性は持っている。それも結構な強さで、である。

 

しかしながら、海の中に放り込んで無事かどうかは何とも判断が出来ない。

 

今回はまだ余力がある。

 

一旦島にまで出て。

 

其処で状況確認するまでは、探索を進めておきたい。

 

ドナーストーンもまだまだ在庫があるし。戦利品を積み込んでいる荷車にも、まだ充分な余裕がある。

 

いずれにしても、初探索のチームがレポートを出すまで、次の錬金術師が入るような事は多分ないだろう。

 

事前に誰かが入った形跡はあるが。

 

すぐに引き返したか。

 

或いは、アドバイスなんて必要ない実力者とみて間違いなさそうだし。

 

そのまま、もう一度絵の中に。

 

幸い、植え込んだ杭と、溝は、きちんと残っていた。

 

杭に関しては、合金を用いているので、ちょっとやそっとでどうにかなるほどヤワではないし。

 

壊れることは、気にしなくても良いだろう。

 

移動開始。

 

やはり、立て続けにあの長槍のような魚が襲ってくる。全方向を、常に警戒しなければならなかった。

 

それに現時点では襲ってこないが、巨大なクラゲや大亀もいる。

 

此奴らも、近付きすぎれば襲ってくるだろう。

 

リディーの至近。

 

シールドでかろうじて弾くが。

 

一瞬反応が遅れていたら、顔面に魚が突き刺さっていた。

 

流石に冷や汗が出る。ドロッセルさんが前に出てくれてはいたが。それでも、冷や汗が出るのに変わりは無かった。

 

本当に殺意が高い生物だ。

 

こんなのがうようよいて。

 

しのぎを削っているのだとしたら。

 

しかも大きさからして、大して強い方の獣でもないだろう。それは、人間なんてお断りになるわけである。

 

呼吸を整えながら、移動を続ける。

 

魚を三十匹ほど返り討ちにした頃だろうか。

 

やっと、最短経路での。

 

上陸に成功していた。

 

 

 

砂浜に上がる。

 

海岸には、滅茶苦茶に壊された船。わかり安い髑髏のマークを掲げていて。大砲も載せているようだった。

 

おーとドロッセルさんが手をかざし。そして人形劇に生かすのか、メモをとっていた。

 

大砲は確か、そこそこ大きな街などでは、防衛用の兵器としておかれているらしいのだけれども。

 

高価な割りに火力が微妙で。

 

何処の街にもある、と言うわけではないようだ。

 

陸上に上がった所で、どうせレンプライアがウヨウヨいるのは避けられないだろうし。

 

周囲を警戒しつつ、まずは船を確認する。

 

難破したのか。

 

そういえば、磯の辺りで、座礁している。

 

あれでは復旧は難しいだろう。

 

しかも、壊れてから相当時間も経っている。

 

船には竜骨という、背骨に相当するような場所があると聞いているが。

 

それもあの様子では駄目になっていること疑いない。

 

「よう、俺の島に何か用か?」

 

いきなり掛かる声。

 

そこにいたのは、わかり安いラフな格好をして。腰にサーベルと拳銃を差した、いかにもピカレスクロマンに出てきそうな海賊。

 

ただし、白骨だった。

 

白骨が喋っている。

 

昔だったら、スールは泡を食ってそのまま逃げようとしただろうが。

 

今は、そこそこ平気なようである。

 

警戒する皆の前に、白骨は余裕の体で歩いて来る。

 

不意に、真横から飛びかかってくる小さなレンプライア。一番小さい、小型の球体みたいな奴だ。

 

それを目にもとまらぬ速さで斬り伏せ、更に撃ち抜く海賊骸骨。

 

ひゅうと、口笛を鳴らしたつもり、なのだろう。

 

骨の間を、何か風が吹き抜けたように聞こえた。

 

「カカカカッ、相変わらず何処にでも湧いてくるなこの黒いの!」

 

「貴方は?」

 

「俺か? 俺はキャプテンバッケン。 七つの海を股に掛ける、火あぶり海賊団の船長よ!」

 

「海賊……」

 

アンパサンドさんが目を細める。

 

騎士と賊は敵同士だが。

 

まあ絵の中でまで対立することもないだろう。それに、何より相手がどんな賊なのかも分からない。

 

匪賊同然の輩なら殺す必要があるが。

 

そうでないなら、別に命の取り合いなど必要では無い筈だ。

 

なおドロッセルさんは平然としているが、実力故の余裕だろう。

 

「おー。 お前は何か前に来た奴に似ているな。 そこのちっこいの二人!」

 

「?」

 

「いや、ホムのほうじゃねえ。 お前達だ」

 

「私と、スーちゃんの事ですか?」

 

そういえば近づいて見ると分かるが、このバッケンと名乗る海賊、かなり背が高い。まあちっこいのと言われるのも仕方が無いか。

 

バッケンはカカカと特徴的に笑いながら、友好的に近付いてくる。

 

「よーし決めたぞ。 お前達、これから俺の子分CとDな!」

 

「ええと、子分AとBは……」

 

「ずっと前にこの島を訪れたのが二人いてな。 何かそいつらと雰囲気が似てるからよ、子分CとDだ。 子分Aの方は、たまにまだ遊びに来るんだぜ!」

 

錬金術師、だろうか。

 

一瞬フィリスさんを見たが。

 

バッケンの言動を見る限り、多分フィリスさんではないだろう。

 

ソフィーさんとも思えない。

 

そうなると。

 

誰かが絵のなかに入った事がある、と言う事か。

 

だとすると、相当な腕前の錬金術師の筈だ。この絵が国宝として飾られる前に入ったのか、それとも。

 

よく分からないけれど。

 

兎も角、今は順番に話を聞いて。

 

状況を処理していくしか無い。

 

「あの船が、バッケンさんの、ですか?」

 

「ああ。 この島に伝説の宝がある事は知っていたんだが、多分船がもう限界だったんだろうな。 部下達も殆どここに来るまでにやられちまって、七つの海を股に掛けた海賊であるこのバッケン様もこの様よ。 まあ海賊家業は思う存分やれたし、何も気にすることはないけどな! カカカカ!」

 

「随分と脳天気な海賊なのです」

 

「んー? お前は騎士か。 ホムの騎士なんて初めて見るな。 しかも結構出来ると見た」

 

アンパサンドさんが目を細めるが。

 

バッケンにやり合うつもりは無い様子で、ほっとする。

 

今の動きを見る限り。

 

バッケンはかなり強い。更に、島の状況も分からない。今、戦うのは得策では無い。

 

「海岸で話し込むのも何だ。 俺が使ってるキャンプがある。 其処で話すとしようや」

 

促されて、ついていく。

 

今までの他の不思議の絵画でもそうだったけれど。

 

今回も、まずは住人と話をする。

 

全ては、其処からだ。

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