暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
何をやっても駄目だった。
ロジェは今でもよく覚えている。
天才などとうぬぼれていた覚えは無い。
しかしながら、何処かで自分は天才だと思ってしまっていたのだろう。
ライゼンベルグで厳しい試験を突破して。
公認錬金術師になって、アダレット王都に凱旋した。
その時にも、あまり考えていなかったから。
ヴォルテール家に、血の雨を降らせるところだった。
兄に言われた。
お前は肝心なところでものを考えていないなと。
その通りだと反省した。
そして、思い知らされることになる。
妻オネットが大病になった。
後で知ったが、それは流行病などではなかった。
だが当時はそれさえ分からず。
効きもしない薬を作っては。オネットの病状が悪化するのを見て、自信を根底から覆されることになった。
そしてその時に思い知ったのだ。
根拠の無い自信をずっと抱いていて。
それが力になっていたのだと。
やがてオネットが命を落として。
ようやく悟ることになった。
才能はあるかも知れない。
だが噂に聞く特異点のようなスペシャルでも無いし。
伝説に残るネージュのような勇者でも無い。
ただの、ちょっと小器用なだけのバカだったのだと。
それ以来、指が震えて調合が出来なくなった。
酒にも溺れた。
オネットの忘れ形見である双子に暴力を振るうほど落ちはしなかったが。それでも、自棄になって毎日を過ごした。
絶望の中、更なる絶望を見る。
双子が、あの特異点に目をつけられ。
掌の上で転がされているという、悪夢のような現実だった。
特異点の噂だけは知っていた。
恐らく、世界史上最強の錬金術師。邪神すらも単独で倒すという、文字通り錬金術と言うものの概念を根底からひっくり返しかねない怪物。
何とかしなければと挑んではみたが。
悉く押さえ込まれてしまった。
ならば。奴の計画を崩すためには。
もう双子の錬金術師としてのプライドを揺らすしか無い。
双子にはある程度の錬金術師としての才能があるのは分かっていたが。
それでも所詮は乗せられているだけ。
お膳立てをされているだけ。
根底を揺らしてやれば。
実力の程を思い知って。結果として、あの特異点の恐怖からも逃れられるはずだ。
だからロジェは、まずさび付いた腕を、鍛え直すことにしたのである。
今、手伝いをしているのは、公認錬金術師の一人。アダレットの人口一万都市の一つで、アトリエを開いている錬金術師である。
アダレットに請われて来てくれた人物で。
まだ若いのに、全盛期のロジェを超える実力だ。
昔、これくらいの実力があれば。
ロジェだって、オネットを死なせなくても済んだのかも知れない。
そう思うと。
手伝いをしながら、昔の自分を全力で殴りたくなる。
だがそれをぐっと堪えて。
作業をひたすらに続け。
錆を落としていく。
ロジェよりも十も若い錬金術師は。
ロジェが年上で経験豊富だと言う事もあってか。さんづけで読んでくれる。出来た存在である。
なおまったくもてないが、それはこの男性錬金術師が、お世辞にも美男子とはいえないからだろう。
顔さえ良ければ。
そんな声を周囲で聞く。
馬鹿な連中だとロジェは思うが。
それを口にしなかった。
本人も気にしている様子は無い。
であるからこそ、わざわざ錬金術師が差別されている面もある、アダレットに足を運んでくれたのだろうが。
「ロジェさん、この中和剤流石ですね。 次はナイトサポートをお願いします」
「はい。 この素材で作れるだけ、ですね」
「その通りです。 僕は少し街長と話してきますので」
「では仕事をやっておきます」
良い腕の錬金術師だが。
街長とは必ずしも良くやれてはいないらしい。
だがラスティンでも、公認錬金術師と街長が上手く行かないケースもあるらしいので。これは仕方が無いのだろう。
釜は二つあるが。
一つはお古のものである。
だが、それくらいで丁度良い。
黙々とナイトサポートを作る。
もっと高度な薬も作れるけれど。
少しずつ、確実に錆を落としていかなければならないのである。今は、こうやって、基礎からやり直しだ。
夜遅くになって。
アトリエの主が戻ってくる。
飲めるわけでも無い酒を飲まされて。
うんざりした様子だった。
「ナイトサポート、上がっていますよ」
「ああ、助かります。 アトリエランク制度には参加していないんですが、一応これだけは絶対に作って欲しいと言われていましてね。 他にも幾つか作りたいものがあるので、助かります」
「いいえ」
「ロジェさんは腕を取り戻している最中と見ます。 昔はもっと高度な薬も作れたんじゃ無いんですか」
見透かされているか。
苦笑いすると。
錬金術師は、酔い覚ましを飲み干す。
「良いんですよ。 手酷い挫折をしても、立ち上がろうとしている。 立派じゃないですか。 僕の両親は結局最後まで立ち上がれませんでした。 若い頃に挫折を経験しなかったのがまずかったんでしょうね」
「……」
「腕を取り戻すまでで良いので、此処にいてください。 頼りにさせて貰いますよ」
良い人だ。
もう少し、自分が身の程をわきまえていて。
そしてこの人くらい、謙虚で。
何より、根拠の無い自信で自分を支えていると、気づけていたら。
あんな醜態の数々を見せる事もなかったのに。
酒に溺れて。
双子を悲しませることも無かったのに。
いや、そもそも。
オネットを死なせる事だって、無かっただろうに。
今はただ、腕を磨くのみ。
双子を、あの特異点の魔の手から解放する。
その目的を果たすまでは。
何があっても、ロジェは死ぬわけには行かなかった。
(続)
楽しいバカンスの裏で。
地獄を見ている人もいます。
なお小ネタですが、本作では子分のナンバーに注目すると……