暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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明確な才覚の差にスールは気づき始めています。

雷神戦で決定的に壊れた双子ですが。

深淵はまだ入口に過ぎないのです。


1、外せないお仕事

城門で待っていた、マティアス、アンパサンドさん、フィンブル兄と。

 

ドロッセルさんと合流。

 

今回はルーシャはいない。ルーシャは、別方向の作業にかり出されているらしい。ルーシャは頼りになるので、いないとちょっと不安だけれど。

 

代わりに現地にパイモンさんがいる。現地にはフィリスさんもいるらしいので、戦力に不安は無いだろう。

 

とりあえず、皆に見せる。

 

完成した全自動荷車である。

 

しかも二連。

 

これで、以降は荷車をスールが引かずに良くなる。

 

結果として手数が空き。

 

戦闘でも、初動で多くの火力を敵に浴びせることも出来るし。

 

何より装甲の要所をプラティーンに変え。

 

更に車軸などを鍛冶屋の親父さんにバージョンアップして貰った事もあって。

 

荷車としての信頼性は、更に増している。

 

作業の軽い確認をした後。

 

城門での手続きを終えてくれていたマティアスと合流。

 

流石にこれは顔パスとはいかない。

 

手続きをした後、皆で森の中を走る。

 

今回は、かなり大規模なインフラ整備らしく。

 

コレが終わらないと、そもフィリスさんも、海の絵に同行してくれない、と言う事だった。

 

まあそもそも、フィリスさんは見張り役。

 

ドラゴン戦で主力として活躍してくれるようなこともないだろう。

 

そもそも、あの人がドラゴンごときに遅れを取るとも思えないし。

 

戦力としては数えられない。フィリスさんは文字通り見ているだけ。ブレスの直撃を受けても、傷一つつかない可能性さえある。

 

森の中を走る。

 

飛ぶように走るが、リディーは普通についてきている。

 

ドロッセルさんが、軽くついてきながら教えてくれる。

 

「全自動式に手が出せたなら、次は空飛ぶ奴だね。 また難易度がかなり上がる事になると思うけれど」

 

「レシピそのものは買いました。 ちょっと今は厳しいですね」

 

「だろうね」

 

この人はフィリスさんと一緒に戦っていたらしいし。

 

実物も見ているのだろう。

 

走りながら、森を抜ける。

 

さて、此処からは事前に決めたハンドサイン通りに皆で動く事になる。

 

獣はいつ仕掛けて来てもおかしくない。

 

幸い蠢動していた匪賊は騎士団があらかた片付けてくれてはいるらしいのだけれども。獣はそうもいかない。

 

時々しかけてくる獣はどうしてもいるので。

 

その度に足を止めて駆除。

 

ささっと捌いて。

 

毛皮や肉を処置。

 

そしてまた走り出す。

 

獣は見かけ次第、出来るだけ倒しておいた方が良い。

 

街道まで出てくるような危険性があるわけだし。何よりも放置しておくと危ないからだ。

 

普段は行かない方向の街道に行く。

 

山深くなってきた。

 

荷車は平然と着いてくる。

 

問題は、獣がどんどん大きくなってくることで。

 

戦闘の痕跡らしいものも、彼方此方で見受けられた。これは、人夫が移動するのを騎士団が護衛して。

 

獣を撃退しながら進んだ跡と見る。

 

怖いなあと素直に思ったけれど。

 

戦うすべが無い人はもっと怖かったはず。

 

貧困層の子供などにも、人夫としての仕事はある。

 

主に全自動荷車を扱うのは、力が無い子供や老人だ。

 

つまり、騎士団が獣を取りこぼせば。

 

そういう子供や老人が、獣の爪や牙に掛かる、という事である。誰も犠牲になっていないことを祈るしか無い。

 

アンパサンドさんが手を横に出して、自身は横っ飛び。

 

丁度岩で視界が防がれている場所で。

 

左右から、どっと獣が襲いかかってくる。

 

右にアンパサンドさんが。

 

左にはドロッセルさんが飛んで、それぞれ獣を食い止め始める。獣の中には、巨大なグリフォンもいる。

 

巨大な蛇や百足、蠍などに前衛を攻撃させ。

 

グリフォンは上空から、一気に錬金術師を狙おうとしたようだが。

 

スールは無言で、ルフトアイゼンを放り込んでいた。

 

爆裂した風圧が、グリフォンのシールドを貫通して、翼をへし折る。だが、それでもグリフォンは墜落せず、空中から雷撃で反撃してくる。

 

リディーがシールドを張って雷撃を完璧にそらすと。

 

シールドが消えると同時に、スールが連射連射連射。翼を穴だらけにする。流石にこれにはどうしようもない。。

 

悲鳴を上げて、絶叫しながら落ちてくるグリフォンを。

 

即応したマティアスが、跳躍しながら切り上げる。

 

落ちてくる勢いと、マティアスの腕力が完璧に合わさり。

 

地面に落ちたグリフォンは、体を真っ二つにされていた。

 

残りも大型の獣ばかりだったが、一匹も残さず全て蹴散らし、皆殺しにして戦闘終了。フィンブル兄が、ハルバードを振るって血を落とす。

 

けが人を確認。

 

アンパサンドさんは、四匹以上の大型を常に相手にして、気を引き続けていて。

 

それでも無傷で生還している。

 

とはいってもこの人の場合、傷を受けたらそれが即死につながるわけで。

 

無傷で無ければ相当に危ないのだが。

 

すぐに処置を始める。

 

途中の移動は、今までよりもずっと早いけれど。

 

こうやって、危険な獣がでる地点を通らなければならないから、結局どうしても時間は掛かる。

 

騎士団の護衛を受ける訳にもいかないし。

 

この辺りは、どうしても厳しい所だった。

 

荷車を直接引かなくても良い事だけはありがたいが。

 

それくらいしか利点はない。

 

まあ、荷車の装甲を盾にも出来ると考えて。

 

多少は妥協するしか無い。

 

「戦闘に関してはかなり安心感が出てきたが、この先はもっと危険だと考えて手を抜くなよ、スー」

 

「うん、分かってる」

 

「殿下も、そろそろアタッカーとして意識してみてはどうだろうか」

 

「俺様がアタッカー? うーん、たまーにチャンスがあればそう動きたいとは思うけどなあ、やっぱ怖いし……」

 

フィンブル兄が頭を振る。

 

情けない、というのだろう。

 

まあ、それについては仕方が無い。

 

ただ、マティアスの馬鹿力を生かせれば、或いは戦闘がもっと有利になるかも知れない。しかしながら、マティアスが展開するシールドは、非常に強力なのも事実で。そうなると、代わりに何か守りが必要になってくる。

 

戦略から練り直さなければならなくなる。

 

ただでさえ、現時点でリディーの負担が大きいのだ。

 

魔術を色々切り替えながら戦っているが、それは常に複数の魔術を使えることを意味はしない。

 

スールが守りに入るのは本末転倒。

 

そうなると、やはり司令塔としてリディーが更に成長して。

 

守りと攻めを意識して、切り替えながら戦闘を更にスムーズに回していくしかない、と言う事か。

 

街道を更に行く。

 

緑化された道が見え始めて、ほっとする。

 

手を振っているのはオスカーさんだ。どうやら、この辺りを緑化しているらしい。久々に顔を見たので、安心した。

 

もう少し先で、フィリスさんが大規模なインフラ整備をしていると言う。

 

手間がたくさんかかっているし。

 

何より騎士団の護衛では足りていないとかで。

 

すぐに向かって欲しい、と言う事だった。

 

オスカーさん自身は、護衛なんてたくさんは必要ないのだろう。一人で黙々と土いじりをしている。

 

一応騎士達が警戒をしているが。

 

それほど心配はしていない様子だ。

 

まあフィリスさんと協力してインフラ整備をしていた、という話である。

 

オスカーさんが声を荒げる所は殆ど見ないが。

 

この人が戦闘力においても相当に優れている事は、何となく想像もつく。生半可な騎士よりずっと強いだろう。

 

だったら、見張り以上の事を、騎士がする必要はない、と言う事だ。

 

低木で守られた街道を走る。

 

やがて低木が木になり。緑できちんと街道が守られるようになってくると、完全に空気が変わった。

 

獣がしかけてくる可能性はなくなり。

 

人が行き交っている。

 

指定された通りに土砂を捨てたり。

 

或いは、食糧や水を配布したり。

 

様々な作業を人夫がしていた。

 

向こうで、凄まじい音がして。大きな岩が、真っ二つに割れる。

 

文字通り小山のような大きさだったのだが。それが一瞬で、真っ二つである。

 

思わず瞠目するが。

 

もう慣れているようで、人夫達は黙々と働き続けていた。

 

とりあえず、フィリスさんの手伝いをさっさと済ませなければならない。

 

騎士団の詰め所に行って話を聞くのが一番早いだろう。

 

もたついている暇は無い。

 

ドラゴン戦の事も考慮すると。

 

あまり時間はないのだから。

 

 

 

パイモンさんと合流してから、手伝いを開始する。リディーとスールが到着してから、人員が他にも動いたようだ。戦略的に色々人を動かしているのだろう。

 

フィリスさんは無心につるはしを振るっていて。つるはしで巨岩どころか、岩山を粉砕していた。

 

冗談のような光景だが。

 

本当なのだから仕方が無い。

 

破壊神という二つ名は伊達では無いなあと思う。弓矢なんか使わず、つるはしで戦った方が余程強いのではあるまいかとも思う。

 

弓矢でもネームドを殆ど一方的に叩き伏せていたが。

 

それでもあの人にとっては、余技に過ぎないのではと感じるのだ。

 

騎士団の詰め所では、騎士隊長をしている魔族の騎士に言われる。

 

「フィリスどのには近付かないように。 基本的に作業中は殺気立っていて、下手な事を聞くと叱責ではすまされん。 周囲にフィリスどのが連れてきている護衛らしい傭兵がいるから、彼らから話を聞くことになる。 それによると、君達はこの地点を護衛して欲しい、と言う事だ」

 

そう言われたのは。

 

途中、人夫が行き交っていた場所ではなく。

 

今激しい土木工事をやっている地点とは全く違う、人気のない森の外側。

 

川が森に流れ込んでいて。

 

インフラ整備を行っている地点の、水源になっていた。

 

この辺りの川から、どうも大型の獣が作業場に入り込もうとしているらしい。

 

森を傷つけないように、川から入り込んで、人夫を襲おうというつもりらしかった。

 

騎士団は手が足りない。

 

だから手配された、というわけだ。

 

そもそも今回の作業は、街を守るのでは無く。要所となる宿場町を新たに作る仕事で。フィリスさんは文字通り山を粉砕して、道を作っている、という事である。

 

粉砕した山は何処とも無く運ばれて行っているらしく。

 

人夫が捨てている土砂は、更に固めて後で活用するらしい。

 

街を作るのにも使うのかも知れない。

 

いずれにしても、危険な街道を少しでも減らし。

 

主要都市に何かあった時のためにも。

 

フィリスさんのお仕事は必須、という事である。

 

そして、今の時点では。

 

スールには、そのお手伝い、くらいの事しか出来ないというわけだ。

 

川はそれほど大きくは無いが。

 

水中の獣は、基本的に強い。

 

魔術で結界が張ってあって、獣が近付けば分かるようになっているので。

 

常に見張り。

 

獣が近付いたら追い払う。

 

追い払えないようなら殺す。

 

そうして、二日を過ごす。

 

念のため、持ち込んだシールド発生装置も使って、キャンプを守るけれども。

 

かなり頻繁にアラームが鳴るので。

 

休む暇も無かった。

 

近付いてくる獣も、相当数の人間が働いているのを気付いているのだろう。

 

まあ、あれだけ派手に山が崩されていれば、その音で嫌でも分かる、というものだけれども。

 

二日間、交代で見張りを続け。

 

追い払えない獣との交戦回数は二十回を超え。

 

獣を倒して捌いている間に次のがきたりして。

 

まったく休む間もなかった。

 

見かねたかドロッセルさんが、一人で見張るから休んでいて良いと途中で言い出したが。それは流石に心苦しい。

 

人間用の栄養剤を胃に流し込んで。

 

見張りを続ける。

 

マティアスが、見張りを続けながらぼやく。

 

「本当に二日で終わるのかよ……」

 

「世界最高の専門家が言っているのだし、信じよう殿下」

 

「……わしはフィリスどのと一緒に旅をした事があるのだがな」

 

不意にパイモンさんが言う。

 

普段、滅多に自己主張はしないので。

 

見張りをしながら驚いた。

 

「最初はとにかく頼りなくてモヤシとか呼ばれたりしていたが、途中からは本当に素晴らしい錬金術師になってな。 今ではほれ、見ての通り、つるはしで山を崩すほどにも成長している」

 

「うん、成長しすぎ……?」

 

「錬金術は神域の技だ。 そしてわしには、結局此処までしかこれなかった。 一緒に旅をした若き天才が、何処までも成長して行くのを見るのは、本当に心地が良いことだ」

 

そうか。

 

この人は出来た人なんだなと、本当に思う。

 

後輩が圧倒的な高みに登っても、嫉妬しているどころか、むしろ一緒に旅したことを誇りにさえ思っている。

 

どれだけの人が。

 

この人と、同じように考えられるのだろう。

 

やはり「みんな」には到底無理だ。

 

リディーは洗脳してでも、と口にしたが。

 

スールには、「みんな」をどうにかするのは、やっぱり無理だとしか思えない。

 

かといって、リディーの言う事も分かるのだ。

 

人間全部と面接する訳にもいかない。

 

いずれにしても、仕事はきっちり終わらせる。

 

ネームドこそでなかったものの。

 

大きな獣ばかりでて。二日で本当に激しく消耗し。全てが終わった事を告げるように、フィリスさんが来る。

 

「はいお疲れ様。 わたしの出番終了。 もう大丈夫だから、上がって良いよ」

 

「ありがとうございます……」

 

「パイモンさんは流石ですね。 わたしと旅していたときも元気でしたけれど、アンチエイジングしてからますます元気」

 

「ふふふ、まだまだこれからよ。 ひょっとしたら才能の上限を引き上げる方法だってあるやもしれんしな。 外法以外でもしそういった方法があるのであれば、是非ともやってみたいものだ」

 

パイモンさんに対して、フィリスさんは言葉遣いが丁寧だ。

 

一緒に旅して。

 

何度も助けられたから、なのだろう。

 

パイモンさんも世界を代表する賢者に対して言葉遣いが砕けている。

 

その成長を、側で見続けてきたからなのだろう。

 

すぐに切り上げて帰る。

 

荷車は、積載量ギリギリまで肉やら骨やらを積んでいたので。

 

途中で、新しい宿場町を作っている騎士団に、殆ど引き渡してしまう。食糧になるからである。

 

向こうは喜んでくれた。

 

変わりにと、フィリスさんがくれたらしい鉱石を分けてくれる。

 

いずれも相当な品質のものばかり。

 

あれだけ派手に山を崩していれば、それはこんな良い鉱石も出てくるのだろう。大量の燻製肉と引き替えだから、ほんの少しだけだったが。それでも充分すぎるくらいである。それに、此方としてもこんな大量のお肉は持ち運ぶのが負担でならない。いわゆるどっちも嬉しい交換だ。

 

後は、引き上げるだけだが。

 

パイモンさんは、すぐに次の仕事が入っているらしく、王都に戻る前に別れる。

 

あの人は、その辺の獣に敗れるほど弱くは無いだろうが。一応、ちょっとだけ心配になった。

 

しかし、それも一瞬に過ぎなかった。

 

なんと、自前の何か道具を取り出すと、それに乗って飛んで行ったのである。今まで使わなかったのは、見た感じ一人乗りだからか。

 

「あんな隠し札を持っていたのか。 流石は歴戦の錬金術師だ」

 

「てかもう何というか……人間?」

 

「マティアス」

 

「あ、すまん。 そうだな、そういう風に考えた奴が、ネージュをあんなめにあわせたんだもんな。 今のは失言だった」

 

素直に頭を下げるマティアス。

 

それ以上怒る気にはなれなかった。

 

マティアスは、ネージュに首まで差し出す覚悟だったのだ。

 

本当に謝っているのは分かったし。

 

それ以上追求するのもいけない。

 

後は、無言で王都に戻って、其処で解散。

 

全自動式荷車の初陣としては、殆ど完璧だった。

 

続いて、少しずつ続けていた布の研究。

 

まずはモフコットからやって見ろとイル師匠に言われていたとおり、其処から初めて見ることにする。

 

後は、ドラゴンとの戦いに備えて、情報収集。

 

雷神は極限まで弱体化していたから勝てたのであって。

 

相手はいつでも海に逃げ込める状況。

 

弱体化もしていない。

 

戦いは、同じくらいは厳しくなるかも知れないし。

 

工夫次第では、もっと簡単に済ませられるかも知れない。

 

一つ、試してみたいことがある。

 

スールは、リディーに提案。

 

しばらく悩んだ後、リディーは頷いてくれた。

 

「分かった。 でも、無理はしないでね」

 

「せっかくドロッセルさんを雇ってるんだし、活用しないと。 じゃあ、さっそく行ってくるよ」

 

「あ、待って」

 

待たない。

 

何だかスールは、自分でも自覚しているけれど。

 

生き急ぎ始めているのかも知れない。

 

スールは、パイモンさんほどの器は持っていない。

 

後輩に追い抜かれても、誇りに思えるほどの人物じゃ無い。

 

「平均的な人間」は軽蔑できるようになった。

 

気持ち悪いという理由だけで相手を殺傷し。

 

命の恩人を死に追いやるような輩では無いと今では言える。

 

でも、それでも、あれほどの領域には行けない。

 

だから、少しでも。

 

これ以上リディーに離されないためにも。

 

頑張らなければならないのである。

 

夕食中のドロッセルさんの家に出向き。明日の朝、ちょっと実験につきあって欲しい旨を告げる。

 

ドロッセルさんとフリッツさんは、小首をかしげ。

 

そしてフリッツさんが咳払いした。

 

「君は確か、今日結構な仕事から戻ったばかりだろう。 少しは休まないと、体を壊してしまうぞ」

 

「大丈夫です、体力だけが自慢です」

 

「……分かった。 ただ、実験は明後日の朝」

 

「え……」

 

ドロッセルさんの目は。

 

驚くほど冷たかった。

 

ひ、と悲鳴が漏れ掛かる。

 

フリッツさんも背中を壁に預けていて。腕組みしたまま、一切口出しをせずに見守っている。

 

スールに非がある。

 

それは分かったけれど。

 

理由が分からない。

 

ただ、はっきりとした拒否は感じた。そして、それがとても悲しくなった。

 

「今日の夜は休んで、明日気分を入れ替えて。 実験にはつきあってあげるけれど、焦ると絶対に碌な事にならないよ」

 

それだけ、ドロッセルさんは言う。

 

返す言葉も無い。

 

焦っている、か。

 

そのままとぼとぼとアトリエに戻る。

 

感情が薄くなってきているのは感じているけれど。

 

それでも悲しかった。

 

見透かされたし。

 

何より焦っているという図星を、思い切り突かれたからだろう。

 

このまま、スールはリディーに一生追いつけないかも知れない。もしかしたら、当て馬としての人生だけが待っているのかも知れない。

 

そして改めて思い知らされる。

 

自分が当て馬になる事で、リディーとスールに生きる力を与えようとしたルーシャが。

 

どれだけの覚悟で行動していて。

 

どれだけ悲しんでいたのかと言う事を。

 

本当に情けないな。

 

スールは、自分の情けなさを、心の底から呪い抜いていた。

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