暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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楽しいバカンスは終わり。

次へ行くときが来ました。


宝物と世界の果て
序、その光は一つではなく


エントランスに集合する。アンパサンドさんの事が心配だったけれど。しっかり傷も治って出てきていた。ただ装備品は幾つか駄目にしてしまっていたので、作り直したけれども。

 

元々更改の時期も来ていたし。

 

何より、どんどん良い出来に作り直してもいる。

 

騎士団の支給品である鎧なども傷んでしまっていたので。

 

此方で補償して、鍛冶屋の親父さんに直して貰った。軽量の鎧だが。それでもあると、多少の傷は防げるし。アンパサンドさんには、その多少の傷の有無が文字通り命取りになるのだから。

 

モフコットの生産も続けていて。

 

今度、これを裏地に使った、プラティーンを主体にした鎧か、或いは戦闘用の服を作ろうと思っている。

 

鎧の下に着るものだが。

 

モフコットなどの錬金術布が、如何に大きな効果を出すかは、この間の実戦投入でよく分かった。

 

それならば、今後は量産して。

 

効果をより出していくだけだ。

 

さて、皆集まったところで。

 

順番に話をする。

 

「今回は、何回かに分けて出入りします。 かなり時間が掛かると思うので、それは覚悟してください」

 

「ういー」

 

マティアスさんは若干機嫌が悪い。

 

フィリスさんがいない。

 

勿論もう監視の必要無しと判断したから、なのだろうが。

 

それでも、やっぱりアンパサンドさんの必死の戦いを見ていながら。最後の最後まで手を貸さなかったことが、相当に頭に来ているのだろう。

 

感情論だと分かっていても。

 

納得出来ないことはある。

 

だが、感情論でものを動かせば。

 

後に出来るのは地獄だけだ。

 

時間を掛けて、ゆっくりと何とかしなければならない。

 

大丈夫。

 

マティアスさんは、それくらい出来る人だ。

 

「まずドラゴンの死骸を確認して、有用な部分が残っていたら回収します」

 

「目立つものは回収したし、後は骨くらいかな?」

 

「はい。 骨も出来れば全部」

 

「……要するに、荷車で何回かに分けて運び出す度に、島まで行くって事か」

 

フィンブルさんに、頷くと。

 

流石にうんざりした様子でフィンブルさんもため息をつく。

 

今回は、気を利かせてくれたのか。

 

ルーシャも荷車をもってきてくれている。

 

それも二連の奴を、である。

 

これで手間は半分になる筈である。

 

「続いて、キャプテンバッケンからお宝を受け取ります。 ただで受け取れるかはわからないので、気をつけてください」

 

「ああ、あの島何というか、おもちゃ箱みたいだもんな。 宝に罠とかあっても不思議じゃないし」

 

「そういう事です」

 

「ハハ、ドラゴン退治して、まだ色々やらされるかと思うと、ちょっとげんなりするけどな……」

 

マティアスさんが肩を落とす。

 

だけれども、これも必要な作業だ。

 

そして最後。

 

これが一番重要である。

 

「最後に、海の調査を可能な限りして、それで切り上げます」

 

そう。

 

これこそが本命。

 

ドラゴンがいるので、危険すぎて出来なかった海の調査を、これより本格的に実施する。

 

現実世界の海は危険すぎて入れない。

 

だから、この不思議な絵の、危険度が小さい海を調査して。現実世界の海を調査する際の手助けにする。

 

現実世界の海ほど危険ではないとしても。

 

内部で、おぞましい魚に散々襲われた事もあって。

 

安全でも無い。

 

ともかく、海の中での活動のノウハウを可能な限り積み重ねて。それをレポートにしたい。

 

もしレポートが出来れば。

 

それは人間の、海に対する大きな一歩になる筈だ。

 

とはいっても、まだ浅瀬に踏み出したくらい。

 

本格的に海に入るには、まだまだ時間がたっぷり掛かるだろうけれども。

 

作業時間は、丸二日を想定。

 

勿論休憩は入れるが。

 

それは節目で戻るタイミングで、という形になる。

 

特に後半一日は、殆ど海の中をずっと歩き回ることになるだろうし。非常に危険でもあるので。

 

気を付けなければ危ないだろう。

 

暗闇の中をずっと這いずり回れば。

 

精神に変調もきたすかも知れない。

 

何か危ないと思ったら、すぐに言って欲しいと、皆に声を掛けておく。

 

「面白そうなことをしているね」

 

不意に掛かる声。

 

振り返ると、アルトさんだった。

 

フィリスさんの代わりに、監視役に来たと言う。

 

まあ、この人はフィリスさんよりは、能動的に戦ってくれるし、いいか。フィリスさんはこの人より恐らく更に強い。だから、下手に戦いに関与できないのだろう。そう、リディーは前向きに考えもした。

 

「アルト、頼むよ。 手伝ってくれな」

 

「僕も海の中には興味があるからね。 心配しなくても手伝うよ」

 

「はあ。 だといいんだがな」

 

とりあえず、これで面子は揃ったか。アルトさんの手伝いは正直な話想定外だったけれど。

 

戦力は多い方が良い。

 

ドロッセルさんは今回の調査が終わったら丁度契約の期限切れ。

 

契約をまたするとしたら、次の試験次第だろう。

 

では、さっそく作業を開始。

 

今回は何度も何度も不思議な絵に入る事になる。

 

アルトさんも、面白がっているようだが。

 

或いはこの人も、何百年も生きてきて。

 

それでいながら、海の中に生身ではいるのは、あまり経験が無いのかも知れない。

 

ネージュと面識があるようだったから、それこそ何百年生きているか分からないけれども。

 

それでも、分からない事に興味を持てるのは立派だ。

 

リディーも注意深く見てきて。

 

「平均的な人間」が、自分が知らないものを見聞きした場合、まず間違いと決めつける事。知らない事を耳にした場合、情報源の好感度によって信用するかどうかを決める事。そして場合によっては相手を嘘つき呼ばわりして迫害する事も理解している。

 

この人は、深淵の者の偉いさんだろうから。

 

きっと後ろ暗い事は散々やってきている。

 

だがそれでも、自分の地位に驕ること無く。

 

知識を全てと信じる事もなく。

 

興味があったらどんどん見に行く。

 

そういう人である事は。

 

とても好感を持てる。普段やっている後ろ暗い事は別にしても、だ。

 

アルトさんと一緒に海の絵に入るのは初めてなので、仕組みを説明した後。

 

不思議な絵に入る。

 

海底に、灯りが点る。

 

今回も、しっかりシールドと、エアドロップは機能している。頷くと、マティアスさんに声を掛けて。

 

印を更に引き直して貰いながら。

 

深淵の海の底を歩く。

 

いつ獣がしかけてくるか分からないので、要注意。そして今回は、まずは島に辿りつくことを最優先する。

 

相も変わらず飛んでくる槍のような魚。

 

流石に慣れてきているのか、ルーシャもマティアスさんも、アンパサンドさんも反応が早い。

 

数匹ずつまとめて飛んでくる事もあるが。

 

アドバイスを受けて、海中でシールドを拡大するようにしてからは。

 

更に余裕を持って対応出来るようになった。リディーも、とっさに何度か弾き返してみせるし。

 

スールも自分に飛んできた魚を避けて、通り抜け様に撃ち抜いたりして見せた。

 

大丈夫。

 

弱っちいリディーとスールだけれど。

 

ちゃんと経験は積めている。

 

もっと貪欲に強くなって行けば、きっと先に先にへと行く事だって出来るはずである。

 

今日はちょっといつもより魚が多い気がするが。

 

この魚、食べると意外にもとても美味しいし。大きいから骨もとりやすいという事が分かっているので。

 

持ち帰るのは、むしろ積極的にやりたかった。

 

アルトさんは、頷きながらしきりに海底の様子を楽しんでいて。

 

だがそれでも、自分に魚が飛んできた時は、振り向きもせず本から出した剣で串刺しにして、海底に縫い付けたりもする。

 

背中に目がついているかのような反応速度だ。

 

しかも本から出した剣を、一度頭上に打ち上げて。

 

後ろから飛んできた魚を、串刺しにするという二重の難しい芸当をこなしているのである。やはりこの剣、拡張肉体の一種なのだろう。いずれにしても、アルトさんが余技を見せる度に、その強さがよく分かる。

 

「リディー、スー。 この貝はたまに真珠を持っているものの一種だよ。 持ち帰っておくといい」

 

「真珠ですか!?」

 

「ああ、開けるのは後でね。 もっているかも知れない、というくらいだから。 他にも真珠を持っている貝はあるが、これもだ」

 

スールが露骨に落胆するが。

 

まあそれは仕方が無い。

 

フィンブルさんが、顔を上げて、耳をぴんと立てる。

 

精悍な犬の顔をしているフィンブルさんだ。

 

獣人族らしい感覚の鋭さで何かを感じ取ったのだろう。スールも、即座にそれに反応していた。

 

「何かいるね」

 

「おいおい、もうすぐで島なのに、俺様ついてない」

 

「……敵意は、無さそうだな」

 

フィンブルさんがハルバードを降ろす。

 

何かはいたようだが、いずれにしてももういない様子だ。胸をなで下ろすと、島に急ぐように皆を促す。

 

足を速めて。

 

海底の移動を早めに切り上げると。

 

島に上陸した。

 

キャプテンバッケンは、此方に気付くと、陽気に手を振って迎えてくれる。

 

頭を下げて、遊びに来た旨を告げて。

 

まず、ドラゴンの骨を見に行く。

 

案の定と言うべきか。

 

殆ど食い荒らされていて、残っていなかった。

 

黒焦げになっていたとは言え、それでもナマモノだったのだ。拾えそうな部品はあらかた拾ったし。鱗も殆ど回収はしたが。

 

肉や内臓はほぼ消滅。

 

とはいっても、これらは残っていても、酷く腐り果てていただろうが。

 

消し炭になっている肉まで漁って行くのだから、この絵の中でも獣は獣、ということか。浅ましいを通り越して、凄まじい。

 

骨も、殆ど無くなってしまっていた。

 

だが、わずかに残っているので、ルーシャと手分けして、荷車に回収していく。改修前に軽く水で洗うけれど。これはコンテナに入れて、後で本格的に洗わないといけないだろう。

 

水を汲んでくるのは、ドロッセルさんに頼み。

 

その間、多分腐敗しているだろう事を想定して持ち込んできたものの一つ、デッキブラシを使って、ごしごしと骨にこびりついた炭化した肉を落とす。

 

掘り返してみると、砂浜の中にめり込んだドラゴンの鱗も多少はあって。

 

それらもしっかり回収していった。

 

前にフーコと火竜の世界で、火竜に貰った鱗と、どっちが上品質なのだろう。魔力はどちらも普通に凄いと思うのだけれど。まだリディーには判別がつかない。いずれにしても、ドラゴンの鱗は稀少品だ。出来るだけ回収した方が良いだろう。

 

大きな骨は切り分けようと思ったけれど。

 

マティアスさんが支えて。

 

ドロッセルさんが大斧を振るっても。

 

がつん、がいんと、もの凄い音がする。

 

一応大きなパーツごとには分けたけれど。やはり、それでも一度で持ち帰るのは不可能そうだった。

 

キャプテンには事情を話しているので。

 

何度かに分けて持ち帰る。

 

持ち帰る度にコンテナに運んだので、時間はかなり掛かってしまったけれど。これは仕方が無い。

 

それをするだけの価値がある品だ。

 

ドラゴンは、基本的に無駄にする部分がないと聞いている。

 

前回の戦いでは、消し炭にしてしまったから回収は出来なかったけれど。

 

ドラゴンの血は、中和剤として最高の素材になるらしいし。

 

いずれはまた、別のドラゴンとも戦わなければならないだろう。

 

海の道を何度も行き。

 

骨を回収。

 

頭骨を最後に回収して、上半分はリディーとスールで。下あごは、ルーシャに譲った。ルーシャの方でも、やっぱり加工して錬金術の材料にするという。まあ、当然だろう。ドラゴンの素材は、お店に並ぶとそれこそ天文学的な値打ちがつくという話も聞いている。それだけ価値があると言う事だ。

 

爪なども回収はしたかったが。

 

残念ながら海棲ドラゴンだからか、無理だった。

 

確かに彼奴の手足の部分にあったのはひれだ。

 

それでは、爪は回収出来ないだろう。残念な話だけれども。ただ、牙は回収出来たので、それは有り難い。

 

牙だけでも使い路は色々あると聞いているので。嬉しい話だ。

 

また、魚に関しては、そのまま魚市場に卸してくる。

 

味についても既に食べて確認済みだ。魚市場では、見た事がない魚だと言いつつも、大きくて肉も上質と言う事で、そこそこのお値段で買い取ってくれた。

 

ようやく、ドラゴンの残骸を回収し終えたのが夕方。

 

続けて、今度はキャプテンバッケンのお宝を貰えるという話なので、見せて貰う事にする。

 

バッケンは、カカカカと笑いながら。島の奥にある洞窟へ案内してくれた。

 

そういえば、心なしかレンプライアが減っている気がする。

 

誰かが来て、掃除していったのだろうか。

 

例の子分Aだろうか。

 

あまり心当たりがないのだけれども。

 

洞窟の手前には、大きな岩がある。一応動かせるようだけれども。ドロッセルさんが、腕組みした。

 

「ちょっと……大きいね」

 

「カカカ、そうだろう? 此奴を動かせないと、宝は手に入らないんだ。 俺みたいに、持ち主であるか、或いは剛力の持ち手でないと、宝は渡せない、ってわけでな」

 

「見張っているので、さっさと済ませるのです」

 

アンパサンドさんは、速攻で見張りを宣言。

 

ルーシャも困り果てた様子で大岩を見た後、アンパサンドさんに習った。

 

オイフェさんは言わないと何もしてくれないだろうし、ルーシャ一人だとちょっと見張りも不安だ。

 

もちろんだが、ルーシャが弱いというわけではない。

 

ルーシャは兎に角不幸体質なので、オイフェさんが側についていてくれたほうが此方としても安心なのだ。

 

実力はあるのに、不運で酷い目にあう事が多いルーシャに関しては。何というか、不幸にあわせている半分がリディーとスールという事もあって。いつも本当に申し訳ないと思っている。

 

アルトさんは、興味津々の様子だけれど。

 

勿論手伝ってなどくれない。

 

結局、マティアスとドロッセルさん、それにフィンブルさんで、岩を動かす事になる。リディーとスールは少し岩から距離をとって、何があっても対応出来るように、構えをとっていた。

 

まさか中にドラゴンがいるような事は無いだろうが。

 

大型の獣が奇襲をしかけてくる可能性は否定出来ない。

 

何しろ中がどうなっているか、キャプテンにしか分からないのだから。

 

しばらくうんうん唸っていた三人だが。

 

ドロッセルさんが気合いを入れると、岩が動き出す。

 

負けじと力を込めて。

 

マティアスさんが一気に押し込み、岩をずらすことに成功していた。

 

フィンブルさんは、岩がおかしな方向に行かないように、丁寧に調整してくれる。この辺り流石である。

 

「カカカカッ、流石だな。 でも宝物庫は一定時間で閉じちまうからな。 出来るだけ急いで中のチェストを運び出せよ」

 

「ええっ!?」

 

「キャプテン、酷いよ!」

 

「防犯機能だ、仕方ないだろ」

 

まあキャプテンバッケンのものなのだ。

 

善意で譲ってくれるというのだし、文句も言えない。

 

すぐに一目でそうだと分かる宝箱を運び出す。ルーシャにも手伝って貰い、その間、岩はドロッセルさんとマティアスさんに支えていて貰う。

 

宝箱の鍵は掛かってはいたのだけれど。

 

もう壊れてしまっていて、そのまま開いてしまった。

 

中には金貨がざっくざく。

 

ドラゴン退治の報酬としては、こんなものだろう。リディーは嬉しそうにしていたが。あれ。

 

昔だったら、よだれを垂れ流して飛びついたはずだ。

 

やっぱり、感情が薄くなっているのか。

 

とりあえず、金貨をまず荷車に移す。取り分については、人数分で割る、でいいだろう。一応枚数を数えて、人数分で割り切れる分だけ貰うことにした。

 

他にも宝は幾らかある。

 

凄い大剣。これは、マティアスにあげるか。

 

だが、マティアスは首を横に振る。

 

「この剣、一応国宝なんだよ。 流石にこれは受け取れない。 もし貰うとしたら、今持っている以上の国宝でないと……」

 

「それなら国庫に納めるのです」

 

「ああ、他の騎士用に……というのならいいな。 じゃあすまん。 貰うな」

 

勿論かまわない。

 

更に、キャプテンバッケンは、色々なものの中から、二つほどくれる。

 

一つは杖。

 

錬金術師用のものだろう。

 

そしてもう一つは、拳銃だった。見るからに凄い業物だと分かる。

 

生唾を飲み込むリディーとスールに、キャプテンバッケンは、持っていくようにと言うのだった。

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