暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
バカンスに等しかった海では無く、更に恐ろしい現実の海底が待っています。
一度戻って、金貨を分ける。この時点で一時解散。なおアルトさんは、金貨が出てきた時点でいらないとはっきり言ってくれたので(監視役だから、というのもあるのだろう)、計算の時点で揉めずに済んだ。
金貨ともなると、命のやりとりに関わるような金額にもなるのに。
即答でいらないと口にする辺り。
アルトさんが、生半可なお金を普段目にしていない事がよく分かる。あの程度の金で揉めるのは馬鹿馬鹿しい、というのだろう。
一度全員に帰宅して貰って、休憩にする。
本番は明日だ。
海底の本格的調査。
明日は、今まで避けていた大型の海底獣と、水中での戦闘もやってみるつもりである。そうでなければ、レポートは中途半端になってしまうからである。
皆と別れて、アトリエに戻ってから。
スールは貰った拳銃を、裏庭で取り回し始める。
口を引き結ぶスール。
お母さんの形見だからと、頑なに今までの拳銃を手放さなかったスールだけれども。
明らかに、使いやすいのだろう。
しかも拳銃はおあつらえ向きに二丁。
力も強くなっているスールである。
更に、この拳銃も、多分お母さんが使っていたものと同じ。魔力を流し込んで、弾丸の火力を上げるタイプだ。
スールがぶっ放すと、あからさまに前より威力が大きい。
リディーは、貰った杖。
多少古いけれど、多分プラティーンを要所に使っている杖を振り回してみる。
これは、魔術の発動を、更に短縮できるかも知れない。
魔力もかなり増幅されているのが分かる。
今までのお古の杖よりも。
明らかに強かった。
しばらく二人で無言になる。
夕食にするが。
最初にスールが口を開くまで、随分と時間が掛かってしまった。
「ね、ねえリディー」
「新しい杖、使いやすいよ。 新しい拳銃も、使うべきだと思う」
「……そう、だよね」
「あの拳銃は、お母さんのために作られたもので、スーちゃんのために作られたものじゃないもん。 この杖だって、お父さんのお古で……」
分かっているけれど。
何故か、涙が出てきた。
スールも目を擦っている。
しばらく無言で過ごす。
こう言う形で、親離れの時は来る物なのだなと、感じてしまい。しばらくは、言葉も無かった。
大きくため息をつくと。
頷く。新しい武器を使うと。親父さんの所に行って、拳銃の弾を補給してくる。そういえば、家には拳銃の弾の在庫があったが。それも、何もいつも使っているもののばかりではなかったのだ。
お母さんも、或いは今の拳銃にするまで紆余曲折があったのかも知れない。
そう思うと、お母さんの形見にこだわって。自分に使いやすい道具を使わないのは。色々本末転倒なのかも知れなかった。
悩んだ末だけれども。
武器を変えた事を、後悔はしない。
そう二人で話して決める。
新しい拳銃の規格にあった弾丸をたくさん購入してくる。試し打ちもしてみたけれど、今までと変わりない動きで、火力は何倍も増している。これならば、お母さんもこっちにしなさいと絶対言うだろう。
リディーも、これでよりみんなを守れるはずだ。
少しでも力を増さないと。
人はすぐに死ぬのである。今後の事も考えて、拘りを持つのは良いが。その拘りで、強さを縛ってしまうようでは意味がない。
後は、疲れも溜まっているので休む。
眠るとなると、スールはこてんと落ちる。
リディーも少し寝苦しかったけれど。
それでも寝なければならないと分かっているからか。
明日の準備だけはしっかり確認した後。早々に寝床に入った。
翌朝。
再びエントランスに集合。今日が本番だ。
内海、つまりキャプテンバッケンの島の周囲を徹底的に調べて回った後。外海について、調べられるようなら調べる。
絵の中に外海に相当する場所があるかは分からないけれど。
ルーシャが言うには、外海の深さはリディーやスールの背丈の数千倍だとも言う。
昔、錬金術師が何かしらの方法で調べたのかも知れない。
多分内海ともまったく違う状態の筈で。
調べられるのなら、大きな価値がある筈だ。
まず、内海に出る。
魚を捌きながら、事前に打ち合わせしていたとおり、巨獣を探す。クラゲや亀を見かけていたが。
ほどなく見つける。
巨大なヒトデのようなのが、また巨大な貝に覆い被さって、貪り喰っていた。近付くと、もりもりと音を立てて動きながら、威嚇してくる。水からある程度出ても平気なのだろうし。
獣である以上、人間を見れば襲ってくる、と言うわけだ。
戦闘開始である。
即座にルーシャが傘を構え。複数の球体が魔法陣を作り出すが。
ぶっ放された光の束が、ヒトデを打ち据えるより先に。
無数の棘が、ヒトデから打ち込まれる。
前に出たリディーが、シールドで弾き返すが。連射される棘があまりにも凄まじい密度で近づけない。
見ると、棘は射出する度に再生している様子だ。
多分肉体を本当に飛ばしているのでは無く。
魔術によって棘を生成している、と言う事なのだろう。しかもあの巨獣の棘だ。毒なりなんなりあっても不思議では無い。
幸いホーミングしてくるようなことは無いが、壁から出られない。猛烈な制圧射撃が、尋常では無いからだ。アンパサンドさんでさえ、出ようとしない中、距離を保ったまま、我慢比べにヒトデは持ち込もうとしている。つまり我慢比べなら勝てる自信がある、と言う事だ。
「リディー。 もう少し押し込んでくれるかな」
「はいっ!」
アルトさんに言われて、少し前進。荷車も自動でついてきて。積んでいるシールド発生装置によって、少し此方に来る。
だが、ヒトデはその分、意外に身軽に後退。
制圧射撃を更に続ける。
まずい。
下手に進むと、あの棘を踏むことになる。
それに、シールドを内側から棘がブツブツ貫いているのだ。変な影響が出てもおかしくはない。
その時だ。
ドロッセルさんが、ずっとはかっていただろうタイミングで。
大斧を投擲していた。
曲射で、である。
ヒトデは逃れようとするが、しかしドロッセルさんの方が早い。
一瞬で大斧が突き刺さり、殆ど半分こにされたヒトデが、悲鳴を上げながら、斧を抜こうとする。
文字通り金属をすりあわせるような音で、思わず耳を塞ぎそうになるが。
ルーシャが叫んだ。
「シールド解除っ!」
「うんっ!」
シールドを解除し、ルーシャが砲撃をぶっ放す。
更に、アルトさんが、無数の剣を手にした本から射出。ヒトデに、容赦の無い攻撃が炸裂した。
流石にひとたまりもなかった。
バラバラになったヒトデの残骸の一部を回収。トングで掴んで、棘もアンパサンドさんが回収してくれた。
次。顎で促されたので、先に進む。
手強いとは感じない。
多分だけれども。此処が「願望の海」だから、なのだろう。現実の海にはもっと強い訳が分からない獣がウヨウヨいる筈だ。
そして手強いと感じなかった一方で。
兎に角戦いづらいと感じた。
シールドの範囲を拡げてみるか。
それとも、一気に間合いを詰めて、総攻撃で仕留めるか。
どちらかを、判断しなければならないだろう。
島の廻りをゆっくり回っていく。
今度は巨大なクラゲを発見。
クラゲの中には、空中を浮かぶ種類もいるのだが。それはそれとして、海中でも巨大なのが普通に泳いでいる。
此方にさほど積極的に近付いてこないが。
やはりある程度近付くと、容赦なく襲ってくる。
しかも、クラゲは近付きながら、魔術を展開。人間の十倍は重さがありそうなクラゲだ。傘の直径だけで、リディーやスールの背丈の倍はある。
クラゲの周囲に出現した、無数の光の槍。
また飛び道具かと思ってシールドを張るが、無言でアンパサンドさんが飛び出す。
放たれた槍が、ホーミングしながら、アンパサンドさんを全て掠めて、地面に連続して突き刺さる。
あの様子だと、曲射して、シールドを迂回してきたり。
或いは一点集中してくる感じか。
槍を放ち終えたクラゲが、突貫してくる。
海中だけでは無く、空中でもまるで問題ない様子で動いている。流石に何というか、魔境で生きているだけの事はある。
生唾を呑み込みながら詠唱。
触手を振り回して、アンパサンドさんとフィンブルさん、マティアスさんを同時に相手にするクラゲ。
触手には雷撃が纏わり付いていて。
三人も、迂闊に近付くことも、攻撃を受けることも出来ないでいる。
しかも海底に触手を突き刺して、雷撃を拡散させることまでやってきている。あのクラゲ、自分の力を知り尽くしている。
ドロッセルさんが大斧を投擲するが。
しかし、分厚いクラゲの傘に突き刺さるだけで、浅い。
「あっちゃ、柔軟性高いな……」
「だったらっ!」
スールがフラムを投げようとした瞬間。
圧縮した詠唱で、また多数の光の槍を放ってくるクラゲ。慌ててルーシャが全周囲シールドを張るが。
狙いはアンパサンドさんだった。
この行動を読んでいたのか。
ジグザグに不可思議なステップを踏んで後退し、全てを回避しきるアンパサンドさんだったが。
同時に振るわれた触手が、もろにマティアスさんとフィンブルさんを直撃。
更に、スールが投げつけたフラムを、クラゲは即応で掴み。
触手一本と引き替えに、その場で爆散させてしまう。
老獪という他ない戦い方だ。更にクラゲが、多数の魔法陣を出現させる。光の槍は。まずい、気配が真上だ。
アルトさんが多数の剣を放つが、クラゲに突き刺さるものの、致命打にはならない。柔軟だと言う事が、こうも強いとは。
だったら。
詠唱し、フルパワーでマティアスさんに術式を掛ける。
マティアスさんは雄叫びを上げながら立ち上がると、触手を薙ぎ払う。雷撃で凄まじい痛みだろうに。それを無視。
更に、真っ向から、クラゲを斬り伏せていた。
流石に真っ二つになると、どうにもならない。
大量の体液をぶちまけながら、クラゲが海底に落ちる。
同時に、上空にあった、恐らく数十を超える光の槍の気配も消えた。
光源の向こう側にいた光の槍を、正確に防ぎ切るのは難しかっただろうし。更に言えば、防げたとしても、また魔力にものを言わせて第二射を放ってきた可能性が高い。
その場で、軽く手当をする。
フィンブルさんが見てくれたが、何とか大丈夫そうだ。雷撃によって受けた傷は、何とか今まで作ったお薬でどうにか出来た。
魔力の消耗が小さくない。
だが、もう少し探索して行きたい。
周囲を調べていくと。
前にクラゲを一撃で喰らっていた亀のものらしい、巨大な甲羅が横倒しになって落ちていた。
つまり、あのクラゲを瞬殺した亀を、捕食した奴がいるという事だ。
ぞっとする。
サメだろうか。
内海にでる獣の中でも、巨大なサメの危険度は群を抜いていると漁師のおじさん達に聞いた事があるが。
今戦った、多数の魔術を使いこなすようなクラゲより二段階くらい格上となると、冗談じゃないとしかいえない。出来れば陸上で戦いたいが。そう簡単にはいかないだろう。
とにかく、今は考えても仕方が無い。
移動を続ける。
皆、口数が少なくなっているが。それは、この魔境が、想像以上に恐ろしいからだろう。笑みを絶やさないのは、アルトさんくらいである。ドロッセルさんですら、冷や汗を掻いている様子なのに。
「いやあ、実に興味深い。 今度僕一人で来るとしよう」
「アルトさん、こんなの拾った」
「うん、スー、見所が良くなってきたね。 これはとっておくといい」
アルトさんは、スールが嫌がらせのように拾ってきたものを褒める。後で図鑑で調べて見るとしよう。
この人は深淵の者の顔役にして。
リディーやスールよりも遙かに格上の錬金術師。口から出任せに、いい加減な事をいうような事も無いだろうから。
黙々と歩き続けている内に。
クレバスに遭遇。クレバスを避けて歩いていると、やがて出発地点に戻ってきていた。
一度戻る。
リディーがそう発言すると。
誰も、異を唱えなかった。
移動中に、さっきのクラゲやヒトデの同族と、合計四回戦ったからである。いずれも手強く。
あれが捕食される側であると言う事実が。
この先の探索が、容易ではあり得ない事を、嫌と言うほど示していた。
一度アトリエに戻って、回収した素材をコンテナに。
皆にはその間、休憩を取って貰う。
お薬も補給する。
一刻ほどお城の一室を貸してもらって、其処で休む。アンパサンドさんは仮眠を取り始めるが。毛布を被ってそっぽを向いている。寝息も殆ど立てていない。弱みは出来るだけ他人に見せたくないのだろう。
この中にはホムの男性もいないのだし、気にする必要はないと思うのだけれど。
多分アンパサンドさんは、ずっと騎士として厳しい生き方をしてきたし。こういう風に、弱みを見せない行動が、習慣として根付いているのかも知れない。
「マティアス、さっきの一刀両断凄かったよ」
「腕がもげるかと思ったよ。 雷撃でいてえし、俺様怖くて泣きそう」
「えー。 今後要所要所でやってよ」
「殿下、スーの言う通りだ。 あの一撃、頼りになる」
フィンブルさんの事を、マティアスさんはとても信頼しているらしい。
多分フィンブルさんが、時々呆れながらも、マティアスさんにとても真摯に接しているのが理由だろう。
王宮のどろどろな陰謀まみれの世界を見ている訳で。
しかも外ではバカ王子扱いが固定化している。
王宮ではいつも馬鹿にされているマティアスさんが見られるくらいで。
本人もそれを受け入れて。
むしろミレイユ王女への悪評が起きないように、負の部分を一手に引き受けている雰囲気さえある。
だからこそ、こうやって公平に物を見てくれる出来た相手は、マティアスさんにとっては新鮮なのかも知れない。
マティアスさんはやりたくてやっているわけで。
時々、馬鹿にされているマティアスさんを見たり。あるいは流れてくる悪口を聞くと、一言言いたくなるのだが。
反論してしまうと、多分藪蛇になる。
悔しいけれど、現状を受け入れて、活用しているマティアスさんの努力を無駄にするわけにはいかない。
「マティアスさん、改善する点があったらしますので、何かあったら上げてください」
「そうだなあ。 あの筋力上げる魔術、凄い効果なんだけど、反動ももの凄くって……何というか、もっとこまめに回復してくれない? 俺様いつも腕が痛くて痛くて泣きそうなのよ」
「分かりました。 ちょっと工夫してみます」
「よろしくな」
ドロッセルさんは会話に加わらず、黙々と斧を磨いていて。
アルトさんは、図鑑を出してくると、さっきの何か良く分からないものについて解説してくれた。
海底に棲息している生物の一種で。
かなり特殊な魔術の媒体になるという。
体の構造的に、大量の魔力を蓄える事が出来るらしく。
貴重な品で。
市場に出ると相応の価値がつくとか。
「網を使った漁が一般的だが、地引き網も一応あるからね。 ただし獣も一辺に引き上げる事になるから、危険が大きい。 故に海底で得られる素材ってのは、基本的にとても高価なんだ。 欲しくても手に入らない事も多いだろうから、大事にするんだよ」
「分かりましたっ」
「アルトさんにとっても貴重品なんですか」
「そうだね。 僕としても、一人で探索しているときに見つけたら嬉しいかな」
なるほど、譲ることには何ら躊躇は無い、という程度と言う事か。
オイフェさんがお茶を淹れてくれたので。
起きているメンバーだけで飲む。
体が温かくなる。
ルーシャが錬金術で作った茶葉を使ったものだろう。とても体の中がみずみずしくなる気がした。
決めた時間通りに、ぴったりアンパサンドさんは起きだしてくる。
幾ら装備品でパンプアップしているとしても、あの回避盾という戦い方。少しでも、休めるときには休みたい、というのが本音なのだろう。
戦闘準備を始めるアンパサンドさんに言う。
「鎧の下に着る服、作ってきましょうか。 錬金術の布製の奴です」
「……効果はどうなのです?」
「身体能力の強化と、後は体力の自動回復ですね」
「精神疲労の自動回復が欲しいのです」
「……調べて見ます」
そうか、ストレスの回復か。
ちょっと今まで考えたことが無かった。そろそろ、バステトさんに聞きに行っても、二人で悩むことが多くなってきている。
もっと凄い魔術の使い手がいればいいのだけれど。
多分イル師匠やフィリスさん、そしてソフィーさんになるだろう。
この間小耳に挟んだのだけれど。ソフィーさんは元々魔術師として凄まじい実力者で、これに錬金術の技量が加わって、文字通りドラゴンに錬金術装備状態になったらしい。最近は幸い姿を見ていないが、ひょっとすると何かヒントが貰えるかも知れない。
また、エントランスに行き。
装備品の補給や状態などを確認した後。
絵に入る。
今度は、島から離れて。
深海に。
そう、外海に出向く。
多分、不思議な絵であっても、外海は存在している筈。もしもあるようならば、少しでも見に行かないと。
せっかくドロッセルさんを雇ったのである。
最大限に生かさなければならない。
今までとは逆方向に。島から離れた方向へと行く。ほどなく、崖のようになっている場所に出た。
これが、外海だろう。
生唾を飲み込む。ルーシャが、肩を叩いてくれた。
「降りられそうな場所を探しましょう。 それと、海の獣には地形なんて関係ありませんわ。 崖の上も当然気を付けて」
「うん、ありがとうルーシャ」
「……」
崖に沿って歩き始める。
ルーシャは口を引き結んでいて。ずっとそれから、何も喋らなかった。
程なく、多少はマシそうな傾斜を見つける。これにそって、可能な限り下へと降りてみたい。
不思議な絵画は所詮小さな世界。
あまり深い海は再現されていないだろう。
何しろ、誰も行った事がないのだろうし。
行ったことが仮にあったとしても。少なくとも、キャプテンバッケンの描写から見て、この絵の描き手が外海、ましてや深海に出向いた事があるとは思えないからだ。だから、ここから先には、本物の深海よりも遙かに緩い環境しか無い筈。
だが。
それでも、なんでだろう。
人間が本来行くべき場所ではないからか。
凄まじい威圧感を、全身で覚えていた。生唾を飲み込んでしまう。この深淵。まるで、そう。
ネージュと接して。
深淵の者と接して。
事実を知って。そして覗き込んでしまった、闇の中のまた闇。だが、この先に行かなければならない。いつも深淵の中にこそ、真の知識があって。錬金術は、知識が無ければまったく進歩しない学問なのだから。
最初にスールが歩み出る。
頷くと、アンパサンドさんが前に出た。傾斜を降っていく際も、ヌルヌルに滑るので気を付けなければならないけれど。
踏ん張っているところを奇襲されるのが最悪だ。
何かあったら、即座に撤収。
これは全員に、先に周知してある。
無言で、黙々と潜り行く。
最初の坂を下ると、少し広い場所に出た。シールドから異音が聞こえる。少しシールド発生装置を調べて、出力を上げるべきかなと判断。
多分だけれど、水の圧力が、強くなってきているのだ。もっとずっと強くても大丈夫なように作ったのだけれど。
或いは、想像以上に、水の圧力というのは過酷なのかも知れない。
ぬっと、此方を除いている一対の目に気付く。
信じられないくらい巨大な魚だ。
それはしばらく此方を見ていたが。やがて興味を失ったか、闇の中に泳ぎ去って行く。何だあれは。
多分リディーの歩幅の数百倍はあった。
あんなのが、海の中には平然と住んでいるのか。
しかも此処は実際の海でさえない。
本当の海だったら、あんなのが襲いかかってきたのだろう。多分、問答無用で、である。
言葉も無く、しばらく絶句して立ち尽くすしかない。
今のは、興味も持たなかったから、去ってくれた、と言う所だろうか。
アルトさんは、肩をすくめて、楽しそうに此方を見ている。
やっぱり、この人、外海に直接潜ったことがあるな。
それが、何となく分かった。
スールもそう感じているようで。
唇を悔しそうに噛んでいる。
「足を止めるな。 実態を出来るだけ早く調査した方が良い。 改善点があるなら、急いで割り出すべきだ」
フィンブルさんがごくまっとうな指摘をしてくるが。
この人も、冷や汗を掻いているのがよく分かった。
頷くと。
すぐに、先に進むべく、皆を促した。