暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、星空の世界

翌日、マティアスさんが昼少し過ぎに来た。

 

レポートを受理したこと。

 

晴れてBランクの試験を受ける資格ができた事を告げに来てくれた。

 

やはりこのCランクが振り分けの一種の線引きとなっているらしく。

 

此処に関してだけは、やたらと難しくなっているそうである。

 

少し前にルーシャは何とか突破。今ではBランクらしいのだけれども。

 

その先はまた難しくなるらしく。

 

まあ、イル師匠やフィリスさんが既にSランクになっているという話は実力の次元が違いすぎてまったく参考にならないので。

 

ただ、マティアスさんからスクロールを受け取るしか無かった。

 

「Bランクの試験については、結構難しいのを準備しているらしくてな、ちょい待って欲しい、だそうだ」

 

「分かりました」

 

「合点!」

 

「相変わらず元気が良いなスー。 俺様、試験の度に死にそうになるから、おなかがきりきり痛んで辛いよハハハ」

 

本当に気の毒になったが。苦笑いしか浮かべられない。

 

どうせ試験内容に深淵の者が噛んでいるのは間違いないだろうし。

 

リディーもスールもそれに巻き込まれているだろう。

 

マティアスさんが、深淵の者の存在を認知しているかは知らないけれど。

 

知ったところで、多分どうにもできない。

 

王族だけれど、あの人に権力は無い。

 

汚名を被るための笠であり。

 

ミレイユ王女の輝きを引き立てるための添え物に過ぎない。

 

「みんな」の不満を向けるための矛先であり。

 

公認でバカにして良い存在として認知されている存在だからである。

 

昔の自分や、スールを殴りたくなるが。

 

今更どうにもできない。

 

肩を落としてマティアスさんが戻っていくのを見届けると。

 

今のうちにやれることをやっておこうと、話をしておく。

 

Bランクの試験がどんな内容になるかは分からないが。

 

今までにしてきた事を、更に磨いておく必要があるだろう。少なくとも、今度同じ条件でドラゴンとやり合ったときには。

 

もう少し簡単に勝てるように。

 

誰も死なせないように。

 

フィリスさんの介入が無くても勝てるように。

 

力を磨き上げなければならない。

 

「まずはプラティーンをもっと上手に作れるようにして、量産出来るようにならないと駄目だね……」

 

「モフコットの上位の布も作りたい」

 

「うん。 騎士団に納入する装備に関しても、もっと良い物を納入できれば。 現場の騎士達も、ぐっと楽になるはずだもん」

 

「何より私達のためになるしね」

 

順番に決めてから。

 

既存の手札を更に充実させることを、まずは前提に動く。

 

数日は、何も予定は無い筈で。

 

その開いた数日を使って、やるべき事をこなしておくべきである。技量が足りない。だから、いつもみんな怖い目に酷い目にあわせている。それは中核戦力であるリディーとスールが頼りないから。

 

それを払拭するためには。

 

力をつけるしかないのだ。

 

まず中和剤だが。

 

ここしばらく入手してきた品の中では、この間得てきた深海の水が一番良いかも知れない。

 

不思議な絵の中の品と言う事もあるけれど。

 

とにかく不思議な成分で。

 

強い魔力も含んでいる。

 

多分だけれども、不思議な絵を構成している魔力が、圧縮されて詰め込まれているのだろうと思う。

 

今度機会があったら、また取りに行きたい所だ。

 

中和剤を作るにしても。

 

まずはできる限り最高品質の蒸留水をベースとして準備する所から。

 

そして中和剤も。

 

魔法陣を書いて、魔力を注ぎ込む過程で。

 

スールがそれを出来るようになったので。

 

手分けして、作れるだけ作る。

 

深海の水も、何に使うか分からないし。

 

或いは思いも寄らない使い路があるかも知れないので。

 

全ては使わないようにする。

 

手分けして動くのは。

 

双子だから難しく無い。

 

一人一人は無能だけれど。

 

二人がかりなら、ある程度は出来る。

 

そう信じて。

 

少しでも、作業を進めていく。

 

錬金術は覚えていくと分かってきたが。どんどん際限なく先がある。あらゆる全てを極めているだろうソフィーさんがとんでもないという事が、知識がつけばつくほど分かってくる。

 

作業を進めていく内に。

 

あっと、スールが声を上げた。

 

失敗したらしい。

 

仕方が無いと声を掛けて、駄目になってしまった鉱石を廃棄する。この廃棄一つをとっても。

 

最近はイル師匠に、周囲を汚染しないようにとやり方を教わって。しっかりコーティングして庭に埋めている。場合によっては廃棄しないで再利用もする。

 

どんな駄目になった素材でも。

 

活用法はある。

 

声が聞こえたりするのだ。

 

こんな風に使えるよ、と。

 

聞こえる声はどんどんクリアになって来ている。

 

スールは多分傷つくだろうから言わないけれど。これは多分ギフテッドだ。スールに目覚めるかはよく分からないけれど。

 

リディーに目覚めたのだ。

 

スールが目覚めたって、おかしくは無い筈である。

 

しばしして、プラティーンのインゴットが仕上がる。

 

会心の出来とスールは言っていたが。

 

まだちょっと粗いところがあるように見える。

 

聞こえる声が、イル師匠が作るようなインゴットだと、澄み渡った本当に美しい声なのだけれど。

 

まだ雑音が混じっているのだ。

 

それでも、確かに最初の頃のと比べると、雲泥に思えるが。

 

「これ、コルネリア商会に登録してくるね」

 

「うん。 それじゃあ私は、ラブリーフィリス見に行ってくる」

 

「合点」

 

そのまま二人、別れて行動する。

 

フィリスさんのアトリエはぽつんとあったが。

 

外に洗濯物が干されている。

 

てきぱきと作業しているのは、以前ツヴァイと呼ばれていたホムだ。フィリスさんの血がつながらない妹。

 

仲よさそうに、リアーネさんと一緒に洗濯をしているが。

 

かなりの量である。

 

声を掛けて、手伝うことを口にすると。少し考えた後に、リアーネさんは了承してくれた。

 

これでも家事が全部駄目なスールの代わりに、家事を回してきたのだ。

 

それなりに出来るが。

 

リアーネさんは年期が違うと言うか。

 

ツヴァイさんとの連携も美しく。

 

リディーの倍は速く作業をこなしていく。これは正直な話、いわゆる家庭的な作業でも勝ち目は無さそうだ。

 

ちょっと悔しいが。

 

こればかりは、現実を甘んじて受け入れるしかない。

 

作業が終わると、ラブリーフィリスの出店を出してくれたので、品を見る。幾つか、本が入っていたので、中身を見せてもらった。

 

占い関連や。

 

魔術の本もある。

 

これは嬉しい。魔術は毎回バステトさんに聞きに行くのだけれど。そろそろバステトさんでも、厳しい局面が出始めていたからだ。

 

勿論彼女は実戦で魔術を磨いてきた本物の魔術師だが。

 

それはそれとして、自分でも本格的に魔術を学びたい所なのである。

 

攻撃系の魔術は、リディーには決定的に適正がないとも聞いている。

 

ならばシールドや、筋力強化などの支援魔術を、更に独学で磨きたい。

 

本を何冊か購入。

 

活版印刷が機械技術者の手で普及しているとは言え、本はお高い。ただ、前に比べて動かせるお金が増えているので。

 

そこまで厳しい買い物では無かったが。

 

リアーネさんが聞いてくる。

 

「この間、フィリスちゃんとドラゴン退治に行ったんだって?」

 

「はい。 初手で、フィリスさんがドラゴンの動きを封じてくれたので、随分と戦いやすかったです。 それと、最後に大けがも治してくれて」

 

「ふふ、フィリスちゃん、大成する前にも上級を倒しているからね。 最近はもう凶暴なドラゴンは一人で倒して来ちゃうみたいだけれど」

 

「一人で!」

 

信じられない。いや、分かってはいるけれど、身内からそういう言葉が出てくるという事は、相当な話だ。

 

それにさらっと上級とも口にしている。

 

そうか、上級か。

 

ネームドでも強いのは下級のドラゴンに匹敵するケースがあるらしいという話は聞いたことがあるけれど。

 

流石に上級は、もはやネームドの及ぶところではないとも聞いている。

 

大成する前からそんなのと戦っていたのだとすれば。

 

それはフィリスさんが強いのも納得である。

 

「フィリスちゃんは厳しい事を言うと思うけれど、それは必ず意味があることだから、理不尽だとは受け止めないで。 フィリスちゃんとずっと旅をしてきた私だから言えるのだけれど、いつだって困った人を見捨てることは無かった。 どんな厳しいインフラ工事からだって、フィリスちゃんは逃げなかった。 ラスティンでは、一年で百年分の仕事をしたと言われているけれど、それは嘘でも何でも無いのよ」

 

「……」

 

「早く力をつけて、フィリスちゃんの助けになってあげてね」

 

笑顔で言われるが。

 

ああなるほどと悟る。

 

この人も、深淵の者関係者。それもずぶずぶと言う訳だ。

 

そして、今のはそう悟るようにあえて誘導している。フィリスさんの足を引っ張るなと、暗に釘を刺し、牽制もしてきている、と言う事なのだろう。

 

年の離れた妹であるフィリスさんを、この人が溺愛していることは分かる。

 

しかしながら、それはそれとして。

 

きっとこの人は、何処かで歪んだフィリスさんの事を悲しんでもいるし。

 

フィリスさんのためなら、何でもするのだろう。

 

愛する家族なのだから。

 

本を受け取って、アトリエに戻る。

 

もしも、自分が同じ立場だったら。

 

スールのために、何ができるだろう。

 

同じように、修羅になれるだろうか。

 

なれるかも知れない。

 

実際、ルーシャが手段を選ばなかったのを、間近で見ているのだ。家族への情愛が、必ずしも相手に伝わるとは限らないし。

 

何よりも良い方向に作用するとは必ずしも限らないのだから。

 

アトリエに戻ると。

 

スールがコルネリア商会での手続きを済ませて、薬を作り始めていた。

 

この間の深海探索である程度お薬を消耗したので、その補給である。

 

更に上級のお薬を作るためにも。

 

良い素材や、基礎的な技術は必要になってくる。

 

それを横目に、リディーは本を開いて、魔術の勉強。装備品を作るにしても、錬金術の布で服の裏地を作るにしても。

 

徹底的に知識を増やして。

 

改良を重ねなければならない。

 

事実下級のドラゴンを相手に、更に相手を弱体化させた状態でも、あれだけの苦戦をしたのである。

 

今後は更なる力が絶対に必要不可欠だ。

 

戦いの中で身につく力もあるかも知れないけれど。

 

リディーは戦いの中ではいつも真っ先に伸びてしまう。

 

魔力も足りないが。

 

それ以上に、魔術の使い方とかの配分が下手なのだと思う。ならば、練習して、磨き抜くしかない。

 

魔力量を増やす修行について詳しく書かれていたので。

 

早速やってみることにする。

 

かなり厳しい修行のようだが。

 

今、相当に増幅しているのだ。

 

魔力量が増えれば、それだけ使える魔術も増えるし。更に味方を有利にすることだって出来る。

 

シールドが強化出来れば強力な攻撃だって防げるし。

 

味方の能力を上げられれば、それだけ敵に対して攻撃が鋭さを増す。

 

二割攻撃力が上がるだけで、全然結果は違う。

 

そういう話をアンパサンドさんから聞かされている。

 

それならば、ちょっとでも魔力を上げられれば。

 

それに、スールだって裏庭で、拳銃を使いこなすべく、毎日特訓をしているのだ。弾代をつぎ込んでまで。

 

それにスール式のやり方で。

 

魔力をああやって鍛えているとも言える。

 

ならば、リディーは。

 

リディー式のやり方で、自分を鍛え上げるしかない。

 

座禅を組み。

 

全身を流れる魔力を練り上げる。

 

魔力を練り上げるというのは、本を見ながら詳しくやり方を覚えていくが。

 

最終的には、魔法陣を書き。

 

その上で更に効率的にやるらしい。

 

今はいきなりそこまでやっても体を吃驚させるだけだと思うので。丁寧に、基本からこなして行く事にする。

 

しばしして、魔力を放出して。

 

疲れたと思いながら、スールの方を見ると。

 

お薬が仕上がった所だった。

 

出来を確認するが。

 

最初の頃とは雲泥だと思う。

 

同じナイトサポートでも。これならば、もう割り増しで売値がつくはずだ。使う騎士達も喜んでくれるだろう。

 

ただ、コンテナにお薬を入れると。

 

腰砕けになってしまう。

 

どうやら今の魔力の練り上げ。やはり最初から無理をすると、大変な事になるらしい事がよく分かった。

 

慌てたスールに支えられるが。

 

苦笑いしてしまう。

 

「やっぱり私駄目だね。 魔力量が増えれば、もっとみんな守れるのに」

 

「無理しないでリディー」

 

「無理しないと、もっと今後無茶苦茶言われたときに、耐えられないよ」

 

「……っ」

 

スールも分かっている筈だ。

 

あの試験内容。

 

明らかに深淵の者が手を入れている。主体的に動いているのは多分ソフィーさんだ。あの人がどれだけ無茶苦茶しているかは、直接見なくても想像がつく。アルトさんの言葉はよく覚えている。

 

深淵の者でさえ、食客として扱っていて。

 

しかもその実力は、深淵の者全てをあわせた以上だと。

 

そんな人の出してくる試練だ。

 

まだ手加減している可能性は高く。今後、可能な限り力をつけないと、それこそ皆をゴミのように死なせる事になってしまうのは確実である。

 

ともかく、ベッドに横に寝かされる。

 

本については、スールも見るという。

 

拳銃の火力はだいぶ上がってきた。

 

専用の、魔力を流して銃弾をぶっ放すタイプの拳銃に、かなりなれてきたという事らしい。

 

今後は、空中機動をやってみたい。そうスールはいうのだ。

 

「獣の中にもいるでしょ、空中機動する奴。 あれが出来れば、スーちゃんももっと色々に戦えると思って」

 

「空中に足場を作って移動する奴だね」

 

「うん。 せめて立体的に動いて相手の頭の上とか背中とか狙えれば、更に戦術の幅を広げられると思うし」

 

「……」

 

そうだ。

 

スールも今、爆弾を使う時以外の火力不足を補おうと努力しているのだ。

 

リディーも寝込んではいられない。

 

明日以降、これをもっとやっていく。

 

そして、少しでも魔力量を上げる。

 

自分に言い聞かせながら。

 

スールに、この辺りが参考になりそうだと。

 

本を一緒に読み、説明を続けた。

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