暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
深淵の者本部。
様々なデータを見つつ、茶を楽しんでいたソフィーの所に、ティアナちゃんが戻ってくる。
各地で匪賊を処理させてはいるが。
今回は、ある人口一万都市で、違法薬物を販売していた組織を皆殺しにさせてきた。なお出所は幸い錬金術師ではなく、野草を用いたものだった。
面倒なのは、背後に複雑なつながりがあった事で。
しかも薬物を用いた洗脳で、売人を操っていたため。
背後関係を洗い出すのに苦労した事だろうか。
いずれにしても全容を掴んだ後は、番犬をけしかけるだけ。ティアナちゃんが、一晩で全部片付けて終了。
後始末は、深淵の者の後処理専門部隊が行う。
昔は手が回らなくて、こういった悪逆をどうしても見逃してきたが。
今はもうそれもない。
処理すべき悪は処理する。
本来は法曹がやるべき事だが。
今の人間に、其処までの事は出来ない。
否。
恐らく人間の文明がある程度発達しても、どうやっても社会の裏側を上手に悪用して、自分だけ稼げれば良いと考え、動く輩は出たはずだ。
その証拠に、今ソフィーが見ている記録。
ヒト族の先祖の故郷のデータにも。そんな邪悪な輩が、法の隙間をついて、悪の限りを尽くしていた記録が残されていた。
ヒト族は何ら進歩していない。そう結論せざるを得ない。
「ソフィーさま、お仕事終わりました!」
「うん、それじゃあコレクションを飾ってきて良いよ」
「わーい!」
無邪気に喜ぶと、ティアナちゃんはスキップしながら自室に戻っていく。これから刈り取った首に防腐処置を施し、コレクションに加えるのである。その作業は猟奇的だが、喜んでいるティアナちゃんは無邪気な笑みを浮かべるばかり。
あれが社会のゴミを処分して来た後だと、誰も気づけないだろう。
データを確認しながら、今後の計画を練る。
多分だけれども、パルミラはこのデータを確認していない。
助けた知的生命体達を、新天地からやり直した存在として、全て初期値から判断していて。
それぞれがどうして破滅したかの大まかな流れは理解していても。
それを改善させようとは、思っていなかった可能性が高い。
とはいっても、過去のデータを参考にしたからと言って。やり直す度に、全ての個体の記憶データのログを全精査していたパルミラが、知的生命体を知らないとはとてもではないが言えない。
よく出てくる無責任な人間賛歌の物語では、人間を知らないとか何とか、他の知的生命体やら上位次元の存在に罵倒を浴びせたりするが。
実際にはパルミラは、どんな人間よりも人間を知り尽くしている。
脳内の全データを完全にログ化して確認しているのだ。
まあ当然の話ではある。
だがそれにしても、このデータを回収していなかったのは少しばかりもったいないかも知れない。
確か調査によると、ホムの故郷の世界は滅びていないはず。
獣人族の故郷の世界では、ヒト族に似た種族が天下を取った後、滅びてしまったらしい。
魔族の故郷の世界は、絶対神が、自分が「正義」と信じるルールを強いて、天使と呼ばれる種族による完全管理体制を敷いているらしい。
もしもデータを更に集めるとすると。
獣人族と、魔族の世界のデータか。
この二つの世界からデータを集めてくれば、更に今後役立てる事が出来るかも知れない。
いずれにしても、大体の解析は終わった。
プラフタが来る。
軽く、解析内容について話をする。
プラフタは眉をひそめたが。
しかしながら、大きくため息をついた。
彼女も、だいたい予想は出来ていたのだろう。プラフタだって、嫌と言うほどヒト族の業を見てきた存在なのだから。
「ヒト族は、己が滅ぼした世界でも、同じように振る舞っていたのですね」
「んー、自分達に拮抗する存在がいなかったから、余計に傲慢だったかもね。 むしろ同胞にレッテルを貼って、悪逆を押しつけていたみたいだけれど」
「それでソフィー。 貴方はどうするつもりなのです」
「今後は獣人族と魔族の世界のデータも回収してくるつもり。 獣人族の世界の方はシャドウロードに任せる。 ルートについてはあたしが確保するよ。 問題は魔族の世界の方で、パルミラほどではないにしても、そこそこに力のある連中が仕切っているから、侵入には注意がいるかな。 あたしが行くしか無いかもね」
眉をひそめるプラフタ。
悲しそうに、星の瞳がソフィーを見る。
敵対勢力に、ソフィーが容赦をまるでしないことをプラフタは良く知っている。勿論ソフィーとしても、相手が戦いを挑んでくるなら、容赦なく消し飛ばすつもりだ。
「ソフィー、一つ情報が入りました」
「ん、何?」
「ロジェがアダレット王都に帰還を開始しました。 錬金術の腕前を取り戻して、何かするつもりのようです」
「ふふ、意外に早かったね。 丁度良いかな」
立ち上がる。
プラフタに、ヒト族の世界のデータを譲る。マスターデータは勿論とってある。プラフタにも見る権利があると判断して、引き渡すだけだ。頷くと、プラフタは確認を始める。愚かしすぎる歴史を。
ソフィーは何人かを連れて、ロジェの前に出向く。
深淵の者本拠「魔界」から、ソフィーの世界につながるドアは至る所に設置してある。ロジェの前に回り込むくらい、朝飯前だ。
街道でソフィーと、数人の傭兵に出くわしたロジェは。顔を上げる。
一歩も引く気は無い、という顔だ。
「これ以上、双子を貴方の好きにはさせない! 貴方がどれほどの賢者であったとしてもだ!」
「うん、良い心がけだね。 で、どうせ双子に錬金術の勝負でも挑んで、自分が勝ったら錬金術師を辞めさせよう、とでも言うんでしょう?」
「……っ!」
「その話、乗ってあげるよ」
ソフィーとしても、ロジェの思考を読むことくらい造作もない。
なんで此奴が今頃になって、さび付いた腕を磨き直していたのか。ちょっと考えれば分かる事だ。
そして双子のエサとしても丁度良い。
駄目だったら、その時はその時。
次の周回でやり直せば良いだけのこと。
なに、そもそも事象の固定は雷神撃破後である。双子の育成の基礎はもう出来ている。世界の終焉までいたって巻き戻してもそれは同じ。
海底宝物庫のドラゴンで試練が足りなかったのなら、もっと強烈なエサを用意すれば良いだけ。
「本当、だろうな」
「本当だよ。 あたしとしても、貴方に負ける程度だったら、双子にはもう興味も湧かないしね」
「……そうか」
「さ、行くといいよ。 ああ、一つ言っておくけれど、課題は此方で用意するから」
Bランク昇格試験そのものは、実のところ難しく無い。
まあ一応には難しいが、本命はそもそもCランクからの昇格を認めさせるかどうか、であって。Bランクの実力があると認めた錬金術師には、相応のものを作らせるだけである。意外にも、ルーシャはこれを突破して見せた。思ったよりも出来る子だったのだと、今では評価を上方修正している。
ロジェの背中を見送る。
気合いが入っている。
ソフィーの掌の上から、双子を解放できると思っているのだろう。
それでいい。
それくらいの気迫で向かってくるロジェ。公認錬金術師としての資格を持つ者を超えられなければ。
そろそろ双子も話にならない段階まで来ている。
エサとしては丁度良い。
では、次の準備だ。
この試練を乗り越えられないようなら、双子にもう興味が無いのは事実。
その後に双子に浴びせる試練を、今のうちから準備しておく。無駄になったらその時はその時。
次の周回で生かせば良い。
それだけの事だ。
ソフィー=ノイエンミュラーはもはや特異点。
その思考は、既に人間の領域からは。
大きく外れているのだった。
(続)
次の試練開始。
双子の立っている場所は、加速度的に細く狭く危険になっていきます……