暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
ルーシャ自身に作業をして貰う訳にはいかない。だけれども、アドバイスを受けること自体は問題ないはずだ。
ただ、妙だ。
ルーシャはスールから見ても、何だか隠し事をしているかのように見える。勘が告げている。そしてスールの勘は当たるのだ。
何かあるのは確定だが。
それはそれ。
今はお父さんに勝つことを考えなければならない。
そもそも、深淵の者がお父さんを放置している、と言う事は。何かしらのもくろみがあると言う事なのだろう。
何にしても、負ける訳にはいかない。
全盛期のお父さんの実力は本当に凄かった。
だけれど、今は。
その実力を超えないと、先に進むことは出来ないのだ。
お父さんは癌のことを知っているのだろうか。
ルーシャに、蒸留水の精度を上げながら聞くと。
頷かれる。
知っている、と言う話だった。
錯乱状態が収まったあと、一年ほどしてから話をしたと言う。その頃のお父さんは、確か廃人状態だった筈。
だけれども、お母さんに関する話だ。
聞いていなかったとも思えない。
それにしても、大胆なことをする。
よりにもよって、お兄さんであるルーシャのお父さんの所に喧嘩を売りに行き。
アトリエを乗っ取る、か。
ルーシャだって、実力を積み重ねてBランクのアトリエにまでなっているのである。錬金術の腕前でそれ以上である事を示せば。
まあ試験官としては、適正と言う事になるのだろうが。
もし一歩間違えば、ソフィーさん辺りに殺されていたはず。
或いは、だけれども。
お父さんはお父さんなりに。
リディーとスールを救うために、今まで深淵の者に対して、接触を繰り返していたのかも知れない。
だとすると、本当に危ない目にばかりあわせていた訳で。
申し訳ないという言葉以外は、出てこなかった。
高精度の蒸留水が出来たので、仕事をリディーに代わる。
今度は、中間生成薬を温め。
現在準備できる最高の中和剤。
ネージュの要塞からとってきた薬草をすり潰して、不純物を取り除き。其処に蒸留水を入れ。魔法陣の上で魔力を充填させたものを使って、混ぜ合わせる。
温度もレシピ通りに、完璧に揃えなければならない。
中間生成液ごとに温度が違う。
不純物が混ざっていては駄目。
非常に厳しい調合だが。
やるしかない。
こう言うとき、勘がものを言うが。
駄目な場合は、手が止まる。
呼吸を整え直して、確認をする。主に温度調整は湯煎でするのだが。温度調整が上手く行っていない場合、内部までしっかり温まりきっていない事が殆どである。試験管やフラスコに入っている中間生成薬をクルクルと振るい。
温度を均一化させ。
そして、混ぜ合わせる。
レシピはかなり細かいが。
言われた通りにやればきちんと出来る。
冷や汗が流れる中、タスクに×をつけ。
次の段階に進む。
リディーが、超高純度まで濾した中間生成液を作るのに成功。モフコットを使用したのだけれども。
魔法陣を複雑に織り込んだ特別製で。
あらゆる全ての不純物を取り除いたのだ。
これで、このモフコットはもう使えないが。
しかしながら、濾過に使うモフコットという実績は残してくれた。ごめんねと言いながら、焼却処理。
次のステップに進む。
勿論すぐに上手く行くとは限らない。
元々大した腕前では無いのだ。
何度も失敗して、足踏みするタスクもある。難易度が高い中間生成液は、全てコルネリア商会に登録してきた。
お金は掛かるが。
此処で負けると、多分取り返しがつかない事になる気がする。
だったら、此処で負ける訳にはいかないのである。
またタスクを一つ潰す。
既に十日が過ぎていた。
交代で休みながら、ルーシャのアドバイスも受けて、作業を進める。間近でルーシャのアドバイスを聞いてみると、よく分かる。
ルーシャの方が、まだずっと知識も実力もある、と言う事が。
この試験を仮に受かったとして。
Bランクになってルーシャに並ぶとしても。
それは単に制度上の問題で並んだと言うだけの事。
まだまだルーシャの方がずっと上手いという事は、スールには分かっているし。今では、そのアドバイスも素直に聞くことが出来る。
つくづく昔の自分を殴りたい。
だが今は、その気持ちを抑えて。
説明を聞き。
メモをとり。
作業を一つずつ処理していく。
リディーが起きだしてきた。外で、井戸水で顔を洗っているのを横目に。ルーシャを誘って、外に出来合いを買いに行く。
今は講義を受けていたのだが。
そろそろリディーが起きてくる頃だと思って、目を離せないような調合はやめておいたのである。
出来合いとしては、適当なパン類を買っていくが。
ルーシャが、思った以上に街の人達と、良好な関係を構築しているのに驚いた。
アトリエヴォルテールが大繁盛しているのは知っていたが。
単に腕だけが原因では無かった、と言う事だ。
どうやら、細かい頼み事まで、かなり丁寧に処理しているらしい。
自分の仕事ではないと判断した場合は専門家も紹介するし。
理不尽な文句も、笑顔で受け入れる度量を持っている。
なるほど。
この国で現時点で一番のアトリエは、多分アトリエヴォルテールだ。
実力という点では、三傑が開いているアトリエが天地の差で上だけれども。しかしながら、人々の信頼を得ている、と言う点ではそうだろう。
人々というものに、スールは非常に不審を覚えているけれども。
ルーシャも、ネージュの末路は見ている。
不審を覚えていない筈が無い。
それでもこうやって振る舞えると言う事は。
それだけ人間的に出来ていると言う事だ。
出来合いもおまけして貰ったので、そのまま帰る。帰り道で、軽く話す。
「スーは勘に頼りすぎですわ」
「うん、それは分かってる。 どうしても細かいところで、勘に頼る癖があって……」
「もっと細かく理論を理解すれば、きっと悪い癖も直せると思いますけれども」
「頑張るよ」
今は、くどくどいわれる苦言もしっかり受け入れられる。
アトリエに戻って、食事。
オイフェさんが、リディーと一緒に食事を作ってくれるかも知れないけれど。
今は料理という点でリディーに負担を掛けたくないのだ。
オイフェさんには、料理なんか良いので、サポートを頼みたい。洗濯とか掃除とか。
錬金術師のアトリエで働いているだけあって。
オイフェさんはその辺り心得ていて。
それどころか、コンテナの整理までしてくれていた。
あまり良い印象がない人だけれども。
言わなくても、殆ど完璧にやってくれる事も多いので。ルーシャはいつも楽だろうなと、感心してしまう。
それと、そばで見ていて思うが。
この希薄な感情。
何となく、ホムを思わせるのだ。
気のせいだろうか。
「ねえ、リディー。 教会にホムの子いたよね。 仕事が決まっていないようなら、助手として雇おうか」
「あ、同じ事スーちゃんも考えてたんだ」
「この間コルネリアさんに聞いたけれど、ソフィーさんもコルネリアさんに助けて貰ってたし、フィリスさんもツヴァイさんに助けて貰っていたらしいじゃん。 ひょっとするとだけれど、錬金術師の助手として、ホムってすごく優秀?」
何故ホムなのかは、言わない。
オイフェさんに流石に失礼だと思ったからだ。
まああの人の場合、気にすることさえ無さそうだけれど。
何があっても感情一つ見せてくれないし。
ホムより下手すると感情が薄いかも知れない。
あの人に比べると、アンパサンドさんが激情家に思えるほどである。
そして、二人同時に思い浮かべたのだろう。
イル師匠の所にいるアリスさん。
あの人も、どうしてかホムを想起させるのだ。
ホムは感情こそ薄いが、計算が得意で、手先も器用だ。何より不正をしようという発想そのものがない。
役人や商人としての適正は、ヒト族を遙かに超える。
これについては実際に見て知っているが。
或いは、こういう支援役として、文字通り最高の人材なのではあるまいか。
ルーシャが咳払いしたので、調合に慌てて戻る。
ルーシャ自身も、オイフェさんと話しながら、コンテナを整理してくれている。
アドバイスを求められれば、全て答えてくれるし。
その返答も、殆どよどみなく。
文字通り立て板に水だった。
必要な場合は、すぐに見聞院に行って、書物をとってきてくれる。今は居候の身だからと、ある程度の雑用までしてくれるが。
ズッコケキャラどころか、少なくともスールは論外として、リディーよりも細かいとこっろでしっかりしている位だ。
お父さんと二人で、とっくの昔から錬金術師として働いていたから。
それも、恐らく嫌な政治の世界も目にして来たから、だろうか。
ネージュの事件の時に生き延びた後も。
ヴォルテール家は、非常に厳しい状況下で、生き残ってきたと、後で調べて知った。
国が約束に従って、ネージュ関係の資料を公開したので。
それに伴って、ヴォルテール家関係の情報も出てきたのである。
それを見る限り、あらゆる口に出来ないような汚い事をして生き延びてきた様子で。逆に言えば、相当に気を遣いながら必死に生きてきたとも言える。
怖かったのだろう。
ネージュの迫害される過程を見て。
何しろ、雷神を倒したほどの錬金術師に対しても、迫害をするのである。「みんな」という奴は。
それに対して上手くやっていくには。
それこそ血反吐を吐く苦労が必要だったのは疑いない。
調合を続けて、タスクをまた一つ潰す。
ペースが上がって来ているが。
それでもまだまだギリギリ出来るか出来ないか、だ。
完成品が出来たとしても、実験している余裕は無いかも知れない。
出来れば、動物実験をしたい事もある。
ある程度は余裕を持って作業をしたいが。
しかしながら、スケジュールがカツカツなのも事実。
お父さんは、これを一月で、単身でこなせるのだとしたら。
それは何というか、あらゆる意味でまだリディーとスールが及ぶ存在では無い。冷や汗を拭いながら、またタスクを潰す。
タスクによっては、三日を要するものもある。
何度も溜息が零れるし。
その度に、一度気合いを入れ直す。
集中が途切れると、それだけミスをする確率が上がる。
コルネリア商会に中間生成液を何種類か登録しているので、失敗してもお金で取り返せるけれど。
しかしながら、お金だって有限なのだ。
幸い、国が気を利かせてくれたのか。
試験の間は、義務を免除してくれる、と言う事だった。
これだけは有り難い。
試験と同時に、一週間の外征とかあったら、それこそ詰むところだった。
また、愚痴を言う相手として。
ルーシャがいてくれるのも有り難い。
ベッドもいつもオイフェさんがふかふかに仕上げてくれているし。
本当に助かる。
食費なんて今更気にならない状況だし。
二人分くらいの生活費なんて、それこそもう誤差の範囲内だ。結局アトリエを出たおじさんの宿代も含めて、今は気にしなくても平気である。
十五日が経過。
タスクは七割少しを消化。
一応ペースとしては悪くは無いのだが。
此処から難しい処理がたくさん待っていると思うと、決して残りタスクだけで判断して良い事では無い。
「スー、このタスクは、リディーに任せた方が良いですわ」
「え、此処?」
「これ、かなり難しいですわよ。 勘に頼ると失敗しますわ」
「ん、分かった……」
少し口惜しいけれど。
リディーと交代する。
逆に勘が必要と判断される場合は、ルーシャがそうアドバイスをしてくれて。リディーと交代する事もあった。
ただ、リディーはやっぱりものの声が聞こえてきている。
明らかに動きが良すぎるときがある。
勘でどうにか差を埋めたいが。
しかし、どうしても駄目なときは駄目。
それが悔しくて。
スールは、時々無言になってしまう。
これが、酷い亀裂を産まなければ良いのだけれど。
そう考えるけれど。
今は、兎に角手を動かす時だ。
更に五日が過ぎ。
試験開始から二十日経過。
残りタスクは五つ。
だが、このどれもが。
今までとは比較にならない難易度なのは確実だった。お父さんだって、いつ仕上げてくるか分かったものじゃない。
ここからは、寝る時間もないと覚悟するべきだろうか。
今までは、ルーシャが持ち込んでくれた人間用の栄養剤である程度誤魔化してきたが。
しかし、それでは精度が落ちる。
時々眠らなければならない。
どうすればいい。
しばし逡巡するが。
だが、リディーの方が、今度は声を掛けてきた。
「スーちゃん。 先に、どっちがどのタスクを処理するか決めて、作業が被るときにはその間に寝ておこう」
「うん。 それしか無さそうだね」
「ごめんルーシャ、出来合いとかの補充頼める?」
「私がやっておきます」
不意に知らない声。
滅多に聞かないオイフェさんの声だ。
オイフェさんが喋るのは、あまり見ないのだけれども。だから、一瞬誰の声だと思ってしまった。
ともかく頼めるなら、頼む。
黙々とオイフェさんが出ていくので、ほっとした。
「ルーシャ、オイフェさんって、ルーシャと一緒の時も殆ど喋らない感じ?」
「ええ。 年に何度か喋るか喋らないか、ですわね」
「仕事は凄く出来る人だけれど、もう少し会話を試みないの?」
「喋る事自体が嫌いだと以前言われた事がありますわ」
ああ、そういう。
それでは仕方が無いか。
ただ、それだけではどうにも説明がつかない気がする。
ともかく、タスクの処理について話しあった後、それから一気に最後の処理に向けて動く事にする。
まだ、中間生成液に、ナンバーを振って、混ぜたり分離したり濾過したり凝固させたり、そういう段階だ。
今扱っているものに薬効成分はない。
霊薬を仕上げるには、まだまだ時間が掛かるし。
仕上がるまでは霊薬では無いのだ。
そう言い聞かせて、作業に戻る。
オイフェさんが出来合いを買ってきてくれた。その間にルーシャが、消耗品を補充してきてくれた。
リディーもスールも気付いていない、消耗品の消費にルーシャは気付いていてくれて。
此方が助かった程だ。
こういうのは、家の中にいるから却って駄目で。
第三者の視線が入って、やっと気付けるのだろう。
やはり、お手伝いさんを雇うべきか。
そう、スールはまた思う。
ホムは、寿命が人間の二倍半。
真面目だし、不正もしない。
きちんと教えれば、一生リディーとスールを手伝ってくれるし、リディーとスールが死んだ後は、他の錬金術師の所で働けるはず。
タスクを一つ処理するのに二日。
どんどん難易度が上がる中。
集中力を保つのが困難になってきた。
ほぼ同時に、もう一つのタスクを処理する。
これで残り三つ。
その間、スールは眠らせて貰うけれど。
余程疲れが溜まっていたのか。
丸一日、ほぼ眠ってしまった。
慌てて飛び起きたが、引き継ぎをすると、今度はリディーがベッドでばたんきゅうである。
今度はスールの番か。
呼吸を整えると。
調合に取りかかる。
要所ではルーシャのアドバイスを受ける。ルーシャはこのレベルの薬を作った経験があるらしく、難しい段階に入っても、的確なアドバイスをくれる。
指先が震える。
ほんのちょっとの失敗で、霊薬がただの生ゴミになってしまうのだ。
恐怖も当たり前である。
だが、それでもやり遂げなければならない。
そうだ。
やっと、お父さんと、ちゃんと向き合える機会が来たのかも知れないのだから。今まで、お父さんはずっとリディーとスールを遠ざけてきた。
昔は、リディーは明確にお父さんを嫌っていたし。スールもお父さんを馬鹿にしてきた。
昔の自分達を殴りたいのは今はおいておく。
この機会を逃したら、きっともうお父さんとわかり合う機会は無い筈だ。
頬を叩くと。
湯煎の確認をし。
今度は炉を用意する。
炉に液体なんか入れたら一瞬で蒸発してしまうのが普通だが。
この霊薬に関しては、そういうわけでもない。
要するに、摂理の範囲内とは言え。
普通の薬品の認識からは、外れる品だと言う事である。
勿論温度については徹底的に吟味。炉の温度も、中間生成液を入れる際に、徹底的に調べ上げる。
作業をこなしている内に、数刻が消し飛ぶ。
それでも、何とか集中力を保ちきった。
ほどなく、炉から中間生成液を引き上げる。
煮立つことも無く。
まるで溶岩のように、どろっとした赤熱した液体。
錬金釜に満たした中間生成液の中に入れると、凄まじい反応を起こして、一気に色が変わる。
錬金釜の上部には魔術を展開。
蒸気を押し返す魔術である。
これをやらないと、文字通りアトリエが爆発する。
釜に関しては気にしなくても良い。
この程度の蒸気で爆発するほど脆いものではないからだ。
しばしして、温度が落ち着いてきたところで、中間生成液の状態を確認。何とかタスクの処理完了。
起きだしてきたリディーと交代。
あと少し。
引き継ぎをして、出来たものを見せる。
頷くと、リディーはすぐに作業に取りかかってくれる。
ルーシャも少し仮眠を取ると行って、となりのベッドに直行。ずっと手伝ってくれていたのだし、少しくらい休むのも当たり前だ。
スールは、いつの間にか落ちてしまっていて。
起きだすと、数刻が経過していた。
ルーシャはとっくに起きだして、リディーの補助に回っている。
オイフェさんが掃除をしているのを見て。
スールは頬を叩いていた。
あと二つのタスクが、最難関。
残る時間もあまりない。
だから、此処を一気にこなしてしまわないと。
先が見えないのだ。
大きく深呼吸してから。
ゆっくりと起きだす。
準備してある出来合いを食べて、外で顔を洗い。裏庭で、アンパサンドさんに教わった動きをし。銃の試射をして。
完全に気分転換が出来たところで。
アトリエに戻る。
どうやら、最後のタスクになったらしい。
後は、残る全ての中間生成液を。一気に釜に投入するだけだが。
それぞれの中間生成液に温度設定が必要で。
全部を同時に投入する必要がある。
コレが終われば。
全ての命を摂理の範囲内で病魔からも欠損からも救う神薬。神秘の霊薬の完成だ。
残る時間はない。
湯煎を手分けして進める。幾つかの中間生成液は、非常に作成難易度が高いので、コルネリア商会に持っていく。
残り時間は少ないが。
此処で焦れば、全てが台無しである。
勿論負ける訳にはいかない。
お父さんが何処まで作業を進められているかは分からないが。少なくとも、此方には手数が二倍、いや三倍という利点がある。実力でこっちが劣っていても、それだけは勝っている。ましてやお父さんは、コルネリア商会を利用して、失敗をフィードバックという手も使えないだろう。
実力差を埋めるには。
あらゆる手段を用いていくしかない。
湯煎完了。
後三日。
一気に錬金釜に、死ぬような目で作り上げた中間生成液を、全て投入する。投入はリディーとスールで一気に行うのだが。
投入後、間を置かずに一気に混ぜ合わせる。
対流が上手く行くように、ただぐるぐる混ぜるのでは無く。
引き上げるようにして、棒を動かして。複雑に錬金釜の中で、液体が動くようにして混ぜるのだ。
しばし待つ。
永遠の時が流れるかと思うほどの時間が流れた後。
激しい反応が始まった。
虹色の、見るからにおぞましい液体だった神秘の霊薬の元が。ぼこぼこと激しく泡立ち始め。
そして、スールでも凄まじいと感じる魔力が放出される。
この魔力放出は、余計なものを一気に輩出するような作用で。
故に、放出されていく魔力そのものは、とても禍々しかった。いわゆる霊が集まるかも知れないが。
そんなのはどうでもいい。
お化け嫌いだったスールだけれど。
あの愉快で優しいお化け達の森で、それは過去の考えになった。
出来た。
そう実感するスールの前で。
釜の中にあった元神秘の霊薬の沸騰が収まり。
そして、とてつもない透明度の。
美しく、甘い香りがする液体が出来上がっていた。
これぞ、神話に残る神の飲み物。
神秘の霊薬である。
さっそく、全てを回収。一部をコルネリア商会に登録する。そして、実験。少し怖いけれど。
スールは調理用の大型ナイフを持ってくると、自分の腕をばっさりと抉った。
大量の鮮血が噴き出すけれど、別にもうどうでもいい。
神秘の霊薬を塗る。
あえて、骨まで行くように切ったのに。
痛みも。
切られた肉も。
一瞬で元に戻り。それどころか、体内から血まで復活していくようだった。疲れも溶けるように消えていく。
これが、まさに摂理の限界の薬というわけか。
リディーにも試してみる。
頼まれたので、やる。テーブルの上で腕まくりしたリディー。その腕に、思いっきりハンマーを降り下ろす。
勿論複雑骨折だ。ぐしゃっと、酷い音がした。
ルーシャの方が目を背けたくらいで。
むしろリディーは、平然としている。これは、戦闘で散々気を失うほど、痛い思いをしたからだろう。
神秘の霊薬を塗り混む。
一瞬で、グシャグシャになった腕と。複雑骨折した箇所が、回復していくのが分かった。
確認をして貰う。
「握力問題なし。 指先までしっかり動くよ。 筋肉に痛みも残っていないね」
「よし、完成っ!」
拳を突き上げる。
ルーシャは、少し悲しそうにリディーとスールを見ていたが、どうしてだろう。理由はよく分からない。
ただ、動物実験をしている余裕は無いし。
何よりも、今回は絶対に上手く行っているという自信もあった。
ならば、これでいい。
これでいいのだと、スールは言い聞かせていた。