暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
其処は不可思議な場所でした。今まで以上に。
序、古代の風景
エントランスに集まる。今回は、秘蔵の品である不思議な絵画を公開してくれるという話である。しかも、それを調査して欲しい、と言う事だった。
既に何人かは入っているのだが、調査は出来るだけ大人数で、しかも戦闘力が高いメンバーが良い。
先行調査した錬金術師は、そう結論したそうである。
誰だかは分からないが、多分三傑の誰かだろう。
いずれにしても、エントランスには、リディーとスール、マティアスさんとアンパサンドさん。フィンブルさん。ルーシャとオイフェさん。後はアルトさんが来ていた。
案内してくれるモノクロームのホム。
既に此処にいる四人の錬金術師は、全員がBランク以上である。
それを全員投入すると言う事は、余程これから調査する不思議な絵画が面倒だと言う事で。
リディーも覚悟は決めていた。
それは、何というか。
不可思議な砂漠のように見えた。
荒野を通り越して、砂漠になっている場所は、アダレットの一部や、ラスティンの辺境に存在すると聞いている。
実物は見たことが無いので、こんな感じなのかなと思うしかない。
奇妙なのは、無数の建物が砂漠から生えていて。
その全てが破損している、と言う事だった。
まるで廃墟が砂漠になったような。
砂漠に廃墟が飲み込まれたような。
その廃墟も妙で。
これが元々どんな建物だったのか分からないものばかり。
それどころか、空中には奇妙な球体が浮いていたりもする。
ふうんと、アルトさんが唸った。
「これは恐らく、相当に古い不思議な絵画だね」
「ご明察なのです。 これを調査して欲しいのです」
「……分かった。 何とかやってみよう」
不思議な絵画の調査には、錬金術師の側にも利がある。
とはいっても、これは相当に古い不思議な絵画と言う事は、強力なレンプライアの巣窟になっている可能性も高い。
真っ黒になっていないと言う事は、汚染されきってはいないという事だとは思うけれども。
油断はしない方が良いだろう。
まず、アルトさんが手を叩いて、衆目を集める。既に役人は戻っていった後である。
「僕が見たところ、これは500年前後前の不思議な絵画だね」
「500年!」
「アダレットの武王の時代なのです」
口々に驚くマティアスとアンパサンドさん。
頷くと、アルトさんは続ける。
「この時代より前には、大きな「秩序」というものが存在しなかったんだ。 たまに出現する錬金術師が集落を大きくするが、錬金術師が死ぬと集落は獣に壊滅させられてしまうし。 そもそも錬金術師は力に驕って好き勝手なことをすることも多かった。 空中に要塞を作って自分だけ安楽な生活を謳歌したり、或いは他の人間を奴隷化したり、とね」
「……」
確かに。
今は深淵の者という強力な抑止組織がある。だから、悪党の類は好き勝手が出来ないはずだ。
ソフィーさんは文字通りの魔人だ。あの人に、通常の倫理観念とかは通用しない。
だけれどあの人は悪党ではない。
少なくとも、何かしらの秩序のために動いている事は分かるし。そもそも、その秩序が何かしらの未来を指向しているのも確かだろう。
その過程で多くの血は流しているが。
少なくとも私利私欲のためでは無い筈だ。
しかしながら、ソフィーさんは魔人にしてそもそも例外。
錬金術師は人間の時点であまりにも力が強すぎる。
秩序無き時代に、錬金術師が暴威を振るったら。
たまに大きな集落が出来て。
それ以外は人々は彷徨い続け。
そして獣に襲われ、ドラゴンに焼き払われ。命を落とし続けるしかない。それは文字通り、地獄と言うのも生やさしい光景だっただろう。
秩序には、それほどに大きな意味と力があるのだ。
「これは、そんな古き時代の錬金術師の遺跡を描いたものと考えて間違いない。 だが、意図が読めないな」
「この絵画を描いた意図ですか?」
「その通りだ、リディー。 ともかく、意図が読めない以上、気を付けて中に入るしかあるまい」
それは全面的に同意だ。
皆に準備を確認して貰う。今回は、ルーシャは全自動荷車を二連にして持って来ているが。
それほどの大量の物資を運び込む事も。
搬入することもないと判断したからだろう。
すぐに、絵に入る。
入った場所は、砂漠のど真ん中。
早速周囲を警戒する皆。
どうやら、砂丘が連なっている中。点々と遺跡が、何処までも続いているらしい。
どこから何が現れてもおかしくない。
しかも足下が柔らかい以上、地下からの奇襲は、普段の野外より更に警戒しなければならないだろう。
足下に結界を展開。
これについては、前から考えていた事だ。バステトさんと相談して、完成させた。
最近はバステトさんに相談する事も減ってきたが、感知力を上げる結界を常時展開する魔術となると、流石に実戦を知っている魔術師に相談したい。今の装備類と衣服によるブーストであれば、この結界を常時展開するのは、やり方さえ分かれば難しく無い。
今回は砂漠と言う事で。
早速実戦投入である。
レンプライアの性質は分からない事も多い。それに不思議な絵画の中にも獣は出現する。
備えは、しすぎると言うことはないのだ。
アンパサンドさんは頷くと、若干下がる。
普段通り餌になってくれているのだけれども。
足下からの攻撃があった場合、リディー達錬金術師が対応するまでの速度と、アンパサンドさんの位置関係を見直した方が良いと判断したのだろう。
そのまま、ゆっくり歩いて行く。
砂漠の上、似たような光景が延々と続いている状態だ。
これは下手をすると、迷うかも知れない。
何か対策がいるかも。
ただ、絵から一瞬で出られる強みもある。それは生かさなければならないだろう。
浮かんでいる球体を見上げる。
空には太陽らしきものはなく。
影も球体の下にしか出来ていない。
これも小さな異世界である不思議な絵画だからこそ、出来る事なのだろう。
砂丘は出来るだけ避けて歩く。
これについては、一度アンパサンドさんが見せてくれた。
下手をすると、一気に埋まってしまう。
それくらい危ないものなのだ。
展開している皆を、リディーは常に確認しながら、ゆっくり進むが。不意に、フィンブルさんがハンドサイン。
全員が戦闘態勢に入る中、砂を蹴散らすようにして、何かが迫ってくるのが見えた。
蚯蚓のような奴。
何度か外で交戦した獣だが、それらと比べてもとんでもなくデカイ。ネームドに匹敵する程だ。
すぐにシールドを展開。
相手の出方を窺う。
蚯蚓のような獣は、凄まじい勢いで砂丘も瓦礫も蹴散らしながら進んでいたが、どうやら此方には興味がないらしい。そのまま、通り過ぎていく。
しばしして、シールドを解除。
進路上にいなければ襲っては来ないのだろうか。
「見てくださいまし」
ルーシャが声を上げる。
見ると、蚯蚓が吹き飛ばして行った瓦礫が、見る間に修復されていく。ただし、元の壊れた家屋に、だ。
なるほど、これは厄介かも知れない。
ぴんとしていない様子のスールに教える必要もあるだろう。
マティアスさんに頼んで、その辺の瓦礫を壊して貰う。
案の定。
マティアスさんの剛力で粉砕された瓦礫は、見る間に修復されていくのだった。
「あっちゃあ、こりゃあまずい……」
「え? どういうこと?」
「目印の類をつけられないって事だよ。 棒とか立てても、あの蚯蚓みたいな獣がうろうろしているなら、倒されちゃうでしょ。 それに瓦礫に印をつけても、すぐに消えちゃうだろうし」
「あ……」
やっとこの絵の厄介さが分かったか。
ともかく、これはまずい。
一度、マティアスさんが、アンパサンドさんを上空に投げ上げる。
マティアスさんの剛力が上空へ投げ上げると同時に、アンパサンドさんが跳躍。二人分の力を相乗効果で上げて、一気に躍り上がったのだ。
勿論着地地点にはシールドを用意する。
下が砂では流石にアンパサンドさんでも埋まってしまうからである。
シールドに降りてきたアンパサンドさんは(流石に柔らかく着地していたが)。首を横に振る。
「少なくとも、視界の範囲内には、特徴的なオブジェクトや地形は見つからないのです」
「迷子になってくれというようなものだな」
「一度出ましょう」
皆、異議無し。
リディーの合図と同時に、不思議な砂漠から出た。
エントランスに出ると、一旦靴に入った砂などを落とす。柔らかい砂だけれども。直接靴に入ると危ない。
これはアンパサンドさんに教えて貰った。
砂漠の砂は、鋭い。
柔らかくもあるけれど、それは空気を含んでいるからで。
靴などに直に入ると凶器になる。
だから、入る前に靴下をはいたのだ。最初は出来るだけ軽装でいこうともしたのだが、止めた方が良いとも言われた。
まず一旦エントランスを出て。
城の応接室を貸してもらう。
これくらいは、Bランクに上がっている今は、許可されていた。
「この間海中で使った使い魔の術、使ってみます」
「それもそうだけれども、まず周囲に何も無いのをどうにかしないといけないのです」
「はい」
「あとあの飛んでる球体だよね。 何だろあれ」
下手に触ると危ないかも知れない。
少し考えた後。
浮遊式避雷針を持ち込むことを考えた。
以前ブライズウェストに持ち込んだアレだ。まずアレを使って触ってみた後。マティアスさんに協力して登ってみて調べる。
他にも色々と考える。
靴について。
そろそろ錬金術製の布を作れるようになってきている。
木靴ではなく、皮と布を使って、強力な靴を作れるようになってはいるのだけれども。
本格的に、必要な人数分。足の保護と、能力強化を行える靴を揃えるべきだろうとも考える。
更に、である。
前から考えていた、フィンブルさん用の武器の更改。
皆への錬金術布の服の提供。
これを行って。
戦闘力の底上げをしたい。
これらをリディーが話すと。アンパサンドさんは、頷いた後聞いてくる。
「具体的に時間はどれくらい掛かるのです」
「浮遊式避雷針は、元々灯りにも改良したものがあるので。 そうですね、レシピを弄ってすぐにでも。 靴は鍛冶屋の親父さんに頼んで、数日以内に作ってもらいます。 材料については、此方で用意します」
皆の足のサイズについて確認。
マティアスさんは、鎧と一体化している靴。いわゆる脛当てをつけているので、必要はないという。
そうなるといつものメンバーに加えて。
ちょっと柔らかそうな靴を履いているアンパサンドさんか。
だがアンパサンドさんは、注文をもう一つつけて来る。
「靴底にはプラティーンを仕込んでほしいのです」
「……ちょっとまってくださいね」
考え込む。
強靭な獣の皮は幾つも仕入れている。強度はこれで充分だと思ったのだけれど。薄く加工したプラティーンを入れて、其処に魔法陣を仕込むのもありか。
薄くした所で、何しろプラティーンである。
魔法陣が踏んで潰れたりする事もあるまい。
むしろ、問題なのは足を圧迫する事だが。
これについては、靴底に直接プラティーンを仕込むのではなく、緩衝材をいれるか。或いは、プラティーンを複数の細かい板状にして仕込み、柔軟性を作るか。両者をセットにする方が良いだろう。
鍛冶屋の親父さんと相談はするが。
多分出来る。プラティーンの質も上がってきているのだ。出来るはずである。
「分かりました、それも数日以内に」
「後は服なのです」
「採寸をさせて貰えますか?」
「服の採寸なら、騎士団に情報があるぜ。 明日持って行ってやるよ」
だとフィンブルさんだけか。
丁度良い。
装備の一斉更改のタイミングだ。
それに、この砂漠。探索はそもそも尋常では無く難しいだろう。そもそも、何を目的に作られた不思議の絵画なのかもよく分からない。
しばらく黙って見ていたアルトさんだが。
アドバイスを幾つかくれた。
「浮遊式の避雷針を基にしたレシピだけれども、常に同じ方向を向くようにしておいた方が良いだろう」
「ええと、どうして?」
「スーちゃん、同じ方角を向くようにしておけば、ぐるぐる砂漠を回らなくても良くなるからだよ」
「あ、なるほど……」
スールは相変わらずこういう所は駄目か。
でも、スールはそのだめな所を認められるようにもなった。
「では一度解散なのです。 それと、次の探索の準備をする前に、近くの山の調査が入るかも知れないので、それは認知しておいて欲しいのです」
「山の調査?」
「あー、前に言ってたやつな。 この世界には、確認されているだけでも何カ所か変な気候の山があるんだよ。 ラスティンにもあるらしいが、アダレットにもある。 いつもかんかん照りに暑かったり、逆に雪が積もっていたりな。 今度調査を頼む奴は、雪が降ってる方だ」
「ひえ、何だか大変そう」
麓に街があるらしいが、その辺りは雪も無く。
山の調査はその環境もあって、あまり進んでいないらしい。
ドラゴンを見かけたという話もあるので。騎士団としては、三傑が彼方此方を調査したり、手を出せなかったネームドを駆除してくれているタイミングである今のうちに、調べてしまいたい、と言う事らしかった。
「優先事項としては、其方になるのです。 現在騎士団の部隊がイルメリアどのと一緒に別の場所の調査に出ていて、その部隊が戻り次第、調査に出て貰うことになりそうなのです」
「分かりました、服もあわせて急いで揃えます」
「優先順位としては、靴を先にして欲しいのです」
頷く。
あと、そろそろアンパサンドさんとマティアスさんの武器についても更改を考えたいのだけれども。
どちらも多分プラティーン製か、もしくは合金製だ。
業物というに相応しい代物で。
もしもこれ以上となると、ハルモニウム製の武器しか考えられない。
いずれにしても、今回の調査はこれでおしまいだ。
解散して、各自戻る。
お城の入り口で、アンパサンドさんに呼び止められる。
「家庭の方で色々あったと聞いているのです。 もしも厳しいようなのであれば、調査は別の錬金術師に頼むのですよ」
「いえ、大丈夫です」
「お父さんとは仲直りしました。 今は一緒に夕ご飯も食べています」
「そうですか。 それならば」
珍しい。
アンパサンドさんが気を遣ってくれたのは、初めてかも知れない。
いずれにしても、顔を見合わせてしまった。
アトリエに戻る。
収穫は無かったが、こればかりは仕方が無い。
やる事はいくらでもあるし。
これからは、公認錬金術師であるお父さんにアドバイスも貰える。勿論イル師匠の所にも足を運んで、アドバイスを貰った方が良いだろう。特に靴については、専門家に話を色々聞いた方が良い。
脛当てというのは、話を聞いたことがあるのだけれど。足にもの凄く負担を掛けるらしく。かなり高度な技術で作られているという。
多分今のリディーとスールに求められるものも、それくらいの高度技術の産物である筈だ。
ならば、プラティーンもたくさんいる。
それも、出来るだけ高品質な奴が、である。
お父さんはアトリエに戻ると、ずっと何かのレシピを真剣な表情で見つめていた。お酒が完全に抜けて、仲直りもしてから、お父さんは無精髭がなくなった。表情も、昔真面目に錬金術をやっていた頃のものに戻った気がする。
「帰ったか」
「うん」
「砂漠、何処まで行っても何にも無くて。 対策してから出直すことになった」
「そうだろうな。 だが、今のお前達ならどうにかなるだろう」
レシピを横から覗く。
お父さんはいやそうにはしなかった。
どうやら前にネージュに教えて貰った、不思議な絵の具を使ったもの。要するに不思議な絵画に関するものらしい。
お父さんは絵画の才能に関しては、いっぱしである。
これについては、実際に地下室で描いたものを見ているので断言できる。
だが問題は、錬金術でその絵画を変質させることが出来るか、で。
現時点では、中途半端にしか出来ていない。
「此方は俺がやるから、お前達は自分の事をしろ。 大丈夫、金を使い込んだりはしないし、簡単な作業くらいならお前達がいないときに片付けておく」
「そうだ、お父さん。 それで考えたんだけれど」
「何だ」
「お手伝いさん、雇おうと思っていて。 ヴォルテール家にはオイフェさん、それにイル師匠の所にはアリスさんって、優秀なお手伝いがいるでしょ。 家事だけでも手伝ってくれる人がいたら違うと思うんだ」
しばらくお父さんは黙り込んでいたが。
それならばホムが良いだろうと、一致した見解をくれた。
錬金術師の所で手伝うには専門的な知識がいる。大人のヒト族か獣人族、或いはホムが好ましい。
何にしても性格は真面目で無ければならないので。不正を絶対しない上に記憶力が良いホムが最適だろうとも。
「その辺りは二人で話して同じ結論が出たんだ」
「やっぱり親子だね、スーちゃん達」
「……そうだな」
少し寂しそうにすると、お父さんはレシピの研究に戻る。
リディーは夕食を早めに作り。その間に、スールがプラティーンを鋳造し始める。もう、お父さんは。
地下の住人では無く。
夕食も一緒にとってくれるし。
話をすれば、答えもしてくれる。
家族に戻ってきていた。
前回の話でマーレン家は関係修復に成功しました。
薄氷のバランスですが、それでも双子には戻る場所が出来たのだと言えます。