暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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錬金術師と連携しての騎士団の仕事は極めて重要です。

この世界は人間が主導権を握っていないのですから。

ましてや無限湧きする獣の性質もあり、誰かが常に最前線にいなければならないのです。


3、山と砂漠と

王都に引き上げた後、騎士の部隊とはすぐに別れた。次の任務に出向くのだろう。あんな大変な仕事だったのに。休む暇も無いと言うわけだ。

 

騎士達を見送った後、リディーは思わずぼやく。

 

「この世界って、教会で教わった地獄よりも酷くない」

 

「……そうは思わないのです。 少なくとも、ヒト族の先祖が焼き払った世界よりは、マシだと思うのです」

 

アンパサンドさんはずばりと言う。

 

その通りだとリディーも分かる。何しろ、そもそも生存が出来ない状況になっているのだから。

 

過酷だ。

 

人々は常に人外の脅威にさらされている。

 

そもそも三傑だって、もう人外の領域に踏み込んでしまっている訳で。

 

正直な話、三傑がその気になったら、この世界を滅ぼすことは難しくないのでは無いかとリディーは思う。

 

レポートを出すようにとアンパサンドさんは促すと。

 

マティアスさんを促して、さっさと詰め所に戻っていく。

 

マティアスさんは頭を掻いてしばらく居心地が悪そうにしていたけれど。多分、世界が過酷なのは自分達のせいでもあると思っているからなのだろう。

 

先代の庭園王だけじゃあない。

 

ネージュを迫害した連中を、止めようともしなかった200年前の王。

 

もっと多くの愚かな王もいたはずで。

 

その責任はとても大きい。

 

錬金術師の人材育成や、ラスティンとの協調政策をもっとやっていれば、こんな事にはならなかった筈で。

 

確かにマティアスさんが気に病むのも仕方が無いのかも知れない。

 

ましてやマティアスさんは、今後国民からの不満を向けられるのだ。憎まれ役というよりも、むしろ嘲笑われる訳として。

 

ルーシャの負担を見ていると。

 

たった二人にあれだけ精神を疲弊していたのに、と感じてしまう。

 

一旦その場で解散。

 

アルトさんが、肩をすくめた。

 

「道具類の有用性がはからずとも証明できたね。 リディー、スー、出来るだけ急いで砂漠の絵の調査をした方が良いだろう」

 

「そうですね、装備やお薬の消耗もほぼ無いし、疲れも取れています。 レポートを書いて……三日後には再度出たい所です」

 

「うんうん。 あと、シールドは複層構造にすると良いかも知れない。 今の君なら出来る筈だ」

 

「分かりました、検討してみます」

 

実は複層構造のシールドについては、既に少し調べている。バステトさんにも聞いているのだけれども。

 

一枚の凄く頑丈なシールドよりも。

 

複層の、色々な特性を持ったシールドを重ね掛けする方が、攻撃に対しての守りは強くなるそうだ。

 

そういえば、意図しての事では無かったけれど。

 

ブレスを防いだのは、複数人が展開した、特性も性質も強度もそれぞれ違っている多重シールドだった。

 

確かに言われたとおりである。

 

後はアトリエに戻り。

 

お薬などを作り足し、そして今月分の納入に向かう。

 

プラティーンのインゴットや、更に評判が良かった脛当ても納入すると、受付の役人は喜んでくれた。

 

ナイトサポートなどの薬品類も、以前とはまったく質が違っていると評判である。

 

あまり自覚は無いのだけれど。

 

力はついてきている、と言う事なのだろう。

 

レポートも一緒に出す。スールと相談しながら、短時間でレポートは書けるようになってきている。

 

イル師匠に頼らなくても良くなったというよりも。

 

この辺りは慣れてきたと言う事だろう。

 

一応お父さんにも見てもらったけれど、殆ど改善点は指摘されなかった。

 

お父さんはお父さんで、お薬などを作ってくれていて。

 

それをコルネリア商会に卸して、お金に換えてくれている。かなり高度なお薬も作れるようなので。

 

或いはこれを国に納入したら、もっと喜んでくれるかも知れない。

 

アダレット自体は信用できないけれど。

 

ミレイユ王女の手腕は信用できる。

 

きっとお父さんの優れたお薬を、きちんと生かしてくれる筈だ。

 

ついでに、三日後に出る旨を伝えて、アンパサンドさんとマティアスさんのスケジュールも調整して貰う。

 

幾つかの事を全てこなす必要があったのでメモをとってきていたが。

 

それで正解だった。

 

全ての手続きを済ませると、アトリエに。

 

その間にスールには、別行動でフィンブルさんへのお手伝い依頼を頼んでおいた。ついでに、教会へのお使いも。

 

教会では、数日後にまた人形劇をやる、と言う事で。

 

お菓子や何かの作成を依頼されたという。まあお菓子くらいなら、今なら片手間に作れる。

 

一方、スールがシスターグレースに聞いたところ、適切な人材はいないそうだ。

 

ここしばらく、匪賊の類は徹底的に駆除されている上、街道の安全度が今までとは比較にならない程上がっているそうで。

 

教会で面倒を見なければならない孤児などは激減しているという。

 

それはとても良い事だ。教会で数ヶ月暮らしていたからそう素直に思える。リディーとスールには人手が必要だが、それは別問題。不幸な人は少ない方が良いに決まっている。

 

更にはホムの孤児には殆ど先約で商人などから雇用の声が掛かっており。

 

かといってヒト族や獣人族の孤児もそれは同じ。人手はこの世界、幾らでも必要なのである。

 

お手伝いさんを雇えればいいなと思ったのだが。

 

流石にこの世の中、其処まで甘くは無いか。

 

それに、お手伝いさんと上手くやっていけるかも分からない。

 

今回は一旦諦めて、別の方法を考えるとする。

 

ともかく、空いた時間で出来る事は全てしておく。

 

今後仕事が見つかっているとは言え。

 

子供達が、お菓子を楽しみにしているのも事実なのだ。すぐに可能な限り美味しいお菓子を作る。

 

お父さんには駄目出しされたが。

 

そもそも甘味自体が高級品で。

 

子供達には、これ自体がご褒美に等しいと言う事を、リディーは知っている。だから、それでもしっかり出来る範囲内で作った。

 

何もかもが常に上手く行く訳がない。

 

だからリディーは、出来る範囲内で、やれることをやっていく。そしていずれ、この世界に関与できるだけの力を手に入れたい。

 

みんなのためという方法論は、スールとは違ってしまっているが。

 

きっと、その方が。リディーの未来のためにも良い筈。

 

少なくとも、深淵の者とやりあうには。

 

力は必要なのだから。

 

 

 

教会での人形劇を一緒に見に行って。子供達にお菓子も配った。

 

人形劇はやっぱりドロッセルさんとフリッツさん、それにシスターグレースも加わって行った本格的なもので。

 

珍しくこの教会出の出世頭の一人であるアンパサンドさんも見に来ていた。

 

元々あまり教会は好きでは無いらしいのだが。それでもシスターグレースに誘われて顔を出し。更に彼女は子供達に支援までしているらしいので。シスター達は、騎士一位に出世したアンパサンドさんを丁重にもてなしていた。

 

人形劇は素晴らしい出来だったが。

 

後でアンパサンドさんに聞かされる。

 

「教会にいた頃は、馬鹿にされていたのです。 ホムが騎士になるとか、何の冗談だ、てね」

 

「……」

 

何となく分かる。

 

違うものを迫害するのが人間だ。昔のリディーもそうだった。だから、アンパサンドさんが、ホムでありながら決定的に向かない戦闘職、しかもその中でも頂点に位置する騎士を目指すと言えば、馬鹿にされるのも必然だろうと。

 

だが、それではいけないのだ。

 

いけない理由を山ほどリディーはスールと一緒に見てきた。

 

自分から見て気持ち悪いだとか、自分と違うだとかで、迫害を正当化する。そんなんだから、人間はずっと進歩していない。それを今のリディーとスールは嫌と言うほど思い知らされている。

 

アンパサンドさんの言葉も、だからすっと受け入れられた。

 

「だから教会には顔をあまり出したくなかったのですが、シスターグレースには戦い方のイロハを全て仕込まれたのです。 それに、この理不尽な世界と戦うための力を得るために、本気で自分に向き合ってもくれたのです。 顔を出したのは、それだけの理由なのです」

 

子供達とは話もせずに、さっさとアンパサンドさんは切り上げる。

 

子供達も、アンパサンドさんの雰囲気が怖いのか、あまり話しかける事はなかった。ホムでありながら一線級の騎士という、アダレットでも殆ど他にいない人材なのに。

 

スールは何も考えずに子供達と遊んでいたけれど。

 

ただ、帰り道。

 

話をされる。

 

やはり、アンパサンドさんの事だった。

 

「リディー、アンパサンドさん無茶苦茶不機嫌だったね。 シスターグレースに対する恩があるから顔を出したって雰囲気だった」

 

「仕方が無いよ。 ホムで騎士を目指すって口にしたら、周囲からどう見られるか何て、分かりきってるもん」

 

「やっぱり尊敬できる人って本当に少ないね」

 

「……うん」

 

リディーとスールの、みんなに対する観念は、其処で食い違っている。

 

みんなまとめて尊敬できる人にするか。

 

それとも、尊敬できる人だけ何かしらの方法で選別するか。

 

いずれにしても、今はまだ夢物語だ。

 

とっととアトリエに戻る。

 

明日には、砂漠に出かけるのだから。

 

 

 

砂漠の絵に入る。

 

この間と違って、方角を示してくれる浮遊式方位針がある。やはり効果は絶大で、くるくる回る恐れが無くなるのはとても大きな意味があった。

 

入る面子はこの間と同じ。

 

リディーが地図造りを担当し。

 

他の皆で、周囲を警戒しながら進む。

 

最初は殆どレンプライアも獣も見かけなかったのだけれど。

 

大きめの瓦礫を抜けた辺りから、不意にレンプライアが出始める。それも、今までに無く大きいのばかりだ。

 

此方を見つけると。

 

赤い目をらんらんと光らせた、翼を持つ鎧が。十を超える数、好戦的に飛んでくる。しかも、今まで見た奴よりあからさまに強い魔力を放っている。

 

それだけじゃあない。

 

兵士みたいな奴も、下半身がない大きいのも、鎌を持った奴も。今まで見てきたレンプライアはどれも揃っている。

 

数も多い。

 

無言で迎撃を開始するアルトさんとルーシャ。更にスールが爆弾を放り込む。リディーは叫んで、手を振るった。

 

「後退! 敵の速さの違いを利用して分断します!」

 

「良い判断なのです」

 

アンパサンドさんがバックステップ。皆飛び下がりながら、方位針の指し示す方向と逆に走る。走りながら、反撃を続け、敵を少しずつ削って行く。勿論その間レンプライアどもも黙っていない。

 

乱射してくる光弾が、リディーが展開するシールドを何度も叩く。

 

遠くで、砂漠を叩く下半身がない巨大な奴。

 

詠唱さえ必要しないのは知っていたが。

 

傷ついた他のレンプライアを平然と巻き込みながら、凄まじい砂嵐を即座に発生させてきた。

 

ごっと押し寄せる砂嵐は。

 

この間の雪崩を思わせた。

 

うっと思わず呻くけれど。

 

複層構造にしたシールドは、そう簡単には破れない。ただ、消耗が激しい。かなり走って距離を離した。そろそろ反撃のタイミングだ。

 

剣が多数降り注ぎ。

 

殺到してきていた翼の鎧をまとめて叩き落とす。味方の射撃だけでは無く、今の魔力を含んだ砂嵐でも相当傷ついていた様子で。

 

流石に耐えきれず。

 

アルトさんの剣に串刺しにされて、砂漠に次々墜落していく。

 

更に生き残りは、ルーシャの、周囲に浮かんだ球体と連携しての射撃が、全て叩き落とした。

 

続けて兵士みたいなのが殺到してくるが。

 

アンパサンドさんが突貫。

 

敵の中央に出ると、十体以上を同時に相手しながら、なおかつ挑発を上手にこなして注意を惹く。

 

遅れて突撃したフィンブルさんとマティアスさんが。

 

新調したプラティーン刃のハルバードを振るい。

 

国宝らしい剣を横薙ぎに振るって。

 

兵士らしいレンプライアを、次々に薙ぎ払っていく。

 

数匹が飛び退くと、連携して魔術を唱え始める。

 

その瞬間、その中の一匹の背後に回ったアンパサンドさんが、口を押さえて喉をかっ切る。

 

獣が相手なら兎も角、人間大の相手ならこの通りという訳か。

 

背丈は低くとも、アンパサンドさんの機動力ならこの戦法も難しくは無い。

 

喉をかっさばかれて、集団詠唱を止められた兵士達を、それぞれフィンブルさんとマティアスさんが、即座に斬り伏せる。

 

後は奥にいる大きい奴だが。

 

また大きいのを、詠唱無しでぶっ放してくる。

 

あれは手強い。

 

だが、今度はスールの判断が速かった。

 

山ほど作ったフラムを改良し。

 

ピンポイントフレアの火力を強化した、見聞院でレシピを見て作り上げたオリフラム。

 

放り込み、更にバトルミックスで火力を上げる。

 

文字通り、砂漠の一部が消し飛び。

 

一瞬早く発動していた魔術の砂嵐ごと、巨大レンプライアを粉々に消し飛ばしていた。

 

呼吸を整えながら、シールドを解く。

 

消耗は大きいが、戦闘の流れは理想的だった。

 

普段何かしら言うアンパサンドさんも、納得したらしく一言も言わない。

 

すぐにレンプライアの欠片を回収した後。

 

アンパサンドさんが見張りに立ってくれて、さっきの大きな瓦礫の影で休む。

 

その間、空中に浮かぶ球体を。浮遊式方位針で触ったりして調べて見るが。触っても、特に害はないようだった。

 

スールが提案。

 

「ちょっと危険だけれど、直接触ってみる?」

 

「ああ、空中機動を試してみるの?」

 

「うん」

 

流石にいきなり実戦投入できるほど、スールはセンスがない。アンパサンドさんは雪山でやって見せていたけれど。あれは歴戦の勇者だからだ。積んでいる経験と、肉体を徹底的に制御出来ているからである。

 

少し躊躇った後、スールは練習していたとおりに、空中機動を試してみる。

 

ちょっとぎこちないけれど。

 

それでもしっかり上空に躍り出る。

 

これなら敵の頭上も取れるだろう。

 

更に言えば、敵からして見れば、ヒト族がいきなり空中起動をしたら度肝を抜かれるはず。

 

魔族ならともかく。ヒト族が、である。

 

優れた魔術師でもそう簡単には出来ない芸当。文字通り、錬金術師だから出来る事なのだから。

 

やがて、球体に達したスールが。

 

足場をちょっとふらつきながらも維持しつつ。

 

触って状態を確認する。

 

ナイフで削り取ろうとしたが、上手く行かないらしい。

 

しばしして、降りてきた。

 

降りるときは、登るときよりも難しい様子で。

 

かなり手間取っていたが。

 

「アンパサンドさん、これすぐに使いこなすとかずるいよ」

 

「しかたねーって。 アンの奴、訓練の量も実戦の量もスーとは桁外れなんだから」

 

「それは分かるけれど、作ったのスーちゃんとリディーなのに」

 

「アンパサンド殿はもうこの国でも上位に食い込む騎士だろう。 戦闘職なのだから、それくらい出来なければ面目も立たぬ」

 

フィンブルさんの言う事は、スールも良く聞く。

 

しばらく口をつぐんでいたが。

 

やがて練習しますと、素直に反省した。

 

アルトさんが咳払い。

 

「それで、どんな感じだった?」

 

「めっちゃくちゃ堅いです。 冷たくて、なんというか拒絶される感じ」

 

「ふむ……要するにこの不思議な絵画を描いた人間は、錬金術の産物を、人間の及ばざるものとしてイメージしていたようだね。 空中に浮く、不可思議な加工が施されている、そして尋常ならざる強度。 ……もし僕の想像が当たっているなら、この不思議な絵画の中には、とてつもないお宝があるかも知れないよ」

 

アルトさんの言う事だ。

 

確かに、それを疑う理由は無い。

 

利害の一致を考えれば、今嘘をつく必要もないからだ。深淵の者といえど、流石に此処を先に念入りに調査などしていないだろう。手が不足しているという話をしていたくらいなのだから。

 

フィンブルさんが、マティアスさんを誘って、アンパサンドさんと見張りを交代。

 

ルーシャが代わりに聞いてくる。

 

「そのナイフ、プラティーン製でしょう? それでも傷一つつかなかったんですの?」

 

「うん。 ルーシャの砲撃も浴びせてみる?」

 

「いや、少し今は消耗を回復したいですし。 明確な攻撃と判断したら、何を返してくるか分かりませんし」

 

「……それもそうか」

 

ルーシャの発言は一見憶病にも見えるが。

 

絵の性質を考えると、妥当だろう。

 

装備の状態を確認しているアンパサンドさん。ようやく分かってきたけれど、どうやら彼女のナイフはプラティーンを混ぜた合金らしい。ならば、もしも彼女に新しい武器を渡すのだとしたら。

 

ハルモニウムを作れるようになってから、だろう。

 

人間や、人間大の相手なら。さっき兵士型のレンプライアに見せた暗殺技術がそのまま刺さる。ましてやハルモニウム製の刃だったら、ドラゴンにだって通用する筈だ。

 

多分騎士団に支給されている凄い武器なのだろうけれど。

 

もし国宝にもなる剣を作れるなら。

 

アンパサンドさんには、今まで世話になった礼も兼ねて、最高の剣を渡したかった。

 

休憩を終えて、砂漠を歩く。

 

レンプライアは先程の規模ではないにしても、時々姿を見せる。欠片は回収しながら、各個撃破していく。

 

ふと、気付く。

 

何か、踏み込んだらしい。

 

顔を上げると、其処には手をつないで走るリディーとルーシャ。そして、後ろで泣いているスールの姿があった。幼い頃の三人だ。お母さんがいなくなる前の。

 

言葉を失う。

 

待って、お姉ちゃん、ルーシャちゃん。スールが泣いている。すぐに戻って手を引くのはルーシャである。リディーは、まだ気が利かなかった。

 

そうだ、幼い頃は、スールが泣き虫で。リディーはむしろ気が強い方だった。

 

性格が逆転したのは、お母さんがいなくなって。色々と精神に致命的なダメージを受けてから、なのだろう。

 

程なく、幻は消える。

 

皆、口をつぐむ中。

 

マティアスさんがぼやく。

 

「報告にあったとおりだな。 先に錬金術師に調査をしてもらったんだが、これを見てすぐに戻ってきたんだ」

 

人には、誰にだって見られたくない過去の一つや二つある。

 

それを考えれば、妥当だろう。

 

だが、この不思議な絵画をしっかり調査すれば、有益な何かが見つかるかも知れない。悪い事ばかりとは限らないのだ。

 

アルトさんが肩をすくめる。

 

「これは僕のミステリアスな過去も暴かれてしまうかな?」

 

あまり洒落にならない。

 

深淵の者として、冷徹な行動をしているのを見られでもしたら、何をされるか分からないからだ。

 

普段手を抜きまくっているアルトさんだが、本気を出したら今此処にいる全員がかりでも止められないだろう。

 

「ともかく、余力はまだある。 調査を進めるのです」

 

アンパサンドさんが咳払い。

 

その通りだと思い直し。砂漠の奥へ、更に足を進める事にする。

 

このくらいの事。今までの過酷な不思議な絵の探索に比べれば、何でも無かった。

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