暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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国家で言うと形式的にはナンバーツーの位置にいるマティアスさん。原作だと国王が健在なのでナンバースリーと言えますかね。

あまりにも出来が違い過ぎる双子の姉の存在でカス以下の扱いをされていますが(原作でもそう)。本作でもその辺りは結構生々しく描写してきました。なお原作の方が双子の態度は無礼千万です。相手は王子なのに(笑)


青い砂漠の果て
序、弱気な騎士王子の過去


スールの目の前で、その光景は容赦なく流れていて。

 

頭を抱えているマティアスの事も分かった。

 

だけれど笑うつもりはない。

 

マティアスは出来が悪かった。

 

勉強も武術も。

 

幼い頃から、ミレイユ王女は大人の騎士を相手に火が出るような猛烈な訓練をしていたのに対し。マティアスは大人の騎士が、何度も同じ訓練をさせる程に遅れていた。

 

勉学も同じ。

 

十代の半ばの頃には、ミレイユ王女は既に政治に関与し。無能な庭園王を幽閉するための準備を進めていたが。

 

マティアスは、そんなミレイユ王女に、いつも叱られていた。

 

やがて馬鹿王子の噂は王都にまで広がり始めていて。

 

騎士達が、馬鹿にしているのを柱の陰で聞いて、じっと幼いマティアスは黙り込んでいた。

 

光景が消える。

 

知ってはいたが。

 

実際に見せられると、厳しい話だ。

 

「だからいやなんだよ」

 

ぼやくマティアス。

 

まだ砂漠の探索は継続中だ。ずっと同じ方向に進み続けているけれど。誰かしらの過去が浮かんでは消える。

 

さっきはフィンブル兄の過去だった。

 

フィンブル兄はろくでなしの両親と生き別れて教会のお世話になった。スールと知り合ったのもそれが故だ。

 

親がろくでなしだったからこそ。

 

フィンブル兄は立派な戦士になりたいと思った。

 

だが騎士団は堅苦しすぎていやだったから。

 

より自分の資質が試される傭兵になりたいと思ったのだ。

 

シスターグレースにしっかり鍛えられたという点では、アンパサンドさんの姉弟弟子とも言えるかも知れない。

 

そう。

 

見かけからは判断がつきづらいが。

 

アンパサンドさんの方が年上なのである。面識は教会にいた時期が被らないのでないのだが。

 

どんな過去が現れるかまったく分からない。

 

だから、この砂漠に入ってから、ずっとマティアスは青い顔をしていたし。

 

スールは、何も声を掛けられなかった。

 

しばらく進んだところで、またレンプライアの群れに襲われる。

 

この砂漠のレンプライアは大きな規模の群れで一気に攻めてくる。多分砂漠だから、なのだろう。

 

獣には見向きもせず。

 

ただ人間だけを狙ってくるのは。

 

それが悪意の具現化であるレンプライアだから、なのだろう。

 

それに対して今更どうとも思わない。

 

手強いし、物資も消耗する。

 

今までに無く手強いレンプライアばかりで、戦いは毎回厳しく。負傷者も常に出た。四度目の探索で、一度切り上げる事をルーシャが提案。

 

オイフェさんが、珍しく手酷く負傷したからである。

 

本人が自己申告しないし、痛いとも言わないので、気付くのが遅れ。

 

結果として、更に怪我が増えたのだ。

 

珍しく寝かされて手当を受けているオイフェさんは、それでも痛いとも苦しいとも漏らさない。

 

感情が薄いのは色々と問題もあるなと、スールは思う。

 

マティアスが、ぼやいた。

 

「俺様、何かこの絵にしたのかな。 なんでこう俺様の悲しい過去ばっかりみんなに見せつけるのかなこの絵」

 

「マティアス、苦労したんだね」

 

「スー、お前何だか最初の頃より優しくなった?」

 

「優しくはなっていないけれど、自分の感覚で相手を馬鹿にする愚かしさは理解したつもりだよ。 マティアスは立派にやってるし、頑張ってるし、頼りになるよ」

 

マティアスが愚痴をこぼしてくれたから。

 

却って言いやすくなった。

 

スールがそう言うと。

 

フィンブル兄も、あわせてフォローしてくれた。

 

「殿下、貴方はミレイユ王女に劣っているかも知れないが、劣等感で非行に走ることも無かったし、今では立派な騎士だ。 比べる相手は悪いかも知れないが、貴方は出来る範囲で出来る事をやっている。 それで充分だろう」

 

「そっかあ。 良かったよ、俺様評価されてて」

 

「ただあの見境無しのナンパは止めた方が良いな。 シスターグレースの時に懲りただろう? ヒト族の習性だとしても度が過ぎている。 正直俺から見ても見苦しい」

 

「うっ……」

 

真っ青になるマティアス。

 

そういえばマティアスってば。

 

シスターグレースが五十越えている事を知らずに(確かに極めて若々しいが)ナンパした事があったっけ。

 

フィンブル兄が今まで暴露されたどの過去の幻影よりも一番容赦が無い気がしてきた。

 

ともかく、オイフェさんの手当が終わる。

 

だが、出来れば引き上げた方が良いと、アンパサンドさんも顎をしゃくった。

 

いずれにしても、この間の雪山探索から時間も経っていない。

 

それほど焦らなくても大丈夫だろう。この絵の中に強力なレンプライアが多数いる事も分かった。

 

或いは、パイモンさんの助けを要請しても良いかも知れない。

 

マティアスが泣きそうになっているので、色々手助けもした方が良いか。いずれにしてもリディーに話して、撤退を決める。

 

いずれにしても、初回に比べてかなり順調に調べられたのだ。今度は東では無く北に行ってみるのも良いだろう。

 

この砂漠の調査は時間が掛かる。ほぼ間違いなく。

 

それならば、腰を据えてやれば良いだけのことなのだから。

 

一度絵を出ると。

 

一旦応接室に向かって、其処でミーティングをする。

 

「次の探索は三日後に行います。 今回の探索で、装備は充分だと分かりましたので」

 

「此方はそれで異存無しなのです。 王子も」

 

「俺様!? いや、出来れば入りたくないけど……アン、怖いからその目止めて」

 

「とりあえず準備はお願いします。 後出来れば、増員出来ませんか?」

 

リディーが提案。

 

スールも同意してみせる。

 

殆どこの辺りはツーカーで動けるのだけれども。それでもやっぱり違う人間。考えはずれ始めている。

 

それで良いと思う自分と。

 

やっぱり双子なんだから、同じように考えて欲しいと思う自分も何処かにいる。

 

それは傲慢だ。

 

分かっているのだけれど。

 

まだ、どうしようも無いのが実情だった。

 

「この砂漠、レンプライアの数と戦力から考えて、装備は充分でもやっぱり兵力が足りないよ。 騎士団は無理だろうし、パイモンさんは?」

 

「パイモン氏は残念ながら、現在かなり難しい案件につきっきりなのです」

 

「ええ……」

 

「戦力をもう少し充実させるしか……」

 

珍しくアンパサンドさんが言葉を濁す。

 

多分此方の言う事が正しいと認めてくれていて。

 

しかしながらどうにも出来無いとも考えているのだろう。

 

錬金術布の服を渡したことで。

 

アンパサンドさんもマティアスも。フィンブル兄も。

 

動きが前とは格段に違っている。

 

特にフィンブル兄は水を得た魚のように、剽悍な動きを見せて、敵の懐に勇敢に飛び込んで行く。

 

獣人族らしい戦い方を、獣人族らしく出来る。

 

それが嬉しくてならないらしい。

 

それでも、戦力が足りないのだ。

 

何か、見直すべき事があるのか。

 

いや、これ以上は流石に厳しい。少しずつ、現有の戦力でやっていくしかない。

 

ずっと会議を続けるわけにもいかない。

 

応接室での話し合いを切り上げて、一旦帰る事にする。

 

三日後また再出撃をするとして。

 

戦力不足を補えないなら、何か手を考えなければならない。

 

帰り道、リディーと歩きながら話す。

 

ドロッセルさんを雇うか。

 

Bランクに昇格し。雪山の探索のレポートを提出してから、またごっそりお金が入っている。

 

ただしお金は本当に錬金術をやっていると幾らでも使う。

 

確かに一番簡単なのはドロッセルさんを雇うことだけれども。

 

高いのだ。

 

活躍をしてくれるけれども。

 

その分すっごく高い。

 

口をつぐむスールに、リディーは言う。

 

「それなら、第二案として残しておこう」

 

「うう……でもさリディー。 適当にやとった傭兵だと、あんな危険地帯死なせるだけだよ」

 

「それも分かってる。 イル師匠に相談して、アリスさん借りてみる?」

 

「イル師匠がOK出すわけ無いよ」

 

スールは即答して。

 

自分でも溜息をついてしまった。

 

アリスさんはイル師匠の言う事なら何でも即座に実行するレベルの有能な補佐役で、メイドとはかくあるべしという感じの人物である。戦闘力も同じようなメイドであるオイフェさんとは段違い。何度も戦うのを見たけれど、三傑と呼ばれるイル師匠の腹心に相応しい実力者だ。

 

もしいてくれたら本当に頼もしいけれど。

 

しかしながら、あの忙しい。

 

そう、リディーとスールとは比較にもならない忙しい環境で働いているイル師匠が。貸してくれる訳がない。

 

イル師匠の立場になって考えてみれば。

 

腕一本貸してくれと言うようなもので。

 

出来ない、と即答できる程の状態である。

 

大きな溜息を二人でつくと。

 

アトリエに到着。

 

お父さんが何か難しい調合をしていた。

 

なお、錬金釜を二つに増やした。

 

わざわざアルファ商会に出向いて、プラティーン製のを買ってきたのだ。

 

これ以上の錬金釜となると、ハルモニウム製のものしかないと言われたが。

 

お父さんはお父さんで、かなり難しい研究をしている。

 

仕方が無い出費だ。

 

ましてやお母さんの残留思念に関わる事だ。

 

お金が掛かるのも仕方が無い。

 

「戻ったか。 その様子だと、探索は芳しくなかったようだな」

 

「うん。 あの砂漠、地味に厳しいよう」

 

「せめて戦力がもう少しあれば……」

 

「お前達はもうBランクの錬金術師だ。 話には聞いているが、同時期にアトリエランク制度に参加した錬金術師は一部の例外を除くとまだみんなEランク前後で足踏みしていると聞いている。 それだけの逸材では、仕事も厳しくなるのも仕方が無い事だ」

 

悪い夢から覚めたから、だろうか。

 

お父さんは背筋もしっかり伸びているし。

 

無精髭ももうない。

 

前愛用していた眼鏡を取りだしてきて、今は眼鏡姿。視力を高めてまで、かなり微細な調合を常にしている。側で見ていて、まだ自分達より上だなと、スールは何度も感心させられた。

 

そして今喋っていたように。

 

喋る事も極めて論理的でまともになっている。

 

それならば、此方もそれに答えなければならない。

 

「お夕飯作るね」

 

「じゃあ、スーちゃんはお洗濯取り込んでおくよ」

 

「すまないな。 ……少し配合を変えて見るか」

 

「イル師匠に相談してみる?」

 

お父さんは首を横に振る。

 

実は、既に相談をしているそうである。

 

だが、不思議な絵画は、技術よりも才能に依存する所が大きいらしく。不思議な絵の具の調整には、どうしても本人の微細な勘。理屈を越えた霊感的なものが必要になってくるらしいのだ。

 

錬金術は才能に依存する学問で。

 

こればかりはどうしようもない。

 

そしてお父さんは、どちらかというと戦闘向きでは無くて、支援関連の錬金術が得意なのだ。

 

不思議な絵画関連に関しては。

 

任せるしかない。

 

スペシャリストとしてはネージュが浮かぶが。

 

あの人は絶対に協力はしてくれないだろう。そもあの人が、会話してくれた事が奇蹟のようなものなのだ。

 

ソフィーさんも不思議な絵画くらい描けるかも知れないけれど。

 

ただあの人の場合、協力を申し出た場合の代償が大きすぎる。

 

そう考えると、お父さんが一人で試行錯誤しているのは、正しい判断としかいえなかった。

 

家事をぱっぱと済ませて。

 

夕食を食べる。

 

リディーは少し家事の腕が上がったのか。お夕飯が結構美味しくなっている、気がする。ただお父さんは別においしいともいわないので、単に家族で食卓を囲んでいるから、かも知れないが。

 

やっぱり家事だけでも手伝ってくれる人が欲しいな。

 

そうスールは思うが。

 

まあいずれ何か機会があるかも知れない。

 

その時に、家事手伝いを雇えば良い。

 

夕食を終えると、それぞれで動く。

 

スールはひたすらプラティーンを作る。鉱石は幾らでもまだある。品質を、ひたすら上げていくのだ。

 

今の倍は金属に触れ。

 

鍛冶屋の親父さんに言われた事だ。

 

あの人以上のスペシャリストはいないのだから、言う事は素直に聞くのが一番良いだろう。

 

そして錬金術は才能の学問だけれど。

 

同じ才能なら、やればやるほど上手くなるのは自明の理。

 

少なくとも、スールは成長は遅くとも、伸びが止まったとはまったく感じる事がない。

 

ならば、どんどん練習していくのみだ。

 

寝る前に、一つインゴットを仕上げる。

 

前より更に質が上がっている。

 

だけれど、わずかに、だ。必ずしもこれが絶対ではないだろう。

 

その間、リディーはお薬の調合を続けていた。

 

お父さんから時々アドバイスを貰いながら、霊薬と同格のお薬を作っていく。今作っているのは、潜在能力をフルに引き出すお薬。

 

勿論非常に危険なお薬である。

 

「作り手によってこの手の薬は色々と名前が違うが、基本的に潜在能力を限界を超えて一時的に引き出す事では変わりが無い。 だがその反動は凄まじく、下手をすると内側から爆発してしまう。 つまり強化しながら押さえ込む作用も必要になる。 或いは体が壊れる速度以上に回復するか、だな」

 

「うん、それでこの薬草を……」

 

「そういう事だ。 人間の頭のねじが完全に外れると、それはもう魔の領域だ。 確かに究極の力を手に入れられるだろう。 だが同時に、体の方ももはや人間ではいられなくなる。 一時的に魔の領域に都合良く踏み込むなんて事は出来ないんだ」

 

そう、だろうな。

 

最近はこう言う話も、聞いていて理解出来るようになってきた。

 

実際、その魔の領域に踏み込んでいるだろう三傑の様子を見ていると。

 

とてもではないけれど、精神構造が自分達と同じだとは思えない。肉体強度の異常さだって、同じ事なのだろう。

 

ドアがノックされたので、顔を出すと。

 

フィリスさんだった。

 

思わず青ざめるが。

 

フィリスさんは、すっとまるでスールがいないようにアトリエに入ると。

 

笑顔で手を叩く。

 

「はい注目」

 

「!」

 

「フィリスさん」

 

お父さんが真っ青になる。

 

リディーも、露骨に青ざめた。

 

多分この様子だと、お父さん、一人で深淵の者と何かぶつかるようなことをしていたのかも知れない。

 

フィリスさんは基本的に自分の実力を隠そうとしない。凄まじい力を見せつけながら、それを露骨に手抜きして見せる。

 

というか、手抜きしないと。

 

視界に入る全てを破壊し尽くしてしまうからなのかも知れない。

 

力がつけばつくほど、この人の恐ろしさが分かってくる。

 

破壊神と呼ばれていると聞いたけれど。

 

それも納得だ。

 

つるはし1丁で山を粉砕するなんて、この人にとっては児戯に等しいのだ。

 

「今調査して貰っている砂漠の絵、エテル=ネピカだけれども。 増援がいなくて困っているんだって?」

 

「は、はい」

 

「それなら、増援を此方から出させて貰うね」

 

フィリスさんが顎をしゃくると。

 

アトリエに入ってくるのは、以前雷神と戦った時顔を合わせた人。

 

プラフタさんである。

 

非常に美しい女性だが。どうしてか、なんというか人形っぽいと感じた。

 

それにしても瞳に星があるのは不思議な風貌だ。希にそういう容姿の人がいるらしいとは聞いた事があったが。

 

「記憶を呼び覚ます砂漠、少し興味があります。 私も同行しましょう」

 

「プラフタさんは強いよ-。 手伝って貰えるのは羨ましいなあ」

 

「フィリス、貴方は既に」

 

「うふふ」

 

プラフタさんが何か言おうとしたのを遮ると。

 

可愛らしく掌を振って、フィリスさんは文字通りかき消える。

 

大きくため息をつくと。

 

プラフタさんは、アトリエを見回した。

 

「ソフィーの部屋ほどではないですが、少し散らかっていますね。 協力体制を敷かせていただくのですし、せっかくですから少し家事くらいはして行きましょう」

 

「あの、良いんですか?」

 

「私は一時期記憶喪失になった事があります。 記憶というものの仕組みは難しく、錬金術師として高位にいる今の状態でも分からない事もあるほどです。 法則の異なる異世界であるとはいえ、データがとれるのなら好ましい事です」

 

そうか。

 

それにしても、フィリスさんが認めるほどの実力者。

 

思わぬ援軍だ。これは、次の探索が、はかどるかも知れない。

 

まずは手札を見せて、戦力について説明する。説明は一度で全てプラフタさんは飲み込んでくれる。

 

フィリスさんのような残酷さは感じないが。

 

プラフタさんからは、怜悧な冷たさと、同時に優しい温かさを感じた。

 

矛盾しているはずなのに。

 

どうしてか、この人の中には。

 

それが同居しているように、スールには思えた。

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