暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
その世界は滅びず繁栄をいまも続けています。
ただホムの先祖が、運が悪かっただけなのです。
序、一つの未来の形
ソフィーは驚いていた。ホムの先祖がいた世界は、滅亡どころか錬金術が全盛期を迎えていたのだ。
そして、世界には活力が満ち。
少なくとも亡ぶ前兆は見られなかった。
ある程度の事前調査をしてはあったのだが。これほどまでとは思わなかった。
そして、調査を進めていく内に。
接触に成功したのである。
今でもなお、世界が転換期を迎えたときより。
全盛期の実力を保っている錬金術師に。
いや、もはや錬金術師だったもの、と言うべきかも知れない。ソフィーと同じように。名前はもう意味を成さないと言われて、教えて貰えなかったが。
それに、人間の形を保って動き回るのも面倒くさいようで。
地下の施設で仮の肉体を作って活動させ。
その全てに自分の自我を持たせ。
本体の知識は、施設の中枢部に置いている様子だ。
この世界においても、禁忌とされるその存在に接触するまで、多少手間取ってしまった。
この世界の人間は強い。
多種族が連携して、一度滅びた世界を立て直し。
そして世界を滅ぼそうとした究極の厄災をも打ち払ったらしい。
それぞれの人間が、ソフィーの世界にいる獣など一人で打ち倒せる程度の実力を有しており。
ドラゴンを錬金術の支援無しで倒せそうな人材も見受けられた。
これは一つの解かも知れない。
今までパルミラの蓄えた膨大なデータを解析しつつ、試行錯誤してきたが。
データの解析が終わった今は。
他の世界のデータを調べるのも良い。
あまり期待はしていなかったのだが。これは想像以上に良い場所に当たったかも知れない。
堂々と奥まで入り込む。相手に敵意がなかったからだ。
強固な装置によって封じられた賢者の知恵は、ソフィーが何者かを即座に把握したようだった。
「ようこそ異世界の錬金術師。 害意ない限り歓迎しよう」
「はじめまして異世界の錬金術師。 ソフィー=ノイエンミュラーです」
「そうか。 此方はもはや名前を喪った身だ。 名乗れぬが許されよ」
くつくつと笑う異世界の賢者。
ソフィーは頷くと、早速幾つかの質問をさせて貰う。
まず第一に、この世界に何が起きたのか。
データを空中に魔術で展開して見せてくれたので、即座に全てを把握。
なるほど。
この文明が勃興する以前、科学文明が発展したが。愚かにも滅亡。この辺りは、どの知的生命体も大して変わらないのだろう。似たような姿をしていて違っていても、だ。この世界の元々の住民は、ヒト族に酷似していて。その末路もよく似ていた。
違ったのは。ヒト族と違って、苛烈な破滅を生き抜いた事だ。
その後、激しい汚染と破滅の世界を耐え抜き。
強く強くなったこの世界の人間は。
新しい世界で、様々な苦労の末に違う姿の者達と上手くやっていく事をおぼえ。
同じ人間から発生した多数の種族とともに、世界の敵とも言える邪悪と戦い、退け。
そして今は、宇宙への進出を目指して。種族同士が協調体制に入っている事、などが分かった。
高度な錬金術による技術の革新と。
近年は科学技術の進歩も著しく。
この二つの技術が両輪となって、この世界は過酷ではありながらも、未来を持つ世界になっているという。
はっきりいってソフィーの故郷とは偉い違いだ。どれだけ繰り返しても、未来が見えなかった世界とは。
「此方にも其方の情報の開示を願いたい」
「いいでしょう。 此方になります」
「ほう? どうやら随分と苦労しているようで」
「ふふ」
ソフィーは口元を抑えて笑うと。
ホムについて確認する。
どうやらこの世界において、ホムンクルスは複数種類が存在しているらしい。ホムが、元々は錬金術で言うホムンクルスであった事は知っているのだが。その中でもホム族は、物質の複製を主眼に置いた奉仕種族で。戦闘向けに作られた種族ではなかったそうである。まあ、それはホム達を見ていれば何となく分かる。
現在では人権もきちんと取得しており。元々の出自は兎も角、人の友として世界に生きているという。なお、この世界では「ちむ」と呼んでいるそうだ。
どうやらパルミラが救ったのは、この世界が滅亡に瀕し、それを切り抜けた数世代後の頃。その復興の段階で、「余裕が無い時期」に破棄された「不正規格品」の「ちむ」だったらしい。
なるほど、それでホムの力が妙に不安定なのも納得出来る。
繁殖以外に使える複製の能力持ちはまれにしか生まれない。
基本的に繁殖のためだけに複製の力を用いる。
更に言えば、そもそも戦闘を想定した奉仕種族では無い。
身体能力に劣るのも。
非常に真面目で不正をしないのも。
それと、ヒトの補助に特化した生物としての機能を持っているのも。
あらゆる全てに納得がいく。確かに全てに筋が通っていた。
「取引をしたいのですが、よろしいですか?」
「異存ない。 何を求める、異界の特異点、ソフィー=ノイエンミュラー」
「可能な限りの情報を。 世界の破滅を打開するため、持ち帰り次第解析するために」
「了承。 ただし取引をする以上、此方にも旨みが欲しい。 以降何か問題が起きたときに役に立つかも知れない。 此方にも、同等の情報をいただきたい」
頷く。
そして、提出されたデータの量を見て。
既に滅びた調査済みの二つの世界と。自称唯一神の自己満足世界のデータを渡す。
これで同等と判断したからである。
先ほど見せた、ソフィーの世界の情報とあわせて、コレで充分な筈だ。
なお、世界間の行き来はしない方が良いだろう。
今の段階で交流を持っても、互いに不幸を呼ぶだけだ。
「有り難い。 既に滅びた世界のデータは此方としても有用だ。 有効活用させて貰おう」
「此方としても滅びから立ち上がったデータは有用です。 ありがとう、もはや名も無き賢者よ」
指を鳴らすと。それだけで世界から離れる。
勿論足跡も残さない。
充分なデータは取得できた。勿論データそのものは隔離し、独自の空間で分析する。悪意が混入している可能性があるからだ。
いずれにしても、此処でやる事は全て済ませた。これで充分である。
後は、双子が仕上がれば。いよいよ状況が完成する。賢者の石への壁はまだまだ厚いが、それは苛烈な試練を浴びせていけばいい。失敗すればその回数だけやり直す。それだけで充分だ。
残念ながら、まだまだ双子は一人前に毛が生えた程度の実力しかないが。
それでも現状の成長からすれば充分。
最初は秘めたる才覚でいえば今後これ以上の人材は出ないと言う理由から育て始めて。本当に何度も困り果てた。
だが、今は試行錯誤の末に。ついにお膳立てがあったとは言え、その時点での超格上である雷神とも戦い抜き。
文字通りのはな垂れだった所から。一人前に毛が生えた、程度まで成長したのだ。
このくらいまでくれば、後は油断せずに仕込んでいけば良い。
複雑な経路を辿って元の世界に戻ると。
まず深淵の者本部、魔界に顔を出す。
戻る時間は指定してあるので既に幹部は揃っていた。
目を細めたのは。
どうやら、余計な事をした者がいる可能性が高い、と言う事。
まあいい。
自分の思うとおりに行かなくても構わない。
操り人形には所詮操り人形としての行動しか出来ない。
複数の異なる思想が存在し、意見をぶつけ合ってこそ。この状態に、活路を見いだせる可能性が高いのだから。
会議の席に着くと。
まず、今回の成果について展開。
おおと、声が上がった。流石に、未来を切り開いている世界の情報は貴重だと、この席にいる誰もが理解出来る。まあ当たり前の話だ。
「ホムの故郷の世界はこれほどの強度に仕上がっているのか」
「どうやらパルミラが介入した時点では、よほどに状況が厳しかったみたいですね。 あたしが行った時には、もう宇宙開発にも手を掛けていたし、多種族の連携も上手く行っていました。 とはいっても、その多種族達は、元は一つのヒト族に似た種族だったようだけれども」
「いずれにしても、これは参考になる。 どうにかして、計画に反映できないだろうか」
「勿論計画に反映することは想定するけれども、まずは現段階の計画を想定通り進めてから」
ソフィーは、興奮する深淵の者幹部達を掣肘する。
もはや二十四万回近く世界の終わりを見ていると。
いい加減かつ適当に回していても、絶対に世界の終焉は回避できないことが分かりきっている。
もしも計画の変更を行うのなら。
明確な展望と。
現実性が必要だ。
そうでなければ、今まで散々試行錯誤はしていない。
人間の思いつく程度の事はとっくの昔に全てしているのである。
だからこそに、様々な考え方や。
更に言えば、それら意見を戦わせることで、新しく生じる考え方が必要になってくるのだ。
中には一見危険なものもあるかも知れないが。
まずは試してみないと分からない。
それがソフィーの持論である。
もっとも、ソフィーにとっては、最初から決まった倫理観念なんぞないに等しかったが。
プラフタが昔から良く眉をひそめていた。
貴方の頭のねじは外れていると言われた事もあったっけ。
まあ、それもどうでもいい。
データにざっと目を通したルアードが呻く。
「なるほど。 個々の能力がそれぞれ非常に高く、過酷な環境に適応すると同時に、それぞれの弱い能力も的確に補っていると……」
「これほどの分業制度、どうやって実施に成功……一度完全に世界が滅び掛けたというのか!」
驚きの声を上げるシャドウロード。
咳払いする毒薔薇。
「それだけではありませんね。 世界を滅ぼし私物化せんとする怪物的な集団が、全てを敵に回して戦いもしたようです」
「この戦力差、凄まじい。 なるほど、これでは団結せざるをえないのも納得出来る」
「いや、戦力差であれば現状の世界でも、人間四種族と邪神やドラゴン、ネームド達との戦力差は文字通り一方的だ。 ごく一部の人間……いや超越者にしか連中には対抗できない。 何か違いがあるはずだ」
「複数の怪物的な天才的逸材が、歴史の重要局面に出現している。 それが原因なのかも知れない……」
わいわいと会議が盛り上がる。
しばらく皆がデータに湧いている所で。
冷静なプラフタとイルメリアちゃん。そしてフィリスちゃんが、声を掛ける。
「でも、それに今のわたし達が劣るとも思えないかな」
「ごく一部の、極めて優秀な人材に全てを預けてしまうのは危険。 それは皆も良く知っているはずです」
「私が思うに、これは特別に上手く行った例よ。 真似をするにしても、厳選しないと危険だわ」
イルメリアのちゃん冷静な意見に、皆が静まり。
ルアードが捕捉する。
「シャドウロード」
「は……」
「これから専属で、特異点ソフィーが持ち帰ったこれら貴重な情報の解析にあたってもらいたい。 専属のチームもつけよう。 危険を避けるための補助も必要になる。 どれだけの規模の調査チームが必要だろうか」
「二十名ほどのホムと、同数のヒト族。 更に魔族を二名か三名」
驚きの声が上がる。
シャドウロードと言えば、人生を掛けてこの世界の謎に単身で迫り。
故にまだ深淵の者に加入してそれほど時が経たない幹部であるにも関わらず、そのストイックな性格で尊敬を得ているものだ。
それがこれほどの大規模チームを要求するとは。
「その人員で、どれほどで解析が完了するだろうか」
「最速でも二百年」
「人員を増やした場合は」
「いえ、これ以上の人員は増やしても現場が混乱するだけにございます」
ふむと、ソフィーが鼻を鳴らす。
ならば、専属のチームには、止まった時の中で過ごして貰う事になるだろう。
それはソフィーの方で用意する。
その旨を告げると、シャドウロードは鷹揚に頷いた。
この場所にはソフィーのやり方を好まない者もいる。意見が対立することもある。
だが、ソフィーは世界の敵に対しては容赦が無いが。意見が異なる相手に対してはむしろ寛容だ。
意見が対立した相手を殺した事は、少なくとも深淵の者に協力するようになってからはない。
むしろ、違う意見を出してくるなら。
それに対して、興味を覚える。
面白いのだ。純粋に。何より、色々な意見が出てこそ、打開策につながる可能性が高まる。
「それでは、人員をどうにか集めよう。 ただ、流石にその規模のスペシャリストとなると、教育から始めて相応に時間が掛かる」
「かまいませぬ。 チームの編成が整うまでは、わし一人で作業を行いましょう」
「うむ、頼むぞ影の賢者よ」
「御意……」
シャドウロードの調査については安心感がある。この人がどれだけ偉大かは、ソフィーが良く知っている。ソフィーからしても尊敬できる「個」だ。ルアードが影の賢者と呼ぶのも道理である。文字通りの賢者とは、こう言う人の事を言うのだから。
全てを知った後、定められた命を持つ身である事が馬鹿馬鹿しくなってアンチエイジング処置を受けた賢者は。
どの周回でも、世界の最後まで諦めることは無かった。
プラフタとは何回か殺し合いに発展することもあったのだが。
シャドウロードとはそれもない。
本当に、単純に研究するのが好きなのだとソフィーはその人となりを分析している。
そして研究に己の全てを捧げることに特化していて。それが彼女の人生であり、誇りでもあるのだと。
そういう人がいても別にかまわない。それが今のソフィーの考え方だ。
勿論そんな生き方を、誰もが出来る訳ではない。
深淵の者では、ある意味狂気じみているシャドウロードの生き方を尊敬できる風潮が作られているが。
それはあくまでルアードが五百年掛けて組織の強度を上げていったから。
そうでなければ、こうも多様性が優れた組織は、誕生しえなかっただろう。
さて、此処からだ。
会議を終えた後。プラフタとルアードに残って貰う。
話がある筈だ。
丁度、ソフィーが世界を離れている隙に、二人が何かをした。
何しろ「長い」つきあいだ。
それくらいのことは分かる。
ソフィーが残るように言うと、ルアードは肩をすくめ。プラフタは目を細めた。
「さて、それであたしがいない間に、何をしたのか教えてくれる? 場合によっては巻き戻さないといけないし」
「双子の退路を断っただけだよ」
「ほう?」
「ルアードと話して決めました。 双子は、才覚をまだ引き出し切れていません。 貴方が考えた過酷すぎる試練を、立て続けにこなしているのにもかかわらずです」
ふむ。
雷神を倒した後、一度も現状巻き戻しはしていない。
色々と試行錯誤をして見るのもありだろう。
それで双子が死んだときはその時。
雷神が死んだ後に、何回か世界の固定をしている。
其処からやり直すだけだ。
パルミラの実力は凄まじく。今までに世界の固定を行ったタイミングの全てを、任意に巻き戻しの対象に選ぶ事が出来る。
勿論それはパルミラがこの宇宙そのものだから、であって。
ソフィーには、世界全ての時間を其処まで都合良く巻き戻す事は出来ない。
具体的にルアードとパルミラが何をしたか聞いた後。
思わず手を叩いて笑ってしまう。
「あはははは、それは面白いね!」
「……」
「まあいいよ。 余計な事を周囲に喋ったら爆発するくらいの仕掛けはしてあるし。 あの双子もそれくらいは理解出来ているだろうし。 まあ、今回はそのまま最後までやってみよう」
「ソフィー、貴方は……」
プラフタがぐっと唇を噛んで視線をそらす。
それは別にかまわないのだが。
そろそろ、重要な事をやらせなければならない。
「深淵の者に正式に参加させたのなら、ダーティーワークもこなして貰わないとならないね」
「ネゴを含む複合事業は、ネージュとのかなり難しい折衝を既にさせているでしょう」
「まだあの村、片付けていないんでしょう」
「……っ」
思わず青ざめるプラフタ。
いつもの周回では、ティアナちゃんに処理させている集落が一つあるのだが。
それをまだ処理していない。
今回は、アダレットの状況改善に力を入れているので。対応が間に合っていないのである。
ましてやこれから、深淵の者にて大型研究チームを立ち上げる。
元からいる人材達には、それぞれ相応の仕事が割り振られているから、各地から人員を勧誘し、更に教育も施さなければならない。
どれだけ効率的に作業をしても、数年はかかる。
それだけシャドウロードが行う研究調査というのはハイレベルなのだ。何しろ、深淵の者がパルミラが世界に施した改変に、自力で気づけたのはシャドウロードのおかげなのだから。他の世界なら、間違いなく「偉人」として歴史に名を残す人物である。
この研究には予算も惜しめない。
アルファ商会は既に殆どの資産を絞り尽くしている状況で、あまり余裕が無い。かといって、金を量産した所で、実体経済に悪影響が出るだけだ。
「ソフィー、貴方は昔からそうでした。 貴方が血塗られた過去を背負っているのは良く理解しています。 しかし、それでもいくら何でも……」
「これくらいできないようでは、深淵の者に入った覚悟を示せるとは言えないね。 綺麗なものだけ見ていても世界は理解出来ない。 ようやくある程度の客観性を確保は出来てきたようだけれど。 あたしから言えばまだ足りない」
「それであの「人食い村」を処理すると」
「そうなるね」
ルアードも、笑顔を引きつらせていたが。
元々ティアナちゃんが出る案件だ。双子が受ける精神的なダメージを懸念しているのだろう。まあ、分からないでもないが。壁は越えて貰わないとならないのである。
「それでは、解散……。 そうそう、ティアナちゃんは監視としてつけるからね」
「……」
プラフタはもう反論しなかった。では、宴の時間だ。この世界の悪を殺し尽くす宴だ。