暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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無事双子も深淵のもの入りです。

選択肢は他にありませんでしたし。

そして其処にはソフィー先生の懐刀である、「人間としては」もっともヤバイあの人もいるのでした。


1、手を血に染めて

口数が減った。リディーもスールもである。

 

アルトさんの正体を知って。

 

そして深淵の者に強引に勧誘されて。

 

断る手段も存在しなくて。

 

そして、今、ベッドでスールは膝を抱えて黙り込んでいる。

 

お父さんは何も言わない。

 

仕事はしているのだし。何も言う必要はないと判断したのだろう。それはそれで、別にかまわない。

 

深淵の者にフィンブルさんが既に所属していたのは、スールにとっては衝撃だったのかも知れない。

 

フィンブルさんの事を兄のように慕っていたのだ。

 

ただ、フィンブルさんが、リディーとスールを利用していたようには思えないし。誠実な言動が嘘だったとも感じない。

 

確かに深淵の者は怖い組織だが。

 

だからといって、所属している者達が、みんな人間離れした思考をしている、というわけでも無いのだろう。

 

大きくため息をつく。

 

お父さんが、出来合いを買って戻ってきた。

 

「洗濯は俺がやっておこうか」

 

「ううん、平気。 下着とか流石にあるし」

 

「そうか。 悪かった」

 

スールを誘って、夕食にする。

 

お父さんは黙々と食事にしていたが。今までにない、静かな夕食だった。やがて、お父さんが提案してくる。

 

「近々三人でオネットの墓参りに行こう」

 

「いいけど、命日はまだ先だよ」

 

「お母さん、びっくりしないかな」

 

「お前達は二人がかりならもう俺を越えた。 だからそれをオネットに報告してやりたくてな」

 

そうか。

 

そう言ってくれると嬉しいけれど。

 

故にとんでもない怖い状態に放り込まれてしまっている。

 

お母さんが健在であっても、コレは正直同時もならなかっただろう。ソフィーさんの実力は分かっていたつもりだったけれど。

 

しかし、深淵の者全てを単独で凌駕するとなると。

 

もはやどうにか出来る存在は、それこそ最高神パルミラしかいないだろう。

 

しかもそのパルミラも、ソフィーさんと蜜月と聞いている。

 

どうしようもない。

 

夕食を終えた後。

 

必要なお薬や爆弾を作り。

 

その後、スールと話しあって、装備品の更改を進める。まずはプラティーンだ。更に質が上がっては来ているが。

 

それでもまだまだ。

 

鍛冶屋の親父さんによると、込める魂が足りないらしい。

 

抽象的な言葉だけれど。

 

何となくニュアンスは分かる。

 

多分だけれども、もっと丁寧に金属に接しなければならないのだと思う。

 

幸いにも、鉱物資源は、砂漠の不思議な絵画と、それにフーコと火竜のいる不思議な絵画で、幾らでも回収してくることが出来る。

 

リディーは少しずつギフテッドの力が上がってきているし。

 

スールは一度作ったものの、完成度を上げる技量が更に増してきている。

 

色々実験的に装備品を作ってはいるのだけれども。

 

必ずしも上手く行くわけでは無い。

 

爆弾もそれぞれ実戦投入を行って試してみるが。

 

砂漠の不思議な絵画でアンパサンドさんとマティアスさんと一緒に試し打ちをしてみると、大体何かしらの問題が発生するのが常だった。

 

簡単に何でも出来るわけが無い。

 

試行錯誤を繰り返して、少しずつ力を増していくしか無い。

 

そもそもギフテッド持ちの錬金術師でさえ、上達するコツは反復練習と口にするのである。

 

後天的ギフテッドのリディーや。

 

それさえないスールは。

 

それこそイル師匠に何度も教えられたとおり。

 

予習、復習を丁寧に行い。

 

数をこなすことで、力をつけていくしかないのだ。

 

ドライフラワーを作成して、翌朝墓参りに出向く。

 

お母さんのお墓を掃除するのは、時々定期的にやっているのだけれど。教会にいるシスター達がしっかりいつもやってくれているので、殆どやる事もない。綺麗な墓石には、お母さんの生没年が刻まれているが。

 

お母さんが亡くなったときにはお父さんが完全に心身喪失状態だった事もあって。

 

墓碑はない。

 

ドライフラワーを供えて。

 

シスターグレースに挨拶。

 

お父さんが復帰したことをシスターグレースも知っている様子で。頭を下げるお父さんに、色々と訓戒をしていた。

 

そのままアトリエに戻る。

 

そして、アトリエの前に、フィリスさんがいるのを見て。お父さんが目を細める。好意的な目では無い。

 

当たり前だが。

 

「二人とも、お仕事」

 

「今、墓参りから帰ったばかりなんだ。 少しは……」

 

「いいよ、お父さん」

 

「大丈夫だから」

 

そう。

 

ルーシャとお父さんが、リディーとスールを庇って凄く辛い思いをしてきたことを、既に知っているのだ。

 

だから、これ以上はさせない。

 

今度はリディーとスールが、大事な人達を守る番である。

 

荷物だけアトリエに置くと。

 

フィリスさんについて歩く。

 

フィリスさんは、いつも通り、笑顔を浮かべて言うのだった。

 

「深淵の者に加入おめでとう。 ああ、声はもれないようにしているから大丈夫だよ」

 

「それで、呼びに来たと言うことは、国にも関係無い仕事ですか?」

 

「んーん。 国からは、時期を見て処理して欲しいって言われている案件」

 

「……!」

 

最大級に嫌な予感がする。

 

そして、フィリスさんのアトリエに入ると。

 

綺麗だけれど、目が完全に殺人鬼のお姉さんがいた。

 

ティアナと名乗るその人は。

 

傭兵らしい姿をしていたけれど。

 

背中に背負っている剣。

 

あれは多分、ハルモニウム製だ。

 

目が深淵にまで行ってしまっているソフィーさんや。目が闇に染まっているフィリスさんとはまた違う。

 

とても怖い人だと、リディーは一目で分かった。

 

ティアナさんはフィリスさんとしばらく談笑していたが。

 

不意に此方を向く。

 

「それで、今日は何人斬って良いの? この二人も?」

 

「駄目だよティアナちゃん。 この二人とお仕事するの」

 

「えー。 でも斬るのは私がやりたいなー」

 

「ソフィー先生の命令だよ」

 

ソフィーさんの映像が浮かび上がる。

 

そうすると、即座にすっと跪くティアナさん。

 

なるほど、そういう事か。

 

完全に頭のねじが外れている上に、狂信的な忠誠をソフィーさんに捧げている人だ。今までの経緯だけで分かった。

 

この人は恐らく、深淵の者におけるダーティーワークの専門人員。

 

それも、あのソフィーさんが信頼するレベルの、文字通りの「剣」なのだろう。

 

何しろ、ハルモニウム製の剣を背負っているのだ。

 

恐らく身につけている装備品も、全てソフィーさんの作ったもの。

 

つまり、人外の実力者と言う事である。

 

映像のソフィーさんが、色々と説明してくれる。

 

まずティアナさんには、リディーとスールを斬らないように。

 

そしてリディーとスールには。これから「人食い村」と呼ばれる集落を処理するように、と。

 

位置も映像に出た。

 

この間足を運んだ雪山とは、別方向にある辺境の地だ。

 

人口は五十人ほど。殆どがヒト族である。

 

だが、物騒な呼び名からして。

 

まともな村である筈も無い。

 

そして、想像を遙かに超える血なまぐさい話を、ソフィーさんがし始める。

 

「人食い村はね。 違法奴隷の売買を行っていた中間拠点なんだよ。 先代庭園王の悪政の時代、此処に巣くった賊を汚職官吏が資金源にしていてね。 悪徳孤児院などから流れてきた奴隷を、此処を中間地点にして売りさばいていたの。 まあ大本は断ったのだけれど、この手の輩は更正とは無縁でね。 今でも近くを通った商人を村ぐるみで襲ったり、盗品を売りさばいている」

 

その被害が目に余ると言う事で。

 

今回処理の指示が降ったという。

 

この場には、既に深淵の者しかいないからか。

 

ソフィーさんは淡々と言う。

 

「いつもの周回だとティアナちゃんだけで片付けるか、或いは騎士団の特殊部隊が処理してしまうのだけれどもね。 今回は二人にティアナちゃんと出て貰うよ。 あたしが調べた所、村には売られそうになっている奴隷が現時点で八人。 まだ買い手がついていないけれど、当然日が経てば経つほど状況は悪化するだろうね。 即時対応してね」

 

映像が消える。

 

そうすると、ティアナさんが立ち上がった。

 

「人質は斬っちゃ駄目、人質は斬っちゃ駄目……」

 

ブツブツ呟いている。

 

はっきり言って恐ろしすぎるが。

 

しかし、やるしかない。

 

昔だったら、リディーはスールと抱き合って震え上がるばかりだっただろうけれど。もう散々修羅場はくぐった。

 

この人は本物の殺人鬼だろうけれど。

 

一方で、ソフィーさんに制御されているのもよく分かった。

 

要するに、意思を持った刃物みたいなもので。

 

下手なさわり方をしなければ、傷つくことも無い筈だ。

 

それにしても、そんな邪悪な連中がいるのか。確かに何とかしなければならない。でも、処理って。

 

しかしながら、匪賊は見敵必殺が基本だ。

 

今回の相手は、ある意味匪賊と同等か、それ以上の鬼畜である。絶対に許してなどおけない。

 

頬を叩く。

 

頭を切り換える。

 

これは必要な作業だ。

 

そう自分に言い聞かせると、まずスールと手分けして動いた。荷車を用意。お薬と爆弾を積むが。

 

お薬はありったけ持っていく。

 

ルーシャに声を掛けようかと思ったが、これは深淵の者から来たお仕事。それもダーティーワークだ。

 

多分、声を掛けられても傭兵だけだろう。

 

少し悩んだ末に、フィリスさんに聞く。

 

「フィンブルさんだけでも、来て貰っては駄目ですか」

 

「駄目」

 

「……」

 

「これは的確に衰弱している人間を救出できるかの試験でもあるからね。 ティアナちゃんはその辺り手を出さないし、人質の救出は二人の手に掛かってるよ」

 

そうか。

 

では、まったく信頼も出来ない、ホンモノの殺人鬼と一緒にダーティーワークをこなし。更に捕まって衰弱している人質八人を救出しなければならないのか。

 

顔を上げる。力は確実についている。空中機動だって出来るようになってきているのだ。出来ないはずは無い。

 

すぐに城門に出向く。

 

城門で手続きを自分達でするのは久しぶりだ。だが、騎士団とは何度も合同で仕事をした。既に顔馴染みになっているし、分からない事については向こうが丁寧に教えてくれる。とても有り難い。

 

ティアナさんは、少なくとも人前では普通の人間を装えるらしく、手続きの際には門番の騎士とも談笑していた。

 

だが、さっきの危険すぎる言動。

 

この人、三桁、いや四桁は人を殺してきているのではないのだろうか。

 

城門を出ると。

 

ティアナさんは、舌なめずりする。

 

「とりあえず見ていて身体能力は分かった。 二人の最大速度で行くから、ついてくるように」

 

「はいっ……」

 

「……」

 

多分、スールの方が敏感に如何にヤバイ相手の前にいるか感じ取っているのだろう。完全に青ざめている。

 

だけれども、無闇に刺激さえしなければ大丈夫だ。

 

血に飢えている相手だけれども。

 

しかしながら、ハルモニウム製の剣を持たされているような剣士である。実力は折り紙付きの筈だ。

 

そして、その実力を。すぐに見せられることになる。

 

森を出て、街道を走る。

 

すぐに獣が姿を見せた。

 

三人だけ。

 

襲うには良い条件だし、まあ無理もないだろう。だが、姿を見せた事そのものが、彼らの不幸になった。

 

獣は駆除しなければならない存在だ。

 

それは分かっているが、背筋が凍るしか無い。気がつくと、獣の首が全て落ちていて。満面の笑みで、ティアナさんがどこからともなく取りだした袋に、首を放り込んでいる。解体の時は一転して退屈そうだったけれど。手際は凄まじく、あっと言う間にてきぱきと処理してくれた。

 

すぐに走る。獣が現れるごとに駆除するが、それでも兎に角早い。騎士団の一部隊と連携して移動する時よりも早いかも知れない。獣の処理速度が尋常ではないのだ。かなり大きいのも、殆ど瞬く間に倒してしまう。倒しているのを、視認すらできない事も多かった。

 

満足げに、巨大な羊の首を袋に放り込むティアナさん。

 

胴体を吊して血抜きしながら、スールと話す。

 

「ね、ねえ、見えてる?」

 

「殆ど斬撃が筋状に走るくらいしか」

 

「スーちゃんでもそんな?」

 

「それもめっちゃ手抜いてるよあの人」

 

青ざめているスール。

 

それはそうだろう。勘が鋭いスールだ。あのティアナという人から、とんでもない血の臭いがしているのは、よく分かるのだろう。勿論物理的な臭気では無く、そういう雰囲気である。

 

戦闘とも言えない、一方的な殺戮を何度か終えると。

 

人食い村の近くにつく。

 

見ると、粗末な、典型的な辺境の村だが。

 

その割りには警備もしっかりしているし。何よりも、明らかに武装が重い。個人個人が良い武器を持っているのに、街の方はとても粗末なのもちぐはぐだ。

 

辺境にある村は、獣の襲撃に常に晒されると聞いている。

 

だから錬金術師がいない場合は悲惨極まりなく、いつでも離散出来るようにしているらしいのだが。

 

周囲を相手に気付かれないように、距離をとりながら確認していくと。

 

どうもこの辺り、獣がとても少ないようなのだ。

 

荒野にはなっているが。

 

或いは、あの「人食い村」が、天然の要害だから、かも知れない。

 

それに、ヒト族を中心とした村人達。

 

どう見ても、前に殺した匪賊と同類にしか見えない。

 

ただ、証拠は必要になる。

 

人質の位置も確認しなければならないだろう。

 

今回は、記憶を引き出す装置をフィリスさんに借りてきている。本当なら作るべきだったのだろうけれど。その時間がなかったからだ。しかしながら、借りられたのは粗悪品で、使い手の魔力に効果が依存する品だと言う事だった。

 

これくらいは自分で作らないと駄目だよ。

 

そう、フィリスさんは笑顔で言っていたが。

 

時間がないので、屈辱を飲むしか無かった。

 

時間とレシピがあれば、もう少しマシなのを作れたかも知れないが。しかし、人命には替えられない。

 

話の内容が内容だし、急がなければならない。

 

まず、一人。

 

村人を捕獲するべきだろう。

 

周囲を確認して廻り。村人の大体の人数と、見張りのローテーションを確認する。後ろ暗い事をしている自覚があるのか、相当警備は厳しい。魔術によるトラップも、彼方此方にあるようだった。

 

ティアナさんはあくびをしているが。

 

いざとなったら、村人を全部斬って貰うのだ。

 

今はあれでいい。

 

それにあの人を解き放ったら。それこそ周囲に血の雨が降る事になる。

 

出来るだけ修羅の刻は引き延ばしたい。かといって、放置しておけば人質がどんな目にあうか。

 

一人、見張りが外れた。生理反応だろう。

 

スールと一緒に見張りの様子を確認していたリディーは。岩陰に見張りが入って小便をし出すのを確認すると、スールに頷く。

 

スールは音も無く接近すると、立ち小便をしていた男に、音も無く後ろから踵落としを叩き込んだ。

 

空中機動出来る靴だ。

 

空を蹴って更に蹴りの威力を加速している状態である。

 

更に、スールの蹴りは獣との戦いでも使っているほど。ヒト族の男性くらいだったら、加減しないと簡単に頭が爆ぜ割れる。仮にこの男が魔術で強化した武装を身に纏っていても、それは流石に錬金術製ではないだろう。ならば結果は同じ。

 

事実一撃で意識を失った男を、引っ張ってくる。

 

立ち小便をしていたから、性器がモロ出しになっているので、流石にうんざりして苦虫を噛み潰してしまうが。

 

まあ性器くらい、獣を解体するときに散々みている。今更ヒト族のを見たくらいで慌てることも無い。

 

そんなどうでも良いことよりも、早く引っ張っていかないと、他の見張りに気付かれる。

 

縛り上げて、ティアナさんの所に引っ張っていく。

 

地面に転がすと。ティアナさんが嬉々として剣を抜くので、慌てて制止した。

 

「じょ、情報の引き出しがまだです!」

 

「早くしてくれる? 斬りたい」

 

「……っ、スーちゃん、水」

 

「蒸留水はもったいないから、あれでいいか」

 

荷車に積んでいる幾つかの用具。

 

桶を出してくると、近くの汚い沼に突っ込んで水を確保。勿論獣に襲われる可能性があるから、シールドの準備は常にしていた。

 

男に水をぶっかけて叩き起こすと。

 

すぐに記憶を引き出す装置をかぶせて、情報を引きずり出す。

 

猿ぐつわを噛ませてあるから、男が仲間を呼ぶ可能性は無い。

 

映像を見ながら、ティアナさんが丁寧な分析をしていく。

 

「街の図はこう、罠がこう……首脳部が此処、と。 人質は?」

 

「今、記憶を検索中です」

 

「あ、これじゃない……?」

 

スールが指示した点まで巻き戻す。

 

フードで全身を隠した男が、人を買っている。縛り上げられた幼い子供達が、売られて行っている。

 

数年前、いや十年以上前の映像だ。

 

今更どうにも出来ない。口惜しいけれど。見ているしかできない。

 

他にもボロボロ情報が出てくる。

 

違法薬物の販売もしていたようだ。吸うと気持ちが良くなるが、その代わり体を壊し、精神はもっと壊してしまう薬である。確か錬金術師にとっては禁忌中の禁忌。作っただけで追っ手が掛かると聞いている。深淵の者の話をされた後、アルトさんに幾つか教育を受けたのだけれど。禁じ手の一つとして決められているらしく。もしもこれを破った場合、深淵の者の猛者が地獄の果てまで追い詰めるという。

 

それだけじゃあない。

 

あからさまに匪賊と分かる輩に、ホムを売っている。

 

運命は明らかだ。

 

匪賊に捕まると、ホムはまず助からない。この売られたホムの子供が、ごちそうとして食われてしまったのは明らかだろう。

 

絶対に許せない。

 

更に、役人らしいのと、かなりの金のやりとりをしている。

 

これはもっと前の時間軸。そう、庭園王が玉座にしがみついていた頃の話のようだ。

 

役人がヴォルテール家がどうのこうの、と言っているが。首を横に振っている。

 

流石に錬金術師に手を出すのはうちの戦力では無理だ、と。

 

小さな村だ。

 

この男は四十代ほどのようだが。首領らしいひげ面の大男と一緒に、役人の話を聞いている。

 

犯罪組織だと、ボスくらいしか情報は把握していないらしいと聞いた事があるが。

 

此処は違う。文字通り村ぐるみだ。一蓮托生という奴なのかも知れない。

 

いずれにしても、情報は全て記録。

 

更に、ティアナさんの指示で、現在の警備と、人質の位置についても情報を探って検索。

 

人質は情報通り八人。それも、皆子供ばかりだ。

 

ホムの子が二人いる。

 

そういえば、最近殆ど匪賊がいないと聞いている。深淵の者で駆除を進めているのだろう。幸いにも、それで助かったのかも知れない。

 

映像内で男が他の村人と話をしている。

 

「最近商品が売れなくて困るぜ。 綺麗な水には魚も住めないってな」

 

「匪賊がいないからホムも売れないしな」

 

「奴隷に向いてないしな彼奴ら」

 

けらけらと笑う賊ども。理由は何となく分かる。

 

ホムは記憶力がずば抜けている。奴隷として売っても、何十年も前の事を正確に記憶していて、ふとした切っ掛けから犯罪が暴かれるケースがあるという。

 

前にフィンブルさんに聞かされたのだ。

 

あるヒト族の金持ちが違法奴隷のホムを非人道的に使っていたのだが。そのホムが隙を見て逃げ出し、役人に三十二年前にどのようにして違法奴隷として売られたのかを正確に供述。全てにつじつまが合い、金持ちは縛り首になったと言う。

 

ヒト族や獣人族だとこうはいかない。

 

ホムはその卓越した記憶力計算能力で人を支えるのに向いているのであって。

 

人の道具として使い捨てにするには決定的に向いていない存在なのだ。確かに奴隷にするにはリスクが高すぎる。

 

此奴らが匪賊にホムを売るのは、そういう理由もあるのだろう。自分さえ良ければいい、と言うわけだ。こういう連中が世界を滅ぼすのだと分かる。本当に反吐が出る。

 

「もういい?」

 

ティアナさんがうずうずした様子で聞いてくるので、頷く。

 

身をよじって逃れようとした匪賊だが。即座にティアナさんが首を刈り取っていた。音が出ないフラムで死体を焼却し、そのまま炭クズを埋める。

 

さて、此処からは処理の時間だ。

 

ティアナさんと作戦について話す。しかし、帰ってきた答えは単純だった。

 

ティアナさんは圧倒的に強い。緻密な作戦なんて、必要としていないのである。むしろこういう人にとっては、緻密な作戦は足枷になる。

 

「私がまず最初に首領の首を刈って、後は各個撃破するから、同時に突入。 人質の小屋の番を殺して、小屋を守って私が掃除するまで持ち堪えてね」

 

「首領は、それに他の賊も出来るだけ生かして捕まえて貰えますか」

 

「どうして?」

 

「情報を少しでも引き出したいので。 売られてしまった奴隷も助けられるかもしれません」

 

くつくつとティアナさんは笑う。

 

何がおかしいのかと、スールが憤激しかけたが。ティアナさんは、理由を教えてくれた。

 

「首は私が回収するけれど、その後ソフィー様に一度渡すの。 その時全部情報は引き出すから心配しなくても大丈夫」

 

「……!」

 

「此奴を生かして捕まえたのも本当は無駄なんだよ。 もっと実力のある錬金術師なら、それこそ首からでも正確な情報を引き出せるからね。 貴方たちの実力不足に、これ以上私がつきあう理由は無い。 というか、殺したくてうずうずしてるの。 早く殺らせてくれないかな」

 

「わかり……ました」

 

ティアナさんは修羅場のくぐり方も違う。というか、戦闘経験の蓄積が段違いなのだろう。

 

リディーとスールの実力を完全に見きった上で。最適な作戦を、瞬時に立てた、と言うわけだ。

 

そもそもそんな風に情報を引き出せるのなら。

 

確かに、今までの行動が茶番にしか思えなかったのも納得である。ソフィーさんの恐ろしさをまた一つ思い知らされたが。

 

それよりも先に。この人類の害悪となっている村の駆除が先だ。

 

駆除に関しては、リディーも異存ない。あんなものを見せられては、許すわけにもいかない。

 

この村の連中は、人間じゃない。世界の敵だ。

 

作戦開始。

 

突入したティアナさんに、一瞬遅れてリディーとスールも突撃。

 

人質の小屋の入り口を守っていた見張りを、即座にスールが撃ち殺し。

 

後はリディーがシールドを展開。

 

大混乱になった村人達が狩りつくされるまで、ほんの少しの時間しか掛からなかった。

 

満足げなティアナさんが、必死に這いつくばって逃げようとしている村人を、後ろから容赦なく斬り殺す。

 

傷も首から下にしかつけていない。

 

というか、首から上を綺麗に刈り取る事にしか興味が無い様子で。首を刈った後は、胴体を蹴倒しているのも目だった。

 

後ろから、長身銃で生き残りの村人がティアナさんを狙撃するが。

 

剣で斬るどころか、銃弾をそのまま掴んで受け止め。握りつぶすティアナさん。確か長身銃の弾は、音より早いという話なのに。この人は、ハルモニウムの剣を渡されているだけではないのだと分かってしまう。

 

流石に青ざめた村人だったが。振り返ろうとしたときには、首を切りおとされていた。

 

既に村には、人質にされていた子供達と、リディーとスール以外、人間の生存者はいない。

 

ティアナさんは、人間とは言い難い。

 

「ふう、コレクションがまた増えた。 じゃ、後始末は専門の部隊がやるから。 周囲の獣が人間の味を覚えると面倒だから、見張りだけはしておくね。 二人は子供達を見ておいて」

 

袋を何処とも無くしまうと、ティアナさんは消える。

 

リディーは黙々と、縛り上げられていた子供達を助けて。スールは小屋の入り口で、じっと口をつぐんでいた。

 

子供達も何となく分かったのだろう。世にも恐ろしい狂気の宴が行われたことを。

 

誰も、一言も発する事はなかった。

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