暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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匪賊は消毒がこの世界の基本です。

それも双子は二回目ではあるのですが。

それでも、やはり心にダメージを受けるのは。人間を止めつつある今でも、代わりはありませんでした。


2、後ろ暗い世界の形

悪党達の処分が終わって。半刻ほどで、十数人の人影が現れる。いずれもが、一目で手練れだと分かった。

 

皆顔を隠している上に、人員は二手に分かれていた。

 

一つは恐らく、獣対策のチーム。

 

顔を隠してはいるが、雰囲気で分かる。錬金術師、それも恐ろしく腕利きの人が混じっている。

 

深淵の者には、超越勢以外の錬金術師も所属していると聞いていたが。

 

多分そういった錬金術師の一人だろう。

 

「チーム1、これより周囲の警戒に入る」

 

「了解。 チーム2、これより対象の処理に入る」

 

手際よく「処理班」が二手に分かれ、行動を開始。

 

どこからともなくまた現れたティアナさんが、警戒班に話しかけていた。

 

「周囲の獣の数は少なめ。 めぼしいのは殺しといた。 後、死体は彼処」

 

「分かりました。 引き続き警戒に当たります」

 

「よろしく。 じゃ、帰るから」

 

「はっ」

 

丁寧にやりとりはしているが。

 

リディーには分かった。

 

どうやらティアナさんを良く想っていないらしい。嫌い、というよりも怖れている雰囲気だ。

 

まああの殺戮ぶりである。

 

確かに怖れるのも道理ではあるか。

 

一方、処理を始めたチームの長らしい人が、リディーとスールに話を聞きに来る。

 

マスクをしていたので顔は分からないが、どうやら壮年の獣人族男性のようだった。

 

珍しいとされる獅子顔かも知れない。

 

獅子顔だと強いと言う事は無いのだけれど、ヒト族からは格好良いと言う事で人気が出るのである。

 

獣人族はケンタウロス族だけが例外的に強く、後は顔が違っても性能はそれほど変わらない。

 

兎顔の獣人族で、騎士に上り詰めている人もいれば。

 

顔だけを生かして、場末の警備とかをしている人もいる。

 

性格的に好戦的である事は代わりは無いが。

 

「データを見せてくれるか」

 

「はい。 此方で回収したデータはこれ。 それと、人質にされていた子達は」

 

「安心して良い。 皆、此方で管理している孤児院で引き取る。 もしも家族が生きている場合は、帰れるように対応する。 もっとも……家族が生きている可能性は限りなく低いだろうな」

 

「……」

 

ダーティーワークをしているとは言え。

 

邪悪ではない、と言う事か。

 

ストレスも酷いだろうなと、むしろリディーは同情した。スールはずっと青ざめて、俯いている。

 

子供達に眠りの術を掛ける魔術師。

 

そして、そのまま連れていく。

 

説明を聞かされる。

 

「酷い状態に置かれていた子供達を無理に連れていこうとすると、精神に大きな傷をつけることや、傷がついていた場合は更に悪化させることがある。 一度眠らせた後、催眠状態にして、まずは精神の傷を治療する。 同時に情報を引き出し、家族などを特定、生きている場合は適切に処理する」

 

「もしも、もしもですよ」

 

「うむ、何でも聞いて欲しい」

 

少し躊躇った後。

 

スールが顔を上げる。

 

さっき、村人の一人を躊躇無く撃ち殺した時の、戦士としての顔では無い。

 

掛け値無し、ホンモノのダーティーワークに手を染めて。

 

それでやっと実感が出てきて。

 

恐怖を抑えるのに必死になっている顔だ。

 

前にも匪賊狩りは経験した。だがその時は殆ど補助みたいな立場だった。今回は、主体的に関わっている。状況が違うのである。

 

「もしもですけれど、親が子供を売っていた場合は」

 

「……その場合は、教会に預ける事になる。 親に関しては状況を調査して、適切に処分する。 まあ多くの場合は牢獄に入って貰う事になるな。 匪賊に売る事を前提にしていたような場合は縛り首だ」

 

スールは呻く。

 

そして、目を擦り始めたので。

 

リディーが手を握って。

 

無言で、側に寄り添った。

 

分かっている。

 

教会にいた頃から、分かっていた。

 

親が子供を必ず愛している、何てのは嘘だ。

 

子供を愛している親は当然いる。たくさんいる。

 

だがその一方で、実の親よりも育ての親を尊敬する子供がたくさんいるように。子供を一切合切愛さない親なんて珍しくもないのである。

 

周囲にいる子供達には、色々聞いたし。

 

教会出身者には、色々話も聞いている。

 

ろくでなしの親なんて珍しくもない。

 

最低限まで落ちると、子供を売って金に換える。

 

それだけのことだ。

 

そして貧しくなればなるほど、人間はその本性を現すようになる。貧すれば鈍するという言葉があるけれど。

 

正にそれなのである。

 

「後処理の手伝いをして欲しい」

 

「分かりました。 具体的に何をすれば良いですか」

 

「この村の痕跡を完全に消す」

 

さらりと言われたので。

 

ぞくりと来るまで、少し時間が掛かった。

 

まず家などを全て処理。

 

家具なども、全て持ち出す。持ち込んでいる先は扉だが。あの扉の先がどうなっているのかはよく分からない。

 

全自動荷車を貸すと、喜んでくれた。

 

墓地や下水などは、錬金術で増幅した魔術などで焼き払い。

 

その後は、痕跡を埋めて、土と混ぜ合わせる。更に其処から特殊な薬品を掛ける。薬品を使っているときに説明を受けたが、どうやら人間の痕跡を完全に消すものらしい。

 

血などは、どうしても痕跡が残るらしく。

 

最終的にはこの薬品を村の跡地全てに撒くことで。

 

此処に人がいた、という痕跡を消滅させるそうだ。

 

村の外壁も処理。

 

全て崩して、扉の向こうに持っていく。基礎も掘り返して、全て回収。

 

皆錬金術の装備で体を固めているらしく。

 

力は凄まじくて。岩の塊を持ち上げることを、苦にもしていなかった。

 

死体の焼却を頼まれたので。

 

音を出さないフラムで、更にバトルミックスまで使って。

 

五十人からなる村人……いや凶賊どもの死体を焼き払う。

 

此奴らには、地獄に落ちる以外の路は無い。

 

本当だったら、法が裁かなければならない。

 

だが、アダレットの辺境はあらゆる全てが遅れている。

 

法曹が手を伸ばした頃には、此奴らは更に被害者と犠牲者を増やしていただろう。今、やらなければならなかったのだ。

 

そう自分に言い聞かせて、死体を焼き払う。

 

此奴らの記憶も、全てソフィーさんが回収して、後の作業につなげるという話だ。きっと、それで更なる被害の拡大は防げると信じる。

 

死体を全て焼き焦がすと、それは処理班の人達が回収していった。

 

家も全て残っていない。

 

木の家も石積みの家も。

 

痕跡一つ残っていなかった。

 

村はもう、殆ど誰かが住んでいた場所だとは思えず、ただの更地へと化している。資源だけは全て回収していく辺り、深淵の者の「無駄を嫌う」姿勢が強く見て取れる。

 

後は土を耕し。

 

薬を撒いて、人間の生活の痕跡を徹底的に消滅させるだけ。

 

それについて確認する。

 

「ええと、後から此処に新しく村を作る時とかに……この薬が悪さをしたりはしないですか」

 

「良い所を突くな。 君達二人は将来のエース候補と聞いているが、流石だ」

 

「……ありがとう、ございます」

 

「その様子だとこの手の仕事は初めてなのだろう。 分かっている。 だが、この世には膿が多く溜まっている。 我等も此処まで末端に介入できるようになったのは最近の事でな。 多くの者を苦しめたことは心苦しい話だ」

 

環境アセスメントという概念を教えて貰う。

 

どのように薬が作用していくか。

 

どのように生物が環境を変動させていくか。

 

そういった後追い調査のことだ。

 

この薬については、かなり膨大なデータをとっているらしく。撒くことで有害になる事はまずないという。

 

此処にすぐ、騎士団の詰め所なり、或いはまた別の村を作るなりする事も、簡単だそうである。

 

「分かりました。 後は……」

 

「後は細かい作業をするか、獣への備えだが」

 

「戦闘はそれなりにこなしてきています。 細かい作業について教えてください」

 

「リディー……」

 

スールが真っ青になっているのが分かるが。

 

しかし、此処は知っておかなければならない。

 

自分がやった事を。

 

そしてその結末についても。

 

細かく、丁寧に人間の痕跡を徹底的に消していく。全自動荷車を使った車輪跡や、足跡さえも。

 

最終的には下がりながら進んで、足跡も消していき。

 

完全に荒野にして、村の跡地を消滅させた。

 

徹底的な消滅だが。

 

これでいいのだと思う。

 

此処は、非人道的な犯罪行為の中継地点になっていたのだ。

 

この末路は順当である。

 

処理班が、監視班と合流。状況について説明を終えると。監視班も、撤収を開始した。獣との戦闘は殆ど無かったようだけれども。それでも数匹の獣を回収し、死体を扉に運び込んでいた。

 

「君達はアダレット王都からティアナどのと来たのだろう? 送っていこうか」

 

「いえ、二人で帰ります」

 

「大丈夫かい。 かなり距離があるが」

 

「チーム2リーダー。 仮にも未来のエース候補だ。 其処までの配慮は却って失礼となろう」

 

錬金術師らしい、周囲の監視に当たっていた班のリーダーが言うと。

 

さっきまで処理をしていた班のリーダーの獣人族男性は、頷くのだった。

 

「それもそうだな。 ともかく、獣も出る道だ。 気だけはつけてくれ」

 

「ありがとうございました」

 

「失礼します」

 

二人揃って頭を下げ。

 

そのまま、アダレット王都へと帰る。

 

帰り道も走る。

 

もう周囲は真夜中だが。以前とは身体能力からして違う。走るのもまったく苦にはならないし。

 

体力も自動で回復する。

 

走る消耗よりも回復の方が多いくらいだ。

 

勿論街道を二人で行く危険性は分かっているので。

 

周囲の警戒は常に怠らない。

 

足下を守る結界も常時展開。

 

周囲からの攻撃に備えて、シールドもいつでも展開出来るようにしていた。

 

無言で、二人で走る。

 

時々足を止めるのは、全自動荷車がついてきているから。

 

離れ過ぎると、止まってしまうのだ。

 

ただ、全自動荷車はそれなりの速度が出るので。

 

止まるのは時々で良かったが。

 

朝になる頃には、アダレット王都が見えてきた。

 

城門を抜けて、手続きをして。家に帰る。

 

お父さんは何も言わず。

 

朝起きてきたばかりだろうに、暖かいココアを淹れてくれた。案外美味しい。お父さんは料理はしないが、その気になれば出来るのかも知れない。

 

無言でいるリディーとスールを見て、何か思うところがあったのか。

 

出かけて来ると言って、外に行く。

 

お父さんがいなくなって。

 

スールが吐き出した。

 

「人間って、何処まで落ちられるの?」

 

「スーちゃん……」

 

「彼奴の頭の中見た!? これからどうなるか分かりきっているのに、子供を匪賊に売っていたんだよ! 人間って、本当に何処までも腐るんだね! 悪党にも言い分はあるなんて、大嘘だってはっきり分かったよ! 彼奴らは人間じゃない!」

 

「……」

 

ひとしきり大きく肩で息をついたスールは。

 

しばしして、泣き始めた。

 

わんわん泣くことは無いけれど。

 

涙が止まらないらしくて、ずっと目を擦っていた。

 

「酷いよあんなの。 他の人に薬売って、その人がどうなろうと知った事じゃない。 子供を売り飛ばして、殺されようが食べられようが知った事じゃない。 人間として、やってはいけない最低の事を平気でやっていて、何とも思ってない! あんな奴らが、世界を滅ぼすんだ!」

 

「……」

 

きっと、そうなのだろう。

 

ヒト族の先祖の世界は、恐ろしい汚染と、凍り付いた雪だらけの世界になってしまっていたけれど。

 

きっとそうしてしまったのも。

 

あの村にいたような連中。

 

他の人間はどうなってもいいと考えて、金さえ稼げれば何をしても良いと思っている奴らだったのだろう。

 

しばらくスールが泣くのに任せる。

 

リディーだって泣きたいけれど。

 

こんな時には、寄り添う人が必要だ。

 

「匪賊は絶対に許せない。 だけれど、ああいう匪賊と連んでいる奴らも絶対に許せない」

 

「うん、そうだね」

 

「駆逐してやるから……この世から一人も残さずに」

 

「うん。 手伝うから」

 

ダーティーワークを実際にして見て。

 

スールの精神には取り返しがつかない傷がついたように思える。

 

それはそうだろう。

 

あのような連中、生かしておいてはならないし。何よりも、この世界の歪みそのものの権化にも思えた。

 

だけれども、ああいう連中が世界を滅ぼすと言う事は。

 

やはり人間という生物が。

 

根本的に駄目なのだなと、実感してしまう。

 

ヒト族は少なくとも、一度それをやった。

 

此処にいる人間四種族は、みんなやっているのかも知れない。

 

だとしたら。

 

此処は教会で教わる地獄そのものではないのか。

 

大きな溜息が出た。

 

 

 

ダーティーワークが終わってから、数日間は無心に調合を続けた。既存品の改良もしていく。

 

更に、お父さんからお薬について教わって。

 

バリエーションも確実に増やしていった。

 

お父さんはお薬について相当な知識を持っていた。

 

勿論イル師匠やフィリスさん、ソフィーさん達には到底及ばないのだろうけれど。

 

それでも、伊達に公認錬金術師をやっているわけではない、と言う事だ。

 

薬は色々な種類が作れれば作れるほど良いに決まっている。

 

傷にしても色々な種類があるし。

 

怪我にしてもそう。

 

病気にしても、薬は出来るだけその薬を根絶できる種類のものが好ましい。究極的な薬は、人間の力を極限まで増幅して、あらゆる病気を体から追いだしてしまうらしいのだけれども。

 

流石にそんなものは、まだまだ手が届かない。

 

「リディー、これ見てくれる?」

 

「うん」

 

スールが作ったお薬を確認。

 

品質、性能、いずれも問題なし。これならば、そのままお金に換えられるかも知れない。

 

指で丸を作ると、スールは無邪気に笑った。

 

あんなに泣いて。

 

それで、ある程度立ち直れたのだろうか。

 

それとも、哀しみを怒りに替えたのだろうか。

 

ドアをノックする音。

 

リディーが出ると。

 

外にいたのは、この間の顔を隠した獣人族男性だった。気配で分かる。お父さんは、一瞥だけしたが。それだけだった。

 

なおマスクの下の顔は、獅子顔ではなくて、虎顔だった。まあ当てが外れることもあるか。向かい傷だらけの、凄い顔だったが。

 

「少し話をしたいが、構わないかね」

 

「はい、今片付けますので、少し待ってください」

 

「うむ……」

 

調合のやりかけを処理した後。

 

スールと一緒に外に出る。

 

裏路地に入った後。周囲に音を遮断する結界を展開。

 

話を聞く。

 

「あの後、捕まっていた子らは皆各地の我等の息が掛かった教会へ移って貰った。 皆酷い虐待を受けていたから、これからトラウマの除去を行う。 栄養失調も酷かったから、しっかり体を治しても貰うところだよ」

 

「信頼しても、良いんですね」

 

「……そもそも深淵の者直属の戦士の大半は、そういった教会出身者だ。 とても良いところばかりだった事は、我等が保証するよ」

 

「はい、それなら……」

 

恐らく、シスターグレースの教会も、同じように深淵の者の息が掛かっているはず。

 

孤児院は必ずしも良い所ばかりではないらしいが。

 

少なくともシスターグレースの教会は良い所だった。

 

リディーもそれは断言できるし。

 

スールも異論は無い筈だ。

 

「村人どもの記憶についての解析も終わった。 どうもアダレットの役人に一人、組織犯罪に主体的に関わっていた者がいるようだ。 それについては、処理はミレイユ王女に正式に行ってもらう。 他の雑魚は此方で処理する。 以上で、今回の君達の仕事は終わりだ」

 

「あの、これからもこう言う仕事に……」

 

「そうだね、関わって貰う事になると思う。 この国には多くの膿が溜まっている。 あの三傑がもっと厳しい案件はどんどん解決してくれているが、それでもなおもどうにもならない程にね。 可能な限り貧富の格差を減らし、理不尽な世の中を少しでもマシに生きられるようにするためには、誰かが手を汚さないといけない。 君達も知っているのではないのか。 秩序無き世界が、此処をも上回る地獄だと言う事を」

 

青ざめる。

 

プラフタさんとルアードさんの過去。

 

確かに、500年前の秩序無き世界は。

 

今でさえ、天国に思えてくるほどの、悪夢そのものの世界だった。

 

あんな世界は、再現してはいけない。

 

いけないのだ。

 

「君達が思っている以上に、錬金術師というのはこの世界を積極的、主体的に良く出来る仕事なんだ。 そしてそんな錬金術師と連携して、我等が動く事によって、世界の理不尽は少しでも是正できる。 既に深淵の者に所属しているのなら、この世界が詰んでしまっている事は知っていると思う。 だが、君達のような未来のある錬金術師が活躍する事で、その詰みも打開できると私は信じている」

 

手をさしのべられた。

 

握手、ということか。

 

手をとる。

 

とても大きな手だった。

 

ダーティーワークを的確に行い、容赦なく凶賊どもの痕跡までこの世から消した人だとは思えない。

 

きっとこの人も、とても悲しい過去を抱えて。そして、少しでもこの世をよくするために生きてきたのだろう。

 

口をつぐむ。

 

全てを知った今。

 

不平をぼやくだけの自分では、もはやありたくはなかった。

 

「それでは、失礼する。 また仕事で一緒になる事になるかも知れない。 その時はまた頼むぞ」

 

「はい。 よろしくお願いします」

 

「お願いします」

 

「うむ」

 

戦士は路地裏に消えていく。

 

アトリエに戻ると。

 

お父さんは、何も言わず、またココアを淹れてくれた。

 

静かにそれを飲む。

 

もう、スールも泣き言を口にしない。勿論、リディーもそれは同じ。泣き言を言っていて、解決する話ではないからだ。

 

翌日、公開処刑があった。

 

アダレットの役人の一人。先祖代々の由緒正しいらしい役人らしいが。猿ぐつわを噛まされたヒト族の男性が、絞首刑台の上に座らされ。

 

そして犯罪の証拠映像が流される。

 

既に潰れている悪徳孤児院から子供を犯罪組織に横流しし。

 

金に換えて、懐に入れていた。

 

主に先代、庭園王の時代の話だ。

 

それだけではない。

 

王都に違法薬物をばらまき。

 

犯罪組織と癒着して、金を懐に入れていた。

 

悪徳商人と癒着し。

 

誠実な商売をしているホムの商人の移動経路を匪賊に教え、襲わせ皆殺しにさせた。

 

これらの映像が、次々に役人の頭から引っ張り出されていくと。

 

流石に集まった人々も怒りの声を上げた。

 

リディーはその様子を覚めた目で見る。

 

今怒りの声を上げている連中だって。

 

昔のリディーやスールと同じように、自分の基準で見た目が気持ち悪かったら迫害するくせに。

 

雷神を倒してくれた大恩を忘れて。

 

ネージュを迫害するくせに。

 

こう言うときだけ良民を気取るのは、本当に虫酸が走る。

 

スールも青ざめて、俯いていた。

 

きっと昔の自分を見ているようで、気分が悪いのだろう。

 

「故に、合計余罪177件により、絞首刑と処す。 資産は全て没収する。 その分皆の税が少し安くなる」

 

笑い声を上げた者もいた。

 

やがて、それは処刑を求める叫び声へと変わっていった。

 

自分を正義と確信した人間の。

 

おぞましい本性だ。

 

勿論法に沿って、この極悪人は処刑しなければならない。だが、本来は、これらを暴くのも、法曹がやらなければならない事なのだ。ダーティーワークが切っ掛けになるようでは駄目だ。

 

役人が吊される。

 

絞首刑は、罪人を絞殺するのではない。罪人は縄で吊すときに首が折れて、死ぬ。

 

ぶら下がった死体を見て、「みんな」が喚声を上げるのを見て。

 

リディーはとことんどうしようもないと、内心で呟いていた。

 

処刑ショーを見届けると、アトリエに戻る。

 

そして、後は。

 

黙々と、技術を上げるべく。

 

試行錯誤を続けた。

 

ふと鏡を見る。

 

目が死んでいた。

 

それも当然だろうなと思って、もはやリディーは、気にする事もなかった。

 

ネージュと対面したとき、既に人間の本性は知っていた。今更驚くことは何一つない。スールも多分、近いうちに慣れるだろう。

 

ふと思う。

 

昔、フィリスさんが正義感の強い純真な人だったというのなら。

 

恐らくこう言う光景を散々見て、壊れていったのだろうと。

 

だとすると、リディーも。

 

くすりと笑みが漏れた。

 

何だか、何もかもが馬鹿馬鹿しく思えてきたけれど。

 

それでも、やるべき事はやらなければならなかった。

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