暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

139 / 200
匪賊が処されるのには、相応の理由があります。

双子はそれを何度も見せつけられ、魂に焼き付けられていきます。


3、荒野の獣

王城に出向いて、お薬やプラティーン、爆弾などを納入していく。要求される物資は一通り揃っている事を役人が確認。

 

ずっしり詰まった金貨の袋を渡してくれた。

 

お金に関する感覚は既に麻痺してきているが。

 

しかしながら、これらのお金も、その気になればすぐ無くなってしまうのも事実である。堅実に、的確に使っていかなければならない。

 

アトリエに戻るが。

 

アトリエに辿りつく前に、マティアスさんが追いかけてきた。

 

「おーい、待ってくれ」

 

「あれ、マティアス。 どうしたの?」

 

「ちょっとな」

 

一旦アトリエまで戻って、お金や物資をコンテナに。その後、アトリエに入って貰って話をする。

 

お父さんは今日は出かけている。

 

何でも腕が戻ったことが既に知られているらしく、国で正式に雇われたらしい。インフラ整備などの裏方で、仕事に出ているそうだ。

 

お父さんはお父さんで、不思議な絵の研究をしているのだけれど。

 

それについてもアダレットとしては有り難いらしく。

 

研究費用を出してくれるらしい。

 

その代わりに、インフラ整備作業などでも働け。

 

そういう事らしかった。

 

いずれにしても、お父さんも錬金術師として復活したのはこの国には良い事だ。それに、アトリエランク制度の厳しさは既に周囲に伝わっているらしく。

 

一時期集まって来ていた山師の類も。

 

既にもう姿を消しているという事だった。

 

まあそれはそれで有り難い。

 

いても治安が悪くなるだけだからである。

 

「はいお茶です。 ルーシャの所のほど美味しくないけれど」

 

「おう、すまねー。 それで俺様が来たって事は、面倒な用事だって分かってくれてる?」

 

「うん、だいたいねー」

 

「だよなー」

 

マティアスさんとスールはノリが近いなと思う。

 

昔と違って、もうリディーもスールもマティアスさんを馬鹿にしてはいない。身を以てどれだけ大変な仕事をしているか知っているからである。

 

少しお茶でリフレッシュした後。

 

マティアスさんがスクロールを出してくる。

 

内容は。

 

思わず口をつぐむものだった。

 

匪賊の処理である。

 

「最近処理が進んで、かなり大人しくはなっていたんだがな。 辺境に逃れた連中が、集落を作っているらしいことが分かった。 騎士団は大規模な部隊を出せないし、深淵の者も手が足りないらしい。 それで、俺様とアン、お前達だけで出て欲しい、って事だそうだ」

 

「フィンブルさんは声かけてもいい?」

 

「ああ、フィンブルがいてくれれば頼もしい」

 

「そっか。 じゃあリディー、ひとっ走り行ってくるね」

 

スールが飛び出していくので、見送る。

 

マティアスさんに手伝って貰って、コンテナからお薬を出しつつ、細かい話を聞く。

 

話によると、匪賊の規模は二十人ほど。昔は彼方此方の街道に出没して、旅人を襲っては殺す、典型的な匪賊だったらしい。

 

しかしながら、アトリエランク制度の開始、三傑の到来で一気に状況が激変。

 

ラスティンにいた匪賊が殆ど根絶やしにされたという情報が彼らの間にも流れているらしく。

 

更に匪賊殺しとして名高い「鏖殺」が来ているという話もあって。

 

匪賊はしばらく静かにしていたそうだ。

 

しかしながら、雌伏にも限界がある。

 

足を何とか洗おうとして失敗する連中や。

 

我慢しきれなくなって街の中で人間をさらおうとして、その場で処刑される奴。

 

弱い獣がいる地方に行って身を隠しながら食いつなぐ奴など、色々に別れたが。

 

その中の一グループ。

 

それほど規模的には大きくもない匪賊の集団が、集落を作っている事が確認されたという。

 

勿論放置していると逃げられる。

 

すぐに出て欲しい、と言う事だった。

 

「人手がたりねーんだ。 すまない」

 

「いいえ。 匪賊については前から根絶やしにしないとと思っていました」

 

「そ、そうか……」

 

マティアスさんが青ざめる。

 

とはいっても、これからマティアスさんにも人を斬って貰う事になる。というか、確か人を斬った事はあるはず。

 

この人は気弱そうではあっても。

 

いっぱしの騎士だ。

 

とはいっても、あまり人を斬るのは気分が良くないのだろうか。

 

相手が匪賊であっても、である。

 

スールが戻ってきた。

 

フィンブルさんを連れてきてくれている。有り難い。これで戦力がかなり増す事になる。フィンブルさんが来た時には、既に荷車に、荷物も積み終えていた。

 

「アンが城門で待ってる。 それと、今回は凄く急がないといけないから、全自動の仕組みは外して手で引いてくれるか」

 

「分かりました」

 

「じゃあ、護衛お願いね」

 

「ああ、任せておけ」

 

フィンブルさんが実に頼もしい。

 

ルーシャも来てくれれば嬉しいのだけれど、それについてはスールが先手を打ってくる。

 

「ルーシャの所見てきたけれど、留守だった。 ルーシャのお父さんだけしかいなかったよ」

 

「ああ、それじゃあ仕方が無いね」

 

「ルーシャ嬢、あれで頼りになるからな」

 

「頼りになるよルーシャ。 スーちゃんよりまだまだ強いし」

 

素直にスールもルーシャをもう認めている。

 

実際問題、どんどん今までの枷が外れてきているルーシャは、きちんと本来の実力を出せるようになって来ているし。

 

元々素でリディーとスールよりも強い。

 

最近は、流石に二人がかりでなら勝てそうだけれども。

 

まだまだ一人ずつなら、ルーシャの方が格上だ。

 

それにしても、よく分からない。

 

どうしてルアードさんはリディーとスールを選んだのだろう。或いはソフィーさんかも知れないけれど。

 

将来有望、というのであれば、多分ルーシャの方が優れていると思うのだが。そうでもないのだろうか。

 

フィンブルさんと合流して、戸締まりも終えて。一応家にお父さん用に書き置きを残して、城門に。

 

手続きはアンパサンドさんが済ませてくれていたので、そのまま城門を出る。

 

たった五人で、安定して遠出が出来るようになったのだ。

 

今なら生半可なネームドくらいなら、さほど苦労せずこの面子で倒せるはずだ。

 

正直著しい進歩になる筈なのだけれども。

 

実感が無いのも確かだった。

 

兎も角、現地へと急ぐ。

 

アンパサンドさんが少し先を。

 

殿軍をマティアスさんが。

 

右をフィンブルさんが。左をリディーで固め。荷車はスールが引く。

 

今回は、この間のダーティーワーク以上の急ぎだ。匪賊は一匹でも逃がしたら、大変な事になる。

 

奴らを野放しにすれば。

 

力のない人が襲われ、食い殺されるのだ。

 

それだけは、絶対に許してはならない。

 

足下の結界問題なし。

 

蚯蚓のような獣は、街道だろうと地下から平然と奇襲してくる。この辺りにも結構いる。それを知っているからの対応だ。

 

勿論移動速度には、途中で獣で襲われ、対応する分の時間も計算に入れているのだろう。アンパサンドさんはポンポンと跳ねるように走りながら、結構容赦の無い速度で進んでいく。ただし後ろにも気を遣ってくれている。

 

案の定、上空から逆落としを掛けてくるアードラ。立て続けに三羽。

 

だが、即座に対応。

 

ドリフトしながら荷車を止めると。上空にスールが乱射。更に空中機動したアンパサンドさんが、アードラの背後をとると、脳天にナイフを突き刺し、首へと一気に切り裂いた。

 

銃弾の雨を浴びながらも、それでも此方に突っ込んでくるアードラに対し。

 

フィンブルさんが跳躍し、通り抜け様に一羽を真っ二つ。

 

更に、突貫してきた一羽を。

 

マティアスさんがシールドで弾き返す。

 

凄まじい衝撃音が響き、それでも何とか体勢を立て直そうとするアードラだが。

 

上を取ったリディーが。

 

杖を思い切り降り下ろしていた。

 

頭を叩き潰されたアードラが、地面に落ちるのと。

 

スールに蜂の巣にされたアードラが地面に落ちるの。

 

更に、フィンブルさんに二つにされたアードラが地面に落ちるの。

 

ついでに、アンパサンドさんが着地するのは、同時だった。

 

なお、アンパサンドさんが脳天にナイフを突き刺した個体と、リディーが頭を叩き潰した個体は同じである。

 

アンパサンドさんが動きを鈍らせてくれていたから。

 

杖での打撃戦という、今までやった事がない行動を試せたのだ。

 

すぐに死体を捌いて処置を終えると、また走り始める。

 

次の街は一気に駆け抜けた。この辺りは街道が緑に覆われている。インフラ整備を、フィリスさんがしたのだろう。

 

その内、王都の周辺にある都市は、全て緑の道でつなぐつもりらしい。

 

完成したら、劇的に安全になる筈で。

 

インフラの圧倒的な向上が見込めるだろう。

 

だが、今は。

 

そういうインフラが通っていない場所へいかなければならないのだ。

 

アンパサンドさんがどんどんぐいぐい走る。

 

三つ目の街を突破。

 

既に四回の戦闘をこなし。荷車も獣の死体で一杯になりつつあった。四つ目の街で、一旦停止。

 

街にいる役人とアンパサンドさんが話して、獣の肉を譲渡する。こういう譲渡物資は、国の物資として扱われるので、基本的に燻製にして官庫に入れる事になる。単純に食糧が足りないときの非常食になるのは当然として。他には冬場に力をつけるために食べたり、或いは気晴らしの祭の時などに振る舞われるのだ。アンパサンドさんが足を止めたのは、四つ目の街がまだインフラ整備途中の段階で、出費がかさんでいる場所だと知っていたからだろう。

 

事実見回しても、灰色という印象を受ける。

 

あまり豊かそうには見えなかった。

 

「周辺の獣は対応出来ているのです?」

 

「いえ、中々……申請もしているのですが」

 

「分かりました。 この仕事が終わり次第、対応するのです」

 

まあいいだろう。そのくらいの追加作業くらい、正直何でも無い。この周辺に住んでいる獣たちは大して強くないし、処理出来る時にしないと獣は際限なく強くなる。今のうちに片付けられるものは片付けるべきだ。

 

そのまま、軽くなった荷車を引いて、また一気に走る。さっきアンパサンドさんが交渉している間に、多少は休む事が出来た。元々疲れていなかったし、更に回復を進められた。

 

三刻ほど、更に走る。

 

六回の戦闘をこなしたが。ネームドが出る訳でも無く、それほど大きい獣もいなかったので。戦闘は苦にならなかった。

 

走り、獣に襲われては応戦。撃破し、解体。

 

そしてまた荷車に積み込んで、走る。

 

一連の作業に、かなり手慣れてきている。騎士団の一部隊が来てくれていれば、もっと楽なのだけれど。

 

人手が本当に足りないようだし、何より緊急の事例だ。

 

仕方が無い。

 

人間が一番の脅威になる事は良く分かっている。

 

つい最近にもまた思い知らされたばかりなのだから。

 

ほどなく、街道も消える。

 

アンパサンドさんが止まった。皆もそれにあわせて止まる。岩陰に移動して、其処で小休止。

 

即座にアンパサンドさんが、フィンブルさんと一緒に偵察に行く。

 

その間に、燻製にした肉の一部を、無心でおなかにいれる。マティアスさんも、同じように肉を食べる。スールは少し躊躇っていた。この間の、悪党の巣窟のことを思い出したのだろうか。

 

そんな線が細くては生き残れない。

 

深淵の者の真相を知らされてしまったのだ。

 

今後もっと苛烈な状況が、矢継ぎ早に来る可能性が高い。でも、スールが頼りないなら、その分リディーが頑張ればいい。

 

黙々と肉を食べていると。

 

程なくアンパサンドさんが戻ってきた。

 

「即座に行くのです。 どうやら移動を開始しようとしているのです」

 

「可能な限り殺さず捕らえるんだぞ、アン」

 

「分かっているのです」

 

頷く。

 

ティアナさんは、ソフィーさんなら刈った首からも、適切な情報を引き出すことが出来ると言っていた。

 

でもリディーとスールにはまだ其処までは出来ない。

 

相手は匪賊とは言え人間。それも錬金術の装備も身につけていないような連中だ。油断さえしなければ大丈夫だが、全員生きたまま捕らえるのは厳しいかも知れない。しかし、それでもやるしかない。

 

すぐにしかける。

 

勿論、真正面から行くので、相手も気付くけれど。

 

見張りについている長身銃を持った男の頭をアンパサンドさんが蹴り飛ばす。ホムの身体能力でも、錬金術装備で倍率が掛かり、なによりアンパサンドさんの身体制御があればこの通り。即座に白目を剥かせる。見張りが無力化するまで鼓動七拍も掛からない。

 

アンパサンドさんがハンドサインを出すと同時に、皆が一斉に敵へ殺到。

 

退路にリディーがシールドを張って相手の逃走を防ぎ。

 

別方向にスールがフラムを投擲。其方へターゲットが逃げようとするのを防ぐ。

 

その隙に懐に潜り込んだフィンブルさんとマティアスさんが、敵を次々なぎ倒す。まだこの時点では、相手が匪賊では無い可能性もある。殺さないようにしなければならない。

 

奇声を上げながら、男が一人飛び出してきた。錆びだらけのロングソードを手にしている。至近だけれど、リディーが動くまでもない。

 

スールが背後に回ると、踵落としを叩き込む。

 

男が顔面から地面に叩き伏せられ、更に背中にストンプ。縛るまでも無く、男は動けなくなった。

 

フィンブルさん、マティアスさんがハンドサインを出してくる。

 

制圧完了、の意味だ。

 

すぐにアンパサンドさんが残像を作ってかき消える。周囲にまだ伏せている者がいないか確認。

 

手際よくフィンブルさんが、撃ち倒した匪賊達を縛り上げていき。その間、マティアスさんが見張り。

 

そして同時に。

 

深海探索で使った、浮遊式の灯りを起動。

 

頷くと、スールと一緒に、匪賊がねぐらにしていたらしい洞窟に踏み込む。まだ何か潜んでいるかも知れない。油断は秒も出来ない。罠の可能性もある。まあ、虎ばさみくらいだったら、今はいている靴の守りを突破は出来ないが。

 

がつんと音がした。

 

どうやら、ボウガンの矢がシールドではじかれたらしい。気配がないところからして、恐らく罠だろう。

 

雑多で、生活臭がきつい。腐臭に近い。此処は恐らく、匪賊達が逃げ込んできて、一時的に暮らすつもりが、そうもいかなくなったという感触か。

 

乱雑に食い荒らされた兎の死骸。此奴を倒すのが精一杯だった、と言う事か。正確に捌く知識もないのか、骨まで囓ってしゃぶった跡がある。腐臭も酷い。きちんと処置すれば、こんなにはならないのに。

 

奥の方には、水もあるが、酷く濁っていた。毎回命がけで、何処かに汲みに行っていたのか。

 

更に奥には便所らしきものも。

 

そして、見つける。どうやら、間違いないらしい。

 

骨だ。

 

それも、明らかに獣のものではない。干し肉の類もあるが、これはもう何の肉かはあまり想像はしない方が良いだろう。

 

匪賊は人間を襲って食うが、それは荒野で見かける一番弱い生物だからだ。この肉は、匪賊が何処かで襲った人のものか、或いは。

 

念入りに調べて、洞窟に隠れる場所がないか、抜け穴がないか確認。

 

この辺りは散々地獄のサバイバルをして来たのだ。

 

フィリスさんと一緒に旅をしたドロッセルさんに言わせるとまだまだ温いらしいけれど。それでも相応の経験は積んで来た。魔術で感覚を強化して、風の流れなどがないかも確認。

 

死臭がある。やはりこの干し肉、人肉の可能性が高い。だが、まだ記憶を覗くまでは、決めつけてはいけない。

 

物資を全て押収。便所はそのまま、フラムを放り込んで焼き払っておいた。これは中にもしかして、誰か隠れているかも知れないからだ。

 

流石にこれほど汚い便所に隠れる気にはならなかったのか。

 

フラムで糞便を焼き払っても、人間の死の気配は生じなかったが。

 

洞窟を出る。

 

そして、縛り上げられた匪賊合計21名を見やる。アンパサンドさんが戻ってきた。彼女は襟首を掴んで、二人ほど引きずっていた。追加で捕まえてきたらしい。本来ホムの腕力でできる事では無いが、錬金術装備による強化の結果だ。

 

そのまま、手際よく縛り上げる。

 

無言でいる彼らを引きずって起こすと、引っ張っていく。唸り声のようなものを上げる者もいたが。マティアスさんが気絶している五人くらいを同時に担ぎ上げて見せると、青ざめて素直に従う。

 

この態度からしてもまともな連中では無い、と言う事だけは明らかだ。

 

フィンブルさんには手すきになってもらい。いざという時に備えて貰う。

 

マティアスさんが、紐を引く。スールが荷車を。リディーが周囲の警戒を担当。アンパサンドさんは少し距離をとって、常に警戒態勢を続けた。

 

こういう連携が、無言のまま出来るのは大きい。ルーシャも多分同じくらいは動けるだろう。

 

ずっと一緒に戦い続けてきた仲だ。

 

マティアスさんはいずれ、王族としてもっと忙しくなるのかも知れないけれど。

 

今はこうして、色々と一緒にやれる。

 

街道に出てもあまり安心は出来ない。リディーはずっと足下の結界と、周囲にシールドを張って防御中。

 

不意に、匪賊らしい連中の一人が話しかけてくる。

 

「あんた、錬金術師か。 その怪しい技、そうだよな」

 

勿論無視。相手はけらけらと笑った。年配の、ヒト族の老人である。

 

かなり筋肉質だが、しかしなんというか、虚無という印象しか受けない。パイモンさんはこの人よりかなり若く見えるのに、遙かに老成している。それなのにこの人は、ただ無駄に年だけ重ねた印象だ。

 

老人はなおも話しかけてくる。

 

「あんたら、アダレットが錬金術師に何したか知ってるんだろう? よくもまあこんな国のために働こうって気になるな」

 

街道とはいえ、いつ獣が現れるか分からないのに、脳天気なものだ。

 

匪賊は基本的に犯罪者がなると聞いている。こんな世界だ。皆で力を合わせなければ生きていけないのに。それでも自分だけ好きなことを勝手にしたがるものはいる。というか、「みんな」の本質はそうだ。それはもうリディーも知っている。

 

別にリディーは国のために働いているんじゃない。

 

スールだってそう。だから、スールも、完全に無視していた。

 

「犬だな完全に。 精々ご主人様に……」

 

以降、聞きづて難い極めて下品な言葉を口にしようとしたようだが。

 

アンパサンドさんが殆ど音速で側頭部をけり跳ばし、老人を黙らせる。

 

「黙っているのです。 此処は荒野。 放置しておくだけで死ぬ場所なのです。 獣の餌にされたいか外道」

 

アンパサンドさんはホムだが、それでも騎士で。しかも、錬金術の装備で武装し。匪賊なんか千人がかりでも勝てないようなドラゴンとも戦い。皆を守るために、ブレスの的にまでなってくれたような勇気の持ち主だ。

 

その言葉には重い重い迫力があって。

 

一撃で老人とは言え筋肉質の上背が倍以上ある相手を黙らせた蹴りもあって。

 

他の匪賊は、以降何も言わなかった。

 

街にようやく到着。

 

獣の襲撃はあったが、普段よりかなり火力を増して攻撃して。近付かせなかった。爆弾も惜しみなく使った。獣を解体するのも、少人数で少し荒っぽくやった。だから、少し皆、血の臭いがしていた。

 

匪賊らしき連中は戦闘を見て完全に黙った。

 

騎士団の一部隊でも、この規模の匪賊ぐらいなら容易に潰せる。それは周知の事実である。

 

だが、それを遙かに超える火力を実際に目の当たりにして。絶対に勝てない相手だと悟ったのだろう。ホンモノの錬金術師だと悟って、震え上がったのかも知れない。

 

街の長らしき老人に、アンパサンドさんが話をする。

 

「匪賊の可能性がある集団を捕獲したのです。 これより記憶の調査を行うので、役人の立ち会いを」

 

「わ、分かりました」

 

「それと、死体を埋めるための穴を先に準備しておいて欲しいのです。 後は処刑の経験がある人は」

 

周囲の街の人達が、さっと青ざめる。

 

嘆息すると、フィンブルさんが前に出ようとするが、マティアスさんが引き留めた。

 

「ブル、俺様がやるよ」

 

「殿下」

 

「いいんだ。 俺様も、いつまでも怖い怖い言ってられないからな。 民や部下に手を汚させて、自分は綺麗な王子様を気取ってるわけにもいかねーし。 姉貴があれだけ積極的に世界のために身を汚してまで動いてるんだ。 俺様が何もしないわけにはいかないだろ?」

 

すぐに役人が来る。

 

辺境の村には珍しい、老齢のホムだ。ホムは人間種族の仲でも特に寿命が長く年齢も分かりづらいが、それでも高齢だと分かる程である。多分この人は、彼方此方をずっと、アダレット王国の役人として見てきたのではないのだろうか。

 

軽くアンパサンドさんと話す役人。鷹揚に、いやゆっくりと頷くと、マティアスさんの方を見た。

 

多分王子だと知っているのだろうけれど。あまり多くは語らなかった。

 

「では調査に立ち会うのです」

 

アンパサンドさんが頷くと、首領らしい老人から、順番に記憶を確認していく。

 

映像が浮かび上がる。匪賊共が悲鳴を上げてもがくが、逃がすわけがない。暴れようとしている一人は、リディーが容赦なく背中から蹴飛ばして意識を飛ばした。スールが青ざめている。リディーが此処まで苛烈に動くとは思わなかったのかも知れない。

 

多分だけれど、スールよりもリディーの方が匪賊に対しては頭に来ている。此奴らは絶対許せない。

 

記憶を引きずり出すと、出てくるわ出てくるわ。

 

彼方此方で行った畜生働きの数々。勿論人を殺し、犯し、奪い尽くし。人を調理して食っている映像も出てきた。

 

おののきの声が上がる。だが、リディーはもう見ている。だから、静かにその光景を見るだけだった。

 

アンパサンドさんが、青ざめている人々に声を掛ける。

 

「順番に確認をしていくのです。 辛いようならば、この場を離れるのも許可……」

 

「いや、見せて欲しいです」

 

声が上がる。まだ若い声だ。見ると、獣人族の女の子である。兎顔で、粗末な人形を抱えている。親らしい人の姿は見えない。

 

目には強い怒りがあった。何となく、それだけで分かった。

 

「分かりました。 続きを」

 

頷くと、リディーは順番に記憶を引きだしていく。この場にいる連中は、やはり「鏖殺」に追われて、辺境まで逃げてきた匪賊達らしかった。皆所属していた集団が鏖殺に文字通り皆殺しにされ。からくも逃げてきた……というよりも、あからさまに「鏖殺」が来た事を知らせるために逃がされた様子だった。

 

多分、効率よく狩るためだったのだろう。

 

全てが匪賊で。今残っているのも此処にいるのが全部。それで充分だ。

 

「それでは、判決を」

 

「死刑」

 

「……」

 

役人が頷く。何処でも匪賊は見敵必殺と決まっている。ましてやこんな決定的証拠が出てきたら言い逃れのしようが無い。

 

既に掘り終わった穴の前に、匪賊が皆、目隠しをして縛られたまま座らされる。

 

悲鳴を上げてもがく者もいたが、一切憐憫は湧かなかった。

 

マティアスさんは青ざめていたが、それでも剣を抜くと、一人ずつ首を刎ねていく。首は回収すると、アンパサンドさんが説明。首を刎ねる度に、胴体を穴に蹴落とし。それが終わってから、特殊なフラムで焼却。炭クズになった所を更に固め、町外れの無縁墓地に埋めた。

 

これで周辺の人々は匪賊の脅威から解放された。しかし、此奴らに殺され食われた人は帰ってこない。

 

人間は此処まで墜ちる。

 

そしてもう、此処まで墜ちた人間には、憐憫を掛ける必要などない。

 

回収した干し肉は、丁寧に墓地に葬る。

 

そして、静かに街を離れた。

 

スールが青ざめていた。リディーが、スール以上に苛烈に振る舞ったから、だろうか。

 

でも、必要な事だ。

 

後は、街の周囲の獣を駆除。

 

不思議な話で。

 

匪賊の処刑よりも、ずっと気分が楽で、戦闘も簡単に感じた。比較にならない程、手強い筈なのに。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。