暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、真っ赤な手と

アトリエに戻るために街を出た。処刑を見たからか。獣をあっさり全て狩つくしたからか。街の人達は、何も言わなかった。感謝よりも、恐れが勝っているようだった。

 

こんな感じで、ネージュも迫害されたのだろうかと、リディーは思ったが。

 

それは口にしなかった。

 

今回の件は、特殊手当が付くと、帰り道。森で守られた街道に入ってから、マティアスさんが説明してくれる。

 

フィンブルさんが時々周囲を警戒していたが。

 

或いは、マティアスさんを気遣っての事かも知れない。

 

アンパサンドさんは前の方を歩いている。此処でも、極小とはいえ襲われる可能性があるからだ。

 

「特殊手当?」

 

「簡単に言うと口止め料だな。 騎士団の手が足りないのを手伝って貰ったし、何より本来は騎士団でやらなければならないダーティーワークだ」

 

「ふーん。 マティアス、顔色悪いけれど大丈夫?」

 

「お前こそ」

 

スールは言い返されて黙り込む。多分、自覚はあったのだろう。だから、敢えて軽口を聞いていたのかも知れない。

 

アンパサンドさんが、足を止める。

 

即座に戦闘態勢に入るが、どうやら違った。前から商人の隊列が来る。傭兵が二十人ほど、二頭立ての馬車を守っていた。多分アルファ商会だろう。ただ、商人はヒト族だったが。

 

すれ違う時に、情報交換をする。相手も此方に騎士がいる事、錬金術師がいる事を見れば、情報交換にはすぐに応じてくる。

 

アンパサンドさんが話そうとしたが、マティアスさんが話すと言って。以降の情報交換はしていた。

 

「なるほど、分かりました。 匪賊については殆ど出なくなっていると聞いていますが、気を付けます」

 

「ああ、それと近場の街の物資が不足しているようだから、出来るだけ回すようにして欲しい」

 

「分かりました。 商売には可能な限り応じましょう」

 

商人と握手すると、傭兵達を連れた隊列とすれ違う。もう荷車は急ぐ必要もないので、全自動式にしてある。

 

空を飛べるようにしたら。もっと現地到着が早かったのだろうか。

 

今回は一匹も匪賊を逃さなかったが。

 

しかし、もう少しで取り逃すところだった。

 

あれだけの規模の匪賊を逃がしていたら、どれだけの力ない人が襲われたか分からない。

 

「みんな」に対しては、あまり良い印象を持っていないリディーだが。

 

しかしながら、ああいう世界の敵に対しては、許せないという気持ちがどうしてもまだ強い。

 

匪賊は許してはならない。

 

見敵必殺は、当然の掟だ。

 

夜になったので、一泊だけしていく。途中の街に金を落とすのもいいだろう。荷車に積んでいる荷物を部屋に運ばなければならない手間はあるけれど。それくらいは別にどうでもいい。

 

アンパサンドさんと三人の部屋。

 

男性陣二人の部屋。

 

それぞれ別れて泊まると。

 

アンパサンドさんは、さっさと背中を向けて眠ってしまう。やはり、寝息一つ立てない。眠る姿を見せるだけでも、信頼してくれている、と判断するべきなのだろうか。

 

スールに、少し聞いてみる。

 

「大丈夫、様子がおかしかったけれど」

 

「……リディーこそ、平気?」

 

「私は平気だけど」

 

「うん……ならいいよ」

 

何だか煮え切らない。

 

スールは、むしろリディーよりも攻撃的だった筈だが。さっきの戦闘では、どうしても精彩を欠いた。

 

前にもスールは匪賊と交戦しているし、処刑する様子だって見ている。

 

どうして今更と思ったが。

 

しかし、煮え切らないのが気に入らないのか。

 

スール自身が、ぼそぼそと言い始める。

 

「スーちゃんもさ、壊れ始めてる自覚はあるんだけど。 何だか今日のリディー、凄く怖かった」

 

「私?」

 

「うん。 アルトさんに全てを聞かされてから……なんか一線を超えちゃった、って感じがする」

 

「……そうなのかな」

 

分からない。

 

だけれども、双子の妹が言う事だ。笑い飛ばすことなど出来はしない。スールは、なおも言う。

 

リディーが、壊れている人達。

 

ソフィーさんや、フィリスさん。更には、あのティアナさんと、被って見えると。

 

流石にティアナさんほど殺戮狂になったつもりはない。匪賊では無い相手に手を掛ける気だって無い。

 

だけれども、スールが言うのだ。

 

おかしくなりはじめているというのなら。気を付けなければならないのかも知れない。

 

そういえばリディーは目が濁り始めているのは自覚できている。

 

スールだって、それは同じ筈だ。

 

だが、スールから見てもおかしい程の速度で。

 

リディーは壊れて来ている、と言うのだろうか。

 

「怖いよ。 リディーは多分ソフィーさんやフィリスさんみたいになる。 このまま行くと絶対に。 スーちゃんも多分そうなる。 ルーシャは、お父さんはそうはならないと思う」

 

「それは、勘?」

 

「うん……」

 

「そう、なら……そうなるのかも知れないね」

 

スールの勘は良く当たる。

 

嫌と言うほど知っている事実だ。

 

魔術が使えるようになってから、スールの勘は更に冴え渡るようになった。ならば、よりデリケートに、危険なものに触れてしまっているのかも知れない。

 

嘆息すると。

 

リディーは決意する。

 

もう、逃げてはいられない。

 

この世界が滅ぶのはリディーだって嫌だ。

 

世界の敵は駆逐しなければならない。

 

みんなのためというけれど。

 

本当にみんなのためになる事、というのはなんだ。やはり人間という生物そのものを変えなければならないのではあるまいか。

 

この考えそのものが、多分自分から見て醜い相手を好きなだけ嬲って良いと言う、「普通の人間」「みんな」の考えから外れているのだろう。

 

だけれどもう知らない。

 

確信できたことがある。

 

匪賊はむしろこの世界の平均、「みんな」に近い存在だ。

 

ならばこの世界を救うには。

 

やはり「みんな」の方に問題があり。それを変えなければならない。

 

 

 

(続)




いつの間にか真っ赤になっていた手。

そして少しずつ。

どうするべきかの指針が。

世界の破滅に対処すべき戦略が。

双子の中に宿り始めます。

それは三傑の誰とも違う内容です。だからこそ、ソフィー先生は双子に地獄絵図を見せ続けたのです。
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