暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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原作におけるある意味山場。A級試験開始です。

この試験で、如何にフィリス他の皆が手を抜いていたのかが分かるんですよねえ。

原作仕様で破壊神と言われる程のあのフィリスが、超舐めプをしていた訳です。スールのなんちゃってじゃなくてホンマモンの破壊の権化が。

……本作でも、この試験は過酷なものとなります。


英雄への階段
序、静かで苛烈な試練


スールは怖かった。

 

自分自身の目が死んで行く事も実感できていたし。自分以上の速度で、リディーが壊れているのも分かっていたからだ。

 

お父さんは静かに見守ってくれている。

 

もう、双子で決めたことだと思っているのだろう。

 

だが、覚悟を決めていても。

 

怖い事は怖いのだ。

 

実際、豹変していくリディーを見ていて、それは強く感じる。覚悟を完全に極めたと言うよりも、人間を止めつつあるリディーは。もう、なんだか別の世界の住人のようにも思えていた。

 

怖い。

 

素直にその言葉が出てくる。

 

でも、逃げる事も出来ない。

 

もし逃げようとしたら、お父さんやルーシャに危害が及ぶ。だから、逃げられないのである。

 

アルトさんは本当に狡猾で巧妙だ。

 

深淵の者の長を500年も伊達にやっていない。

 

小娘の二人や三人、掌握して逃げられないようにするのは簡単、と言うわけだ。

 

腹立たしいけれど、認めなければならない。

 

勝てないのだと。

 

だから、抗わなければならない。

 

分かっているのだけれども。あの邪悪な村や。匪賊を処理した時のリディーのあからさまにおかしい様子が。

 

どうしてもスールの心を痛めつける。

 

今後は、もっともっとおかしくなっていくはずだ。

 

それも分かっている。

 

そしてスール自身も。時々鏡を見ると、目が濁っている。そんな事は分かっている。自分も同じように、狂ってきていると言う事くらい。

 

恐らくコレは、人として、精神が最後の抵抗をしているのだろう。

 

最後の一線を踏み越えてしまったリディーと。

 

スールでは、其処で差が出てしまっている。

 

「スーちゃん、釜、空いたよ」

 

「うん……」

 

「少し休む?」

 

「いい、大丈夫」

 

調合を交代。リディーが今度は休む。スールは集中して、調合を開始。今更ミスをする事も無いようなものから始めて、少しずつならし。

 

徐々に難しいものへ挑戦していく。

 

程なく、良い薬が仕上がったので、満足してコンテナに入れる。

 

作るのに相当な手間暇が掛かるお薬も珍しくはない。

 

だから、何時でも気を抜けない。

 

一仕事終わった所で。

 

アトリエの戸がノックされる。

 

マティアスだった。

 

スクロールを持っていると言う事は、お仕事か。

 

そう思ったのだが、珍しく勘が外れた。

 

「よーっす。 二人とも、揃ってるな」

 

「どうしたの、マティアス。 お仕事?」

 

「いや、昇格試験だ」

 

「!?」

 

ちょっとまった。

 

まだルーシャがBランクにいると聞いている。今の状態で、どうしてAランク昇格の話が来るのか。

 

リディーも驚いていたようだが。

 

しかし、それでも話を聞かない訳にはいかない。

 

咳払いすると、マティアスはスクロールについて解説してくれる。勿論、開くのはリディーがやったが。

 

「Aランクの試験は、Bランクに入って実績を積んだら、大体すぐに始めるんだ。 それで、終わるまで時間が掛かる。 ルーシャ嬢ももう始めてるから、それは安心して良いんだぜ」

 

「長期試験と言う事ですか」

 

「そうなるな。 というか、Aランクはなんというか、特別で、試験がとにかく手間なんだ」

 

確かに、Aランク以上になると、国賓扱いだろう。

 

アトリエランクは最高でSランクまで。つまりSランクはネージュ級という事になる。

 

現在、イル師匠、フィリスさん、ソフィーさんはSランクを取得済み、らしい。まあ実力からして当然か。

 

アルトさんも今Sランクの試験を受けていて。

 

お父さんは今までの業績からAランク判定。

 

現時点では、Aランクの試験を受けているのは、パイモンさんとルーシャ。そして、これからリディーとスール、だそうである。

 

そうなると、本当に手間と時間が掛かる試験なのだろう。

 

内容を確認すると。

 

うっと、思わず声が漏れていた。

 

公認錬金術師、及びそれに相当する実力者。指定しているものから試験を受け、そして合格すること。

 

面子は、お父さん、アルトさん、イル師匠、フィリスさん、そしてソフィーさん。

 

この五人からの試験を受けて。

 

それぞれ全て合格しなければならないという。

 

しかも試験内容は、試験官に一任、という話だった。

 

なお、実のところパイモンさんも公認錬金術師らしいのだが、試験官の役割は断られたそうだ。多分、自分の技量を上げることに集中したいのだろうという事だった。本当に、アンチエイジングまでして技量を求めている人は色々と意欲が違う。

 

この面子の内、お父さん以外は全てが深淵の者関係者。

 

要するに、無茶苦茶を言われる可能性が極めて高い。

 

思わず血の気が引く音を、スールは聞いた気がした。試験と言うよりも、死刑宣告に思えた。

 

これを、無事に突破出来るのか。

 

出来るとは、とても思えない。

 

青ざめて、言葉を無くすスールに。マティアスが、同情の目を向けてくるけれど。もうどうしようもない。

 

やるしか、ないのだ。

 

「それじゃあな。 試験のタイミングは、受ける側に一任されているそうだから、まあ自分のペースでやると良いだろう」

 

「……」

 

無言のスール。リディーも、黙り込んでいた。

 

マティアスが帰る。

 

しかし、沈黙は継続する。

 

これは、本当に厳しい試験だ。どうすれば突破出来るのか、想像も出来ない。

 

事実上五つの試験を受けなければならない訳で。

 

しかもその間、今まで通り要求された物資も納入しなければならないし。国のお仕事だってやらなければならないのだ。

 

少しリディーと話し合う。

 

完全に目が死んできているリディーは、正直今のスールから見ても怖いのだけれど。

 

それでも、双子なのだ。

 

こう言うときは、真っ先に相談しなければならないとも思う相手だった。

 

「リディー、ど、どうしよう……」

 

「落ち着いて、順番に処理していこう。 難しい調合みたいに」

 

「でも」

 

「深呼吸」

 

確かに、その通りだ。

 

深呼吸して、少し落ち着く。そして、無言で裏庭に出ると、アンパサンドさんに教わった例のうねうね動く奴をやる。

 

今ではすっかり、息をするように一連の動きをこなせるようになっている。

 

アンパサンドさんが自分よりも遙かに上手なのも分かるけれど。

 

それでも、これを教わった頃に比べれば、雲泥の筈である。

 

しばし体を動かして、落ち着いたところで。

 

アトリエに戻る。

 

リディーも考え込んでいて。

 

そして、ゆっくり落ち着いて話し合う事にした。

 

まずソフィーさんの試験は最後。

 

これは意見が一致した。

 

まあ当然の話で。

 

一番の無理難題をふっかけられるのが目に見えていたからである。

 

最初はイル師匠かお父さん。

 

この二人を終えたら。

 

今度はアルトさん。フィリスさん。

 

この順番で良いだろう。

 

では、立ち止まっていても仕方が無い。スケジュールを確認。一週間ほど後に、物資の納品がある。

 

この間結構厳しめのダーティーワークをやったばかりだし。続けて難度が高い仕事が来るとは思えない。

 

あくまで希望的観測だが。

 

少しは、時間もあるはずだ。

 

次の納品に必要な品をチェック。

 

一通り揃っている。

 

それならば、後は試験に集中すべきだ。

 

勿論身内から始めるのも良いだろうが。此処は、錬金術の師匠である。イル師匠の所から始めるべきだ。

 

そう、リディーとスールは結論した。

 

イル師匠の所に出向く。

 

イル師匠は、丁度お仕事の最中だった。手酷い怪我……普通だったら助かりそうにない怪我をした人夫が運び込まれている。

 

どうやら土木工事の際に土砂崩れに巻き込まれた様子で。

 

体が半分潰れてしまっている。

 

内臓も飛び出していて。

 

普通だったら絶対に助からない状態だ。

 

狐顔の獣人族の人夫だが、家族らしい人達が祈っている。アリスさんがてきぱきと体の縫合を続けていて。

 

イル師匠はその間、体に付着した汚れを特殊な装置で除去。更に口元には、呼吸を助ける術式を展開。

 

汚れを取りきったところで、内臓を戻して体を縫い合わせ。

 

更には高度な回復薬を投入。

 

光と強い魔力が周囲に溢れ。

 

傷が。

 

内臓のダメージが。

 

潰れていた骨が。

 

見る間に回復していくのが分かる。まだまだ、リディーとスールでは、到底及ばない技量だ。

 

手を洗い始めるイル師匠。

 

咳き込む怪我人。アリスさんが、別室に移す。手伝えと視線を向けられたので、担架を揺らさないように担いで、リディーが前、スールが後ろを担当。

 

別室で、手をまず消毒した後。

 

怪我人を寝かせた。

 

「痛みは」

 

「……彼方此方いてえ」

 

「すぐに楽になります」

 

「いっそ殺してくれ……」

 

相当に辛いのだろう。負傷者がぼやくが。しかし、見ていると傷はどんどん回復していく。

 

何度か怪我人が咳き込む。最初は血が混じっていたが。やがて、咳き込む頻度も減り。そして、凄まじい疲労に襲われたのだろう。

 

ぐったりとして。寝息を立て始めていた。

 

イル師匠が診察をしていく。

 

映像を出していくのは、内臓の状態を確認しているのだろう。体内をそのまま、立体画像で見られるというわけだ。

 

血管なども損傷していたようだが、それらも全てつなぎ合わせ。

 

足りない血などは、神域の薬で増やし回復させた。

 

重要臓器から回復させ。末端を後にしたため、痛みが残ったようだが。

 

それも見る間に回復しているのが分かる。

 

言われるまま手伝う。

 

怪我人の額の汗を拭い。

 

消毒した布で、周囲に飛び散った血などをぬぐい取る。

 

リネンに着替えさせ。

 

そして、言われるまま栄養食を準備した。

 

「体が弱り切っている場合は、しばらくは錬金術の薬を投与しなければならないのだけれども。 今回は大丈夫そうね」

 

「それにしても、どうしてこんな……」

 

「先代王の作った無意味なオブジェクトを撤去する作業の最中、無茶なバランスの石材が倒壊したのよ。 芸術作品、というのなら兎も角、ただ無意味に積んだだけの石材で、よ」

 

イル師匠は相当に頭に来ている様子で。

 

乱暴に手の消毒を終えると。

 

負傷者の家族に、説明をしていく。

 

相手が動揺しているからだろうか。

 

多少いつもより口調は柔らかかった。

 

「峠は越えました。 明日には回復するでしょう」

 

「おお……!」

 

「ありがとうございます! 父ちゃんを助けてくれて、礼を言います!」

 

「治療費については、国が補填するので気になさらず。 明日から、また家族で暮らしてください」

 

まあ先代王の尻ぬぐいで死にかけたのだ。

 

当然の話だろう。

 

イル師匠もふっかけるつもりはないらしく。

 

まず家族を帰らせる。

 

そして、使った薬について、リディーとスールに説明。どうやって治療をしたのか、その経緯についても説明してくれた。

 

急いでメモをとる。

 

もうメモ取りは、完全に習慣になっていた。

 

昔のスールが見たら、うっそおとか呟くかも知れない。

 

だけれども、近年は極めて複雑な仕事や錬金術に関わる事が増えてきた。とてもではないけれど。

 

メモをとらなければ、やっていられないというのが実情なのだ。

 

「いずれ貴方たちもこういった仕事をする事になるわ。 ……裏技だけれども、どうしても厳しい場合は時間を止めて私やフィリスを呼びなさい」

 

「あの、まだ時間止められません……」

 

「それもいずれ教えるわ」

 

怪我人の様子を確認。

 

どうやら痛みは消えたようで、静かに寝息を立てている。今は動かさないようにと言われたので、そのままにしておく。

 

丁度来たのだからと、数刻ほど講義を受ける。

 

講義の内容は、今までになく難しく。

 

思わず何度も頭を抱えそうになったけれど。

 

ぎりぎりついていくことは出来た。

 

レシピを自分で作って良いと言われたけれども。

 

それでもまだまだ、学ぶことはいくらでもある。

 

良くそれが分かる。

 

勉強が一通り終わった頃、怪我人が目を覚ます。アリスさんが、手当をしているが。怪我人は痛みに呻くことも無かった。

 

イル師匠が顔を見せると、涙を流しながら怪我人は感謝の言葉を述べた。

 

「有り難い、有り難い……! あんな状態から、五体満足に戻してくれて……!」

 

「もうしばらくは寝ていなさい。 明日にはもう動けるけれども、数日は力仕事を避けた方が良いわね。 治療費に関しては、私の方から国に請求するから、気にしなくても大丈夫よ」

 

「本当に、感謝の言葉もありません。 貴方は神のようだ」

 

「勿論神などではないわ。 今は感謝などいいから、ゆっくり休んで、家族に元気な顔を見せてあげる事だけを考えなさい」

 

アリスさんが怪我人に粥を食べさせる。

 

卵入りの栄養価が高い粥だ。涙を流して感謝する怪我人を見ていると、スールは本当に良かったと思う。

 

そして、この間の匪賊討伐の事も思いだしてしまう。

 

殺すのはあんなに簡単なのに。

 

生かすのはこうも難しい。

 

失政は多くの人を苦しめ死なせる。

 

政治家の責任は大きいし重い。

 

「みんな」に対する不信感は、スールも根強い。リディーも相当に拗らせているようだけれども。

 

スールも、正直「みんな」という概念に、大きな不満を抱えている。

 

だが、今は。

 

救うべき命を救えた事を、喜べている自分もいる。

 

溜息をつくと。容体が安定した怪我人を、寝台ごとアリスさんが、施療院に運んでいく所を横目に見る。

 

後は施療院で充分、と言う事なのだろう。

 

施療院にも回復魔術を使える人間や、医療技術を持つ者はいる。

 

だが、あんな、体が半分潰れて、内臓も飛び出しているような状態から、五体満足に回復させるような真似は出来なかったはずだ。仮に一命を取り留めても、後の一生は極めて不自由な生活を送らざるを得なかっただろう。

 

施療院では到底無理な神域の技をイル師匠は使える、という事である。

 

一段落したからか。

 

イル師匠が聞いてくる。

 

「それで、貴方たちはどうしてきたのかしら?」

 

「はい、A級昇格試験を受けようと思って」

 

「まずはイル師匠からと思いました。 お願いします」

 

腕組みして考え込んでいたけれど。

 

程なくイル師匠は、頷いていた。

 

「分かったわ。 それではまず、指定のものを用意して貰おうかしら」

 

来た。

 

そして、その指定のものとは。

 

意外なものだった。

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