暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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もうここまで来ると、双子は公認錬金術師……それもかなり上澄みの実力を手にしています。

短期間で此処まで成長できたのは、双子が天才だったからではありません。

……ソフィー先生らの一万回の試行錯誤の結果です。


1、残るはいずれも苦難の道

結局試行錯誤の過程で、竜の鱗は使い切ってしまった。また手に入れるとなるとー、フーコと共生関係にあるあの火竜に頼むか。或いは暴れている悪竜を倒すか、どちらか一つしかない。

 

火竜は厳格な支配者だった。

 

前に鱗をくれたのは、フーコ達とのよりよい関係を作る事にリディーとスールが主体的に協力したからであって。

 

顔を見せたところで、ホイホイ鱗をくれるほど、脳みそが花畑でもないだろう。

 

最近も「肉冷やし機」の様子を見にいっているが、調子が悪い場合は魔術で自力で直してしまう。

 

それだけの知能も持っている訳で。

 

簡単に言いくるめられるような相手では無い。

 

鱗を貰うのだとすれば、何か当然の対価が必要になってくる。気前よく譲ってなどくれないだろう。

 

幸いなことに、スールは残った竜の鱗を使って、最初に作ったものより品質があからさまに上のハルモニウムを作る事に成功。

 

これも登録して。

 

コルネリアさんの所で、本当に顎が外れるような金額を聞かされた。

 

そして、登録すると同時に。

 

最初に登録されたインゴットは返された。

 

コルネリアさんとしても、此奴の価値は分かっているのだろう。多分、これを売ってしまえば。

 

錬金術師を辞めても、あとの人生を寝て暮らせる筈だ。

 

その代わり、そんな事を言い出したら、ほぼではなく確実にソフィーさんに、これ以上もないほどむごたらしく殺されるだろう。お父さんもルーシャもセットで、である。だから、先に進むしかない。

 

少し悩んだが。

 

声を落として、聞いてみる。

 

「コルネリアさん、ハルモニウム、他に登録している人はいるんですか?」

 

「企業秘密なのです」

 

「あ、そうですよね」

 

「それに、このハルモニウム、存在するだけで色々ひっくり返る危険物なのです。 見せびらかして歩くのはお勧めしないのです」

 

まあそうだろう。

 

頷くと、しっかりしまって。

 

そして、鍛冶屋の親父さんに見せに行く。

 

小声でハルモニウムが出来たと言うと、親父さんはすぐに事態を把握して。奥の部屋に案内してくれた。

 

色々な服や武器があるが。

 

その中には、プラティーン製のものも珍しく無かったし。どうやらハルモニウムによるものもあるようだった。

 

多分だけれど。

 

三傑の誰かが持ち込んだものか。

 

或いは騎士団から整備が頼まれている、国宝だろう。

 

此処に泥棒に入る命知らずなんていないだろうが。この部屋には、そもそも強力な結界も張られている様子だ。

 

或いは、鍛冶屋の親父さん自身が深淵の者関係者で。

 

あのティアナさんのような、完全に色々な意味で狂っているような人が、護衛に影からついているのかも知れない。

 

この人くらいの腕だったら。

 

貪欲に人材を求める深淵の者が、欲しがらない訳がないのだ。

 

「ようやくハルモニウムを作れたな。 だがこれだと、ハルモニウムとしては最底辺だ」

 

「分かっています。 もう少しマシなのが出来たので、そっちはコルネリア商会に登録してきました」

 

「それでいい。 少しずつ、ハルモニウムの質を上げろ。 これは文字通り神域の金属で、ドラゴンに対抗できる数少ない武器だ。 加工次第では邪神だって斬れる」

 

生唾を飲み込む。

 

邪神を、斬れる。

 

勿論親父さんは、世界の書き換えについては知らないはず。つまり素の状態で、邪神に対抗できる武器を作れる、と言う事だ。

 

アンパサンドさんが使っている一双のナイフだって、ハルモニウムではないだろう。

 

あの人の速度にハルモニウムの切れ味がのったら。

 

回避盾から、大物にも通じる打撃を繰り出せるアタッカーへの切り替えを検討できるかも知れない。

 

とはいっても、あの人が回避盾でいてくれるから、今まで皆生き残れてきたようなものであって。

 

アンパサンドさんは、あくまでハラスメント攻撃特化の武器を欲しがるかも知れない。

 

その場合、ハルモニウムは身体能力強化とかの、装備品強化に回してくれというだろう。

 

顔を見なくても、その様子が目に浮かぶようだった。

 

「ただこの質のハルモニウムだと、まだまだだ。 何か作るのなら、その「もう少しマシ」な方のインゴットを持って来い。 これは国にでも納品してしまえ」

 

「えっ、でも」

 

「アダレットにはアダレットで、お抱えの鍛冶師が他にもいる。 こんな品質でも、プラティーンより数段優れている事くらいはお前でも分かるだろう。 国宝にはならないにしても、業物と呼ばれるような武具を作るにはこれで充分だ。 俺は正直この品質じゃあ満足できないがな」

 

鍛冶屋の親父さんが、自身の禿頭をなで回しながら言う。

 

頷く。

 

いずれにしても、これは一旦アルトさんに見せてもいいだろう。ハルモニウムを作る事が試験の課題だったのだから。

 

鍛冶屋の親父さんに、スールと一緒に頭を下げて。

 

その後アルトさんのアトリエに。

 

アルトさんは、あからさまにジャンクフードとしか思えないものをボリボリ食べながら、何か本を読んでいた。

 

多分気晴らしの最中だろうなあと思ったが。

 

それでも絵になるのだから色々と「分かってやっている」。

 

この人にとって「容姿」は逆鱗だ。

 

それは、あの砂漠の不思議な絵画、「エテル=ネピカ」でよく分かった。

 

「リディーとスーだね。 どうした?」

 

「アルトさん、背中に目でもついてるの?」

 

「魔力が見えるだけだ。 どちらの魔力も、特徴的だからね」

 

顔を上げると、もうジャンクフードも、漫画らしい本も消えている。何処に消えたのかは聞かないことにしておく。

 

アルトさんに、ハルモニウムを作った事。

 

そして、これが完成品だと差し出す。

 

頷くと、アルトさんはハルモニウムのインゴットを受け取り。そして、かなり容赦の無い事をいった。

 

「イルメリア風にいうならば9点かな。 100点満点で」

 

「きゅ……」

 

「一桁評価だね」

 

絶句するスールに、静かにフォローを入れる。

 

しかし相手は神話級の金属だ。

 

そもそも、本来だったら、リディーやスールでは拝めるのが精一杯の代物であって。作り出せたのが奇蹟に等しい。

 

イル師匠に手取り足取り教わった事。

 

何よりも、今まで過酷すぎる試練に散々晒されてきたこと。

 

それが、この神話金属を作る事に成功した最大の要因だ。

 

例え9点であっても。

 

「しかし、ハルモニウムを作る事が出来たことについては合格と認めて良いだろう。 僕からは、アダレット王国にレポートを提出しておくよ」

 

「分かりました。 お願いします」

 

「あの、アルトさん! コツか何かありませんか!?」

 

「これ、ドラゴンの血では無くてネームドの血を中和剤に使っただろう。 ドラゴンの血を中和剤に使うだけで、さっき風にいうなら20点代が狙える。 後はドラゴンの鱗の質も低いから、そこを改善すれば30点代。 それ以上の質を狙うのであれば、腕を上げるしかないね」

 

アルトさんの立て板に水を流す言葉に。

 

スールはメモをとって、頷いていた。リディーも癖でメモをとっていたが、まあその辺りはわかりきっていた事だ。

 

とりあえず、アルトさんの試験は突破。

 

だが、最大の難関は此処からである。

 

アルトさんはまだ話が通じる。

 

ここから先は、もう思考回路からして異次元の二人を相手に、試験を進めなければならないのだ。

 

正直色々と気が重いが。

 

それでもやらなければならない。

 

善は急げだ。

 

アトリエに戻ってハルモニウムをコンテナにしまう。

 

そして鍵を掛けて戸締まりをしっかりした後。

 

二人で頷きあって。

 

フィリスさんのアトリエに向かった。

 

 

 

フィリスさんのアトリエの外では、前にツヴァイと呼ばれていたホムが、台を使って背を補いながら、洗濯を干していた。とはいっても、もの凄く手慣れていててきぱきとやっていたし。動き自体もとても早い。

 

フィリスさんと一緒に旅をしているときは、戦闘での一点特化火力を担っていたという話だし。

 

当然、フィリスさんが。そう、あのフィリスさんが作った装備類を、身につけているのだろう。

 

だったら手伝いの申し出などは、却って失礼だ。

 

向こうも此方に気付いていたようで、すぐに声を掛けて来る。

 

「お姉ちゃんに何か用なのです?」

 

「はい。 Aランクの試験を受けに来て……」

 

「それなら、多分少ししたら帰ってくるので、その辺りで時間を……リア姉が近くでやっているお店で、買い物でもして欲しいのです」

 

「分かりました」

 

頭を下げて、素直にラブリーフィリスに出向く。

 

リアーネさんは最初こそ凄い美人がいるという話題になったのだが。しかしながら、口を開けば妹の自慢しかしない事や。何より本人が騎士団でも隊長を余裕でこなせる、要するに戦略級傭兵と同格の凄まじい手練れと知れ渡ってから、安易に口説こうとする者はいなくなった様子だ。

 

そもそも店の名前からしてエキセントリックぶりは充分に溢れまくっている訳で。

 

今ではラブリーフィリスには、美人目当ての男性客では無く。

 

普通に本や素材を求める錬金術師の方が姿を良く見せるらしい。

 

リディーとスールが出向くと、笑顔のままリアーネさんは出迎えてくれる。良さそうな宝石があったので、幾つか見繕う。

 

既に宝石なんて、高級品でも何でも無い。

 

金銭感覚が麻痺してきているのは認めるが。

 

しかしながら、ハルモニウムの価格を知った後だと、こんなものはゴミかカスにしか見えないのも事実だった。

 

大体魔力媒体だったら宝石以外にも色々あるわけで。

 

別に宝石にこだわる必要はないのである。

 

「後、この本いただけますか?」

 

「海の魚図鑑? 良いけれど」

 

「今後、海に入るかも知れませんので」

 

「ああ、そういう事ね。 その本ね、フィリスちゃんが監修しているのよ」

 

思わず硬直するスールを、肘で小突いて牽制。

 

分かっているだろうが、フィリスさんは今の時点でも、此方を監視していてもおかしくないのである。

 

下手な行動をしたら、その場で首をねじ切られかねない。

 

「それは参考になります」

 

「フィリスちゃんと一緒に、空飛ぶ船で湖底に潜ったのが懐かしいわ」

 

「何でも出来るんですねフィリスさん……」

 

「それはそうよ。 フィリスちゃんですもの」

 

嬉しそうなリアーネさん。

 

会計を済ませると、フィリスさんのアトリエに戻る。

 

丁度フィリスさんが戻ってきた所だった。

 

空中から、突然出現して、だが。

 

多分だけれど、気配を消して、空気にも影響を与えないように超高速移動してきたのだろう。

 

ツヴァイも驚いている様子は無かった。

 

「お帰りなさい、お姉ちゃん。 ああ、二人が用事だそうなのです」

 

「ちょっとやる事があるから、アトリエに入っていて貰っていて。 お菓子は適当に」

 

「はい」

 

洗濯を終えていたツヴァイに案内されて、アトリエの中に。

 

すぐに暖かい紅茶と焼き菓子が出てくる。

 

クリームまで載ったかなり豪華な焼き菓子で、もうこの辺りになってくると、相当な富豪でも中々食べられないレベルの代物だ。

 

フィリスさんからすれば、この程度の菓子は作るのは朝飯前、と言う事だろう。

 

リディーも食べて見て、素直に美味しいと思ったが。

 

同時に感動は一切無かった。

 

スールはそもそもフィリスさんのアトリエに入った事で緊張しきっている様子で、味も分からないようだったが。

 

「はいお待たせ」

 

「お邪魔しています」

 

悲鳴を上げかけたスールの口を押さえる。

 

後ろから、いきなり声が掛かったので、そうするので精一杯だった。紅茶を零したりしていたら、何をされていたか。

 

全然違う方からフィリスさんが出てきたが。

 

もうその辺りは気にするだけ負けだ。

 

時間を止めて背後に回り込んだのかも知れないし。

 

他にどんな隠し玉を持っていても不思議ではないのだから。

 

向かいに座ると、フィリスさんは熱めだった茶を平然とすする。溶岩でもそのまま食べそうな気がすると、リディーが思うと。

 

フィリスさんは、にやりと笑った。

 

思考を読まれたのかも知れなかった。

 

「それで、わざわざ来たって事は、Aランクアトリエ試験?」

 

「はい、お願い出来ますか?」

 

「ふーん?」

 

「スーちゃん」

 

青ざめているスールを揺り動かして。そして、スールが、震え上がりながらも、頭を下げる。

 

お願いします、と。

 

フィリスさんは目を細めて此方を見ていたが。

 

まるで獲物を狙う巨竜だ。

 

勿論、この人はドラゴンなんか問題にしないほど強い。

 

「ちなみにルーシャちゃんはこの間わたしの出したAランク試験を突破して今ソフィー先生の所。 パイモンさんは正式にAランクに昇格したよ」

 

「えっ!? は、はい」

 

「?」

 

「分からないかな。 ルーシャちゃんにもう実力が追いつくって事だよ。 パイモンさんは一緒に旅して実力を良く知っているから、試験を流したけれど。 ルーシャちゃんと、リディーちゃんスールちゃんに関しては、実力を伸ばすように試験を出すように指示が出ているからね」

 

本当に、獲物を狙う巨竜の目だ。

 

射すくめられて、感情が鈍くなってきていると実感しているリディーですら、悲鳴を零しそうになる。

 

もうこの人も、隠す必要もないと思っているのだろう。

 

ソフィーさんからの指示である事を、そのまま露骨に口にしていた。

 

或いはそうすることで。

 

プレッシャーを掛けようとしているのかも知れなかった。

 

「ドラゴンを倒して来て貰おうかな。 何処にいるドラゴンかは、此方で指定するよ」

 

「っ!」

 

「とりあえず詳しい条件の伝達は二週間後。 それまでに、準備を充分に済ませておいてね」

 

フィリスさんが席を立つと。

 

ツヴァイにそのまま、お客様はお帰りだから、と告げる。

 

なおフィリスさんはツヴァイちゃんと呼んでいた。

 

小間使いのように扱っているというよりも。

 

恐らくは、フィリスさんが信頼している数少ない人間だから、こう言う仕事を任せているのだろう。

 

急いで茶を飲んでお菓子も食べ終えて。

 

そしてアトリエを出る。

 

心臓がばくばく胸郭の中を跳ね飛んでいた。

 

スールは吐きそうな顔をしている。

 

これは、アトリエに戻った辺りで吐くかも知れないな、と思ったけれど。何とか、我慢して貰う。

 

帰り際に、ツヴァイに声を掛けられた。

 

「ドラゴン退治とは大変ですね」

 

「ええと、ツヴァイさんは経験が」

 

「上級とやりあったことが何度か。 お姉ちゃんがいるから、こわくなんてないのです」

 

そうか、上級とやりあった事があるのか。

 

ホムの戦士で、上級のドラゴンとやりあった事がある人なんて、殆どいないだろう。ホムの戦士そのものが稀少だからだ。

 

或いはコルネリアさんは。ソフィーさんと一緒に活動していたという話だし、あり得るけれど。

 

いずれにしても、レアケース中のレアケースの筈だ。

 

まず、戻る。

 

そして、真っ青になっているスールを急かして、現実的に出来る装備について、考えて行く。

 

まずは、主力級の装備品の更改。

 

最近作ったものではなく、昔作った獣の腕輪などの古い品から、優先的に更改していく。更にハルモニウム。

 

流石に現状の質で武器に使うのは好ましくないが。

 

装備品にするならば。インゴット一つで充分だろう。

 

コルネリア商会にいって、正式に増やして貰う。一週間かかるという事だったので、加工は一週間でやらなければならない。

 

また、プラティーンで補強していた装備品類は、これでお役御免となる。

 

部品を切り替えれば良いだけのものならそうするが。

 

いっそのこと、新しく現状の技術で作った方が、より強いものが作れるし。

 

何よりお古は騎士団に納入してしまえば、より強い装備を身につけて、騎士達が安全に戦える。

 

アンパサンドさんに聞いているが、現在騎士三位くらいだと、錬金術の装備を一つ身につけていれば良い方、というくらい装備が行き渡っていないらしい。従騎士に至っては、錬金術の装備が行き渡ることはまずないらしい。練度や装備で誤魔化してはいるが、騎士団の殉職率や損耗率を考えると、少しでも被害を減らす努力はした方が良い。

 

他のアトリエランク制度参加錬金術師も装備品をどんどん納入しているらしいのだけれども。

 

リディーとスールも、もっと積極的にやっていくべきだと思う。

 

実際問題、一つでも錬金術装備を身につけられれば、世界が変わるのである。

 

四つ五つと身につければ、ネームド戦でも互角に渡り合えるようになってくる。

 

お古であっても欲しい。

 

以前、騎士団員にはっきり言われた事もある。

 

納品すれば多少身体能力が上がる程度の装備でも喜ばれると聞いている。だから、どんどん更改して。完成品はお古でも良いから、騎士団に回す。

 

どれだけ彼らが過酷な仕事をしているかは。

 

マティアスさんとアンパサンドさんを見れば嫌でも分かる。

 

少しでもこの世界をよくするためには。

 

この作業は必要不可欠なのだ。

 

スールと話あって、この辺りの話を決めた後。まず、新しく更改する装備品を改めて作り直す。

 

一部はレシピも修正する。

 

鍛冶屋の親父さんに頼むようなものは、わずかしか作れないので、厳選する。

 

いきなり全てをハルモニウム製にするには厳しすぎる。

 

この作業で二日。

 

更に、パーツ造りで更に三日掛かる。

 

今まで作ってきたものだから、スールはてきぱきと作っていく。リディーより手際が良かったり、早かったりさえする。

 

「スーちゃん、作り慣れたのだと、私よりずっと上手いし早いね」

 

「え、そうかな」

 

「うん」

 

「……そうだね」

 

最近色々精神的に参っているようだから、姉としてフォローしなければならない。スールもそれで多少気分が紛れたのか。

 

残り二日を使って、お薬や爆弾を補充。

 

最近はハルモニウムの研究に掛かりっきりで、それらも疎かになっていたからである。

 

そして、一週間後。

 

インゴットの複製が完了。

 

とりあえず二つほど引き取る。

 

二つだけで今まで稼いできたお金が消し飛びかねない程の出費になったが、これは我慢するしかない。

 

最初に指定していたとおりに、装備品を更改する。

 

今回は武器に関しては更改しない。

 

ドラゴン狩りをするのだ。

 

次にドラゴンを殺すときは、高品質のハルモニウムに必須というドラゴンの血をどうしても採取したい。

 

もっと先に行くためには必要な事。

 

これから先に更に力をつけるには。

 

絶対に必要な事だからだ。

 

インゴットを加工開始。

 

やはり小型のパーツでも、相当に加工は大変だ。しっかり一週間時間があっても、終わるかどうかあまり自信が無い。それくらい難しい。

 

スールと手分けして、作業を行うが。

 

それでも中々終わりそうにない。

 

最悪の場合は、お古を引っ張り出してきて使うしか無いが。

 

ドラゴン戦でそれは厳しい。

 

海竜のように、世界の塗り替えで対応出来る相手ならいいのだけれど。あのフィリスさんが用意してくるドラゴンだ。どんなことをしてくるか。何をしてきてもおかしくないだろう。

 

それに、作った品の試運転もしたい。

 

時間は、出来るだけ短縮したかった。

 

人間用の栄養剤を時々のみながら、作業を続行。兎に角、休む事は交代で行いながら、作業そのものは継続していく。

 

徹底的にチェックを繰り返す。

 

何しろハルモニウムだ。

 

換えが効かないのだから。

 

一つずつ、装備品を作っていき。

 

何とか、指定日の二日前には装備品が揃う。次の戦いで、高品質のハルモニウムが揃ったら、いよいよ全員分の武器を更改したい。

 

キャプテンバッケンに貰った杖と、スール用の二丁拳銃でよく分かった。

 

やはり、お母さんのお古だけでは駄目だ。

 

自分達用にカスタマイズした武器を使わなければ、自分用の最強にはならない。

 

今でもお母さんは大好きだし。

 

今ではお父さんも大好きに戻った。

 

だが、それでも。

 

自分とお父さんとお母さんは違う。

 

今は知っている。好きと依存。好きと盲信。これらは全て違う。リディーとスールは、結局死んでしまったお母さんに依存していたに過ぎない。

 

お母さんのことは好きでかまわない。

 

だが、依存はもう終えるべきだ。

 

だから、装備も自分に合わせたものが必要なのだ。この辺りは、拘りで妥協していい部分ではない。

 

裏庭で一つずつ完成品を試す。

 

試運転はリディーが全て一つずつ試す。

 

やはり低品質のハルモニウムといえど、はっきりいってプラティーンとは雲泥だ。これが国宝になるのも納得である。完成品の性能が段違いなのだ。プラティーンはかなり上手に作れるようになってきていたのに。アルトさんに100点満点で9点とかいわれた品が、である。勿論これは9点よりマシのインゴットを複製して使ってはいるのだが、それでも15点以上という事は無いだろう。

 

本当に、今までの金属とは次元が違うんだ。

 

それを使い、実際の性能を試しながら、リディーは実感していた。

 

そして、使ってみて分かる。これならば、ドラゴンに対抗できるかも知れない。

 

指定日の前日。

 

慌てた様子で、マティアスさんがアトリエに来る。

 

話を聞くと、やはりドラゴン狩りだった。王都の近くに出たドラゴンが、街道近くの山に来ており。現在その街道は使用禁止になっているらしい。あまり大きな街道ではないので今の時点では影響は無いが、退治は必須だという判断がされたそうだ。

 

しかも三傑は全員出払っていて、騎士団もしかり。アルトさんとパイモンさん、プラフタさんも出払っている。

 

つまり、リディーとスールがでなければならない、と言うわけだ。

 

分かりきった話だが、フィリスさんが何かしら手を回したのだろう。或いはドラゴンの尻を蹴飛ばして、縄張りから追い出したのかも知れない。あの人ならやりかねない。

 

スールと頷きあう。

 

スールは青ざめながらも、頷いていた。すぐにアトリエを飛び出していく。

 

ドラゴン戦だ。流石にどれだけお金を掛けても良いだろう。ドロッセルさんに、声を掛けて来て貰う。勿論フィンブルさんにも。

 

てきぱきと準備を進めていくリディーとスールを見て、マティアスさんは乾いた笑いを浮かべた。

 

「どんどん進歩していくな。 俺様だけ置いてけぼりにされてるみたいだぜ」

 

「マティアスさん、強くなってますよ。 この間だって、自分の手で……」

 

「いや、俺様もせめてあれくらいはって思ったくらいだ。 とてもじゃないけれど、まだまだ、な」

 

邪魔になると判断したのか。

 

そのまま、マティアスさんは帰って行く。彼方は彼方で、確信犯でフィリスさんが用意したこの状況に対応しなければならない。先に済ませる書類仕事とかあるのだろう。

 

ルーシャは幸いいてくれたので、手伝いを頼む。

 

Aランク試験を受けていて、フィリスさんの所で躓いていたと聞いている。何とか突破は出来たようだが。今はソフィーさんの試験を受けているようだし、気は休まらないだろう。

 

或いは、試験内容は同じだったのかも知れない。

 

ドラゴン狩りと聞くと、ルーシャは快く受け入れてくれた。手抜き状態でもアルトさんもプラフタさんもいない現状では、騎士団の一部隊くらいは最低でも増援で欲しいのだけれども。

 

それすら望めない状況では、戦力はできる限り集めるしか無い。

 

予定通りに準備を進めていたので。

 

どうにか出来の悪いハルモニウムを使った装備品の調達は間に合う。試運転も、ギリギリ間に合わせた。

 

出来ればコンディションも完璧に仕上げたかったのだが。

 

これ以上は流石に贅沢だろう。

 

勝ちに行く。

 

身につけた装備品達は、ハルモニウムの威力を見せつけるように、今までの装備品の数倍の効果を体にもたらしている。

 

これだけの倍率があれば。

 

きっと、勝てる筈だ。

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