暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、追加される試験

ぐったりと眠り込んでいたリディーとスールは。

 

当然ながら寝覚めも悪かった。

 

スールは特に朝に弱いのだ。

 

この辺りは、お父さん似だったっけ。

 

お母さんは朝から全力で動いていたような気がするから、多分そうなのだろうとも思うけれど。

 

正直、よく分からない。

 

お父さんがふらふらと家を出ていくのが分かった。

 

無精髭を剃ってもいない。

 

服もぼろぼろ。

 

あれが元は腕利きで。騎士団にも装備を納入していたなんて、誰が信じるだろうか。そして、本当だったら。

 

声を掛けて、家に引き戻すべきだ。

 

でも、できない。

 

散々酷い事を言ったし。

 

少しずつ分かってきている。

 

錬金術が、これほど凄い学問だというのに。それでもなお愛する人を救えなかった絶望を。

 

お父さんもお母さんも、互いが大好きなのは知っていた。

 

子供でも分かる程だった。

 

だからこそ、その絶望の深さも、少しずつ分かってきている。

 

声を掛けなければならないのは、リディーとスールなのだ。

 

だけれど、どうしても。

 

スールには出来そうに無かったし。

 

リディーも、口をつぐんだまま、お父さんの背中を見ているだけだった。

 

今日は家で復習をしよう。

 

試験結果がいつ来るか分からないし。

 

そうリディーが提案してきたので。

 

言われたままそうする。

 

確かに、一日くらいで結果が出るという話だったから、それが一番良いだろう。そして、暇つぶしが来てくれた。

 

ルーシャである。

 

例の無表情なメイドさんを連れて、ルーシャはアトリエに様子を見に来た。

 

「聞きましたわよ。 試験を受け取って貰えたんですってね」

 

「危なく引っ掛かるところだったけどね」

 

「で、何、嫌みでも言いに来たの?」

 

「ま、相変わらず粗野ですこと」

 

メイドさんが、無言でバスケットを差し出してくる。

 

差し入れだろう。

 

「此方、ライバルができた私からのささやかなプレゼントですわ。 二人で仲良くお食べなさいまし」

 

「その妙ちくりんなお嬢言葉、色々変だよ……」

 

「スーちゃん、しっ……」

 

「ではこれで」

 

ルーシャは聞いてもいないようで、バスケットだけ押しつけて帰って行く。

 

中には焼き菓子がたっぷり。

 

流石に錬金術で作れるようなものはくれないか。

 

いや、まて。

 

本当にそうだろうか。

 

少し考え込む。

 

これ、錬金術で作ったものではないのか。

 

王都には当然お菓子屋さんもあるけれど。お菓子は基本的に高級品だ。理由はお砂糖を簡単に作れないから。

 

果実の甘みなどを利用して作るお菓子が多いのだけれど。

 

これは小麦粉以外は、何を使っているのかよく分からない。

 

食べて見るととても美味しいけれど。

 

同時に、リディーも気付いたようで。

 

しばし無言になった。

 

これは、或いは挑戦状なのかも知れない。

 

ルーシャからしてみれば、ライバルが誕生したと言う事なのだろうか。

 

いや、リディーは気付いていないだろうけれど。

 

うちが貧乏生活ながらも、ギリギリ生きて行けたのは、ルーシャが後ろから支援してくれていたからだ。

 

それを考えると。

 

この焼き菓子にも、何かしらの意味はあるのかも知れない。

 

ふうと大きく嘆息すると。

 

いずれにしても、ルーシャは此方をライバルなどとは思っていないなと、結論した。

 

とりあえずお菓子は有り難くいただくことにする。

 

子供舌だから美味しい。

 

というよりも、だ。

 

リディーとスールが好みそうな味を、ルーシャが熟知していると言う事だ。多分だが、このお菓子はルーシャが錬金術で作ったのだろうから。

 

食べ終えると、リディーは図鑑を見始めて。

 

スールもそれを隣で見る。

 

まだ頭には上手に入ってこないけれど。

 

実際に調合したり。

 

触ったりしたものに関しては。

 

分かるようになって来ている。

 

それはとても進歩していると言う事で。

 

それで進歩と感じている時点で。

 

まだまだ半人前だという良い証拠だ。

 

「よーっす。 いるか双子」

 

「あ、王子」

 

「マティアスで良いぜ。 ほら、スクロール」

 

配達か。

 

しかも今日はアンパサンドさんがいない。

 

マティアスの話によると、今日アンパサンドさんは、錬金術師と一緒に討伐任務に出ているらしい。

 

イル師匠と同格くらいのすごい錬金術師らしく。

 

その錬金術師が支給してくれた装備で身を固め。

 

他の騎士達も同じような装備で武装して。

 

強力なネームドを狩りに行っているそうだ。

 

「というわけで今日は俺様自由。 いや-、久々に体が軽いな!」

 

「あのさ、えーと、マティアスって呼んで良いんだよね」

 

「そうだぞスー」

 

「あそ、じゃ言っとくよマティアス。 あのミレイユ王女が、アンパサンドさん以外の監視役をつけていないとでも?」

 

無言になったまま。

 

見る間に真っ青になっていくマティアス。

 

まさか気付いていなかったのか。

 

スールがミレイユ王女の立場だったら、それこそ迂闊な行動をしたら、一瞬でマティアスくらい殺せる手練れに見張りをさせる。

 

スールでも考えつく程度の事だ。

 

あのミレイユ王女がやっていない筈が無い。

 

「お、俺様、死ぬの!? 殺されるの?」

 

「落ち着いてマティアスさん。 悪い事していなければ大丈夫だと思うけど」

 

「あ、ああそうだよな。 一応仕事はしてるし、殺されないよな、ハハ……」

 

目に見えて動揺するマティアス。

 

そういえば、昔。

 

この国が武門の国で、猛々しいルールが蔓延っていた頃。

 

王様の弟が。王様が死んだ後、ぼそりと漏らしたという言葉が伝わっている。

 

兄は恐ろしい人だった。

 

いつ殺されるか分からなかった。実際、処理された兄姉が何人もいた。だから兄の前に出るときは、密かに鎖帷子を着込んでいた。

 

それは笑い話なんかじゃないと。

 

マティアスの様子を見ていると分かる。

 

ミレイユ王女は面と向かって話したのは一度だけだが。

 

それでもあの炸裂するような圧迫感は、恐怖とともに染みついている。ましてやマティアスは、日常的に会っているだろうし。恐怖も別格だろう。

 

「じゃ、じゃあ配達は済ませたからな。 見回り行ってくるわ」

 

「イッテラッシャーイ」

 

どうしてか冷めた声で見送ってしまう。

 

リディーはため息をついた。

 

「リディー、そういえばマティアス嫌いだよね」

 

「ああ、分かる?」

 

「うん。 どして?」

 

「今のお父さんに被るから」

 

ああ、なるほど。

 

それなら嫌うのも当然か。

 

スクロールを開いて、中身を見る。

 

まず、合格という文字が浮かんで来た。

 

これからGランクの錬金術師として認めると。ただし、二人セットでGランクだとも書かれている。

 

結構厳しい採点なのだろう。

 

採点基準については、非常に細かく書かれていた。

 

技術点などもしっかり記載されていて。

 

非常に厳しい内容だった。

 

ただ、総合では合格と言う事で。

 

多分かなりこれでも甘い配点なのだろう。

 

厳しい試験になってくると、一つでも項目をクリア出来なかったら、失格というケースもあるらしいのだから。

 

兎に角、それは良い。

 

合格結果は当然だと感じた。イル師匠に教わったのだ。最初で躓くはずがないという確信はあった。ただし、そこまでの確信しかなかったが。

 

次だ。

 

まず最初に、支給品があるという。

 

お金だ。

 

当面の生活費などが支給されるというが。

 

その代わり、実績も日常的に上げる事を要求される、と言う事だった。

 

Gランクの場合、騎士団に納品する薬がそれに相当し。

 

合格品質の薬を、毎月一定量納品しなければ、Gランクの資格を即座に取り消すという厳しい内容だった。

 

その代わり、今後は申請があれば、騎士達を無料で護衛に貸し出してくれる。

 

まあ厳しいけれど、妥当とも言えるか。

 

薬のレシピも記載されていたが。

 

今作っている薬よりもかなり凝っている。

 

なるほど、アルファ商会から買い付けているお薬を、多少でもコスト圧縮したいわけか。何となく、事情は分かった。或いは騎士団の規模を拡大するつもりなのかも知れない。騎士団は手が足りていないと言っていたし、装備のコストを減らせれば、規模の拡大を行えるはずだ。そうすれば、多少は状況も改善出来る筈。

 

お金儲けにはある程度興味も知識もある。

 

だからそのくらいのことは、わかるのである。

 

続けて読み進めていく。

 

次の試験までには、まだ実績が足りない。

 

実績を上げて、次の試験を受けても良いと国に判断させろ、とある。

 

実績には、獣や匪賊の討伐任務の参加。

 

街道警備。

 

更には、最低限ではなく、実用性のある錬金術の道具の騎士団への納品などがあるという。

 

なるほど。

 

本当に此処からは実力主義の世界。

 

イル師匠に泣きつくわけにはいかない、自分でどうにかしていかなければならない世界という訳だ。

 

まずどうしようか。

 

「スーちゃん、まずはこのお薬作って見よう。 傷薬だけれど、今まで私達が作ってたのより難しいし、多分作るだけで勉強になると思うし」

 

「それもそうだけれど、やっぱり実用性のある爆弾作りたい」

 

「外でもっと良い素材を採集したいって事?」

 

「うん」

 

即答する。

 

流石に拡張肉体はハードルが高い。

 

でも、爆弾だったら。

 

それに爆弾の使い方については、イル師匠のレクチャーでよく分かった。後は判断はリディーに任せれば良い。

 

「銃弾の強化については……」

 

「しばらくはそれは考えない方向で行こう。 お母さんは今の銃弾でやれていたんだし、多分支給されていた錬金術の道具が、或いはお母さんが魔術を使っていたのか、どちらかだと思う」

 

「どっちもじゃないのかな」

 

「いずれにしても分からないから、後回し」

 

頷く。

 

なんだかんだで結構考え方が違うリディーとスールだが。

 

こう言うときは息もぴったり合う。

 

まず、師匠に相談しに行く。

 

最初からいきなり未知の薬をプロレベルで作れると考えるほど、頭が花畑ではない。まず話を聞き。

 

作ったものを見てもらって。

 

それで問題が無いようなら、騎士団に納品する。

 

まずはGランクの維持を当面の目標とし。

 

そしてそれが問題なくこなせると判断したら。

 

Fランクへの挑戦を視野に入れて、動き始める。

 

イル師匠は、やはりというか。

 

二人で気づけなかったことを、幾つも指摘してきた。流石にひっかけレシピではないようだけれども。

 

やはり足りない材料がある。

 

危険を承知で、外に出なければならない、と言う事だ。

 

そうなると、作ったクラフトがいよいよ役に立つ時が来たのだ。というか、どうにかして役立てなければならない。

 

「戦略と戦術とかいうのはどうにかなりそう? スーちゃんどう違うのかもよく分からないんだけれど」

 

「うん、でも手数が欲しい……」

 

「傭兵雇う?」

 

「そうしたいけど、でも見て。 支給金額。 これだとギリギリだよ。 まずお薬を作るための薬草を、森の外に採りに行くとして……」

 

それがまずハードルがとんでもなく高い。

 

だけれど、どうにかしてやらなければならない。

 

アンパサンドさんは頼りになるけれど、マティアスは文字通り壁にしかならないし。

 

いずれにしても、手助けが必要か。

 

そういえば。教会でシスターグレースに世話になっていた頃、戦士になりたいと言って鍛えていた人がいた。

 

獣人族の戦士で、犬顔の真面目な青年だった。

 

今戦士としてやっているなら、多分傭兵になっている筈。騎士団には行きたくないと言っていたし。時々街で見かけるから、まだアダレット王都にいる。メルヴェイユなんて名前よりも。やっぱり王都と素直に言う方がスールは好きだ。

 

「えっと、あの人……フィンブルさん」

 

「ああ、この間見かけたよ」

 

「手が借りられないか頼んでみようか。 騎士ほどじゃないにしても、多分役には立ってくれる筈だよ。 少なくともスーちゃんよりは強いと思うし」

 

「……そうだね。 まだ若いし、実績もない傭兵だから、安く雇えると思う。 ただ、向こうも錬金術の装備を欲しがるんじゃないのかな」

 

勿論今の状況では、親しいわけでもない相手にあげるわけにはいかない。

 

仕事の時に貸与するだけだ。

 

だが、もしも一緒に腕を上げて、専属で雇えれば。装備を譲ってもいい。

 

ギブアンドテイクである。

 

「分かった、少しずつだけれど、やってみよう」

 

「うん。 じゃあ、まずはお薬の材料を採りに行くスケジュールを立てなきゃね」

 

「スケジュールは私が立てるよ。 手続きもしておく。 スーちゃんは体温めといて」

 

「ラジャ」

 

ああそうだ。

 

その前に、一つやっておきたい事がある。

 

荷車を四輪に。

 

箱形にするのだ。

 

これで無理矢理籠をつけて、荷車の体裁を保っている状態からは脱することができる。

 

やっと。

 

外に行く準備が整うとも言える。

 

ようやくスタートラインだ。

 

スールは、今。

 

朝日が昇るのを、見た気がした。

 

 

 

(続)




自分には常識なんぞないし、基礎的な力も当然備わっていない。常識なんてものが仮にあったとしても、そんなものは何の役にも立たない。

それを自覚して、やっと一歩を踏み出せます。

謎の自信で自分を凄いと思い込んでいたスールは。

やっとこの時、人生を歩み始めたのかもしれません。
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