暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

151 / 200
双子も人間止めるときが近付いて来ました。

人間止めるくらいでないと、この世界の詰みは打開できないのです……。


人を終える時
序、戦いに備えて


Aランクの試験を受けている最中といえど、国から仕事は来るし、物資の納入もしなければならない。今回、仕事はこなかった。多分ソフィーさんの試験を受けている最中だったから、国が考慮してくれたのだろうけれども。

 

その代わり、物資の納入は当然必要だった。

 

薬などの物資を全て納入。

 

更に、プラティーンを用いた錬金術の装備品を幾つか納品しておく。ハルモニウム製に切り替える際に、「お古」が出てきたのである。勿論自分達にとっては型落ちになるだけであって。

 

騎士団にとっては、そもそも錬金術の装備そのものが貴重なことに代わりは無い。

 

騎士三位は支給されれば良い方。

 

もうその話は聞いている。

 

従騎士にも出来れば装備品が行き渡れば。それだけで生存率は倍増しで上がるだろう。その話も聞いている。

 

だから、今回いつもの倍以上の装備品を納入したことで。

 

いつも受付をしてくれる、モノクロームのホムの役人は喜んでくれたようだった。

 

「これは有り難い。 お二人には感謝しなければならないのです」

 

「いえ。 活用してあげてください」

 

リディーが頭を下げているが。

 

作り笑いなのがスールには見えていて。

 

そして、膝の震えが止まらなかった。

 

そろそろ、自分もああなる。

 

分かってはいるのだけれど。この間ソフィーさんに直接脅しを掛けられて、それを嫌でも実感してしまった。

 

本来だったら恐怖で失神していただろうけれど。

 

それでも粗相する程度で済んでいたのだ。

 

要するにそれだけ精神がおかしくなってきている、という事である。

 

自覚はある。

 

匪賊などに対して、恐ろしい程冷酷になって来ているし。

 

戦闘時の攻撃性も高まっている。

 

だけれど、静かに狂っているリディーを見ると。

 

深淵に染まるという事が、如何に恐ろしい事を客観的に見せつけられて。そして必死にあがこうとする自分も感じてしまうのだ。

 

恐らく深淵に行かなければこれ以上の成長は無い。

 

それも分かっているのに。

 

どうしても、恐怖が先立つ。

 

リディーは多分、このまますとんと深淵に落ちていくだろう。それを阻止することはきっとできない。

 

スールは。

 

このままおいていかれるのか。

 

双子なのに。

 

錬金術師としての才能も。

 

あからさまに劣ったまま、おいていかれてしまうのか。

 

しかし、もうどうしようもない。

 

帰り道、ずっと冷え込んだ気がする街路を歩きながら、スールは思うのだ。

 

次に邪神と戦う時。

 

死んでしまったら、楽になるのだろうか。

 

いや、そうはならない。

 

万回も繰り返している、という話ではないか。

 

ソフィーさんは事故くらいにしか思わない。

 

どうせまたやり直しをさせられる。

 

そして今更ながら気付く。

 

きっと今までも。

 

何度も何度も死んでは、きっとやり直しをしていたのだ。ソフィーさんは、リディーとスールに期待しているような目をまったく向けていない。

 

それは早い話。

 

出来が悪いことを知っているからでは無いのか。

 

勘が告げているのである。

 

魔力が見えるようになって、何倍も冴えるようになった勘が。

 

深呼吸をしながらアトリエに。

 

お父さんが黙々と薬の調合をしていて。そして、入れ替わりに荷車を引いて納入に行った。

 

お父さんは別口で国から仕事を受けているので、こればかりは仕方が無い。研究にも力を入れているし、どうしてもこういう無駄は生じてしまう。何よりも、放置しておくとお父さんは外に出ない。

 

お仕事なりなんなりで、こうやって無理矢理にでも歩いた方が良いのかも知れない。

 

椅子に座って、机に突っ伏して、しばらく無言でいる。

 

お茶をリディーが淹れてくれた。

 

良い香りがするし。

 

美味しいお茶菓子だってあるのだけれど。

 

味がしないのだ。

 

「スーちゃん、少し休んだら、ハルモニウム作ろう」

 

「うん……」

 

「ドラゴン戦でもあれだけ大変だったんだよ。 邪神戦が控えてるんだから、力は全て出し切らないと」

 

「うん……分かってる」

 

顔を上げる。

 

ぞっとした。リディーが笑っていない。声だけは優しかったのに、目が一切笑っていないのだ。

 

グダグダしていないでとっとと動け。

 

そう言われている気がして、背筋が凍り付いた。震え上がっているスールにまったく頓着せず。

 

リディーは茶をさっさと飲み干し、作業に移る。

 

スールも恐怖には逆らえず。

 

それに従うしか無かった。

 

作業は嫌でも覚える。

 

これしか長所がないのだ。一度作ったものは上手に再現出来る。この特技がなかったら、スールなんてとっくにリディーに遙か先まで置いていかれていただろう。必死にだから磨いた。昔の馬鹿な自分は捨てた。今は。あれ。なんのために、こんなに頑張っているんだろう。

 

お母さんにいわれただろう。この国一のアトリエになってって。

 

それは分かっているけれど。この国には、怪物同然の三傑が既に来ていて。彼女らのアトリエがある。

 

みんなのために。それも違う。

 

そもそも「みんな」の醜さは、嫌と言うほど見てきたでは無いか。今更「みんな」のためなんぞに働けるか。

 

昔は、もっと前向きに動けていた気がする。

 

しかしながら、である。スールには分かるのだ。

 

この世界が詰んでいるという「事実」が。

 

想像以上にやばいという事が。

 

あの、手段も何も選ばないソフィーさんやフィリスさんがいて。あの人達は邪神やドラゴンを遙かに凌ぐ強さも持っていて。

 

その気になれば、全ての人間を無理矢理従わせて、好きにだって出来るだろうに。

 

それでも詰みは打開できない。

 

そもそも創造神が詰みを打開できないというのだ。

 

何とかして打開しようとあがいているという話だけれども。

 

スールには分かっている。

 

これからリディーとスールは、その悪夢の事業に参加させられる。

 

参加させるためなら、それこそソフィーさんはリディーとスールをこの国一の錬金術師にでも何でもしてくれるだろう。

 

だが全ては掌の上だ。

 

シスターグレースと、フリッツさんと、ドロッセルさんがやっていたような人形劇とは違う。

 

あれは命も籠もっていたし、愛情も籠もっていた。

 

愛情も何も無く。

 

命令の通りに動く事だけを要求される。

 

協調性という美辞麗句を元に、あらゆる人間的な権利も剥奪されるだろう。

 

実際問題、どんどん人間性が体の中から消えているのが分かる。

 

ソフィーさんやフィリスさんのようになる。

 

イル師匠だって、多分今は人間の皮を被って見せているだけに過ぎない筈。

 

それが分かるから。

 

スールはもう、怖くて、震えが止まらなかった。

 

ともかく、動く。

 

それはする。

 

最高の中和剤が出来たのだし、竜の鱗の質だって上がっている。ハルモニウムの再生産を、リディーと一緒に行う。

 

次は邪神戦。

 

手を尽くせるだけ尽くさなければ確実に死ぬのだ。

 

黙々と作業をしている内に。

 

リディーが、炉を調整しながらいう。

 

「少し調べて見たよ、邪神「青花の侵食神」」

 

「うん……どんな奴?」

 

「此処から馬車で一週間ほどいった、アダレットの辺境。 海近くにある、「自然林」に棲息する邪神だね」

 

「!」

 

この世界に、自然の森は殆ど無い。

 

規模が少し小さい林でも同じ事だ。

 

そういう森には、ほぼ確実に邪神が住んでいる。そいつらはドラゴンほど見境がないわけではないが。

 

人間に対しては極めて残忍で冷酷だ。

 

「邪神としての実力は具体的には確認できなかったけれど、多分この間のゴルドネアより強いと思うよ」

 

「どうやって倒すの?」

 

「本当はヴェルベティスが欲しいけれど、まずはみんなの武器の更改から……だね」

 

「……」

 

ハルモニウムを作り、登録する。

 

その登録したハルモニウムを鍛冶屋の親父さんの所に持ち込む。

 

加工に関しては親父さんに任せてしまってかまわないだろう。

 

そもそも邪神というのは、高位のものはあのファルギオルが分類されるほど存在で。ファルギオルが病み上がりの上に、極限まで弱体化してあの実力だった事を考えると。とてもではないが、本来人間が相手をする存在では無い。

 

はっきり言って怖い。

 

だけれども、それ以上にだ。

 

「この試験を突破したら、次にSランク試験が控えているんだよね」

 

「そうなるね」

 

「……きっと、もっと無茶をいわれるね」

 

「そうだろうね」

 

リディーが、適温まで炉が暖まったと合図を送ってくる。

 

即座に対応。

 

時間を計る。

 

適温でしばらく温めた後。

 

今度は温度を下げていく。

 

充分に温度を下げたところで、ハルモニウムを炉から出す。なるほど、確かにアルトさんの言う通りだ。

 

凄まじい魔力が立ち上っている。

 

熱気ももの凄いが。それ以上に、此処に我ありという存在感を、ハルモニウムのまだインゴットにもしていない塊が叫んでいるのだ。

 

あれ。

 

何か、本当に聞こえたか。

 

ともかく、塊をハンマーでかち割って、不純物を取り除く。

 

そして、また炉に入れて温める。

 

何度か同じ作業を繰り返して。充分に純度が上がったと判断した時点で、ハルモニウムを回収。

 

ハンマーを振るい、インゴットに加工した。

 

明らかに、前より段違いの出来だ。

 

鱗の品質が上がったこと。中和剤にドラゴンの血を使った事。それだけで、此処までの効果が出るのか。

 

確かに前とは比べものにならない。

 

だが、これをコルネリア商会に登録して、同じものを増やす場合。

 

出費も、恐らく意識が飛ぶほどのものになる筈だ。

 

それでも、やらなければならない。

 

すぐにコルネリア商会に行き、査定して貰う。ハルモニウムの鑑定については、コルネリアさんは慣れている様子で。淡々と値段をつけられた。

 

幸い、前の五割増しほど。

 

気絶するほどの金額では無かった。

 

ぎりぎり、蓄えも消し飛ばない。

 

ともかく、複製を頼んだ後アトリエに戻る。そして、増えるまでの二日間。返して貰ったハルモニウムで、装備品をもう少し改良しようという話をする。精神的に幾ら参っていても。自分達以外の命も掛かっているのだ。

 

こういう所では、頭も働く。

 

「作戦を立てておこう。 青花の侵食神だっけ。 もう少し詳しい情報は」

 

「邪神について共通しているらしいんだ。 ファルギオルの性質」

 

「ええと、超再生力と、コアをどうにかしないと死なないって事?」

 

「そうなるね」

 

なるほど。

 

そうなってくると、やはり不思議な絵の具を使うべきだろう。

 

「相手は植物なんだよね」

 

「一応花の神らしいけれど、森から生きて出た人間はいないみたいだよ」

 

「だったら、森を痛めるわけにもいかないし、もういっそ森ごと塗り替えて別世界にしちゃおうよ。 足枷つきで、ゴルドネアより強いようなのと戦って勝てる訳もないんだし」

 

「……装備を改良して、武器を改良しても、結果は同じだろうね」

 

頷くリディー。

 

森の性質について確認する。

 

邪神がいるような森だ。ひょっとしたら、灼熱の森かも知れない。ファルギオルの無茶苦茶ぶりを思い出すと、どんな森でも不思議では無い。

 

「年中恐ろしく冷え込んでいる森みたいだよ。 ずっと霧が出ているみたい」

 

「……そうなると、やっぱり単純にフーコと火竜の世界に切り替える?」

 

「それがよさそうだね」

 

「分かった。 不思議な絵の具について、ギリギリまで改良を試みてみる。 最初から森全部、灼熱地獄にしちゃった方が良いと思うし」

 

森の何処にその何とか神が棲息しているか分からないのだ。

 

それなら、いっそ森ごと世界を塗り替えて。

 

一気に畳みかけるのが吉だろう。

 

どうせ獣も山ほど住んでいるのだろう。出来れば手数は増やしたいのだが。

 

指定されている時期を考えると、多分ソフィーさんも、フィリスさんのように、特大の嫌がらせをしてくる可能性が大きい。

 

騎士団の一部隊も、多分出してはくれないはず。

 

パイモンさんが来てくれるらしいのはとても心強い。

 

多分、ドロッセルさんも雇えるはず。

 

出来ればもう一声欲しいのだが。

 

これ以上は予算的にも厳しいか。

 

ドアがノックされる。

 

マティアスだなと思って、出ると。やはりマティアスだった。この辺り、気配とか読めるようになって来ているので、もう分かる。

 

「よーっす。 ちょっとな、とんでもないミッションが来ていてな」

 

「邪神?」

 

「……知ってるとなると、深淵の者がらみか。 俺様、マジ泣きそう」

 

肩を落とすマティアスに、アトリエに入って貰って話を聞く。

 

やはり、騎士団の部隊は出せない。

 

三傑も忙しくて出られない。

 

そんな状況で。

 

辺境にいる邪神、「青花の侵食神」が動き出したのだという。

 

邪神はネームドとは完全に格が違う相手だ。

 

マティアスによると、現時点で三傑がかなり退治してくれたものの、まだアダレットとラスティン、あわせて国を挙げてもどうしようもできない邪神が十柱以上存在していると言う。勿論存在している付近では、出来るだけ集落は敵意を買わないように、気を付けて動かなければならない。

 

邪神の実力はドラゴンとも更に桁外れで。

 

あまりにも危険な存在のため、マティアスも勉強で教えられたという。

 

場合によっては、ラスティンに援軍を要求する相手だというからだ。国にとっての最大脅威である。王族が知らないわけにはいかないのだ。

 

現時点で、「青花の侵食神」は比較的脅威度が低い邪神らしいのだが。

 

それでも森の中に住んでいる事もあって手が出しづらいのだとか。

 

「下位の邪神は殆ど「エレメンタル」って呼ばれる連中なんだが、エレメンタルでもピンキリでな。 光や闇のエレメンタルになってくると、中位の邪神と同じくらいの実力になってくる。 再生力もファルギオル並みだ」

 

「ええと、エレメンタルでは無いという事は、「青花の侵食神」は中位……まさか高位邪神?」

 

「その通りだスー。 「青花の侵食神」は中位邪神、なんだがな。 少し前……アトリエランク制度が始まる直前くらいかな。 事前に打ち合わせに来てくれていた「創造」イルメリアが、森から出てきたところを軽く捻って弱体化させてる。 今はかなり弱っているらしくて、下位の邪神、それも真ん中くらいだそうだ」

 

「それでも、ゴルドネアよりは強い、ですね」

 

リディーの言葉に頷くマティアス。

 

幸い、動き出してはいるが、街に強襲をしかけようというそぶりを見せているわけではなく。

 

荒野に触手を伸ばして。獣を補食しているという。

 

監視班がその様子を確認して、連絡してきているそうだ。要するにイル師匠にぼっこぼこにされて、身動きも出来ない状況になっていた所から。体を回復させて、縄張りを拡げようとする段階に移ろうとしている、という所か。

 

本来なら、放って置いても森が拡がるのだから有り難いのかも知れないが。

 

その森が、獣だらけの危険な森となれば話は別だ。

 

街を守ってくれる森ならともかく。

 

多少凶暴性は落ちるとは言え、ネームドクラスの獣だらけの森なんて。

 

ふと思いつく。

 

そんな森なら、ヴェルベティスの材料が手に入るのではあるまいか。

 

挙手。

 

マティアスが頷いた。

 

「あんまり余計な事は言えないんだが、分かる事は出来る範囲で答えるぞ」

 

「ねえマティアス、邪神退治した後、どうせ森の獣もあらかた駆除するよね」

 

「あ、ああ。 そうなるな」

 

「それだったら、ある程度の期間滞在することになるよね」

 

頷くマティアス。

 

しかも好都合なことに、比較的近くに街があるという。補給拠点として活用出来る、ということだ。

 

大型荷車の出番らしい。

 

ドラゴンほどの巨体は誇らないはずだ。多分、素材は乗せきれる。

 

問題は人員だが。

 

これについては、ルーシャの方と手分けするしかない。パイモンさんも、或いは飛行キットつきの荷車を持っているかも知れない。あの人の実力なら、持っていてもおかしくはない。

 

フィリスさんと旅をしたと言うのだから。

 

「国庫の利用をする事を、事前通達できる?」

 

「ああ、まあそれくらいは俺様でやっておくけど」

 

「じゃあ後は、こっちでやっておくよ」

 

ともかくだ。生き残らなければならない。戦いが間近になると、やはり頭はどうしても働く。

 

深呼吸すると。変貌が酷くなってきているリディーの事は一旦忘れる。壊れかけている自身のことも忘れる。ルーシャとパイモンさんと、飛行キットについて相談しなければならない。

 

マティアスが帰った後、リディーと軽く話し。そして、スール自身が、ルーシャとパイモンさんのアトリエに出向く。二人にも既にこの仕事の話は行っているはず。ならば生き残るためにも連携しなければならない。

 

パイモンさんは、経歴から考えても深淵の者関係者の可能性が高い。

 

ルーシャはもう殆ど深淵の者に人質に取られているに等しい。

 

それは、今は忘れる。

 

皆で生き残るために。此処で、しっかり話し合いをしておかなければならないのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。