暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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双子にとっての初の対邪神戦です。

この世界の邪神はドラゴンをもしのぐ人間にとっての最大の脅威です。

ファルギオルほど危険な奴はそうそういませんが、それは500年かけて深淵の者が狩ってきたからなのです。


1、邪神の森で

指定の日。城門に集まる。

 

そして、城門を出てから。森の中で、遮音の結界を張って。それから、周囲を確認し。気配がないことを念入りに調べる。

 

勿論ソフィーさんやティアナさんみたいな次元の人が潜んでいたら、それはどうにもならないけれど。

 

少なくとも騎士団員や、匪賊程度だったらいないと断言できる。

 

ため息をつくと。

 

飛行キットをつけてきているルーシャの荷車。それにパイモンさんの荷車を見た。

 

やっぱり二人とも、もう完成させているのか。

 

パイモンさんはフィリスさんと旅をしていたという話だし、作れていてもおかしくない。ルーシャはそろそろフィリスさんが追いつくと行っていたから、かなりギリギリだとは思ったのだが。

 

どうやら、問題は無かった様子だ。

 

裏庭においていた大型荷車の初陣である。

 

パイモンさんが咳払いする。

 

「飛行キットをつけて空を征く場合、幾つか注意することがあってな」

 

「聞かせて欲しいのです」

 

アンパサンドさんの言葉に、パイモンさんは頷いた。

 

まずシールドは常時展開する。一定以上の飛行高度を保つ。これは事故を避けるためである。

 

シールドはバードストライクや、空を舞う獣からの攻撃から身を守るため。

 

実は飛行キットをフィリスさんが開発するとき、この辺りはかなり試行錯誤を重ね。現在はかなり完成度が上がったレシピに切り替わっているという。

 

その代わり難易度も跳ね上がっているため。

 

旧式の飛行キットの場合、特にバードストライクなどに注意が必要になるそうだ。

 

「更に上空にも注意がいる。 ネームドにまで育ったアードラが、狙いをつけて一点突破を狙って来る可能性があるからな」

 

「分かりました。 シールドは常時展開しつつ、周囲にも警戒を払うのです。 戦闘になると判断したら、着陸した方が?」

 

「うむ。 ただし、着陸の瞬間を奇襲される可能性もある。 地面を調べる結界は使えるな」

 

リディーが頷いた。

 

なるほど、飛行キットつきの荷車で、相当な戦闘経験を積んで来ているというわけだ。本当に開発者であるフィリスさんと一緒に、彼方此方旅してきたんだなという事が分かる。昔はフィリスさんは、正義感が強くて純真だったという話も。この人の口から聞くと、信憑性が高くなる。

 

それから、他に幾つか注意がされる。

 

街の上空は出来るだけ飛ばないようにすること。

 

これは、街が防衛用の大型シールドを展開している事があるかららしく。下手をすると激突するそうだ。

 

昔はともかく、ここしばらくはインフラ整備作業をフィリスさんがやっている。

 

と言う事は、どの都市に防衛用のシールドが展開されていてもおかしくない。イル師匠も、その辺りは作業をするだろう。

 

ならば、街は避ける必要があり。

 

必然的に街道から外れた場所を通る頻度が上がる、というわけだ。

 

その代わり、移動速度は凄まじく。

 

それこそ一発で現地に到着できる。今回はかなり遠い辺境領に行くのだが、パイモンさんの話では、片道半日もかからないそうだ。

 

それはすごい。

 

これが誰も作れるものとなったのなら。

 

それこそインフラに革命が起きるだろう。

 

ただし、現時点では、シールドを破りかねないネームドの脅威があるし。荷車ごとに錬金術装備で武装した手練れも必要になる。

 

それらを考えると、とてもではないが、誰もをすぐに輸送する、と言う訳にはいかないのが実情だ。

 

他にも幾つか注意を受けた後。

 

それぞれ、飛行キットを展開した荷車に分乗する。

 

先頭はパイモンさんが。これは、経験者だからである。マティアスに一緒に乗って貰うのは、シールドを展開して貰うためである。

 

マティアスの着ている具足や盾には、今更聞かされるのだが、相応の錬金術での加工が施されていて。

 

それで今までシールドを展開出来ていたらしい。

 

まあそれはどうでもいい。シールド係として、初撃さえしのげればいいのだから。最近はアタッカーに回って貰っているが、マティアスのシールドは頼りになるのである。

 

次はリディーとスールの大型荷車。

 

これは操縦をスールが行い、シールドをリディーが担当する。ドロッセルさんも、これに乗って貰う。

 

邪神退治は久しぶりだと楽しそうなドロッセルさん。

 

色々此方は肝が冷えて仕方が無い。

 

更に後方はルーシャの荷車。操縦はオイフェさんがする。既に徹底的に仕込んであるので大丈夫だそうだ。

 

ルーシャはシールドを担当。

 

なお、アンパサンドさんは此方に乗る。

 

ドロッセルさんとアンパサンドさんが同時に潰されたら、生存の可能性が落ちるから、というのが理由らしい。

 

上空を行く場合、色々と注意がいるのだなと思った。

 

なお、荷車に乗る前に。

 

マティアスとアンパサンドさん、それにフィンブル兄に渡す。

 

それぞれの、ハルモニウム武器である。

 

アンパサンドさんに渡したのは、一対のナイフ。ハルモニウムの、美しく高貴な青紫。しかも刃紋が乗せられている。これは、アンパサンドさんが使うに相応しい武器にするため、という事なのだろう。確かに無骨なだけでは無く、美しさもある。

 

ただ切れ味が尋常ではなさすぎるため、特注の鞘が必要だった。この鞘を作るのがまた大変だった。

 

ナイフは前のより一回り大きいが、それは理由として、軽いからである。

 

間合いが少し伸びるが、その間合いの分、振るった範囲にあるものは全てが切り刻まれる事になる。

 

ハルモニウムの切れ味は尋常では無い。

 

少し演舞してみて、充分にアンパサンドさんは気に入ったようだった。

 

「元のナイフには愛着があるのですが、これは……」

 

うっとりした様子でアンパサンドさんがナイフを見つめている。

 

ああ、なるほど。

 

分かった気がする。

 

分不相応な人が、こういう武器を手にしてしまうと、人斬りに変わってしまう理由がである。

 

アンパサンドさんは大丈夫だろうが。

 

それでも、相当に魅了されている様子だ。

 

多分、すぐにでも試したいだろう。

 

続いてフィンブル兄。

 

ハルモニウムで刃を作り。柄はプラティーンで作ったハルバードである。

 

元々長柄に限らず武器は、最初鍛冶屋の親父さんが警告していたように。単純な方がはっきり言って強い。

 

ハルバードは色々出来る武器だけれども。

 

逆にその色々が、武器としての最終的な性能を引っ張るのである。

 

例えば同じ才能の槍使いとハルバード使いが、同じ時間練習をした場合。勝つのは槍使いだと鍛冶屋の親父さんはいう。

 

ハルモニウム製の刃を持ってもそれは同じ。

 

ただ、今のフィンブル兄は達人と呼ぶに相応しい経験を積み上げてきている。

 

今ならば。

 

ハルモニウム製の武具であり。

 

しかもそれこそ、生半可な使い手が触ったら人斬りマシーンになるような最高品質の武具でも、使いこなせるだろう。

 

「うむ……!」

 

もの凄く嬉しそうに目を細めるフィンブル兄。

 

なんというか、戦士として生まれてくる獣人族らしい喜び方だ。というか、本当は跳び上がって喜びたいのではないのだろうか。ホムであり、感情が薄いアンパサンドさんでさえ、わかり易いほどに喜んでいたのだから。

 

さて、最後にマティアスに渡す。

 

正当派のロングソードである。

 

マティアスの体格などは、親父さんが知っている。完璧な作りに仕上げてくれている。

 

ハルモニウム製のこのロングソードは、青紫の美しい刀身を見せていて。そして勿論魔術を柄に刻んでいるから。他の武器同様、文字通り下手な使い手が持ったら即座に人斬りマシーンに変貌するような次元の武器である。

 

マティアスが何度か剣を振るって。

 

そして、頷いた。

 

「これに、相応しいって、認めてくれるのか」

 

「格好いいよマティアス」

 

「そっか? 俺様かっこいい?」

 

「そういう事言わなければね」

 

すぐに落ち込むマティアスだが。まあ良いだろう。

 

ともかく、武器を渡した後、先にパイモンさんに指示された通りのフォーメーションで移動を開始する。

 

流石に空飛ぶ荷車で移動開始するとなると、やはり非常に緊張する。

 

安全なことは事前に分かっているとは言え。

 

それでも、だ。

 

確かにものすごく早い。ひゅんと飛んで行く。時々驚いたらしいアードラが避けたり。或いは面白がって追従してくるが。

 

あまりにもしつこい個体は、そのままパイモンさんが雷撃で叩き落とした。慣れられると困るから、なのだろう。

 

身体能力を強化して走っても、どうしても今までは速度的に限界があったが。

 

それこそ邪魔が一切無い状況で、この速度でいけるとなると。

 

極めて快適である。

 

しかも揺れないのだ。勿論接敵して戦闘になったら話は変わってくるだろうけれども。その時はその時である。

 

常に緊張する。

 

何があるか分からないし。

 

慣れているパイモンさんについていくために、相当に気を遣い続けなければならない。勿論リディーもそれは同じ。いつ真上から奇襲を喰らっても、シールドで跳ね返さなければならないのだ。

 

確かに半日で現地に到着。多少疲れたが、それは精神力だけ。体力はばっちりである。無駄な戦闘による物資の消耗を避けたのも大きい。

 

一旦街に入って、宿を取る。国庫も確認。使わせて貰うだけだが。錬金術師が来たと聞いて、街の長は震え上がっていた。

 

街の長は年老いた獣人族の男性で。街長を獣人族がしているのは珍しい。多分、昔は豪腕でこの辺りをまとめていた人物だったのだろう。

 

とはいっても現在はかなり年老いて、単に権力のパワーバランスの問題で長をしているようだった。

 

後進の育成を怠ったんだなとスールは思ったが。

 

しかしながら、後進の育成のために手段を選ばないソフィーさんの事を思うと。あまり、後進の育成について口を挟もうという気にはなれなかった。或いは、権力を保持し続けている間に、廻りをイエスマンだけで固めて、こうなってしまったのかも知れないが。しかしながら、どちらにしても、スールにはあまり関係の無い事だ。

 

「そ、その、邪神が暴れだそうとしているという話は聞いております。 このような小規模部隊で、どうにかできるのですか」

 

「今回来ているのはBランクの錬金術師が三人に、Aランクが一人。 アダレットとしては、最高の待遇を用意してくれているのです」

 

「し、しかし……」

 

「一応念のため、避難の準備を。 ああ、そうそう。 この三人はドラゴンを二体仕留めているのですよ」

 

パイモンさんはもっと倒しているだろうなと思いながら、一応にこりとして見せるが。

 

実の所、感情がどんどんおかしくなっている。

 

リディー程じゃないのだけれど。

 

ハルモニウムを完成させたあとくらいからだろうか。

 

散々怖い目にあって。

 

リディーも加速度的に壊れているのに引きずられているのか。

 

どうも様子がおかしいのである。

 

今のも、笑顔を浮かべてみた、という所で。

 

ひょっとして、この間。

 

モロにソフィーさんの目を覗いてしまった影響かも知れない。

 

地獄なんてものじゃない。

 

本物の悪夢が其処にあった。

 

あれから、まともに眠れないし。恐怖で体が動かなくなることもあったのだが。ここ数日は落ち着いてきていて。

 

代わりに、自分が何だか取り返しがつかない所に、足を踏み入れつつあるのが分かってしまうのである。

 

アンパサンドさんが、役人とも話をつけてくれた。

 

咳払いすると、耳打ちされる。リディーとスール、それにルーシャだ。パイモンさんは、聞く理由も無いからだろう。荷物を見張りしてくれていた。

 

「食糧が少し足りないそうなのです」

 

「邪神が出るから、ですね」

 

「……」

 

リディーは即答。

 

スールは少し考えて理解した。

 

邪神が活性化している街の近くなんて、怖くて商人は来ないだろう。

 

来る途中、街道はかなり緑化されている地点も多かった。移動そのものはかなり安全になった筈だ。

 

だが邪神もドラゴン同様に、人間にはまったく容赦しないのである。

 

街に入ったところを邪神に襲われたら、文字通りひとたまりもない。

 

アルファ商会や、コルネリア商会はあるいは来てくれるかも知れないが。

 

アダレットにいる商人はそれだけではないのだ。辺境になればなるほど、独自のルートや人脈を持っている小規模商人が力をまだ持っている。

 

そういう商人は、当然耳ざといし、邪神が近くにいることも知っている。

 

邪神が活性化しているのなら、近付こうとは思わないだろう。命知らずと言うよりも、ただの無謀だからだ。

 

ドラゴンと戦って見てよく分かった。

 

ネームドなら、まだ人間が多くの犠牲を出せば倒せる。

 

獣なら、街の人達でどうにか出来る。犠牲は出るだろうが。匪賊も危険だが、それは同じである。

 

だがドラゴン以上になると無理。

 

多分、商人達は、嫌になるほどそれを理解している筈だ。傭兵達も、である。

 

「分かりました。 どうせ青花の侵食神を倒した後、森にいる獣は根こそぎ退治する予定です。 肉は譲ろうと思います。 この荷車の数では、回収しきれませんから」

 

「スーちゃんもそれでいいよ。 ルーシャは?」

 

「わたくしもそれでかまいませんわ」

 

なんだろう。

 

ルーシャはちょっと諦めてきているような。まあ、気持ちは分かる。ルーシャが置かれている状況は、常人だったら発狂しかねない。深淵の者に殺されてこそいないけれど。きっと酷い目には何度も会わされているし。ソフィーさんあたりに脅かされたら、ルーシャはもう何もできないだろう。勇気をふるって立ち向かったところで、一矢も報いられないのは確実だ。

 

「それじゃあ、パイモンどのには自分から話しておくのです。 皆は討伐の準備を」

 

頷く。

 

多分今までで最強の相手だ。

 

装備類を確認。飛行キットは格納。そして、長期戦にも備える。邪神を殺した後、その庇護下にあった獣どもが、一斉に襲いかかってくる可能性が高いのである。

 

出来れば自警団から人手を出して欲しいのだが。

 

見た感じ、街の人達は邪神に怯えきっている。足手まといにしかならないだろう。

 

宿もフィンブル兄が確保してきてくれたので、頷いて作戦会議に入る。

 

時間はある。

 

さっきまでの強行軍で消耗した分もあわせて。

 

回復も、一緒に済ませておきたかった。

 

 

 

邪神が住まう森の近くに布陣する。近くは海。海風をモロに受けている森で。邪神がいなければ、こうも青々としていたかどうか。

 

邪神を倒した後枯れてしまわないかちょっと不安だ。

 

ただ、こんな貴重な森を放置は出来ないだろう。

 

多分フィリスさん辺りが出張るか。もしくはオスカーさんが来るか。いずれにしても、報告はしておいた方が良いだろう。

 

岩などを利用して。丁寧に森へと近付いていく。

 

途中、荒野で遭遇する獣は見かけ次第全て片付け、処理して荷車に放り込んでいく。それほど大きいのはいない。

 

というよりも、恐らくは。

 

大きいのは、森の中にみんないる、と判断して良いだろう。

 

ドラゴンのブレスを考えると、シールドをいつでも展開出来るようにしておかなければならない。

 

相手はドラゴン並みの火力と装甲に加え、更には超再生能力も持っていると判断した方が良い。

 

ファルギオルはあれだけ弱体化しても、超再生能力は健在だった。

 

下位相当まで力が落ちているとは言え。

 

相手が邪神であるのならば、似たような事が出来ても不思議では無いだろう。

 

逆に好都合だ。

 

今の時点で弱体化しているという情報が入っている。ファルギオルは最強クラスの邪神だった。

 

病み上がりの所を不思議な絵の具で更に弱体化させれば、手に負えるレベルにまで実力を引きずり落とせた。

 

そして今だ。

 

恐らくだが。

 

多分、世界の塗り替えにさえ成功すれば、森にいる獣どももろとも処理出来る。

 

作戦は幾つか決めたが。先行しているアンパサンドさんが、警戒しろとハンドサインを出してくる。

 

時々ちょっかいを出してくる小物は、ドロッセルさんがぷちっと潰し。

 

皆は出来るだけ体力を温存。

 

何かしらの広域攻撃が来た場合に備えて、ルーシャとリディーはまとまっている。アンパサンドさんは少し先行しているが。

 

今まで見てきた、ドラゴンや邪神などの実力を見る限り。

 

正直アンパサンドさんほどの実力者でも、回避盾には限界があるかも知れない。

 

いや、勿論アンパサンドさんは今まで殆ど完璧に仕事をこなしてきてくれている。だが、それでもこの荒野全域を一瞬で灰燼と化すような攻撃が飛んできた場合、狙いをそらすどころではないだろう。

 

黙々と移動を続け。

 

ほどなく、森の入り口近くに出る。

 

この辺りは殆ど獣がいない。

 

見張りについていた人によると。邪神は栄養補給のためか、触手を伸ばして獣を補食している、と言う事だが。

 

それが理由かも知れない。

 

森はかなり近いが、いつも見かける安全な森とは根本的に違う。なんというか、とんでもなく邪悪だ。

 

邪悪というのは間違いかも知れない。

 

気配がおかしいというか、歪んでいる。

 

何かろくでもないものが潜んでいるのは確実と見て良い。

 

生唾を飲み込む。

 

確かにこれでは、邪神がいるのも不思議では無い。

 

アンパサンドさんがハンドサイン。

 

いる、と言う事だ。それもかなり近くに。

 

絵の具を使うタイミングは任されている。近くにいるのであれば、使ってしまうのが良いだろう。

 

幸い、絵の具は改良を重ねている。

 

お父さんとも話して、実際に使って見せ。効果範囲や効果時間についても、かなり改良が進んでいるのだ。

 

お父さんはこれ以上自分は伸びないと言っていたが。

 

それでも、不思議な絵画関連については専門家。専門家の生の意見は、とても参考になった。

 

それでも念のためだ。

 

相手が植物に近い姿の邪神だという事もある。深く根を張っている可能性を考慮して、最接近したい。

 

生唾を飲み込む。

 

戦っている時は、素直に集中できる。

 

そうで無いときは。

 

もう諦めるしかない。

 

深淵に引きずり込まれるのは確定事項だ。

 

力の差もありすぎるし、どうしようもない。そして世界が詰んでいて、出来る事があるならやらなければならない。

 

分かっているから、此処にいる。

 

大きく嘆息すると。頬を叩く。邪神は近くにいるという事だが、動かない。アンパサンドさんの様子からして、地下から奇襲をしかけてくる、というような様子も無さそうだ。アンパサンドさんは敢えて気配をさらして相手を挑発している。

 

もしも邪神がその気なら。

 

仕掛けて来ているはず。

 

それとも、そこまで弱気になっているのか。そうとは考えづらい。

 

リディーが、不意に顔を上げる。何かに気付いたか。

 

同時に、スールも、背筋に寒気が走るのを覚えていた。

 

絵の具を握りつぶす。

 

視界が灼熱の赤に包まれたのは、次の瞬間だった。

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