暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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邪神との戦闘で、双子は世界の塗り替えという切り札をもっています。

これも絶対ではありませんが(ぶっちゃけ原作でもそこまで圧倒的なものではないですね……)、それでもあるとないとでは雲泥の差があります。

ファルギオルを倒す切り札になったように。これがあれば、まったくというほど状況が変わるのです。


2、邪神・青花の侵食神

灼熱の溶岩が流れ落ちる地獄に、周囲の生物全てが巻き込まれていた。絶叫しながら転がり回る獣。そして、何よりも、である。

 

螺旋状に枝をねじり上げて、射出する寸前の姿となっている邪神を、至近で確認していた。

 

ゆっくり動いて。

 

攻撃の気配を気取らせなかったのか。

 

それは文字通りの魔樹。

 

枝に無数の目がついていて、全身から触手を大量に展開している。それらは常に蠢いていて、環境の激変によって受けたダメージを回復しようと試みているからか、周囲の獣を捕獲し、体中にある口で捕食し始めていた。

 

勿論、即座に全員が動く。

 

最初に動いたのは、パイモンさんだった。

 

雷神の石……いや、違う。もっと凄くごつい。とにかく雷神の石の強化版らしい道具を振り上げると。

 

周囲に、無数の雷撃が叩き込まれ。小物の獣は、殆どが一瞬にして消し炭になっていた。流石に魔力の消耗は凄まじい様子だが。流石パイモンさんだ。恐ろしい火力である。

 

お返しとばかりに、邪神からぶっ放される螺旋。

 

これを、ルーシャとリディーが、気合いを入れてシールドを貼り。食い止める。

 

いきなりぶっ放されていたら、多分間に合わなかっただろう。

 

だが、この姿を見た後だ。

 

充分に対応は出来た。

 

突貫。

 

全員が、群がる獣を押しのけながら。灼熱の大地で、邪神へと突撃する。

 

根を地面から引き抜く邪神。

 

それが狙いだ。

 

地面の下から、根を使って好き勝手に攻撃されてはたまらない。だから灼熱地獄に世界を塗り替えたのだから。

 

しかしながら、相手は邪神。

 

どれだけ弱体化させたって、油断なんて出来るわけが無い。

 

直後、その実力を思い知らされることとなった。

 

何か、耳障りな音が響いたかと思った瞬間。

 

凄まじい量の雨が、辺りを乱打し始めたのである。

 

一気に周囲の温度を下げようというわけで。

 

そうでなくても、これはまずい。

 

案の定、溶岩が雨と反応。凄まじい蒸気が立ち上り始める。邪神はこれも想定している可能性が高い。

 

人間では戦闘不可能な状況を作り出す事で。

 

我慢比べに持ち込もう、と言う訳だ。

 

それと同時に。

 

そう、全くの同時に、空中に百を超える魔法陣が出現。

 

魔法陣の全てから、無数の枝が。

 

槍のように鋭い枝が伸び、一斉に全方位から襲いかかってくる。シールドを張ろうにも、魔法陣は現れては消え、現れては消える。そして槍を無差別に無茶苦茶に繰り出してくるのだ。

 

流石に邪神。

 

弱体化していても、これほどか。

 

「至近距離に来た攻撃だけ防げ! 陣形はもう意味を成さぬ! 近接戦で挑むぞ!」

 

邪神との戦闘経験があるらしいパイモンさんが吠え、ドロッセルさんが直後には、邪神に大斧を叩き込んでいた。

 

凄まじい音と共に。

 

文字通り爆破されて、弾き返される。

 

爆発で身を守っているのか。

 

ルーシャが射撃しようとする瞬間、スールがルーシャを背中から貫こうとした枝を蹴り折る。

 

そうだ。

 

この脚力、何かに生かせないか。

 

殆ど異次元な動きをしているアンパサンドさんに、身体能力はスールの方が上だと聞かされている。

 

ならば、魔力を上乗せすれば。

 

オイフェさんも戻ってきて、ルーシャとリディーのガードに回る。

 

頷くと、リディーもシールドは諦めて、攻撃に魔力を廻し。

 

ルーシャも、連続して魔樹を砲撃に掛かる。

 

だが、次々と巻き起こる爆発が、魔樹を攻撃から守る。

 

あれをどうにかしないと。

 

とても奴に直接打撃を通せない。

 

「……いいのです?」

 

前線から一瞬で戻ってきたアンパサンドさんが、後衛組に聞こえるように言う。

 

今も、丁度雷神の石での一撃が爆破に防がれて、パイモンさんが舌打ちしている所だった。

 

「どうやら魔樹が体を揺らしているのは、あの枝を出す詠唱のためだけでは無さそうなのです。 何か舞うのが見えているのです」

 

「……あっ!」

 

「リディー?」

 

「スーちゃん、ルフト!」

 

良いのだろうか。

 

ルフトなんか使ったら、蒸気を思いっきり浴びせて、奴に水をたっぷりくれて……。いやまて。

 

そういえば。あの魔樹が展開している雨の術式。

 

何故奴に直接降り注いでいない。

 

ルフトを取りだすと。

 

放り投げる。

 

同時に、ハンドサインを見た前衛が、全員飛び下がった。

 

ハルモニウム製の武具でも、相手に届かなければ意味がないのである。

 

妥当な判断だ。

 

勿論敵は迎撃に掛かるが、あの爆発、本体しか守っていない。何よりも、アンパサンドさんが突貫。

 

槍を全部、バターより容易く切り裂いていた。

 

速い。残像さえ作らず、瞬く間に切り裂いていく様子は凄まじい。勿論苛立った邪神は、アンパサンドさんに対して、向き直る。

 

何かするつもりだが、そもそもさせない。

 

敵至近に到達したルフトを。

 

バトルミックスで、フルに出力を上げて、炸裂させた。

 

暴風が、雨を全て吹き飛ばし、爆発を力尽くでねじ伏せて、上空へと舞い上げる。邪神は怒りの声を上げる。無数の目がうごめき、体中にある口が吠えた。奴は濡れているのに喜んでいない。

 

なるほど、分かった。

 

奴は動きながら、爆発する粉をまき散らしていたのか。

 

最初に突貫したのはフィンブル兄。

 

一刀に、大きめの枝を斬り伏せてみせる。

 

勿論相手は邪神。

 

目だらけの趣味が悪い枝も、即座に再生してくる。

 

だが、そんな事は承知の上。

 

攻撃が通ったことに意味がある。

 

ドロッセルさんの大斧が、幹を両断する勢いで叩き付けられ。更にマティアスの大剣が、枝をまとめて薙ぎ払う。

 

瞬時再生と、此方への枝での無差別攻撃を同時に行いながら。

 

邪神が、時間を掛けて詠唱をして行くのが分かる。

 

まずい。

 

元々邪神は詠唱を超短時間で済ませてしまうケースが多い。それだけ魔術と親和性が高い存在なのだ。

 

邪だろうと神だから、である。

 

それが、この時間の詠唱。

 

全力で何かぶっ放してくる、という事である。

 

しかも雨が降り注ぐことで、爆発は押さえ込めたが、その代わり敵の再生力は増しているのである。

 

蒸気も視界を塞ぐし、地味にいたい。

 

さっきから、何度も枝が鋭く体を抉っている。オイフェさんがどれだけ頑張ってくれても、スールがどれだけ勘を働かせても、真後ろや、至近から来た枝を即回避するのは不可能だ。動き回りながら、どうにかするしかない。

 

リディーのハンドサインを見て、頷く。

 

パイモンさんが、雷神の石をフルパワーでぶっ放すのと。

 

ルーシャが全力砲撃しつつも、体の何カ所かをえぐい抉られ方をするのは殆ど同時。

 

炸裂した二射で、邪神青花の侵食神の全身が派手に抉られるが。即座に回復していくし、詠唱も止まらない。

 

直後。再び前線に戻ったアンパサンドさんが、魔樹の全身にある眼を、殆ど全て、一瞬で抉り抜いていた。

 

流石ハルモニウム製の業物。

 

鍛冶屋の親父さんがいっていた。これは、魂を込めた一作だと。

 

余程に頭に来たのだろう。奴がアンパサンドさんに向き直る。フィンブル兄とマティアスさん、ドロッセルさんには、まとめて今まで以上の槍を叩き込んで距離をとらせつつ。詠唱を収束させる。

 

光が、一瞬世界から消える。

 

そして、極太の光線が、アンパサンドさんの至近を抉り。

 

炸裂していた。

 

空間が揺らぐ。

 

それほどの破壊力だった、と言う事だ。

 

しかも湯気で殆ど威力を落としていない。つまりあれは、光線と言うよりも、魔力砲の究極点だった、と言う事だろう。

 

アンパサンドさんを全力で狙いに行く。

 

それが隙になる事を承知で、奴は動いた。

 

アンパサンドさん。叫ぶが、返事はない。だが、リディーは冷静過ぎるほどに、動いていた。

 

ハンドサインを出しているのが見える。

 

頷く。

 

唇を噛みしめる。

 

アンパサンドさんが、何処にいるかはまだ確認できていない。

 

だが、この隙を逃せないのだ。

 

投擲するのは、オリフラム十個を束ねたもの。

 

これをバトルミックスで全力強化する。

 

さっきのルフトとは火力が違う。ましてやオリフラムは嫌になるほど作ってきたのだ。今なら、イル師匠にもそれほど酷評されない自信がある。

 

流石にコレはまずいと思ったのか、邪神が枝を出して防ごうとするが。

 

その体を、ドロッセルさんが無理矢理枝を突破。

 

全身血だるまになりながらも、一刀両断する。

 

文字通り幹を粉砕された邪神は、凄まじい雄叫びを上げながら、大量の槍をドロッセルさんに叩き込んで遠ざけ。

 

そして、立て続けに切り込んできたフィンブル兄を、無数の枝を盾にすることで、一撃を防ぎ抜く。

 

数を集めれば、ハルモニウムの斬撃すら防ぐのか。

 

続けてマティアスが突貫。

 

だが、ステップして下がる。

 

次の瞬間。

 

敵の至近に落ちたオリフラムが、バトルミックスで炸裂する。きのこ雲が上がる。

 

空間が、かなり危うくなってきている。

 

呼吸を整えながら、周囲を確認。

 

倒れているアンパサンドさんを確認。

 

やはり、かなり酷い状態のようだ。

 

すぐにオイフェさんが抱えて戻ってくる。

 

爆炎を斬り払うようにして、奴が姿を見せる。邪神だ。この程度で倒せないのは分かっていた。

 

だが、これは。

 

名前の意味が、漸くわかった。

 

奴は、幹を全て吹き飛ばされ。

 

その後、形態を変えたのだ。

 

いびつな人型で、頭の所には青い花がついている。

 

どうやら前の形態で撃退出来る相手では無い、と判断したのだろう。

 

光栄な話だが、さっきの一撃で死んでくれた方がもっと嬉しかった。此方は既に皆傷だらけなのだ。

 

ぎしり、と体を前向きに傾けると。

 

邪神が動く。

 

ドロッセルさんの背後を容易くとると、受け身すら取らせず、蹴りを叩き込み、吹き飛ばしていた。

 

リディーが、霊薬をアンパサンドさんの口に注いでいるのを見ながら、スールは突貫。

 

形態を変えてから、あの枝の暴力的な全方位攻撃が止んでいる。

 

この状態なら、動きを止めれば、多分パイモンさんの大火力攻撃を叩き込める。

 

そう思った瞬間。

 

地面に叩き込まれていた。

 

息が出来ない。

 

どうやら、瞬時に上に回り込まれた邪神に、背中を蹴られ。地面にめり込んだらしい事は分かったが。

 

ハルモニウムの錬金術装備であれだけ強化していたのに。

 

守りを、紙のように破られた。

 

必死に息をしようともがくが、体中が痺れている。

 

それほどの。

 

今まで浴びた中で、一番強烈な一撃だった、と言う事だ。

 

がつん。どがん。凄い音がする。

 

一撃ごとに、誰かがやられているのだと、本能的に悟る。

 

このまま寝ていてもいいのか。

 

良いわけがない。

 

起きろ。

 

必死に言い聞かせながら、立ち上がる。

 

雄叫びを上げながら、周囲を見る。ルーシャ、血を吐いて倒れている。リディーは、シールドを展開し、それごとぶち抜かれて吹っ飛ばされた。

 

前衛は殆ど限界。

 

冷静に目を閉じ、詠唱しているパイモンさん。何か大きいのを狙っていると見た。アンパサンドさんは。

 

パイモンさんの背後に、邪神が出現。

 

腕のようにねじり上げた枝を振るって、首を刎ねに掛かる。

 

だが、その枝が、派手に切り裂かれていた。

 

呼吸を整えながら、地面をずり下がるアンパサンドさん。口からは血が伝っている。無言のまま、突貫するアンパサンドさんは、一瞬だけ此方を見た。

 

分かっている。

 

取りだすのは、フラムだ。

 

相手は形態を変化した。

 

つまり、前の状態ではまずいと判断したと言う事だ。

 

要するに火はとても良く効く。

 

そしてこの環境下。

 

奴も短期決戦に切り替えないと、まずいと判断したという事である。

 

ならば、もう一度。

 

兎に角チャンスを作って、奴にフルパワーのバトルミックスを叩き込むしかない。

 

「ブル! 頼むぜ!」

 

「応っ!」

 

フィンブル兄が、地面にハルバードを突き刺すと。それをしならせて跳ぶ。

 

同時に、マティアスが、地面ギリギリに、フルパワーで跳んだ。

 

アンパサンドさんと苛烈な高速戦闘をしていた邪神がそれを見て、一旦アンパサンドさんと距離を取ろうとするが、横殴りにその体を襲ったのはドロッセルさんの大斧。倒れているドロッセルさんが、投擲したのだ。

 

空間が、もう持たない。

 

目を閉じると。魂を込めた一投に備える。

 

パイモンさんが、全力を解放。

 

周囲の音が消え。

 

爆音が、蒸気を全て薙ぎ払う。

 

今までに見た事も無いような太さの雷撃が、邪神を直撃していたのが分かった。

 

更に、其処へ、空中機動したフィンブル兄が、真上から振りかぶった一撃。

 

舐めるなとばかりに、魔樹が体をうねらせ、回し蹴りでフィンブル兄を吹っ飛ばす。

 

だが、それを待っていたかのように。

 

マティアスが、叫んだ。

 

「見せてやるぞ、王家の秘剣ッ!」

 

邪神が振り返りつつ、腕を振るうのと。

 

体を旋回させながら、一瞬で三十を超える打撃を叩き込むマティアス。

 

アインツェルカンプと聞こえたが。

 

恐らくは、そういう名前の技なのだろう。

 

体に力がみなぎる。

 

リディーの支援魔術だ。

 

同時に、邪神の体をシールドが覆う。

 

ルーシャが、気合いを振り絞って作り出したシールドだ。

 

逃げ出そうとする邪神を、オイフェさんがシールドの中に蹴り戻す。

 

立て続けの猛攻を浴びた邪神は、流石に再生仕切れていない。そこへ、スールは。針の穴を通す一投で。

 

残ったオリフラム全てをまとめた爆弾を投擲。

 

そして、バトルミックスで、全力強化した。

 

悲鳴を邪神が上げるのが分かる。

 

そして、それは。

 

爆裂の閃光と火力の前にかき消されていた。

 

 

 

爆発が、シールドを貫通。更に世界の塗り替えも吹っ飛ばして、何もかもを蹂躙。一撃は空へ伸び。雲をふっとばして、蒼天を作り出していた。

 

呼吸を整えながらも。

 

しかし、膝が地面につくのが分かった。

 

汗がダラダラ流れる。

 

一気に周囲が涼しくなったが。

 

だが、今の戦闘は、本当に厳しかった。パイモンさんが、黙々と負傷者を抱えて、手当を開始。

 

スールも担がれて、荷車に乗せられた。

 

荷車は戦闘前に、スール主人で、「固定」で命令を指定してある。

 

パイモンさんは、スール、ルーシャを担いで、それぞれ命令を解除させ。そして一旦街へと引き上げる。先頭をリディーとスールの大型全自動荷車に。後を追従にして。

 

その過程で、邪神が落としたらしい、美しい青い花を、しっかりパイモンさんは回収してくれていた。

 

冷静な老人がいてくれると助かる。

 

薬を惜しまず投入しながら、パイモンさんは回復の作業を進めていく。

 

リディーが一番最初に復帰したので、手伝いを開始。

 

怪我は予想通り、アンパサンドさんが一番酷い。おなかが破れて内臓が見えている。こんな状態で、邪神とガチンコをしていたのか。信じられない。今は目を閉じて、無言で静かに呼吸しているが。

 

普通だったら発狂するほどに痛いはずだ。

 

リディーを最初に回復させたのは、多分手数を増やすためだなと、冷静にスールは見ていた。

 

まず傷を丁寧に洗い流し。消毒を行い。

 

其処に、惜しみなくお薬を投入していく。

 

パイモンさんもよく見なくても傷だらけなのだけれど、殆ど気にしている様子が無い。文字通り場数の踏み方が違うからだろう。

 

前に処刑した匪賊の老人とはまるで違う。

 

アンチエイジングで若返っているとは言え。

 

この人の行動には、年を重ねて、錬磨を重ねた確かな安心感がある。

 

例え錬金術の腕で上回ったとしても。それは当面超える事が出来ないだろうと、スールは思った。

 

凄いなあ。

 

関心しながら、ぼんやりと手当を見ている。

 

渾身の一撃を繰り出したマティアスは、意識が戻らないが。命には別状が無い様子である。

 

フィンブル兄は、比較的早めに復帰。

 

手当の手伝いを開始。

 

荷車が街に到着。

 

同時に、荷車を降りたパイモンさんが叫ぶ。

 

「湯と肉入りか卵入りの粥を!」

 

「じゃ、邪神は」

 

「闘滅した! だが見ての通りの被害だ。 急げ!」

 

すぐに街の人達も動く。

 

邪神の恐怖で震え上がっていただろう所だ。これで、やっとある程度まともに動く事が出来るだろう。

 

すぐに荷車から宿に治療場が移される。

 

リディーがまず場を消毒。

 

更にシートを敷いて、治療するためのスペースを作ると。応急処置が終わっている者から、順番に手当をしていく。勿論状態が酷い者が優先だ。

 

「まだ寝ていなさい」

 

「ごめん、ルーシャ」

 

「いいのですわ」

 

ルーシャが歯がみしているスールを寝かせると、手際よく服を脱がせて、手当をしていく。

 

パイモンさんも、こう言う場ではああだこうだ言っていられないと知っているのだろうし、経験も積んでいるのだろう。

 

必要な場合は服を脱がせて。

 

薬を手際よく塗り込んでいった。

 

手慣れているなあと思ったが。

 

この人は、そういえば年老いてからやっと公認錬金術師試験を受けた、と聞いている。

 

ひょっとして、故郷の村ではずっと戦力の中核兼、医者として活動を続けていたのかも知れない。

 

だとすれば、これだけ慣れているのも納得か。

 

ドロッセルさんが、いつの間にか治療に加わっている。多少の怪我などものともしないという雰囲気だが。

 

邪神の人間形態によるフルパワー攻撃をまともに食らったのだ。

 

この人が規格外に頑強すぎるだけだろう。

 

二刻ほど、手当が続き。

 

程なく、意識をいつの間にか失っていたスールは。

 

叩き起こされるようにして、目を覚ましていた。

 

どうやら、手当は終わったらしい。スールも、リネンを着せられ、横になっていた。

 

戦いの中で、思いついた。

 

フルパワーの魔力と、筋力を一点に集中させる攻撃は出来ないか。射撃だけだとやはりまだまだ火力不足だ。

 

それこそ、相手に大穴を開けるくらいの火力を実現したい。

 

バトルミックスは、戦闘時に使える回数に限界がある。

 

だったら。

 

もう夕方になっていたらしい。いつの間にか来ていたリディーが起こしてくれて、粥を食べさせてくれる。

 

おかしくなっていても。

 

こういう所は、リディーだと思う。

 

卵の粥は温かくて元気が出る。味は残念ながら、殆どしなかった。こんな小さな街だ。塩もロクに手に入らないのだろう。

 

「パイモンさんと話したんだけれど、一晩経ったらもう一度あの森に行くよ」

 

「あの花の他にも、何か回収していないものがあるの?」

 

「ううん、邪神はコアを粉砕するのを確認したから、あの花だけだって。 花に関しては、貴重な品らしいから、コルネリア商会に登録して、後は皆で自由に買えるようにするつもりだって」

 

そうか。そんなに貴重な花だったのか。

 

しばし茫洋としている内に、また眠ってしまったらしい。体がそれだけ無茶苦茶な酷使に悲鳴を上げている、と言う事だ。

 

そのまま休む事にする。

 

次に目が覚めたのは、翌日の朝。

 

霊薬も含めて、錬金術の奇蹟の薬を惜しみなく使ったのだろう。だいぶ体は楽になっていた。

 

アンパサンドさんも起きて、外で例の奴をやっている。

 

スールも外に出ると、一緒に並んでやってみる。

 

流石にアンパサンドさんは、本当に全身を隅から隅まで制御しているのだなあと、感心するばかりである。

 

うねうね動き終わると。

 

宿に戻って、正装に着替えた。

 

この服も、ヴェルベティスで強化していたら。きっとあんな無様な戦いにはならなかった筈だ。

 

それを考えると口惜しくてならないが。

 

今は、自分の実力のなさを噛みしめて、反省する。それ以外にはない。

 

とりあえず、皆無事に降りてくる。胸をなで下ろす。一人も欠けていない。手足も失っていない。

 

あの邪神の凄まじい強さを見た後だと、それだけで充分としか言えなかった。

 

パイモンさんが最年長者だからか、手を叩いてリーダーシップを取ってくれる。そう思ったが、パイモンさんは、リディーにリーダーシップを取るように直接言った。これは後輩に経験を積ませるためか。

 

パイモンさんはルーシャにも言う。

 

「君はまだ危なっかしい双子の背中を守るのだ」

 

「はい、分かりましたわ」

 

「うむ」

 

それで良いとスールも納得する。ルーシャに背中を守って貰えれば、本当に有り難いと思う。

 

昔のスールだったら、此処で反発していただろう。ルーシャをバカにしきっていたからだ。

 

今は違う。

 

実力でも実績でもルーシャが先達で。リディーとスールの事実上の姉がルーシャだという事も。どれだけ心を砕いてくれていたかも。良く知っているからである。

 

まず、リディーが言う。

 

「それでは、皆の体の状態を見ながら、残党の処理に掛かります。 戦闘が無理そうな人はいますか」

 

「俺は問題ない」

 

「俺様も」

 

オイフェさんを見ると。無言で頷く。前に何も言わないオイフェさんがダウンする事があったので、リディーは一応丁寧に確認したが、大丈夫と言う様子だった。

 

ルーシャも極めて寡黙な、ホムが多弁に見えてくるほど何も喋らないオイフェさんとの意思疎通は難しいようだが。

 

それでも、何とかお薬をフルに投入した治療は、効果を示したとみるべきだろう。

 

「それでは残党処理を開始します。 スール、まだ不思議な絵の具は残ってる?」

 

「うん、ばっちり」

 

「それでは、森の中にいる獣を一旦全て駆除。 邪神を殺すと、その影響で力が漏出し、ネームドがしばらくは出現しやすくなるそうです。 少しでも被害を減らすために、今いる大物は、可能な限り駆除します」

 

無慈悲な言い方かも知れないが。

 

しかしながら、ネームドによる被害の大きさを考えると、これは残当である。

 

すぐに準備を整え、出る。

 

アンパサンドさんが、街の長に、邪神を退治したこと、それにこれから大きめの獣は全て駆除する事も、周囲の街に伝達するように指示。街長はすがるようにして、アンパサンドさんに感謝していた。

 

あれは、もういい。

 

後は、残党を処理して。Aランク試験は終わりだ。

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