暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
お父さんから連絡がある。
スールを見て、お父さんは大きく息を吐いた。それが、諦観から来る事は明らかだったが。スールももうこれについては受け入れた。
「オネットの残留思念がいる絵だが、国に納品した」
「どういうこと?」
「レンプライアの汚染が危険すぎるという判断だ。 現在、何人かの高位錬金術師が、内部で掃除を行っている。 お前達以上の、な」
「……」
Aランクのアトリエに到達しているのは、現時点では三傑を除くと、アルトさんとパイモンさん。それにリディーに聞いたのだけれど、ルーシャも到達しているそうだ。そしてどうやらプラフタさんも最初からAランク待遇でアトリエランク制度に参加するらしい。Aランク待遇なら、お父さんもそうだ。
そしてこの中でも、アルトさんとプラフタさんは、格上の存在であることはリディーもスールも分かっている。
多分三傑か。それともアルトさんかプラフタさんが。
それぞれ深淵の者の精鋭とともに、潜っているのだろう。
もう一つ。
重要な話があると言う。
「既にレンプライアに汚染されつくし、真っ黒になった不思議な絵画が見つかっているのは知っているか」
「ううん。 レンプライアの話を聞く限り、最悪そうなるだろうとは思ってはいるけれど、あるんだ。 廃棄とかはしないの?」
「……お前達には話せと言われているから話す。 俺の絵から、その絵にレンプライアのコア……つまり最強のレンプライアにして、レンプライアの支配者を移動させる計画を今動かしているらしい。 だが不思議な絵はそれぞれがつながっているらしくてな。 コアを移動させた後、即座に叩かないとオネットが危険だそうだ」
そうか。
それならば、仕方が無いだろう。
誰だか知らないが、不思議な絵画を作った。その不思議な絵画は、悪意によって塗りつぶされてしまった。
其処へ、あの天国のような世界に巣くったレンプライアを移すのであれば。
何ら問題は無い。
その後殲滅することに関しても、何一つ憐憫は無い。
レンプライアは殲滅するべきものだ。慈悲など掛けてやる必要などないのである。
「レンプライアのコアについて聞いた事はあるか」
「うん。 どんな絵にも存在していて、放置しておくと際限なく増殖していくって」
「ああ。 そして今話題に上がったコアは、その絵の法則を乗っ取る寸前まで強大化したコアだ。 邪神とそう実力は変わらないと見て良い」
邪神と変わらない、か。
そしてお父さんがこう言う話をしていると言う事は。
恐らく、いやほぼ確実に。
絵そのものは完成したのだろう。
スールがそれを聞くと。重苦しくお父さんは頷いた。完成が遅れたから、こうなったと思っているのだろうか。
それは違う。
今なら分かるが、あれだけ美しい世界だ。
闇だって当然深かったはず。
人間という生き物はそういう存在だ。
光はあるかも知れないが。
それ以上に闇の方が深い。
そして闇が深いが故に。
闇からしか光は産み出されないのである。
あんな美しい絵でも、ちょっと一枚剥がしてみれば、おぞましい闇が這いだしてくるのは道理だ。
むしろ美しいからこそ。
闇は深いのだと言いきってしまってかまわないだろう。
スールはそんな事を、自然に考えられるようになっていた。
「俺からは以上だ。 いずれにしても、今はまだ準備中だそうで、もう少しコアの殲滅作戦には時間が掛かるらしい。 オネットに関しては、心配しなくても良いそうだ」
「……お父さん、お母さんに会えなくていいの?」
「会えたとしても触ることも出来ない。 側にいるだけなんだから、大して変わりはせんさ」
「そうだね……」
リディーは頷く。
スールも同じように頷いた。
納得したから、である。
そのまま、作業に戻る。
マティアスが来たのは、二日後の事だった。
城の地下エントランスに案内される。其処で見たのは、美しい降るような星空の絵だった。
ルーシャは既に来ている。今回は、アンパサンドさんとフィンブル兄、マティアスと。ルーシャとオイフェさん。それにリディーとスールだけで入る。
この絵は、最近まである役人が死蔵していたらしく。
内部にどんな危険なレンプライアがいるか分からないらしい。
その代わり、絵の完成度は非常に高いため。
内部に極めて貴重な錬金術の素材がある可能性が高いそうだ。
勿論それはアンパサンドさんの視点での話。
ソフィーさんは恐らく、この絵の事を知っている。故に紹介してきたのだろう。
「そういえばアンパサンドさん。 まだまだ不思議な絵画はあるの?」
「幾つかあるのです。 Aランクにまで昇格しているのだし、教えて良いと思うのですが、どうします王子」
「ああ、かまわねーよ」
「それでは」
咳払いすると、アンパサンドさんは教えてくれる。
既に真っ黒になるまでレンプライアに汚染された絵があるという。多分お父さんが言っていた奴だ。これはコアを一度駆除したため、現在は適度な強さのレンプライアが徘徊し、高度な錬金術素材が取れる場所とかしていて。元の絵のルールは失われているという。
現在は主に三傑が利用しているほか。
レンプライアを獣に見立てて、騎士団で訓練をするのにも使っているという。
最近は騎士を増やしていて、部隊を三つか四つ増設する予定らしく。
現時点で、従騎士の中から人材を育て。
騎士一位の中から、騎士隊長を育てるために、この絵を利用しているそうだ。
「他には完成度があまり高くない不思議な絵が幾つか。 軽く調査はしてあるのですが、いずれもわざわざ足を踏み入れるほどでもないのです」
「後進の育成に使うの?」
「まあ、機会があればそうなるのです」
頷く。
マティアスが、何だかスールを見て青ざめているが。
どうかしたのだろうか。
「スー。 何かどうしたんだ? リディーも最近様子がおかしいが、お前も何か……」
「多分深淵に染まったんだと思う」
「はあ? お、おい、大丈夫かよ」
「うん、多分ね」
素っ気ないように感じたかも知れないが。
別に怒ってもいない。
マティアスは良くやっていると今でも思うし。好感が持てるとも思っている。
変わったのはスールの方であって。
それが力に結びつく以上、別に異論は無い。不満もない。どうしてあんなに怖れていたのかがよく分からない。
むしろ晴れやかな気分だ。
ルーシャは悲しそうに此方を見ているが。
理由は分かる。
しかしながら、別に同情して欲しいとは思わない。ルーシャには散々助けて貰った。そして、スールが深淵に落ちたのは、ルーシャのせいではない。
ルーシャは何度か目を擦っていたが。
慰めの言葉など掛けても意味がない。
今度は、お父さんとルーシャを、リディーとスールが守る番だ。今までお父さんは影で色々してくれていたようだし。ルーシャだって、死ぬような目に何度もあって、何度も怖い思いをしているはず。
二度とさせない。
リディーとスールが、深淵の者の要求に応え。
ソフィーさんの満足するレベルの成果を上げれば良い。
それだけで二人は安全なのだから。
では、と。不思議な絵画に踏み込む。
まだ、やる事はいくらでもある。
死ぬわけにはいかない。
(続)
守られるばかりだった愚かな双子は。
ついに他人を守るまでになりました。
苛烈な成長によるいびつな心の変調はあれども。
それでも、双子は納得して受け入れているのです。