暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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精神の決定的な変調で、人間を急激に止めはじめている双子も、体調を崩します。

より脆いスールにより大きな影響が出るのは。仕方が無い事ではあるのです。


3、好きなものの形

まだスールは顔色が悪い。

 

感情がいつ爆発するか分からない様子だが。それでも、城の地下エントランスに集合していた。

 

アンパサンドさんが一番不機嫌そうで。

 

マティアスさんはずっと胃薬が欲しそうな顔をしていた。

 

これはいつ血を見るか分からない。

 

そう判断しているのかも知れない。

 

実際、アンパサンドさんは、怒ったら冗談抜きで容赦しないだろう。殺すまでしないにしても。

 

間違いなくスールは相当怖い目にあう。

 

本気でやりあったら、どうしても支援が必要なスールよりも、対人戦の経験が豊富なアンパサンドさんの方が遙かに強い。

 

これについては、多分この場にいる全員が同意するだろう。

 

強大な相手に対してのフィニッシャーとしての火力はアンパサンドさんは持っていないが。

 

人間に対しては、充分過ぎる殺傷力を持っているのである。

 

流石に三傑のような規格外が相手では厳しいが。彼女らはもう人間とは言い難いし。

 

今のリディーとスールなら充分だ。

 

「騎士団に大きめの仕事が入りました。 今回の調査で切り上げるように……という通達が入っています」

 

「大きめの仕事、ですか」

 

「勿論貴方たちも出るという事です。 つまり、調査を今回で終わらせろと言う意味です」

 

まあ、そう来るだろうな。

 

ソフィーさんが手を回したのだろう。

 

あの人はそれこそ手段を選ばない。

 

リディーとスールを、世界の詰みを打開するための人材にするためなら、それこそ何でもするだろう。

 

アダレットを好き勝手にしているのも。

 

本人のエゴからでは無く。

 

この世界のため。

 

そう考えると、あの人のいう事は正しい。だけれども、それに従っているばかりでは、口惜しい。

 

せめて一矢は報いたい。それには、毎回きっちり指定の課題をクリアする事が第一だ。

 

「スール、大丈夫?」

 

「うん……」

 

薬には頼れない。

 

レシピはさほど難しくはなかった。一種の精神制御剤で、今のリディーにも、お父さんにも作れる程度のものだ。

 

ギフテッドの抑制という、そもそもギフテッドを使いこなしているフィリスさんが何故作ったのかよく分からない薬だ。あの人が無駄をするとも思えない。或いは、ひょっとしてだけれども。

 

ギフテッドを人工的に作り出す計画があったのかも知れない。

 

万回単位で世界の終わりまで見ていて。そしてその記憶を残していると聞いている。

 

それならば、そういった薬を作る必要がある計画を立てた周回があったのかも知れない。勿論、上手くは行かなかったのだろう。上手く行っていたら、リディーとスールのようなポンコツ姉妹に、此処までの試練をぶつける必要なんてなかったのだから。

 

真っ青なスール。

 

鼻を鳴らすと、アンパサンドさんは先に言う。

 

「今回は採取は全般的に広く浅く。 戦力を温存しつつ調査し、その後は最深部を目指して、一気に不思議な絵画の調査を終わらせます」

 

「分かりました」

 

「スール、足を引っ張ったら……」

 

「いや、アン、もうちょっと手加減を……」

 

助け船を出したマティアスさんが黙る。アンパサンドさんに一睨みされたのだ。

 

最近態度が柔らかかったスールのフォローをしたいのは分かるが。此処のレンプライアは、結構強い。強いのはあらかた片付けたけれど、最深部には何がいるか分かったものではない。

 

一人の連携ミスで、全滅の可能性が出てくるのだ。

 

ソフィーさんが噛んでいる事は、アンパサンドさんも理解しているのだろう。要するにそれは。

 

何が奥に潜んでいるか知れたものではない、と言う事だ。

 

マティアスさんはこの辺り理解出来ていない。

 

アルトさんに、深淵の者との関係を聞かされたとき。

 

既にマティアスさんは巻き込まれている。

 

アンパサンドさんがあの時即時で戦闘態勢にそれが理由。

 

もっとも。

 

状況から考えて、ミレイユ王女も、深淵の者には逆らえないのだろうが。

 

絵に入る。

 

レンプライアは露骨に減っている。やはり、大物を倒す事には、大きな意味があるようだ。小物ばかりがいるが、いずれも今まで戦って来たレンプライアよりも小さいし。戦力に差も無い。

 

特徴はそれぞれ厄介だが。

 

だがどうもレンプライアというのはパターンが少ない存在らしく。

 

同じ能力を持っていてより強い、というものはいても。

 

獣のように、まるで別物のような能力をひっさげて強化された個体が出てくるような事はほぼない。

 

採集をしたいけれど、我慢する。

 

時々、アンパサンドさんが空中機動を使って、周囲を偵察。

 

地図を作り上げていく。

 

どうやら、あの砂漠の不思議な絵画「エテル=ネピカ」と違って、この世界は平面で出来ているらしい。

 

遠くは暗い壁になっていて。

 

地平線の類も確認できないそうだ。

 

また、時間とともに星が動く様子も無い。

 

要するに、この絵を描いた錬金術師にとって良いものだけを集めた世界という仮説は当たっている、と言う事だろう。

 

今まで見た所を、レンプライアを駆除しながら一通りみて回る。それほど強いのはやはりいない。

 

何か強力な敵が入ってきたと判断し、戦力を集中している可能性はある。

 

また、意図的に弱いレンプライアばかりをぶつけてきていて。

 

悪辣な罠に誘導している可能性も否定出来ない。

 

アンパサンドさんが少し先を歩いているが。

 

彼女も、徹底的に周囲を警戒してくれている。此方も、いざという時の攻撃に備えていなければならないだろう。

 

スールを心配そうにルーシャが見ている。

 

スールは青ざめてはいるが。

 

少なくとも、現時点で連携を乱すような行動は取っていない。

 

フィンブルさんが見かねたか、スールの側につこうかとリディーに視線を何度か送ってきたが。

 

首を横に振った。

 

駄目だ。

 

此処は、スールが。

 

自分で壁を越えなければならないのだ。

 

「!」

 

足を止める。

 

上空に上がって、降りてきたアンパサンドさんが。ハンドサインを出してくる。

 

どうやら中枢を見つけたらしい。

 

ここからが、恐らくは本番だ。

 

皆が気合いを入れる。ルーシャに至っては、傘の調子を確認している。どんどん拡張肉体も改良しているようだけれど。ルーシャはいつも相当な無理をしている。傘だって、毎回壊れているのを、必死に直しているのかも知れない。ハルモニウムを投入しているとなると、傘の修理費は、ヴォルテール家であっても無視出来るものではないだろう。

 

丘に、うねった道が走っていて。

 

そして、丘の頂上に出ると。

 

それが見えた。

 

虹色に輝く、巨大なる水晶の塊だった。

 

レンプライアは、少なくとも見かけられない。だが、嫌な予感がビリビリする。

 

先にアンパサンドさんが行く。

 

しばらく、周囲を固めながら警戒。

 

勿論、丘を迂回して背後からレンプライアや、絵に棲息する獣が強襲をしかけてくる可能性もある。

 

いつでもシールドを張れるようにしながら。

 

最大限の警戒を続けた。

 

ほどなく、アンパサンドさんが手を振って来た。どうやら、周囲に危険はないと判断したらしい。

 

巨大な水晶の塊に歩み寄る。

 

ああ、なるほど。

 

側に近付くと、分かった。

 

普通の水晶ではあり得ない、極めてぎらついた輝きである。他は、なんというか無難な美意識が再現されていた。

 

だが、心の深奥にあるこれは。

 

まさにこの絵を描いた作者の、真の願望。

 

ぎらついた欲望が、形を為している、というわけだ。

 

周囲に警戒を頼んだ後。

 

リディーは、スールの手を引いて、水晶の塊の周囲をゆっくり廻りながら確認。声を聞いていく。

 

スールにも聞こえている筈だ。

 

そして、恐らく此処だろうと思った場所に、杖を降り下ろす。

 

亀裂が走る。

 

もう一度。

 

元々のリディーの腕力では、絶対に何のダメージも与えられなかっただろうと断言できるけれど。

 

今の、ハルモニウムで作った錬金術装備を身につけているリディーならば。

 

そして、スールが呼吸を整えると。

 

渾身の蹴りを叩き込む。

 

水晶の一部がひび割れ。

 

そして砕け、吹っ飛んだ。

 

ぎらついた欲望の塊が、一部崩れて。其所から、泥のようなものが出てくる。触らない方がいいな、と思い。

 

リディーはスールと一緒に、水晶の欠片だけを回収して、一旦距離を取る。

 

水晶が血を流すようにして、しばし泥を垂れ流していたが。

 

やがてそれは収まった。

 

ぎらついた輝きは消えない。

 

それどころか、欠損した水晶は、確実に復元していくようだった。

 

泥も、それに伴って消えていく。

 

さて、何か罠か何かが仕込まれているか。

 

しばし警戒するけれど。

 

どうやら、そんな様子は無い。

 

スールが胸をなで下ろす。

 

まだ、人間的な動作をするんだなと、リディーは他人事のように思った。

 

いずれにしても、悪趣味な水晶は手に入れたが。

 

アンパサンドさんが顎をしゃくって促す。

 

これほどの大きさではないが、まだまだたくさん水晶の塊がある。

 

そして、順番に砕いて調べて見る。

 

ぼろぼろと宝石や、鉱石が出てくる。いずれも高級な品ばかりだ。

 

中には七色に輝くものもあった。

 

ルーシャが声を上げる。

 

「双色コランダムですわ」

 

「……?」

 

「極めて稀少な素材ですわよ。 これは残念ながらそれほど質が良くないようですけれども」

 

まあ、説明は後で聞けば良いだろう。

 

全ての水晶の塊を一旦砕き。

 

そして泥が流れるのを見た後。

 

その様子をメモしておく。水晶は復元していくが。木っ端みじんに爆破してしまった方が良いのではないかと、リディーは思った。

 

この絵は俗物的過ぎる。

 

魂は籠もってはいるだろう。

 

美しい夜空に庭園、果樹園に邸宅。

 

それぞれ、本当に好きなものが、これ以上ない程に再現されているのだから。

 

だが、実際にはどうだ。

 

深奥にあったのは、現世利益に対するド直球とも言える代物だ。

 

金貨や権力ではない。もしそうだったら、隠棲しなかったはずだ。アダレットの権力闘争に嬉々として参加していただろう。

 

このぎらつく輝きを放つ水晶。

 

更に水晶を砕けば流れ出るおぞましい泥。

 

総合して考えるに。

 

この絵を描いた人間は、早い話が承認欲求の塊だった、と言う事だ。普段は押さえ込んでいて、それを徹底的に抑圧していたのだろう。権力には興味はなかったが、名声には興味があった。それが得られなかったから、アダレット中枢から離れたのだ。

 

多分だが。

 

この絵を描いた人について調べれば、出てくるのは「慎ましやかな人」という評価だろう。

 

だがその実態はこれだ。

 

現実に聖人なんて呼べる人は滅多にいない。

 

確かに立派な人はいるが。

 

少なくとも「みんな」に聖人だと思われているような人間の正体は、大体こんな所なのだろう。

 

ますます「みんな」が嫌いになる。

 

顔を上げたのは。

 

どうやら、これ以上壊されるのを嫌がったらしい水晶から、泥が自動的にあふれ出したからである。

 

それはこの水晶の広間の中央に集まり。そして、見る間に巨大なレンプライアに「編み上がって」行く。

 

そうか、レンプライアはこんな風に出現するのか。

 

他の絵でもそうなのだろう。

 

絵にはどうやったって悪意が籠もる。

 

その悪意が、こうやって形になり、どんどん成長して行くことによって。

 

最終的には、レンプライアという怪物になり果てるのだろう。この絵では、その過程がよりわかり易い、というだけだ。

 

吠え猛る巨大レンプライア。

 

上半身だけの奴で、しかも頭部が複雑な形状をしている。一番手強いタイプだ。しかも、今まで見た中で一番大きい。

 

殆ど間を置かず、腕を振り下ろしに掛かるが。

 

真っ先に突進したアンパサンドさんが、顔面を切り裂きながら、後ろの方に出る。腕を振り上げたまま、悲鳴を上げるレンプライアの懐に飛び込んだルーシャがシールドを展開。腕を振り下ろさせない。

 

此奴らは、腕を地面に叩き付けることで、瞬間的に大規模な魔術を発動させる。

 

何度も見てきた。

 

今は、それを防げる動きが出来る。

 

だから、先手を打って動きを潰すだけだ。

 

シールドに弾かれた腕を、オイフェさんがけり跳ばし。

 

更に、渾身の力を込めて、マティアスがレンプライアを斬り伏せ、フィンブルさんが敵左二の腕を跳び上がりながら切りあげ。更に着地しつつ右腕を斬り下げる。

 

体勢を崩したレンプライアに。

 

中空に躍り上がったスールが、メテオボールを叩き込みに掛かるが。

 

瞬間、体勢を立て直すレンプライア。

 

不自然な動きで、体勢を立て直すと、傷をぼこぼこと泡を噴き上げながら修復しつつ、魔力を周囲に放ち、近くにいるものをまとめて薙ぎ払う。そして、顔に当たる部分に巨大な口が出来。左右に裂ける。

 

凄まじい光が撃ち放たれる。

 

狙いは、勿論スールだ。

 

だが、スールは唇を噛むと。

 

渾身の一撃で、メテオボールを光に向けて蹴り込む。

 

一瞬の均衡。

 

だが、それで充分だ。

 

地面に手を突き、リディーが魔術発動。

 

全員の身体能力を、極限まで上げる。

 

吹っ飛ばされつつも、躍り出たマティアスさんが、再び袈裟に斬り降ろす。フィンブルさんが、裂帛の気合いとともにハルバードを突き込む。拮抗していたメテオボールと光。アンパサンドさんが、敵の頭の上に降り立つ。そして、残像を残して、凄まじい回数斬り付けると、跳び離れた。

 

ハルモニウム製の刃である。

 

ナイフであっても、この通り。

 

頭が一瞬にしてグチャグチャに切り裂かれた巨大レンプライアが、流石に尻込みし、光をメテオボールがブチ抜く。

 

上半身を消し飛ばされたレンプライアが、大きくのけぞるが。

 

まだだと、ルーシャが叫ぶ。

 

空中へ躍り上がる。

 

空中機動が出来るようになっていたのか。

 

そして上空から、全力砲撃の体勢に入る。レンプライアはどろりと溶けて泥の海になると、そこから体を再構築。

 

無茶苦茶だ。

 

いや、恐らくこの絵の防衛機構と一体化しているレンプライアなのだろう。

 

この世界の神とも言える存在を半ば喰らっている訳で。

 

強いのは当たり前だとも言える。

 

「くそっ! じり貧だぞ!」

 

斬りかかろうとして、腕で弾き飛ばされ。ずり下がりながらマティアスさんが叫ぶ。リディーの支援魔術でも、捌ききれていない。

 

スールは渾身の一撃でとどめを刺せなかったこともあって、地面で大きく息をついている。人間用の栄養剤を口にして、必死に復帰しようとしているが。少し掛かる。

 

フィンブルさんとオイフェさんは必死にレンプライアの足止めをしようとしているが。

 

近付こうとする度に、腕や。腕からのびた触手に弾き飛ばされて、接近を許して貰えない。

 

更に、触手はリディーにも飛んでくる。

 

シールドを展開。弾き返すが、その隙を突かれる。

 

レンプライアがぐっと上を向き。その体が変形。巨大な長身銃のように、筒状になる。

 

まずい。

 

上空にいるルーシャが狙いだ。

 

間に合わない。

 

光が、一気に収束していく。ルーシャの大規模砲撃よりも、明らかに相手の攻撃の方が早い。

 

そしてさっきの攻撃を受けて学習したか、アンパサンドさんに無数の触手が常時まとわりつき。接近戦を許さない。

 

更にはマティアスさん、フィンブルさん、オイフェさんにも、同じように腕から伸びる触手が常時食らいつき続け、接近させない。

 

まずい。

 

リディーも、気を抜くと触手が貫きに来るのである。触手の先端は鋭い刃状になっていて、突き刺されたら多分死ぬ。

 

その時、動いたのは。

 

スールだった。

 

皆の間を、驚くべき速度で駆け抜けると。

 

フラムを一つだけ放り込む。

 

敵も、小さすぎる爆弾に、なんだと思ったのか、五月蠅そうに払おうとしたが。その瞬間。バトルミックスで、極限まで増幅されたフラムが炸裂。敵の体の四割以上を削り取った。

 

ぐらりと傾ぐ巨大レンプライア。

 

体勢を立て直そうと、触手を伸ばすが。それを切り裂いたのはアンパサンドさんである。ここぞとばかりに動いた。

 

絶叫しつつ、それでも砲撃の体勢を崩さないレンプライアだが。その横っ面を、今の隙を突いて突貫したオイフェさんが、拳で張り倒す。

 

全員が跳び離れる。

 

詠唱が乱れ。

 

体勢を崩したレンプライアに。

 

総力でルーシャが砲撃をぶち込んだからである。

 

きのこ雲が上がる。

 

呼吸を整えながら、ルーシャが降りてくる。

 

流石に、もはや。

 

巨大レンプライアは、再生する事もなく。さっきのより多少マシな品質の双色コランダムや、宝石をボロボロ落としながら。劫火の中、溶け消えていった。

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