暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

16 / 200
荒事込みでの素材集め、仕事をしなければならなくなるリディーとスール。

家庭が崩壊していて生活が破綻していたとき、一時期双子は救貧院(要は孤児院)にいたのですが。

その時に一緒に世話になっていた獣人族の兄貴分を頼る事になります。

こんな過酷な世界です。

親がいない子は珍しくもないのです。


身の丈にあった仕事
序、初仕事


ごくりと息を飲み込むと。

 

リディーは手を伸ばして、掲示板に貼られている仕事を取った。

 

アトリエランク制度、最下層、Gランク。

 

Gランクの義務である、騎士団に納入するお薬の作成。

 

それをやるためには、素材がいる。

 

薬効成分の強い草で。

 

アダレット王都周辺にある森にはなく。

 

少し離れた草原にまでいかなければならない。勿論其処は獣のテリトリーである。

 

更に言えば、国に貢献していけば、やがてFランクの試験を受けるための査定をして貰える。

 

獣の駆除作業は。

 

錬金術師にとっては勿論登竜門になる。

 

確か、騎士団でも大物を狩るときには、錬金術師と連携し、部隊を繰り出すという話である。

 

いずれ騎士団との連携任務は出てくる訳で。

 

この間ファンガスと戦った時と同じ戦力では。

 

話にもならない。

 

イル師匠の所で、戦略と戦術を勉強しているリディーは。

 

メイドであるアリスさんに徹底的にしごかれながら。

 

まず経験を積めと言われていた。

 

机上論からそのまま実践に移せる人もいるが、それは天才の領域に入る存在であって。まず普通には存在しないという。

 

戦闘も錬金術と同じ。

 

場数を踏まないと、できる事も出来ない。

 

後の時代に名将と呼ばれるような人でも、最初の戦いでは、自分が何をしていたか分からなかったと恥ずかしそうに述懐する事があるという。

 

そういうものだ。

 

最初の戦いはとても恥ずかしい戦果に終わったが。

 

それは大いに恥じる。

 

そして、その恥を生かし。

 

救える人を救え。

 

徹底的に鍛えながら、無表情のまま、アリスさんは言う。そして、戦いが終わった後、アリスさんはこの傷はどうできた、どんな風に敵と戦ったと、注意深く自慢にならないように、教えてくれるのだった。

 

リディーは戦いが好きじゃ無い。

 

むしろスールが聞いて喜びそうな話だと思ったけれど。

 

アリスさんの体に残っている傷はとても生々しい。

 

死にかけた事も何度もあると言う。

 

昔はイル師匠との仲も良くなかったと聞いて、驚かされた。

 

だが、アリスさんは献身的に尽くして。

 

やがて全面的な信頼を寄せるようになった。

 

アリスさんはそう口にはしなかったけれど。

 

色々な情報を総合していくと。

 

そういう事が分かってきた。

 

とにかくだ。

 

やる事を、順番にやって、自分を強くしていかなければならない。スールは錬金術を徹底的に勉強しているし。リディーは戦いについて教わっている。どちらもまだまだ半人前になったばかり。

 

まずは、Gランクを維持するためにも。

 

この仕事を、こなさなければならない。

 

剥がしたお仕事を役人に告げて、認可を貰う。

 

Gランクのアトリエになった事は、掲示板の側の役人も知っていて。依頼内容を見た後、認可の印を押してくれた。

 

だが、注意もされる。

 

「この獣は、討伐依頼が出るような獣、と言う事です。 つまり騎士団が通常任務で狩っている獣より強いです。 気をつけてくださいね」

 

「はい」

 

「それでは気を付けて」

 

生唾を飲み込む。

 

相手はさらりと言っていたが。

 

つまりこの間戦ったファンガスよりもずっと格上の相手、と見て良いだろう。

 

だけれども、いわゆるネームドでさえない。

 

まだまだ、ネームドは更にもっともっとずっと強いと言うことである。

 

錬金術師と騎士団が連携して戦わなければとても倒せない。

 

そうだとして、倒せるかは分からない。

 

そんな次元の存在だと聞いている。

 

いずれドラゴンや邪神と相まみえる日が来るのだろうか。

 

そいつらに至っては、もっともっと次元が上だろうし。

 

正直想像もできない。

 

恐いのは確かだ。

 

体に震えが来ているのは、どうしても自覚できる。だが、少しずつ踏み越えていかなければならない。

 

はじめのはじめの一歩。

 

アトリエランク制度に参加したことで。

 

自分の実力の程が分かってきた。

 

これからそれを伸ばすためには。

 

確実に壁を越えていかなければならないのだから。

 

アトリエに戻る。

 

スールが真剣な顔で錬金釜に向かっていた。昔だったら、信じられない光景だ。だから水は差さない。

 

黙々と、スケジュールを練り始める。

 

ほどなく、大きくため息をついたスールが、出来上がったらしいお薬を見せに来る。

 

「リディー、見て。 毒消し作って見たよ」

 

「うん。 出来はどう?」

 

「レシピ通りにやってみたけれど……」

 

「試し方は分からないね。 毒って言ってもどうすればいいのか……」

 

まあ、とにかく瓶に詰めて。

 

一旦コンテナにしまう。

 

このコンテナも、保存の強力な魔術が掛かっている様子で。中に入れたものが腐る様子が無い。

 

実際に本格的に使うまで。

 

そんな事さえ、殆ど分からなかった。

 

お父さんが作ったのだとすれば。

 

全盛期のお父さんには、まだ遠く及ばない。それはどうしようもない事実だった。

 

手分けする。

 

まず、スールには足りない手を補うべく、この間話題に上がったフィンブルさんを探してきて貰う。

 

雇用についての話は、スールがやった方が良いはずだ。

 

フィンブルさんは獣人族らしい荒々しい性格で、やはり戦いが大好きな様子だったし。

 

やっと半人前とは言え。

 

名前を挙げる機会、となれば、よろこんで食いついてくるだろう。

 

問題は雇用時の契約内容だが。

 

それについては要相談でいくしかない。

 

金についてはスールに任せた方が良いだろうし。

 

リディーは別の方からやる。

 

スケジュールは練り上がったので。

 

毒消しを持って、イル師匠の所に行く。

 

そしてその途中でやはり思い知らされる。

 

現状の荷車ではダメだと。

 

確かに二輪だと取り回しが聞くけれど。安定しない。ぐらぐらする。

 

四輪にして。

 

箱状にし。

 

更には箱の底に柔らかい毛皮などを敷き詰め。油紙などで水を吸わないように対策をしないと。

 

今後は繊細な素材を持ち帰る際に、問題が出てくるだろう。

 

油紙はまたかなり値が張る。簡単に使えるものではない。

 

これもまた、頭が痛い問題だった。

 

そもそも、錬金術で紙を作れるという話だし。その延長線上でやれるのかも知れないけれど。

 

今はただ。

 

順番に丁寧にやっていくしかない。

 

イル師匠は今日も忙しそうに調合をしていたけれど。

 

残念ながら、今のリディーでは、イル師匠が何を作っているのかさえ分からなかった。

 

もの凄く複雑な過程を経て、難しい薬を作っているようなのだけれど。

 

それが毒なのか回復剤なのか。

 

それさえも分からない。

 

見た目は禍々しいが。

 

それしか分からない。

 

「もうすぐ終わるから、其処に座っていなさい」

 

「はい」

 

「アリス、茶でも出しておいて」

 

「分かりました」

 

手際よく調合をしていくイル師匠。

 

ソファに腰掛けて、出して貰ったお茶をすする。このお茶がとにかくとても美味しい。ついでにいうと、これも錬金術で作っているというのだから本当に困る。

 

分かってはいるけれど。

 

無理なのは知っているけれど。

 

お母さんが病気になった時。この人くらいの錬金術師が、アダレットにいたら。或いは助けて貰えたかも知れない。

 

そう思うと、悔しくも感じる。

 

でも、どうにもならないことは、どうにもならないのだ。

 

「よし、できたと。 アリス、騎士団に納品してきて。 明細もきちんと受け取ってくるように」

 

「分かりました。 直ちに」

 

「頼むわよ」

 

イル師匠は、手を洗うと。此方に来る。

 

向かい合って座ると。

 

毒消しを出して、確かめて欲しいと確認した。

 

イル師匠は驚くことに。

 

何の躊躇も無く自分の手を傷つけ、其処に何かを塗り込む。痛がっている様子も無い。むしろ血がしぶいているのを見て、リディーの方が小さく悲鳴を上げそうになった。

 

「これは毒よ。 効くかどうかは試してみるのが一番早い」

 

「そんな、傷が残ったりしたら」

 

「問題ないわ。 今は体をパーツ事に管理していて、その気になれば切りおとして作り直すだけだもの」

 

「……っ」

 

貧血で卒倒しそうになったが。

 

イル師匠は手際よく、リディーとスールが作った毒消しを傷口に塗り込み、ふむと頷いた。

 

「13点」

 

「ぜ、全然効かない感じですか」

 

「一応効いているわよ。 少し時間は掛かるけれど、毒はこれなら消えるわね。 ただし、この薬で消せる毒の種類には限りがあるから気を付けて」

 

そして、自分製らしい薬を傷口に塗り込むイル師匠。

 

あっと言う間に傷が溶けて消え。

 

血も止まった。

 

毒の効果で青ざめていた傷口付近も元に戻っていた。

 

声も出ないくらい恐かった。

 

この人が図抜けていることは分かっていたが。

 

何処か頭のねじが外れていることも、今更ながらに思い知らされる。分かってはいたことだけれど。

 

或いは錬金術を極めていくと。

 

いずれこうなっていくのかも知れない。

 

「実験に関しては、どうしても危険なものは動物実験をしなさい。 豚は人間と近い耐性を持っているから、必要な時は農場で子豚を貰ってくると良いわ」

 

「子豚さん可哀想……」

 

「そうね、だから使った後は無事だったらきちんと育てて、大人になったら食べてあげなさい。 ダメだったらきちんと感謝して埋葬してあげなさい。 家畜の命に責任を持つというのはそういう事よ」

 

言葉も無いほど恐いが。

 

それが正論だと言う事は良く分かった。

 

アリスさんが帰ってきて。

 

それから、いつもの訓練を始める。

 

まず座学。

 

戦略とは準備。

 

戦力を整え。

 

相手に簡単に勝てるようにするための行為。

 

戦術とは実践。

 

実際に現場で、どう戦うのか。

 

要するに人員や道具を揃える段階が戦略で。

 

その人員や道具でどう戦うのかが戦術だ。

 

それについて、徹底的に教え込まれる。

 

逃げる場合の手段や。

 

敵の気を反らすための方法。

 

相手をどうやって効率よく殺戮するか。

 

匪賊と戦う場合はどうするべきか、などを。丁寧に教わっていく。

 

座学は得意な方だけれど。

 

しかし血なまぐさい内容が多くて。

 

とてもきつかった。

 

スールは体を動かすのに難儀していると思っているようだけれど。実際には、毎回精神を痛めつけられてへとへとになっている。

 

戦闘の基本は。

 

如何に効率よく殺すか。

 

これ以上でも以下でもない。

 

それをまだ割り切れるほどリディーは頭が戦闘慣れしていない。結局の所、平和な王都で暮らした平和な子供なのだ。

 

如何に家庭環境が荒れていたとしても。

 

少なくとも、街の外に拡がっていた荒涼とした場所で暮らしている人達に比べれば、何百倍もマシだったのだ。

 

それを考えると。今から、なのだ。

 

徹底的に鍛えてメモを取り。そして頭に叩き込んでいく。

 

色々な状況で、どう戦えば良いかも叩き込まれる。

 

リディーは錬金術も勉強したかったけれど。

 

それよりも、まずは戦闘で中核になる事を覚えろと言われて。師匠の言う通り、やっていくしかなかった。

 

実際問題、今後も戦略級の傭兵を雇えるようになるまでは。

 

リディーが指揮を執らなければならないだろうし。

 

戦略級の傭兵を雇えるようになったとしても。

 

最低限の戦闘知識がないと話にならない。

 

スールにハンドサインについて覚えて貰わないと行けない、という事もある。

 

勘は鋭いのに。

 

覚えは良くないから。

 

今後が思いやられるのは、どうしようもない事実だった。

 

「では此処まで。 スケジュールを見る限り、傭兵を一人追加して、薬の材料を採りに行くようですね」

 

「はい。 この間森の外縁でファンガスに襲われて……手が足りないと実感しました」

 

「傭兵を雇うなら、人間関係を構築していくと良いですよ。 ある程度人間関係を良好に保つと、戦闘がスムーズに廻せます」

 

「は、はい……」

 

機械的なアリスさんの言葉だが。

 

この人がイル師匠を、致命的な攻撃から命がけで守り。

 

戦闘では常に最前線で、激しく火が出るように戦って来たことを、リディーは知っている。

 

多分アリスさんは、イル師匠の命令があれば、この場で何の躊躇も無くリディーを殺すだろう。

 

それくらいの強い意思力を感じる。

 

「と、とにかく、頑張って来ます」

 

「精神論は無為です。 全ては論理的に廻すように」

 

「はいっ」

 

立ち上がると頭を下げて。

 

アトリエに戻る。

 

丁度、フィンブルさんが来ていた。

 

昔、救貧院で会っていた頃。年上の獣人族戦士、くらいにしか思っていなかったが。

 

久々に会う成人したフィンブルさんは、精悍な犬の顔を持つ戦士になっていた。

 

ただまだ傭兵としては名も売れていない様子。

 

装備もあまり高くは無さそうな皮鎧と、使い古したハルバード。

 

あまり経済的には良くない事がよく分かった。

 

「久しぶりだなリディー。 今、スールと契約について話をしているところだ」

 

「はい、お久しぶりです。 お元気、でしたか」

 

「ああ。 其方こそ、元気なようで何よりだ」

 

暗い笑みが浮かんでしまう。

 

お母さんがこの世を去って、リディーとスールが文字通り最低のどん底にいたとき。

 

お父さんはリディーとスールにかまう余裕どころか、完全に錯乱していた。

 

その時、鍛冶屋の親父さんが見かねて、救貧院に通報。すぐにリディーとスールは一時引き取って貰った。

 

お父さんが落ち着くまで、数ヶ月ほど、救貧院で過ごして。

 

その時にリディーはバステトさんという猫顔の獣人族シスターに魔術を習い。

 

スールはシスターグレースに色々な生きていくための戦闘技術を習った。

 

丁度その時、スールと一緒にシスターグレースの教えを受けていたのがフィンブルさんで。

 

年上のお兄さんと言う事で、スールも随分慕っていた。

 

とはいっても、ヒト族と獣人族なので。どうしても超えられない壁のようなものはあったのだが。

 

なお聞いた話だが、スールの初恋は10歳の頃見たイケメンの山師で。

 

そいつが話している内容を聞いて、初恋は木っ端みじんに砕けたそうだ。ちなみに今でもそいつは牢の中である。何をやらかしたかは知りたくもない。

 

「こんなんでどうフィンブル兄」

 

「よし、こんな所だな。 専属契約って事で頼むぜ」

 

「うす。 じゃあ、錬金術の装備ができたら、回すようにもするね」

 

「有り難い、頼む。 腕利きの傭兵でもないと、錬金術の装備なんて、とても手にはいらないからな……お前達が何処まで腕を伸ばせるかは分からないが、俺としてもとても助かる」

 

スールと握手して契約を終えると。

 

フィンブルさんは帰って行く。

 

とりあえず、これで準備は整ったか。

 

「それでリディー、いつ外に出る?」

 

「三日後」

 

「分かった、それじゃ明日、フィンブル兄に伝えてくるね」

 

「よろしくね」

 

さて、その間は、ひたすら準備だ。

 

クラフトをたくさん作っておく。

 

ハンドサインを確認しておく。

 

スールは真剣だ。お荷物は卒業しろと言われたのが、相当に応えたのだろう。ただし、リディーだって、大して役には立てていなかった。

 

裏庭で、クラフトを投げる練習をする。

 

スールは正確に投擲ができるので、頼んでしまうか。リディーは置き石戦法でクラフトを使う事にする。

 

いずれにしても。森の中とは、比較にならない獣を狩り、素材を集めなければならない。

 

ここからが、正念場だ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。