暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
不思議な絵画を出た後、応接室で軽く話をする。調査のレポートを出すこと、それは出来るだけ早い方が良いこと、などをまた言われる。もう何度も何度も言われたが。スールの状態を見るに、念押しした方が良いとアンパサンドさんは思ったのだろう。
咳払いすると。
アンパサンドさんは付け加えた。
「最終的に勝てたのはスールのファインプレーのおかげなのです。 失点を挽回したのです」
「ありがとう、アンパサンドさん。 迷惑掛けてごめんなさい。 まだ、完全には慣れていないけれど、出来るだけ早く適応するから」
「……」
頷くと、解散。
帰り道を歩きながら、双色コランダムについて、ルーシャから幾つか説明を受ける。
宝石としては、金剛石をも凌ぐほどの貴重品であり、魔力媒体としては深核や竜核に迫る程の価値があるという。
ヴォルテール家でも、仕入れた記録が限られた回数しかないとか。
残念ながらクズ石だが。或いは、もっと条件が厳しい不思議な絵画でなら、もっといいものが見つかるかも知れないと言われて、頷く。
「この一番良いのはルーシャにあげる。 他のは頂戴」
「……いいんですの?」
「正しい判断もフィニッシャーになったのもルーシャだったし」
「そうですか。 ではいただきますわ」
アトリエ前で別れる。
ルーシャの背中がつらそうだ。オイフェさんはまったく配慮している様子が無いが。誰か、ルーシャを支えてくれる人はいないのだろうか。
リディーとスールの助けを、ルーシャは良しとしないだろう。
多分だけれど。今の状況を見るに。この計画を深淵の者が始めた時に。最初にルーシャに脅しが入ったのではあるまいか。それもソフィーさん辺りから直々に。
それでは、ルーシャは誰にも相談できない。
必死にリディーとスールのために、命を削るしかない。
悔しい。
ソフィーさんのやり口は効率的で、正しい。だけれども、血が通っていない。もう、人間の視点では無いのだから当たり前かも知れない。だけれども、一矢報いたい。
とはいっても、「みんな」がどれだけ駄目な存在かはリディーもよく分かっている。だから、今は少なくとも。
対案でも見つけない限りは。ソフィーさんに従うしかない。例え、血の涙を呑んででも、だ。
アトリエに戻り、コンテナに戦利品をしまうと。
つかれている体にもうひとがんばりだと言い聞かせて、レポートを仕上げてしまう。スールとダブルチェックをしている間に、お父さんが出来合いを買ってきてくれた。とても有り難い。
スールがレポートを出しに行く。
今回の絵について話をすると、お父さんはそうか、と頷いた。
「絵画には……小説もそうだが、ある程度以上出来がいいものは作り手の心の鏡と言って良い存在になる」
「深奥のあのぎらついた欲望、あれが本質だというのはよく分かったよ」
「そうだな。 だが必死に取り繕って、美しく見せようと工夫する努力も斬り捨てることはしないでくれ」
「……」
お父さんがこんな事を言うという事は。
不思議な絵画について、関わっているからだろうか。
お父さんの理想とする天国を描いた絵。
あの中に入った時。
本当に美しいと思った。
だけれども、そんな都合の良い世界などあるわけが無い。美しさの影には、それ以上の醜さがあるのだ。
むしろ、あの砂漠の不思議な絵画のように。無理矢理に人の心を覗きたいという、直球の欲望が具現化していた方が、まだわかり易かったかも知れない。いずれにしても、もう彼処には入りたくないが。
スールが戻ってきたので、夕食にする。
もう、あまり時間がない。
リディーはそれを悟っていた。人である事が出来る時間は。残り少ない。
ソフィーはアルファと直接話をしていた。アルファ商会のボスであり、この世界の経済を実質的に握っている頂点であるホムは。吹っ切れて義眼も義手も、自然に見えるものを用いているが。
それでもこの世界への怒りは未だに強く心に燃やしている。
この世界において、経済などと言うのは脆いものでしかない。
人間の社会が全てを支配しているわけではないからだ。
経済そのものは勿論重要だが。
アルファ自身もそれは心得ている。
そして、欲望や野心が薄く。合理的に考えエゴを優先しないホムであるアルファだからこそ。
経済を統べる者に相応しい。
二十三万回以上世界の終わりを見てきて。
それまでに、深淵の者で四苦八苦をして終わりを止めるべく苦労を重ねてきたが。
アルファは毎回、誠実に最後まで己の仕事を続けてくれた。
だからソフィーとしても、信頼感がある。
アルファ自身はソフィーの事をあまり好いてはいないようなのだが。
それはどうでもいい。
利害の一致で、完璧に動ける。
それだけで充分過ぎる程、得がたい人材だという事である。
「なるほど。 今後は超越級の錬金術師を、更に二人カウント出来る可能性が高いという事なのですね」
「うん。 アルファさんも、今回の出費は厳しいと思うけれど、何とかしのげそう?」
「詳しくは会議で説明するのですが、アダレットがどうにか騎士団の再建を完成させる事で、負担を減らせそうなのです。 コルネリアも良く稼いでくれていて、まあギリギリの所で持ち堪えられそうなのです」
頷く。
そして、アルファとの会話を切りあげ。自室に戻った。自席に着くと、膨大なデータを並行処理しつつ、思考を巡らせる。もう素のスペックがそれを可能とさせるだけの段階に達しているのである。
さて、ここからが本番だ。
双子はどうにかなりそうである。今まで散々苦労させられたが。しかしながら、やはりファルギオルを超えられたのは大きかった。後は予定通りに事態を進展させれば、超越級の錬金術師に育てられるだろう。もうギフテッドに目覚めているのも確認している。理想的な展開だ。
そうなると、今後は人に戻れたプラフタと、ルアード。そしてルーシャが重要になってくる。
プラフタを人に戻そうという計画は、実は前の周回でもあった。色々条件が揃わなかったり、本人が望まなかったりで、実現しなかったのだが。今回は、プラフタは錬金術を行える体に戻った。既にアンチエイジング処置も施している。記憶の引き継ぎも、以前以上に完璧に出来るだろう。
ルアードも、恐らくは同じように処置が出来る筈。
ただ、流石に今更、だろう。
ルアードとプラフタは、もうなれるとしても、男女の仲になろうとも思わないようだった。お互い、容姿やら男女で親友関係だったことで、散々周囲に面倒な目にあわされたからというのもあるだろうし。そもそもずっと一緒に暮らしていたことで、互いを男女とは認識していないのが大きいのかも知れない。
別にそれで良いだろう。そういう関係があってもいいし。最大の信頼の末が、つがいになる事でもあるまい。
プラフタとルアードは、錬金術師になれば。今までの蓄積記憶分もあって、恐らくは超越級の錬金術師に近い実力を発揮できる筈。
そして、双子が育ちつつあり。もう殆ど手が掛からなくなってきた今。
ソフィーの興味はルーシャに移りつつある。
ルーシャが此処まで育つとは、正直想定外だった。
完全な当て馬だと思っていた。だがイルメリアちゃん以上の努力の末に、文字通り血を吐きながら、ハルモニウムまで完成させた。
もう少しちょっかいをだしてやれば。
上手くすれば、賢者の石に手が届く可能性もある。或いは、リディーとスールと一緒に、賢者の石を作らせる手もある。フィリスちゃんとイルメリアちゃんにさせたように。
最低でも五人、超越級の錬金術師が必要。
それはソフィーの計算で。恐らくあっている。
だが、もしこれが八人になれば。
本当に、今までどうしようも出来なかった世界の詰みを打破できるかも知れない。
ソフィーは勿論大まじめに世界の詰みの打破に取り組んできた。
そして、もしもそれを成し遂げたら。
他の知的生命体との共存を成し遂げられるのかにも興味がある。
一つ、思いついた事がある。やっておくのも良いだろう。
鈴を鳴らす。
即座に、その場にティアナが跪いていた。
「ソフィー様、何用にございますか」
ティアナは、仕事がない時には眠らせている。本人もそれで良いと言っている。人斬りが楽しくて仕方が無いのだし。それ以外の事は全てが退屈らしいのだ。
そのため、こうやって仕事が必要な時はすぐに呼び出せもする。流石に仕事中には呼び出せないが。
「ある人物を消してきて貰おうかと思ってね」
「はいっ! ソフィー様の命令であればすぐにでもっ!」
「うふふ」
指示をすると、嬉々としてティアナは飛び出していく。
さて、仕上げだ。
今度こそこの世界の詰みを打破してやる。
(続)
ダーティーワークは二十数万回の世界終焉までの繰り返し、億年単位の試行錯誤を繰り返したソフィー先生にとっては、もはやなんとも感じないものとなっています。
ティアナさんを使っているのは、単に自分が出るまでも無いときに、任せるためですね。
これだけ試行錯誤して突破出来ない壁なので、ソフィー先生も相応にまだまだあらゆる手段を試しているのです。