暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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狂気は紙一重の世界です。

現実世界でもそう。

ましてや作り手が魂を込めた絵の世界となると……


薄皮の光
序、最後の武具


ヴェルベティスの中核素材を手に入れた今、スールは最後の。最終段階の装備を作らなければならない事は理解していた。

 

武具は既に発注済み。

 

普通の武具と違い、ハルモニウム製で、更に錬金術師用ともなると、すぐには出来ない。ハルモニウム釜と同じく、時間が掛かる。ハルモニウム釜用のインゴットは、既に鍛冶屋の親父さんに納入してある。

 

今、リディーがレシピを読んで、ヴェルベティスの作り方について解析してくれているので。

 

スールはスールで、武具を刷新した後の事。

 

ヴェルベティス装備についてどうするか。

 

錬金術装備についてどう刷新を掛けるか。

 

これらについて、考えなければならなかった。

 

じっくり話しあった結果、リディーはゆっくりギフテッドが目覚めていったのに対して、スールは一気に来たらしい。

 

故に反動が強烈だ、ということのようなので。

 

今は気にせず、そのままでいればいいという結論に落ち着いた。

 

スールも、少しずつ慣れるようにはしている。

 

ただ、声が四六時中周囲からするのは、どうしても気持ち悪い、と感じてしまう。そんな風に感じるのが問題なのだと、どうしても分かっているのにである。これでは、見かけで相手を判断し、場合によってはその全てを否定する「みんな」と同じだ。

 

それがまた腹が立つ。

 

自分自身に一番腹が立つので、怒りをぶつける矛先もない。

 

この間はそれでアンパサンドさんに大目玉を食らった。

 

少しずつでも良いから慣れるようにとも決めたのだから。今は、負担が少ない作業をしていくだけである。

 

作業をしている内に、時間が来たことを悟り。

 

リディーを誘って、鍛冶屋に行く。

 

家はお父さんがいるから大丈夫だ。熱心にお薬を調合しているが、来客には気付くだろう。

 

ハルモニウム武器を取りに行くことを告げると。

 

頷いて、そのまま調合に戻った。

 

作っている薬は霊薬と見た。

 

騎士団からの発注量が相当多いらしい。簡単に作れるお薬ではないので、出来次第納品して欲しいと言う話らしいのだが。

 

とにかく圧倒的な効果が騎士団でも絶賛されているらしく。

 

厳しい状況にある騎士団としては、幾らでも欲しい、というのが本音だそうだ。其所で、アルファ商会から直接買い付けるよりも錬金術師に発注し、少しでも予算の圧縮をしたいらしい。

 

らしいというので若干不確定要素だが。

 

しかしながら情報源がマティアスなので、多分正しいだろう。

 

鍛冶屋に到着。

 

親父さんが待っていた。

 

「おし、きたな。 お前達に、これを渡す日が俺の夢だったんだよ」

 

誇らしげにいう親父さん。

 

鍛冶屋には、客も他に来ていたが、嫌でも注目が集まる。特に雷神殺しの二つ名がついているリディーとスールである。

 

それも当然かも知れない。

 

まずはリディーから。

 

渡されたのは、ハルモニウムで魔術関連の増幅を行う部分を作成。更に打撃用に、全体的に重く作られている杖である。

 

「此奴の名前はブルームスパイラル。 お前のためにある、お前のためだけの杖だ」

 

おおと、声が上がる。

 

神域金属であるハルモニウムを贅沢に使い、その効果を全力で引きだしている杖。前衛には決定的に向かないリディーには、贅沢にも思えるが。

 

触った瞬間、リディーが少し笑ったのがスールにも分かった。

 

重さを感じないようで、振り回した後、にんまりと笑う。

 

「どう?」

 

「力がわき上がってくる。 マティアスさんやフィンブルさん、アンパサンドさんの気持ちが良く分かる」

 

「そっか……」

 

スールは、既にキャプテンバッケンの魂の銃を貰っている。

 

だが、それはあくまでキャプテンの銃。

 

スールのための銃が必要なのだ。

 

親父さんは、試し打ちはあとで家でやれと釘を刺した後。スールを呼んで、二挺の拳銃をくれた。

 

ハルモニウムで主に構築され。

 

弾丸をハルモニウムによる強烈な魔術強化で、極限まで増幅して撃ち出す。更に、数発の弾丸も貰った。

 

切り札用に、ということだ。

 

ハルモニウム弾。

 

名前を聞いただけで、くらっとくる。

 

インゴットが国宝になるような代物で作った弾丸である。その破壊力は、想像を絶する事は難くない。

 

受け取るのに、手が震えたが。

 

一旦触ってみると、あまりにも手になじむので驚いた。

 

馴染むどころか、まるで自分の一部だ。

 

体が熱くなる。

 

ああ、なるほど。

 

人斬りというのは、こういう感覚を楽しみたいと思ってしまう人なのか。色々納得がいった。

 

ティアナさんが相手が凶賊とはいえ、人を斬っているときに、本当に楽しそうだったのをスールは思い出す。

 

あの人は分かった上でキリングマシーンになっている。

 

スールは分かっているから、ああなってはいけないと戒める。

 

それでいい。

 

それにしても、凄い銃だ。二挺ある拳銃は、右手用と左手用にあわせて、わずかに重さなども変えているようだった。

 

「此奴の名前はスール・ザ・スターだ。 星をも貫くお前だけの銃だ。 自分の次に大事にしろ」

 

「……はいっ!」

 

その後、釜についてはもう少し掛かると聞かされる。

 

ハルモニウムの加工なのだ。

 

こればかりは仕方が無いといえるだろう。

 

いずれにしても、満足以外の言葉はない。最終的な武器は、これ以外にはないだろう。今後、ハルモニウムを飛躍的に品質強化出来たら、其方に移るかも知れないが。それはまた、別の話である。

 

アトリエに戻る最中、ばたばたと騎士団が走り回っているのが分かる。

 

何だかあきらめの表情や。

 

困惑している様子が分かった。

 

ミレイユ王女が、珍しく出てきていて。

 

魔族の騎士達が、周囲を固めていた。

 

騎士団の最精鋭だろう。

 

基本的にミレイユ王女は、王都から出て忙しく指揮を執っているイメージが強い。何度か直接顔を合わせたこともあるが、王城や王都よりも外で顔を合わせたことの方が多い印象がある。

 

一礼して道の端に寄り、通り過ぎるのを待つ。

 

ミレイユ王女は無言のままだったが。

 

騎士の一人が、此方に来た。

 

「リディー殿、スール殿だな」

 

「はい」

 

「なんでしょうか」

 

跪いたまま話を聞く。

 

それによると、どうやら近々大きめの仕事が来るかも知れない、と言う事だった。

 

この間、星彩平原の調査を急がせる要因となったものだろうか。

 

いや、それにしてはどうも妙だ。

 

いずれにしても、アトリエに戻った方が良いだろう。急いでアトリエに戻る。出来ればハルモニウム武器の試運転をしたかったのだが。

 

それはまた先の話になるだろう。

 

こればかりは仕方が無い。

 

スールもだいぶ落ち着いては来ている。

 

吐き出したのが良かったのだろう。

 

とはいっても、もう心の方に入った亀裂と、闇に染まった心はどうしようもない。スール自身も、それは良く理解している。

 

急いでどうにか出来る事でもない。

 

壊れてしまったものは仕方が無いと、ある程度諦めているスールだが。一方で、やはりこの力を試したいという黒い欲求もあるのだった。

 

リディーと一緒に、コンテナの在庫を確認。

 

お薬や爆弾を増やしておく。

 

この間の大型レンプライア戦で。とても嫌な予感がした。

 

不思議な絵画は、願望を具現化したプチ異世界である。

 

だから、心の闇は極限まで増幅される。

 

自己顕示欲なんて誰にだってある。

 

それが彼処までの怪物になったのだとすれば。

 

もしも光に満ちた世界の、裏側の闇が凝縮されれば。

 

お父さんの絵に、今アルトさんやプラフタさんが入って、レンプライアの駆除作業を進めてくれているという事だが。

 

何かとてつもなく恐ろしい事態が進んでいるという可能性があるかも知れない。

 

流石に現実にまで影響が出るとは思えないが。

 

不思議な絵画から、錬金術の高度素材を持ち帰る事が出来る事実がある現状。

 

向こうから、何かしらの邪悪が姿を見せてもおかしくないのだ。

 

調合を進めていると。

 

不意に外で、鐘がなった。

 

何か公式に大きな出来事があった時の連絡のため、王都全域に音が響くように作られている鐘である。

 

スールも何回か聞いた事があるが。

 

前に聞いたのは、確か。

 

ミレイユ王女が、王女として政務を行うと宣伝したとき。

 

要するに先代の庭園王から、権力が取りあげられたときだった。

 

あの時は、王都中がお祭り騒ぎになったから、よく覚えている。それだけ庭園王はアダレットの民から憎まれていたのである。

 

しばしして。

 

アトリエの戸がノックされる。

 

お父さんも地下から上がって来た。

 

ドアを開けると、息を切らせたマティアスだった。

 

「どうしたの、マティアス」

 

「スー、リディーもいるな。 ロジェもいるなら丁度良い。 重大な事件だ」

 

「事件?」

 

「親父が死んだ」

 

絶句。

 

庭園王は無能であり、王都に災厄しかもたらさなかった。これはどう客観的に見ても明らかな事実で。幽閉されたあとも、早く死んでくれればいいのにと、多くの声が上がっていた。

 

ただ、流石にミレイユ王女としても、実の父親を手に掛けたとなれば外聞が悪い。

 

幽閉し、相応の待遇はしていたはず。

 

まったく懲りずに毎日幽閉された離宮だか塔だかで喚いているという話は聞いたことがあるが。

 

それにしても死んだというのはどういうことだ。

 

「原因は心臓麻痺のようなんだが、どうにもおかしくてな。 親父は幽閉されてからも健康で、豚のように太っていたし、かといって太りすぎて健康を崩すような事も無かったんだ。 勿論医者もついていた。 それが、一晩で何の兆候も無く……だぜ」

 

「暗殺って事ですか?」

 

リディーがストレートすぎる聞き方をしたので。

 

周囲を慌ててマティアスが見回したくらいだった。

 

「今、専門家を呼んで調べて貰っている。 お前達のお師さんだ」

 

「イル師匠に?」

 

「……とりあえず知らせた。 それと、数日は出来るだけ動かないでいてくれ。 王城にも入れない」

 

「分かりました」

 

リディーが頭を下げる。

 

行こうとするマティアスに、スールは声を掛けた。

 

「ね、ねえマティアス」

 

「どうした、スー」

 

「その、悲しくはないの?」

 

「……親父はな。 もう少し幽閉が遅れていたら、アダレットの王都を守る城壁と森を、全部壊す計画を立てていたんだ。 全部庭園にして、美しい王都とやらにするためにな」

 

さっきとは、別の意味で絶句する。

 

要塞化されていたアダレット王都に、メルヴェイユなんて無意味にしゃれた名前をつけるだけでは満足せず。

 

非実用的な芸術的意匠を施し。

 

獣やドラゴンに対する備えを撤去し。

 

場合によっては、「美しくない」とかいう理由で、下水などの必須インフラまで排除しようとした無能王だ。

 

何をやってもおかしくは無いとは思っていたが。

 

其所まで愚かだったとは。

 

「俺様もバカ王子と言われては来たけどな、親父の同類とまでは言われなかった。 そういう事だ。 俺様も姉貴も、親父に感謝なんか一度だってしたこたねえよ。 彼奴は母さんにも散々酷い事をしてきた外道だしな」

 

「……」

 

そういえば。

 

ミレイユ王女とマティアスのお母さんについては、聞いた事がない。

 

いずれにしても、口にもしたくないし。

 

口外できない事なのだろう。

 

ならば聞く事は出来なかった。

 

いずれにしても、この様子では、急いで星彩平原の調査を終える必要はなかったかも知れない。

 

お父さんは無言で外に出ると、数日分の食糧を買ってくる。

 

そして、リディーとスールを見回して言う。

 

「裏庭で多少の武器の素振りくらいなら良いが、爆弾類の試運転は避けろ。 この様子だと、何か大きな政変が起きる可能性がある」

 

「政変って……」

 

「クーデターだ」

 

「!」

 

最強の武器を手に入れて、大喜びと思った直後。

 

急転直下である。

 

だが、不思議と怖いとは思わない。

 

多分人間を止めてしまっている事が、大きいのだろう。

 

ギフテッドを得てから、スールはどんどん人間的感情が薄れているのを感じる。今でも、それに反発はあるが。

 

しかしながら、今回ばかりは良かったとも思う。

 

「いざとなったら王都を脱出する必要があるかも知れない。 ミレイユ王女の事だ、ヘタを打つことは無いだろうが……それでも気を付けろ」

 

「何をそんなに警戒しているの?」

 

「どうせ深淵の者が何かしたに決まっている」

 

お父さんの言葉には、強い不信感がある。

 

確かにその可能性もある。

 

そして、もしも深淵の者がミレイユ王女を排除しようとしたら。あり得ないクーデターが成功する可能性もある。

 

リディーとスールは、もしも深淵の者主導のクーデターが行われた場合。

 

荷担させられるのだろうか。

 

ともかく、確かに大人しくしている方が良さそうだ。

 

言われた通り、数日は大人しくする。

 

とはいっても、その間装備品の更改や、爆弾やお薬の作成は欠かさない。

 

お父さんに話を聞いて。

 

まだ作った事がないお薬については、どんどんレシピを見せてもらった。いずれも、其所までは難しく無い。

 

イル師匠に貰ったお薬も飲む。

 

やっぱりまだきついからだ。

 

多少は緩和されるが。

 

薬が効いている間は動きづらいし、やっぱり不安な時間は続いた。

 

閉じこもり始めてから四日目。

 

ドアがノックされる。

 

外にいたのは、イル師匠だった。アリスさんも連れている。

 

「揃っているわね。 重要な話があるわ」

 

頷き、アトリエに師匠を招き入れる。

 

お茶をリディーが出し。お父さんも席に着く。アリスさんがドアの側で見張りをする中。順番に説明を受ける。

 

まず今回の件は、暗殺である事。

 

対外的には、というか王城内でも庭園王の死因は「心臓麻痺」とされているが。実際には首から上を持って行かれているという。それも綺麗に、だ。首は発見されていないそうである。

 

そうなると替え玉の可能性もあるが。

 

それはないことをイル師匠が確認。

 

そう。イル師匠は、確認のために王城に呼ばれたらしいのだ。

 

「どうやって本人だと確認したんですか?」

 

「簡単に説明すると、空間の記憶を再生したの」

 

「空間の、記憶?」

 

「もっと高度になると、時間を巻き戻す錬金術になるのだけれど、その簡易版よ。 その場で何が起きたのか、過去に遡って映像を確認したのよ」

 

映像の中で、庭園王は無駄に大量の食糧を貪り喰い。医師の診察を受けた後は、見張りに怒鳴り散らした。早く此処から出せ、美しい王都を作る作業が終わっておらぬ、勅命であるぞとわめき散らしていた。

 

聞いているだけで見苦しい。

 

さぞや見張りも困っただろう。

 

だが、直後。

 

王の声が止まる。

 

そして、王の首がゆっくりずれて。

 

消えたそうだ。

 

血が噴き出したのはその後。首を失った死体が、後は残されていたそうである。

 

勿論、誰が斬ったのか。映像に残されて等はいなかった。

 

殆どそれだけで暗殺者の正体が分かった。

 

ティアナさんだ。

 

多分、そういった空間の記憶とか、更にそれより上位の次元からの攻撃を行い。愚王の首を刈り取っていったのだろう。

 

完全に人間を止めているあの人ならやりかねない。

 

ソフィーさんの信頼も篤いという話だし。イル師匠すら出し抜ける道具くらい、持っていてもおかしくないだろう。

 

「何を考えたのかは分かるけれど、口には出さないようにね。 いずれにしても、これで一つ決まったことがあるわ」

 

「なん、でしょうか」

 

「ミレイユ王女が正式に女王に即位する、と言う事よ」

 

「……」

 

そうか。事実上女王だったのだから、当然か。そしてイル師匠のこの言葉からしても、深淵の者はミレイユ王女を支援するつもりなのだという事も分かった。

 

即位については、今までは手続きが何だで色々あったらしいので、かなり後回しにされていたようなのだが。

 

先王が死んだのであれば、それも当然だろう。

 

頷くと、イル師匠は、これ以上は他言無用と言い残して戻っていった。

 

わざわざ警告していったと言う事は。一悶着あるのかも知れない。

 

それから程なくして、マティアスが来て。以降は自由に動いて良い、と言われた。そして、もう一つ、告げられる。

 

お父さんの絵の調査依頼である。正式なものだ。

 

今回はかなり本気での調査になるらしく、フィリスさんとアルトさんも来るという。レンプライアの掃除が終わっているという話なのに、それはまた随分と本気だ。ひょっとしたらソフィーさんが来る可能性まであるらしい。

 

ぞっとしない話である。

 

お父さんが顔を歪めるが。マティアスは、それに対して、表情を消すしかないようだった。

 

いよいよ、正面から、お父さんの絵に入る事が出来る。

 

そう思うと、少しだけ気分も楽だった。

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