暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
最初にこの不思議な絵画に入った時、双子は揃って半人前以下のアホの子でした。
今は無理矢理超一流と世間では言われるレベルにまで短期間で到達しています。
大きな歪みを伴いながら、ですが。
王城は非常に警備が多くなっており、いつもより倍増しくらいに騎士がいた。入るときも手続きに時間が掛かった。普段は殆ど素通り出来るところでも、確認を要求されたりもしたくらいである。
エントランスに入ると。腕組みしてアンパサンドさんが不機嫌そうにしていた。見た感じ、殆ど寝ていない様子だ。
それはそうだろう。
茶番だと気付いている筈だ。
ミレイユ王女としては、王が不審死した、という件を表沙汰に出来ないし。対外的には天寿を全うしたという発表をするしかない。
それと同時に、首を失った死体を国民に公開することも出来ない。
錬金術で首は何かの方法で誤魔化せるかも知れない。イル師匠が呼ばれたのは、多分それもある筈だ。
騎士団には余計な仕事も増えた。
マティアスもそういえば疲れ切った顔をしていた。
間違えても女遊びの結果では無いだろう。
奥には、ルーシャとオイフェさん。
そして話通り、アルトさんとフィリスさんが来ていた。フィリスさんは可愛く手を振るけれど。
この人の正体を知っている今となれば、もうそのまま義務的に挨拶するしかない。
みかけで相手を判断する事の愚かしさ。
それをスールは嫌と言うほど知っている。
この人は、その典型例。
破壊神と呼ばれるに相応しい存在だと、見た目からは絶対に判断出来ないだろう。
「この面子で調査する必要があるほど危険な絵画なのか?」
「フィンブル兄、何か不安なの?」
「……ああ。 よりによってこのタイミングで、この面子を集める意味がよく分からん」
それもそうだ。
この絵に何かあると言うのか。
咳払いすると、フィリスさんが手を叩く。リーダーシップを取るという意味だ。
今回は監視役では無く。
ある程度本気で調査をする、と言う事か。
「はい注目。 今日から、最低でも一週間以内に、この絵の調査を終えます」
「随分と急ですね」
「みんな忙しいからね」
フィリスさんの言葉は、此処だけは正論だ。
確かに国王が「崩御為された」時期である。
インフラ整備で彼方此方を飛び回っているフィリスさんや。深淵の者の最高指導者であるアルトさんが、ここに来ているのだ。
余程の重大事が中にあるのだろう。
お父さんの絵が。
政治的な陰謀のエサにされようとしている。
中にはお母さんがいるのに。
感情が薄くなっている今でも
とてもそれは悲しい。
アルトさんが咳払い。そういえば、この人は先に調査をしていた筈だ。この面子を連れていくのには、何か意味があるのだろうか。
「露払いは終えてあるが、この中にいるレンプライアは今まで君達が入った不思議な絵画のレンプライアとは次元違いだ。 各自気を付けて欲しい」
「この間まで調査していた星彩平原では、最深部にコアらしき強力なレンプライアが存在していました。 雑魚がそれと同格か、それ以上という事ですか?」
「それについては報告書を見ただけだから何ともいえないけれども、まあ入ってみれば分かるよ」
アルトさんが肩をすくめる。
そして、リディーが前に出た。
スールも、覚悟を決める。
この絵は、お父さんの絵で。中にお母さんがいるのだ。今更臆するわけにはいかない。もしもお母さんが困っているなら。
絶対に助け出す。
絵に触れる。
前は、逃げ出すだけで精一杯だった。今度は違う。今度は、片っ端からレンプライアを蹴散らしてやる。
そして、覚悟を決めて入った絵は。
想像を絶する場所だった。
前に入ったときは。穏やかな世界だった。
正に天国と言うに相応しい場所。美しい草原に花々。遺跡を思わせる建物。其所に遺物としてレンプライアがいる。そんな印象を受ける場所だった。
今は、違う。
何だ此処は。
本当に、お父さんが描いた絵なのか。
絶句している所に、遅れてルーシャとオイフェさん、フィンブル兄が。続いてマティアスとアンパサンドさんが入ってきて。
少し遅れてアルトさんとフィリスさんが入ってくる。
立ち尽くしているリディーとスールを守るように、マティアスとフィンブル兄が展開する。
此処の異様さは、誰でも一目で分かるようだった。
血だ。
辺りが真っ赤に染まっている。
暑いわけでは無く、文字通り血のような赤に、周囲が染め上げられているのだ。思わず、生唾を飲み込んでいた。
「天海の花園……という絵で良いんだよな。 外から見た感じでも、こんな悪夢みたいな場所じゃあ無かったぞ」
「殿下」
「……」
すぐ口をつぐむマティアス。
スールも衝撃を受けていた。お父さんが描いた絵が、どうしてこんな事に。しばし周囲を見回しながら歩く。
この絵も、他の不思議な絵画と同様に、違うルールで動いている世界の様子だ。
どうやって浮いているのか分からない岩の塊がたくさんあって。
其所に花園や、水たまりが存在している。
所々からは、滝も見受けられる。
水が何処に落ちているのか分からないし。
何より、それだけの水がどうやって湧いているのかも理解出来ない。
はっきりしているのは、こんな真っ赤な、血に染まった場所では無かった、という事である。
前に入ったときは、レンプライアが怖くて震え上がっていたけれど。それでも美しい場所だと言う事は印象に残っていた。
どうして、こんな事に。
フィリスさんが空中に指を走らせると、周囲の地図が映像となって浮かび上がる。
先行して調査しているときに作ったのだろう。
詠唱もせずに魔術を発動したのを見て、今更驚くこともない。
錬金術の道具による補助の結果だろうから。
「アルトさん、周囲の警戒をお願いね」
「任されたよフィリス」
「それでは説明」
フィリスさんは明らかに楽しんでいる。リディーとスールの様子を、である。
悔しいけれど、何もできない。
確かに周囲から感じる気配が異常なのだ。
星彩平原の時も、異様にレンプライアが強いと感じた。
だが此処のは。
ネームドが大量にいるような。
まるでドラゴンの巣穴の中にいるような。
そういう、得体が知れない恐怖を感じる。
「不思議な絵画を幾つか見てきたと思うけれど、これがレンプライアに汚染された成れの果て。 正確にはその一歩手前かな」
「どういう、事ですか」
「この絵はね、中途半端な完成度のまま放置されていたの」
フィリスさんは目を細めて、淡々と説明する。
確かにその通りだ。
お父さんは精神に大きな傷を受け。この絵を完成させるまでに、随分と手間取ってしまっていた。
「不思議な絵画は小さな異世界。 バランスが取れて始めて、その世界の中で小さな世界としてのルールが成り立つんだけれども。 この絵の場合は、そのバランスが成立していなかったんだね。 結果として、害虫が大量に湧いて、世界そのものを蝕んだ」
「元に戻す方法はありませんか」
スールは、自分でも分かっているけれど。
かなり強い口調で言う。
この人達は。
深淵の者は。そしてソフィーさんの意思を汲む人達は。
分かっていて、この状態を維持しているはずだ。
リディーとスールを人材として育て上げて。そして世界の詰みを打破するための人材にするために。
此処はそのために利用されている。
如何にバカだって。
スールにもそれくらいはもう分かる。
お母さんを今人質に取られていることも。
この絵にお母さんの残留思念がいるなら。
今、きっと凄く苦しんでいるはずだ。だから、もしも嫌がらせをしたいのなら、さっさと済ませて欲しい。
「落ち着いて。 順番に説明するから」
だが、平然とフィリスさんは流す。
目には明らかな愉悦も浮かんでいる。
焦れ。そして、それでもなおも輝きを見せろ。先へ進んで見せろ。そう目が告げている。怒りが沸騰しそうになるが。しかしながら、ブチ切れても勝ち目がある相手では無い。文字通り、子ネズミと上級ドラゴン以上の力の差があるのだ。しかも油断も一切していない上級ドラゴンである。
「この世界が完成したのはつい最近の事なんだけれども、それによって世界の構造が完成して、一気に悪意が力を増した。 そう、レンプライアだね。 レンプライア達はこの世界のルールを食い荒らし、自分達のルールに染めようとしている」
後ろで凄い音。
気がつくと、今まで見たことも無い大きなレンプライアが。とんでもない大きさの剣で串刺しにされ、消えていくところだった。
アルトさんが、何事も無かったかのように、剣を消す。
本当に手を抜きまくっていたんだ。
それが分かって、実に腹立たしい。
「この絵には、守護者とも言える存在がいるけれど、それが却ってまずかった。 絵が未完成な状態の時から、守護者と戦って性能を上げていたレンプライア達は、絵の完成と同時に絵に対して大攻勢を掛けた。 結果、今この絵の世界は、悪意に染め上げられようとしているの」
「それで、どうすればいい」
フィンブル兄が頭を掻く。
理屈は分かったとしても。
それでどうすれば良いのかの説明が、今まで出ていないからである。
フィリスさんは肩をすくめた。
「とりあえず、複数存在していたコアの所在は突き止めてあるから、一つずつ潰して行く事だね。 合計五つを潰せれば、この絵は綺麗な状態に戻せると思うよ」
思うじゃ無くて、そうなのだろう。
フィリスさんは知っている筈だ。
だが、それは敢えて言わない。
ともかく、コアが何だ。叩き潰してやる。此方には、ハルモニウムで作った武器が加わっている。更に戦力は増している。
更に言えば、不思議な絵画は、多少傷つけても再生する。
あまりにも苛烈に傷つけすぎると壊れてしまうと思うけれども。
だけれども、ともかく。
守護者、つまりお母さんの残留思念が、いつまで無事か分からない。だったら、やるしかないのだ。
地図を動かして、最初のコアの位置をフィリスさんが指定してくる。
見ると、浮島とでもいうのか。浮遊している岩に橋が渡されている。壊れかけているようにも見える。
少し不安だ。次は飛行キットを持ち込むべきかも知れない。
「時に、どうして一週間なのです」
「ああそれはね、一週間でこの絵はもう元に戻らなくなるから」
「っ!」
「レンプライアに完全に食い尽くされると、絵は真っ黒に染まって、そして元には戻らなくなる。 何処かで聞いた事があるんじゃ無いのかな」
そう言って、フィリスさんは此方を見る。
唇を噛んだ。
そんな話をされて、黙っていられるわけがない。
何が相手だかしらないが。
今日、決着を付けてやる。
手を掴まれた。
アンパサンドさんだった。
「スール」
「……ごめんなさい」
「分かれば良いのです」
問答無用でビンタではなかったのだ。アンパサンドさんも或いは、この状況に怒りを覚えているのかも知れない。
フィリスさんの言う通り一週間ギリギリにやれば、この絵は多分もたない。つまり無理してでも作業を前倒しにしろと強要されている。それも、お母さんの命を人質に、である。
アンパサンドさんがどこまで事情を知っているかはしらないが。
リディーとスールの様子を見て、尋常では無いことくらいは理解しているのだろう。それだけで、スールは充分だ。
隊列を組み直し、進む。最後尾はアルトさんに任せ。真ん中に四つの荷車で車列を作り。それを中心に進む。最前衛はアンパサンドさん。その後ろにマティアスとフィンブル兄。スールとリディー、オイフェさんとルーシャはその後ろ。荷車の最後尾には、フィリスさんが座って、お肉を貪っている。
頭に来るほどの余裕だが。
まあこの人にとっては余裕なのだろう、これくらい。
分かるからこそ苛立つ。
隊列を組んだまま進む。中空から、翼を大きくはためかせながら、何かが降りてくる。あんな形状のレンプライア、初めて見る。
いや、レンプライアではないのか。
何か得体が知れないそれは、巨大な蚯蚓のような体にたくさんの足が生えていて、翼を持っていて。遺跡のような建物に掴まると、上を向いて何かの楽器のように鳴いた。敵意は、ないのだろうか。
距離を取ったまま急ぐ。
獣のように、仕掛けてくる訳では無い。
ふと気付く。
橋の下を見て、ルーシャがひいっと小さな悲鳴を上げる。
ぼこぼこと泡立つような、絶妙に腐敗した肉ににたピンク色の雲に。大量の目が浮かんでいて、此方を見ている。
不意に、空に口が出来た。
口から漏れているのは、何かの繰り言だ。
意味すら分からない繰り言を述べ終えると、口はげらげら笑いながら消えていった。口から見えている歯が、兎に角汚かった。
何となく分かってきた。
これは、狂気そのものだ。
お父さんの狂気なのだろうか。
いや、違うような気がする。
レンプライアではないのだろう。レンプライアは悪意。悪意と狂気は、似て非なるものだからだ。
震えるルーシャの背中を、リディーがさする。
ルーシャは、吐き戻すのを必死に堪えていたが。ぐっと顔を上げた。妹たちの前で、情けない顔は出来ないと判断したのだろう。
嬉しい。
正直心細いのだ。心がおかしくなっている今でも。
不意に耳が出てくる。
文字通りの意味だ。
耳には無数の触手が生えていて、凄まじい勢いで目の前を横切っていった。何の意味があるのか。それすらも分からない。
ほどなく橋を渡りきる。
荷車の中を確認。
さっき見た感じだと、もう少し橋を渡らなければならない。浮島を歩く。
嗚呼、覚えがある。
多分此処、最初に迷い込んだところだ。
真っ赤に染まってしまって、血だらけに見えるけれど。何となく見覚えがある。あの時は怖くて震えるしか出来なかった。
もしあの時、今の光景を見せつけられていたら。
多分そのまま廃人になっていただろう。
いきなり地面から草が伸びる。その先端には巨大な眼球がついていて、こっちをじっくり見つめてくる。
少しずつ分かってきた。
敵意がないというよりも。これは。
世界のルールがにじみ出している。
人間の精神は、狂気の薄皮の上に乗っているだけのものだ。
不思議な絵画というのは、人間の内面世界を利用して、プチ異世界を作り出す技術。
お父さんの狂気では無い。
これは多分、人間の精神が均衡を崩したときに、具体的にどういうものが現れるかを、示しているのである。
だから攻撃してこない。
アルトさんもフィリスさんも攻撃しない。
アンパサンドさんも、変なものがでる度に警戒はしているが。攻撃をしてこないので、反撃はしない。
そうなると、レンプライアは本当に、殆ど掃除されてしまっている、ということなのだろう。
さっきアルトさんが片付けたのは、数少ない生き残り。
コア以外のレンプライアは、今までこの絵に入っていたアルトさんやプラフタさんが。殆ど片付けている、と考えて良さそうだ。
そうなると、この凶悪な気配。
コアは一体一体が、それだけ強いという事か。
橋を渡っていると。
不意に、辺りが隆起して、いきなり放り出される。
腰を打つような無様はせず、すぐに受け身を取って立ち上がるが。
其所は、まるで凍り付いた湖のように。
一面の、何も無い空間が拡がっていた。
むしゃり、むしゃりと。何かを食べている音がする。
今まで散々見てきた兵士型のレンプライア。
ただし、桁外れに大きいそれが、地面を貪り喰っている。そして、その全身には、赤黒い血管のようなものが浮き上がっていて。鎧状の部分の上にまで這い回っていた。
世界を、食っている。
つまり、この世界を殺そうとしている。
瞬間的に頭が沸騰する。
フィリスさんの声がした。
「この空間を隔離したから、思う存分戦ってね。 じゃ、頑張って」
そうかそうか。
やっぱり、戦う気はゼロというわけか。アルトさんもいない。
だが、はっきりいってむしろ有り難い。リディーとスール達だけで彼奴は殺したい。
お母さんがいる、お父さんの絵を喰らうレンプライア。絶対に許さない。
アンパサンドさんがハンドサインを出すと、真っ先に突貫していく。
雄叫びを上げながら、それに続く。
五月蠅そうに体を起こした兵士型レンプライアが、此方を見る。顔面に当たる部分に巨大な一つ目。
何かしらの異形が発生していると言う事か。
それともコアになるために進化していると言う事か。
どっちにしても絶対に許さない。
アンパサンドさんが真っ先に斬りかかる。相手の反応速度も尋常ではないが。それでもアンパサンドさんは、凄まじい槍捌きをかわしきる。
代わりに割って入ったマティアスが、シールドを至近距離で展開。
シールドバッシュの要領で、相手を押し戻し。
側面に回り込んだフィンブル兄が、兵士型の脇腹にハルバードを突っ込む。
だが、残像を抉っただけ。
上空に出た兵士型が、一つ目から無数の光弾を放ってくる。
とっさにシールドを張ったリディーだが、それも数発で貫通された。ハルモニウムの杖で増幅されているのにもかかわらず、である。既に詠唱を終えていたルーシャのシールドも負荷が酷い。
冗談抜きに。今までのレンプライアとは出力が違う。
至近距離に降り立った兵士型レンプライアが、槍を振るってくるが、それを無言で動いたオイフェさんが抱え込むようにして受け止め、至近からルーシャが砲撃。直撃。だが、頭が消し飛んでも、兵士型は即時再生。其所へ、リディーが杖を振るい、魔術を発動。身体強化の魔術を展開する。
次の瞬間には、兵士型の速度を上回ったマティアスと、フィンブル兄が、交差するようにして兵士型の体をおのおのの武具で貫き。
更にアンパサンドさんが、空中機動を利用して、レンプライアの腕に集中攻撃し、斬り弾き飛ばす。
其所へ、スールが連射連射連射。
スールのための銃、スール・ザ・スターの火力は凄まじい。反動も凄まじいが、それ以上に馴染む。
徹底的に飽和攻撃を浴びせるが、それでも兵士型レンプライアは怯まず、形状を変える。触手を全身から伸ばし、周囲を薙ぎ払う。
跳び離れたところで、形態を更に変化させる兵士型。
見る間に背が伸び、腕が増え、そして十を超える武具が、不規則な軌道で降り注いで来た。
お前にだけは、絶対に負けるか。
絶叫しながら、スールは銃を連射しつつ、前衛組の援護を。リディーが、皆に支援魔術で身体能力強化を掛ける。スールの新しい杖の威力は絶大で、何倍に身体能力が跳ね上がっているか分からない程だ。
斬られても再生し、更に強くなる兵士型。砲撃を浴びせ。爆弾を放り込み。殴り、殴られ。果てしなく戦いが続くかと思ったその時。
マティアスが、フィンブル兄と頷きあうと。息を合わせて、地面を蹴る。
無数の武具がそれを迎え撃つが。
だがその時。スールが、奴の顔面に、フラムを放り込み。バトルミックスで、極限まで火力を増幅。爆破していた。
動きが止まった兵士型の全身を、瞬時にマティアスとフィンブル兄が切り刻み。怨嗟の声を上げながら、兵士型が消えていく。ボトボトと落ちる宝石。中には、双色コランダムもあった。
呼吸を整えながら顔を上げる。周囲が、橋に戻っていく。ぱちぱちと、フィリスさんが手を叩いている。
満面の笑みだ。見かけだけなら、とても可愛らしい、優しそうな笑みだ。
「よく頑張ったねー。 じゃ、次行って見ようか?」
返す言葉は無い。いずれにしても、今戦って分かったが、もう此処のレンプライア達はレンプライアの域を超え始めている。
ルーシャに促されて、レンプライアの欠片を集める。
触った瞬間、ぞわりときた。
凄まじい密度だ。
これが、悪意なのか。
悪意の具現化たるレンプライアの欠片。その濃密なものともなると、これほどの凄まじさなのか。
そして、この悪意。
何かに似ている。
そうだ。
最近身近になった、深淵そのものだ。
わずかに違う。
だが純粋に煮詰めた悪意というものは、此処までもおぞましく。そして力そのものになりうるのか。
知恵の結晶であり、煮詰まった存在が深淵だとすれば。
此処にある悪意の結晶たるレンプライアは、深淵にごく近しい存在なのではあるまいか。
手当を手早く終わらせて、すぐに先に進む。
周囲の悪夢のような光景はまるで歪んでいない。さっき戦った彼奴は尖兵にすぎないのだ。
此処の侵略を終わらせ。
此処を天国のような場所に戻すには。
まだフィリスさん達の話を信じるなら、四体。今の奴か、それ以上のを倒さなければならない。
心が燃え上がる。
この邪悪さを実感した今は。それに対して、恐怖を覚えることは無かった。