暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、終焉の始まり

咳き込むオネットを見て、ロジェは懸念が適中したことを悟っていた。残留思念が咳き込むなんて、尋常な事の筈が無い。

 

触れる事はもう出来ないけれど。

 

もう一度、ロジェはオネットを失う。

 

このままでは、確実に。

 

出来る事は尽くした。

 

技術の粋を詰め込んで、この絵を修復した。レンプライアの駆除は、双子と一緒にやっていけばいい。今のこの絵に出るレンプライアは大した連中じゃない。今双子の護衛をしている凄腕ほどではなくても、十分対処できるはずだ。

 

問題は、この絵のコアであるオネットに。

 

過大な負荷が掛かっていること。

 

人格を持つコアというのは、ネージュ級の錬金術師でも無ければ、再現はできないものなのだ。

 

ネージュ級の実力になど到底たどり着けないロジェでは。

 

勿論無理だ。

 

悔しいが、ロジェに出来るのは此処までだ。

 

「ロジェ。 私は、後どれくらい、意識を保っていられるかしらね」

 

「分からん。 俺は所詮、此処までの腕だ。 双子がこの国一番……といっても、虚しい言葉だが。 Sランクのアトリエに昇格して、此処に錦を飾るまでは何とかもつと信じたい」

 

「そう。 貴方ほどの錬金術師でも、そうなのね」

 

「錬金術は才能の学問だ。 悲しい話だが、俺はこれ以上にはいけそうにない」

 

他にも出来そうなことは全て試した。

 

見聞院の本も調べたし。

 

あのソフィ=ノイエンミュラーにも土下座してみた。

 

だが、ソフィーは冷酷にも言ったのだ。

 

それが利になるのなら、考えてあげると。

 

それは、あの特異点にとってはそうだろう。世界をマクロの視点で常に見ている怪物にとっては。

 

一つの絵の中にある残留思念を守るために。

 

多くの犠牲を払う等という選択肢は最初から論外。

 

双子を奮起させて、人材として活用出来るのなら、その提案を呑むかも知れないけれども。そんな事は、絶対にさせられない。

 

あり得るとしたら。

 

双子が、ロジェを遙かに超える高みに行き。

 

オネットが、ただの画像と化す前に、何とか今の状態を固定する事だけれども。

 

そもそもこの間の大規模侵食で、オネットの残り時間は大幅に削られてしまった。今こうして、まともな会話が出来ているだけでもおかしいくらいなのである。前は多分、触ることは出来なくても、レンプライアと戦う位は出来たはずだ。今はそれさえ出来るか怪しい。

 

「ロジェ」

 

「……」

 

「守ってあげられなくてごめんなさい」

 

「俺こそ、君を救えなくて、本当に後悔している」

 

ロジェの頭の上に、オネットが手を置く。

 

笑顔は、崩していなかった。

 

もう、何があっても恨む事はない。

 

そう、オネットは言ってくれているのだ。

 

オネットが掛かった癌という病気は、おぞましく苦しいものだと聞いている。摂理に反しない範囲の薬しか作れないロジェには、対策できる代物ではなかった。そんな、最悪の苦しみの中に置かれたオネットを、どうにも出来なかった。

 

そして今。

 

双子の成長した姿を見ることが出来たが。

 

それ以上は何もできないオネットに対して。

 

ロジェは何もする事が出来ない。

 

唯一今後できるのは。

 

贖罪のための、薬を可能な限り作る事だけだ。

 

家を出る。

 

双子が待っていた。そもそも、此処にいる面子を、長時間拘束している余裕がアダレットにはない。

 

帰ることになる。

 

帰りは一瞬だ。絵からすぐに出て、そしてエントランスに。面倒な手続きを経て王城を出ると、後は解散となった。

 

双子に、少し遅れてから帰ると告げた後。

 

ロジェはイルメリアのアトリエに向かう。

 

イルメリアなら、或いは。

 

何か方法を知っているかも知れない。

 

ロジェは知っている。イルメリアは他の三傑と違って、ギフテッドを持っていない。双子が苦悩しているときに、相談に乗った経緯がある。

 

イルメリアは超越的錬金術師だが。

 

同時に恐らく、もっとも三傑の中では人間に近い。

 

或いは、何か知っているかも知れない。

 

イルメリアのアトリエに出向くと、彼女は丁度怪我人の手当をしているところだった。酒を飲んだ酔っぱらい同士の喧嘩による怪我人だが。ヒト族が喧嘩を売った相手が魔族だったので、大けがになってしまったのだ。

 

「こんな事で命を落としかけてどうするつもり。 反省しなさい」

 

「すみません……」

 

「貴方も。 下手をすると人を殺すところだったのよ」

 

「済まなかった。 三十年ぶりの酒でな……」

 

魔族の傭兵らしき人物も、申し訳なさそうにしている。まあ、誰でも今回の即位が如何にこの国に希望をもたらすかは分かっている。とはいっても、はめを外しすぎるのは褒められた行為では無い。

 

二人が事情聴取のために騎士に連れて行かれると。

 

椅子に座り直したイルメリアは大きく嘆息した。

 

「ロジェね。 入ってきなさい。 用事は何かしら」

 

「オネットを助けたい」

 

「……不思議な絵画については専門外よ」

 

「それは嘘だな」

 

無言のままのイルメリアに、ロジェは告げる。事実、イルメリアは表情こそ変えなかったが。

 

鼻を鳴らした。

 

察しろと。

 

残念ながら断る。

 

「双子をソフィー=ノイエンミュラーが好き勝手にしようとしていることはもうどうしようも無い。 此処もどうせ覗かれているんだろう。 だからこそいうが、双子の心を保つには、オネットが必要なんだ」

 

「……はあ。 ソフィー=ノイエンミュラーに頼んで断られたんでしょう。 それならば、私が勝手に助けることは不可能よ」

 

「何かヒントだけでも貰えないか。 自力で出来るだけはしたい」

 

「ヒントね」

 

しばし、考え込んだ後。イルメリアは言う。

 

「エーテルが足りないのよ」

 

「!」

 

「恐らく双子は自力で気付くでしょうけれど、それまでには時間が足りない。 時間稼ぎをするためには、貴方の絵にはエーテルが足りない事を自覚しなさい」

 

エーテル。

 

大気中に満ちる魔力の素。

 

頷くと、ロジェはイルメリアのアトリエを後にする。どのような書物にも書かれていなかった事だ。

 

そうか、確かにロジェの魔力では、不思議な絵の具の出力が足りなかったかも知れない。

 

ロジェとネージュの差を考えてみると。恐らく違うのは才能以上に魔力の出力だ。

 

ロジェは魔術こそ少しは使えるが、戦闘用の魔術が使えるほどではない。だからコアが安定しない。それならば、手はあるかも知れない。

 

王城に出向いて、幾つか手続きをする。

 

そして、後はアトリエに戻ると。先に戻っていた双子に言う。

 

「錬金術の装備を貸して貰えるか」

 

「良いけど、お父さんどうしたの? 付け焼き刃で扱えるものじゃないよ」

 

「それでもかまわん」

 

「……戦わないって言うのなら」

 

スールとリディーに、それぞれ頷く。

 

そして、魔力を極限まで増幅させる装備を借りた。

 

後は、時間を稼ぐ。

 

双子が、せめて。

 

大望を果たすまでの時間を。

 

 

 

(続)




双子にとって因縁の時が来ます。

超えなければならない、最後の壁と向かい合う時が。
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