暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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原作で双子が猛烈な敵意を向けているあの絵がラストの試験の内容になります。

ぶっちゃけ雷神なんかと比べると危機のレベルが数段さがると思うんですが、本作ではちょっとアプローチを変えて、この絵に挑む事になります。


1、最後の試験

無言で、リディーと一緒に試験内容をみやる。

 

スールは、作為的だなと思った。

 

マティアスも、恐らくそう思ったのだろう。

 

だから、ずっと此方の反応を待っていた。

 

「黒い絵……」

 

「俺様よりももうお前達の方が詳しいだろう? レンプライアってあのバケモノ達に、不思議な絵画が食い尽くされると。 その絵は真っ黒になり果てるって話だ。 そして、一度徹底的に食い尽くされると、もう二度と元には戻らない」

 

唇を噛む。

 

お父さんの絵が、その寸前まで行った。

 

今も、隙を見て見にいっては、レンプライアを片付けてはいるのだが。やはりレンプライアは定期的に湧いている。

 

お母さんにも会いたいと思うが。

 

家は閉ざされていて。

 

お母さんの姿も見られない。

 

多分、Sランクに昇格するまでは来るなと、お母さんが言っているのだろう。

 

お母さんは怒らせると怖かった。本気で怒ったときのお父さんほどではないけれども、凄く怖かった。

 

そして、優しいけれど、厳しい人でもあった。

 

多分騎士団上がり、という事も関係しているのだろう。

 

レンプライアが湧くことはどうしようもない。

 

そして、不思議な絵画というあまりにも優れた存在の利点を甘受し続けるためには。定期的なレンプライアの駆逐が必要なのだ。

 

「お前達に出された試験は、既に黒く染まりきった絵の最深部に潜む、レンプライアの王の駆除だ」

 

「レンプライアの王……」

 

「完全に黒く染まった絵には、尋常では無い強さのレンプライアがわんさか湧くらしくてな。 絵の理を乗っ取ったレンプライアのボスが、王と呼ばれるらしい。 俺様も又聞きだから詳しくは分からないんだが、他の絵にまで侵食する可能性があるそうだ」

 

「……あり得ない話じゃないよ」

 

スールはぼやく。

 

お母さんが、他の絵に遊びに行っていたと。この間、あった時に少しだけ話した。今はもう無理な様子だが。少なくとも、レンプライアの大攻勢が始まって、捕らわれてしまうまでは可能だったらしい。

 

今のお母さんは、厳密にはお母さんでは無い。

 

お父さんの心の中にいたお母さんを、完全に再現したものに。お母さんの残留思念が宿った存在。

 

つまりお母さんの幽霊のようなものだ。

 

霊とはまた違うのだろうが。

 

それでも、お母さんそのものではない。お母さんの残骸とでも言うべきか。

 

お父さんの様子から見て、お母さんはいつまでもつか分からない。

 

出来れば、Sランクの試験を受けられるのであれば。

 

さっさと突破して。

 

後は出来るだけ甘えたい。

 

例え触れることが出来なくても、だ。

 

それを邪魔するんだったら。

 

あの、お父さんの絵に湧くレンプライアを遙かに凌ぐ、邪神レベルのレンプライアだろうが。

 

絶対に許さない。

 

粉々になるまで叩き潰してやる。

 

スールの様子を見て、マティアスは無言でいたが。

 

やがて咳払い。

 

「その黒い絵なんだが、実の所もう構造とかはあらかた分かっている。 AランクからSランクに昇格する錬金術師が現れたときに備えて、レンプライアの王も残してあったらしいんだ」

 

「はあ……!?」

 

ちょっと待て。

 

声に怒りが含まれたのに、敏感に気付いたらしいマティアスが。露骨に慌てて繕う。

 

「俺様の仕業じゃないし……」

 

「分かってる!」

 

「マティアスさん、詳しくお願いします」

 

「……実はな、騎士団の演習場に使われてるんだよ」

 

思わず真顔になる。

 

マティアスは、ゆっくり、此方を憤激させないように、丁寧に話してくれた。

 

「黒い絵には恐ろしい程高品質の錬金術素材と、それと強力なレンプライアが湧く。 三傑の誰かが一緒にいれば、騎士団は此処で三傑に対して給金代わりの素材を提供できるし、更には三傑と連携すれば死者を出さずに鍛錬も出来る。 最近騎士団を増員出来たのもそれが理由なんだ。 騎士団全体の質を上げて、一気に兵員を増やしても瓦解しない程度に、騎士の質を上げたんだよ」

 

「そんな……」

 

「いずれにしても、「王」は駆除してもまた再生するそうだ。 再生までは相応に時間が掛かるらしいがな。 三傑は「王」の影響力を抑え、その手足になるような強力過ぎるレンプライアは全部駆除してくれてもいる。 多分「王」とは、殆どベストの状態でやり合えるだろうよ」

 

「……」

 

そうか。やっぱり。

 

更に、今回の試験には、ソフィーさんも来ると聞いて。口を閉じる。もう、露骨すぎるし。隠す気もない。

 

「アルトや三傑は別の内容の試験を受けて、Sランクに昇格済みだ。 今回、ルーシャとお前、後はパイモンのおやっさんが、同時にこの試験を受ける事になった。 今後も、もしもSランクになりうる人材が出てきたら、三傑が「王」を復活させて……」

 

「もういい、ちょっとごめん。 黙ってくれる?」

 

「……」

 

「スーちゃん。 マティアスさん、ごめんなさい」

 

流石に言い過ぎと思ったから、スールもリディーに続いて謝る。

 

だが、すっかり冷え切った心が。

 

また煮立つかと思った。

 

どの不思議な絵画も。作者の理想と願望を、魂と共に込めた空間だった。

 

それを蹂躙しうるレンプライアを養殖し。

 

そして活用する。

 

合理的かも知れない。

 

だが、レンプライアの危険性を考えると、正気の沙汰では無いし。何よりも、不思議な絵画を描いた人達への冒涜だ。

 

しかしながら、合理的ではある。

 

それは認めざるを得ない。

 

普通の錬金術師にとっては脅威だろう。束になっても、勝てる相手ではない可能性も高い。

 

だが三傑くらいになってくると。

 

「王」たるレンプライアでも、もはや相手にもならないのだろう。

 

この間、お父さんの絵で見た。

 

フィリスさん、明らかに時間だけでは無く、空間までも操作していた。それも呪文詠唱も無しに。

 

そんな事が出来る錬金術師にとっては。

 

それこそレンプライアの「王」何て、単なる養殖動物に過ぎないのだろう。それが普通の人間にとって、どれだけ危険だとしても。

 

ましてや今は。そんな超越級錬金術師が、三人もアダレットに来ているのだ。

 

不要になったら封印でも何でもする手段も持っている筈。

 

或いは、不思議な絵画そのものを消滅させてしまうという手もあるかも知れない。

 

いずれにしても、三傑にとってレンプライアの「王」など脅威でも何でも無いし。むしろリディーとスールを痛めつけて育てるための材料に過ぎない、と言う事なのだろう。

 

虫酸が走る。

 

「それで、試験開始のタイミングなんだが」

 

「今、二つほど切り札を用意しています」

 

「切り札?」

 

「ヴェルベティスと、N/Aという爆弾です」

 

ヴェルベティスと聞いて、マティアスが顔色を変える。

 

まあ王族なら知っていても不思議では無いか。

 

イル師匠は当然のように扱っていたが、これもハルモニウム同様国宝になるほどの品である。

 

N/Aについては、恐らく三傑が改良に改良を重ねて、わざとレシピを流している。

 

才覚が無ければ再現はできないのがこの世界の錬金術。

 

レシピを流したところで、痛くもかゆくもないのだろう。

 

「マティアス、ルーシャやパイモンさんも、時間いるでしょ。 ちょっと……準備がみんな整うまで、待てないかな」

 

「あー、それについてだがな。 スクロールの一番下にあるとおりだ。 俺様にはどうにもできん」

 

「……」

 

スクロールを最後まで見る。

 

試験は二週間後。

 

試験に落ちた場合、再度の受験は二ヶ月後とする。

 

溜息が漏れた。

 

多分ギリギリになる。

 

二週間後に失敗した場合、お母さんをどうにかすることは、多分無理だ。お父さんが頑張ってくれるだろうが。

 

あんな不安定な状態。

 

いつまでも維持できるとは思えない。

 

リディーもそうだろうが。スールとしては、一刻も早くSランクになって、お母さんとずっと一緒にいられる方法を模索したい。

 

時間を操作する。

 

空間を操作する。

 

概念を操作する。

 

何でもいい。

 

出来る事は、三傑が証明してくれている。

 

それは、桁外れの経験を積んでいる天才が相手だ。即座に追いつけるほど甘い話では無い事も分かっている。

 

それでも、やらなければならないのである。

 

「分かった、どうにかする。 今すぐ全力で準備に取りかかるから」

 

「すまん、スー」

 

「マティアスは悪くないよ」

 

「うん。 だから、もう上がって」

 

頷くと、マティアスは帰って行く。

 

さあ、最後だ。

 

これで、悪意に満ちた試験からは解放される。Sランクのアトリエになれば、流石に三傑も今までとは対応を変えてくるはず。イル師匠は分からないけれど。フィリスさんとソフィーさんは、今後の事を。世界の詰みを打開する人材として。リディーとスールをカウントしてくれるかも知れない。

 

そうなれば無意味に使い捨てるようなことはしないはず。

 

発破を掛けるために、無茶苦茶をいう事だってなくなるはずだ。

 

そう信じて。

 

今は動くしかない。

 

リディーと頷きあうと、N/Aの調査を進める。兎に角、今までにないほど微細な魔法陣が必要になってくる。爆弾の組み合わせそのものも恐ろしく難しい。どのようにして、同時に極限まで圧縮された爆発が交錯するようにするのか。徹底的に確認していかなければならない。

 

リディーは計算を始める。

 

スールはギフテッドを活用して、爆弾を中和剤で強化していく。

 

そうこうしている内に、機織りの店から連絡が来た。

 

ヴェルベティスが仕上がるのは一週間後。

 

そうか。

 

機織りが終わって布にしても、その後加工するのが一苦労なのだ。コーティング剤も貼り替えないといけないし。何よりも、そもそも服の裏地にするために、加工するのが大変なのである。

 

生半可なハサミなんかじゃ、逆に一発でへし折られる。

 

堅いのではない。

 

繊維として、異常なまでに強いのだ。

 

この加工にも、数日を見なければならない。

 

要するに、N/Aを作るのは。

 

ヴェルベティスが届くまで。

 

期限は一週間だから、それまでに仕上げなければならない、と言う事だ。

 

お父さんが戻ってくる。かなり消耗しているのが分かるが。リディーとスールを見ると、無言でもう一度出て、出来合いを買ってきた。

 

夜はそのまま、出来合いでおなかを満たす。

 

はっきりいって美味しくないけれど。

 

とにかく今は、栄養を確実にとっておかなければならない。

 

多分ルーシャもパイモンさんも修羅場だなと思いながら、スールはさっさと必要量だけ眠り。

 

起きだしてから、N/Aの作業を続ける。

 

魔法陣をリディーが作り上げ。

 

スールも精査する。

 

わずかに疑問が出てくるので、それを二人で徹底的に問い詰め合った後。間違いだったとして修正する。

 

やはりダブルチェックは必要だ。

 

それにしても、スールほどの緻密な頭脳の持ち主でも、こういったミスをする程の繊細な魔法陣が必要になる。

 

その威力は想像を絶するだろう。

 

更にこれにバトルミックスを乗せたら。

 

どれだけ火力が上がるのか、想像するのも恐ろしい。

 

だが、三傑はそれくらいのことは、日常的にやっているはずで。

 

今更臆するわけにもいかなかった。

 

淡々と作業を続ける。

 

風呂にも入るようにお父さんに言われたので、しっかり体も温める。事実休憩を入れないと、作業効率はどうしても落ちる。

 

本来はそうだ。

 

人間を止めてから、どうもその理屈も揺らぎ始めている気がする。

 

ため息をつくと、何だかつかれているんだか温まっているんだか分からない体で、作業を再開。

 

N/Aに関しては、もし完成したらコルネリア商会に登録するつもりだけれども。

 

多分増やして貰う場合、目玉が飛び出すような価格を要求されるだろう。

 

それでも、作る価値はある。

 

そう信じる。

 

いずれにしても、レンプライアはスールの敵だ。リディーの敵でもあるが。レンプライアは絶対に許せない。

 

不思議な絵画の世界は、スールに色々教えてくれた。

 

お化け達は、何故お化けという者が存在していて、そして重要なのかを。

 

凍った世界では、人間という生物が如何に愚かで、それは終末までも変わらないという事を。

 

灼熱の世界では、人間と支配種族が存在した場合の関わり方を。

 

ネージュのアトリエでは、如何に「みんな」という存在が醜いかを。

 

キャプテンバッケンの世界では、願望の賊が、如何に現実と離れているかを。

 

砂漠の世界では、人間という生物が、昔から一切合切進歩していない事を。

 

星空の世界では、人間の心の奥底に潜む邪悪を。

 

そして、お父さんの絵では。

 

薄皮一枚の下に、人間がどれだけの狂気を秘めているのかを。

 

いずれにしてもはっきりしているのは。

 

普通の人間という存在が如何にどうしようもないもので。

 

もはや「みんな」に迎合することなど笑止でしかないという結論である。

 

そして、そんな結論を教えてくれた不思議な絵画達を、蹂躙しようとする「みんな」が共通で持っている悪意。

 

それこそがレンプライアの正体だ。

 

違うから何をしても良い。

 

理解出来ない相手はバカだ。

 

見た目気持ち悪いから殺して良い。

 

そんな風に考える「みんな」こそがこの世界を殺す。そう、レンプライアが、美しい不思議な絵画の世界を殺すように。

 

レンプライアの王がいるなら、徹底的に殺し尽くしてやる。

 

八つ裂きにして引きちぎってやる。

 

絶対に許さない。

 

今まで見てきた「みんな」の醜さを知るスールは。その決意を固めていたし。他人に異論を許すつもりもない。

 

気合いを入れ直すと。

 

作業を再開。

 

N/Aを徹底的に検証し。少しずつくみ上げていく。

 

だが、時間は有限だ。

 

まだ時間を止めるまでに至らないスールでは、こればかりはどうしようもない。ソフィーさんやフィリスさん、イル師匠は。時間を止めて、場合によっては年単位は掛かるような調合もやっているのかも知れない。

 

それが出来ても不思議ではない。

 

だが、リディーもスールも。

 

如何にからだがおかしくなっていたとしても。

 

まだ、時間という鎖は、どうにもできないのだ。

 

休むようにまたお父さんに言われた。

 

お父さんも、相当無理はしているが。それでも定期的に戻ってきて休んでいる。何の作業をしているかは聞かない。

 

多分お母さんの絵に何かしているとみるべきだろう。

 

スール達が、Sランク試験を受けるまで、或いは現状ではもたないのかも知れない。可能性は低くない。

 

だが、もしもそうだとしたら、お父さんはまた三傑に頭を下げてやり方を聞いた可能性もある。

 

口惜しい。

 

これ以上、お父さんに負担は掛けたくない。

 

今まで、苦しすぎるほどに苦しんできたお父さんなのだ。

 

これ以上は、酷い目にあわせたくは無い。

 

特にソフィーさんに頼んだりした場合。

 

どんな代償をふっかけられるか、分かったものではないのだから。

 

冷や汗を拭いながら。

 

仕上げた爆弾をくみ上げる。

 

声を聞く限り、これで完成の筈だ。問題は実験をする場所が存在しない、という事である。

 

しかもこれ、量産出来るような代物ではない。

 

いずれ質を上げることは出来るかもしれないけれど。それにも入念な準備が必要になってくる。

 

まず、コルネリア商会に出向く。

 

この間お父さんと再会できた事で、コルネリアさんは少し笑顔が増えたように思える。ホムだから、あまり表情は分からないのだけれども。そんな気はした。

 

N/Aを見せると。

 

コルネリアさんは難しい顔になった。

 

しばらくN/Aに手をかざしたりして、色々作業をしてから。

 

値段を口にする。

 

その価格は、ハルモニウムのインゴット、十個分に相当した。

 

思わずその場で膝から崩れかける。

 

精神が希薄になっている今でも、その価格は衝撃的だったからである。

 

「これは、複製するならば此方も相当に消耗を覚悟しなければならないのです。 うちにいる複製の能力持ちのホムが総掛かりでも作れるかどうか厳しい品。 簡単には増やせないのです」

 

「……リディー、ちょっと相談」

 

「うん」

 

頭がクラクラする。

 

今後、ヴェルベティスも増やさなければならないのだ。その出費も合わせて計算する。

 

ヴェルベティスは、ハルモニウムのインゴットと同じくらいと計算して。それでリディーとスールの分。後の人の分。

 

全員分の事を考えると。

 

今の貯蓄が、綺麗さっぱり消し飛ぶのが分かった。

 

「ごめんなさい、一個だけ……増やしてください」

 

「分かりましたのです。 二人とも、相当無茶をしているようなので、心配なのです」

 

「いや……大丈夫ですはい」

 

今の複製の話を聞く限り、そうとしか答えられない。

 

コルネリア商会でも、複製能力持ちのホムは、早々たくさんは抱えていない筈。しかも今回は、増やすなら全員がかりという話も聞いてしまった。

 

それを考えると、とてもではないが、値下げしろなどと言うことは言えない。

 

情に訴えた作戦というのは、相手がヒト族の商人の場合は考えられるが。

 

そもそもそんな事をホムはしない。

 

コルネリアさんもそれは同じ。

 

種族的特性で不正をしない。

 

それがホムという存在なのは、スールも分かっている。

 

と言う事は、提示された金額は妥当という事で。

 

妥当なお金を払うのは当たり前だという事をスールは分かっているから、それ以上何も言えなかった。

 

かなり厳しい。

 

少し前に国への納品も済ませたばかりだ。王冠を作った分の料金もこれで消し飛んでしまった。

 

「……あらゆる意味で、負けられない、か」

 

スールはぼやくと、アトリエへの帰路。

 

拳を固めた。

 

いずれにしても、レンプライアは殺し尽くす。

 

それに、代わりは無い。

 

だったら、殺し尽くすための準備をする。そのためには幾らでもお金なんか使える。

 

そう割切っていくしか無かった。

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