暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
王城に出向くと、皆集まっていた。
もうだいぶ騒ぎも落ち着いたので、受付で待たされることもない。応接室で、打ち合わせをする事にする。
錬金術師はリディーとスール、ルーシャ、パイモンさん。
全員が、Sランク試験の受験者だ。
パイモンさんは、まだやれるかも知れないと言う考えでこの試験を受けるらしい。
雷神の石の火力は凄まじいし、的確な判断で格上相手の戦闘でも慌てないとても頼りになる人だ。
才能がものをいう錬金術で。
一度は諦めた高みに、まだ挑戦しようと試みる。
その心意気は凄いと思う。
ましてやパイモンさんは、アンチエイジングを使っているとは言え、実質上老人なのである。
今はスールも、老いはまず頭から来る事を知っている。
この人は、老いても根本的な所が衰えていないのだ。
なお奥さんとは死別しているらしく。再婚は今後するつもりはないらしい。
この辺り、達観しているというか。
或いは、アンチエイジングで摂理を曲げているが故の行動なのかも知れない。
護衛は、アンパサンドさん、マティアス、フィンブル兄。オイフェさん。
全員が、前とは桁外れの力を放っている。
特にオイフェさんは、いつも使っている戦闘用のナックルをハルモニウムに新調したらしい。靴先にもハルモニウムを仕込んでいる様子である。
インファイターとして、恐らくこれで完成したはずだ。
そして、部屋に。
すっと、音も無く入ってくるソフィーさん。
それだけで、空気が変わった。
フィリスさんは半分遊んでいる雰囲気があった。破壊神と呼ばれる人であっても、である。
イル師匠は、皆に余計な圧迫感を与えないように、配慮してくれる。
アルトさんは遊び半分でもやる事はやってくれるし。プラフタさんはとても真面目で親切だった。
でも、ソフィーさんは違う。
遊びは一切無く。
目的のための最適解を最小の労力で行う。
それが目に見えている。
そして、ティアナさんも一緒に来る。
先代王を殺した下手人のご登場だ。勿論イル師匠ですらその証拠を捕らえられなかったが。この人以外に、先代王を殺せた人はいない。ソフィーさんがわざわざ出向くような案件でもないから、である。
見届け役兼。
余計な事をしたら、殺すための人員だろう。
逃げ道はこれで完全に無くなった。
生唾を飲み込む。
はっきりいって、此処にいる面子が総掛かりでも、ティアナさん一人に勝てるかさえ怪しい。
今なら分かる。
わき上がるような、凄まじい殺戮特化の力が。
ティアナさんは、文字通り殺戮のための技能を極めに極めきっている。それ以外の全てを捨てている。
だからこそ、圧倒的なまでに強い。
戦闘マシーンという言葉があるが。マシーンなどではこの人には勝てないだろう。死神という言葉があるが、あれは確か運命が尽きた人を迎えに来る存在で。殺しに来る存在ではない。
強いていうならば。ティアナさんは、絶対なる神の剣。振るわれる先には、文字通り何もかも平等な死だけをもたらす。
ソフィーさんが手を叩く。
それで我に返った。
「それじゃあ、Sランク試験を開始します。 あたしが先導するので、不思議な絵画の最奥にいるレンプライアの王を皆で駆除してください。 ……サービスとして、途中で現れるレンプライアは、あたしとティアナちゃんで対処します」
「……」
ティアナさんは無表情なままだ。
レンプライアは殺すと欠片になってしまう。首を狩る事が出来ない。
だから、つまらないのだろうか。
前にダーティーワークを一緒にやった時、ティアナさんは首を狩ることを何より楽しんでいるように見えた。
「パイモンさんは、Sランクの試験を受けた後どうします?」
「そうさな。 行ける所までいってみたい。 後世に雷神と呼ばれる……いや、雷神はあのファルギオルめがいたか。 何か、雷にちなんだ二つ名で呼ばれたいものよ」
「ふふ。 ルーシャちゃんは?」
「……今は、この試練を乗り切る事だけが目的ですわ」
青ざめながらも、ルーシャは答える。
嗚呼。それだけで、ルーシャがソフィーさんと相当な確執があり。徹底的な恐怖を植え付けられ続け、絶対に勝てないと認識させられている事が分かる。
「リディーちゃん、スールちゃんは」
「……お母さんを救うためです」
「まずはお母さんのいる絵に悪影響を与えるレンプライアの首魁を叩き殺します」
「ふふ、それで結構」
ソフィーさんが先導し、歩き出す。
地下エントランスに、荷車もろとも到着。荷車の中身は、事前に徹底検証してある。また、今回は、状況的に考えて、超高品質の素材が多数採れることが想定される。勿論分割する。分割出来ない分は、コルネリア商会に登録して、それぞれが買えるようにする。ソフィーさんが来る前に、打ち合わせは終えていた。
ソフィー先生が足を止めたのは。
真っ黒な絵の前だった。
本当に真っ黒になるんだな。
絵を見て、生唾を飲み込む。
絵そのものは、美しい遺跡のようなものを描いたものだ。
見た感じでは、ぐっと来るものはない。
他の不思議な絵画に比べて、素晴らしいとは感じない。
お父さんの絵は、美意識を詰め込んだものだという事が一発で分かるし。
他の絵も、出来はそれぞれ違うとしても。
それぞれの心が、一杯にキャンパスに詰め込まれている事は理解出来た。
だが、この絵は何というか。
己の都合の良い願望を詰め込んだように思える。
勿論、他の絵画にだって、それは側面としてあるだろう。この絵は、何というか露骨過ぎるのだ。
「この絵の名前は黒の地平線。 本来の名前は違ったのだけれど、今あたし達は便宜的にそう呼んでいます」
「黒の地平線……」
「確かに、終焉の土地という雰囲気であるな」
頷くパイモンさん。
ソフィーさんはによによと笑いながら告げた。
準備は良いかと。
今更引くつもりは無い。
試験は、今回脱落した場合、次は二ヶ月後だという。いずれにしても、お母さんがそれではもたない。
一発で、突破する。
ぎゅっと、拳を握りこむが。
ふと気付くと、ルーシャがそっと肩を掴んでいた。
「スー。 大丈夫ですわ。 いざという時は、わたくしを使い捨てにしてでも、お母さんを救ってくださいまし」
「……ごめん。 大丈夫。 ルーシャも、勿論一緒に試験突破しようね」
そうだ。忘れていた。
ルーシャの事だって、救わなければならない。
今後、ソフィーさんの望む超越級錬金術師になれば。スールのいう事を、全て無視することはソフィーさんにも出来なくなる筈だ。
その時まで、耐えて欲しい。
さあ、決戦の時だ。
レンプライアの首魁。
必ずや、八つ裂きにして、蜂の巣にしてやる。
スールは気合いを入れ直すと。
相手を絶対に殺戮するべく、意識を完全に切り替えた。
(続)
自分のため以上に自分が大切なもののため。
双子はそう考えて、最大の危機に立ち向かいます。
世界の詰みはもう理解しています。それに対応するには、人間では無理だと言う事も。
だけれども、それでも自分の意思で立ち向かいたい。
だから自分から人を止めるのです。自分の意思で。
ソフィー先生もそれを目論んでいる事は分かった上で。