暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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戦いの決着。

しかし、これで終わるほど話は甘くありません。

むしろここからが本番だと言えます。


3、戦い終わりて

気がつくと、城の応接室で寝かされていた。手当は済んでいる様子である。

 

ルーシャの状態がかなり酷い。リディーを守るために、かなり無茶をしたのだろう。まだ意識が戻っていない様子だ。

 

スールは既に起きていたが。

 

左足に、包帯をかなりきつく巻いていた。

 

恐らく、足の骨を複雑骨折していたのだろう。だが、それでも治るような薬は準備してあったはずだ。

 

アンパサンドさんがいない。

 

まさか、と思ったが。

 

頭に包帯を巻いたマティアスさんが戻って来て。そして、開口一番に言ってくれた。

 

「アンなら命を取り留めた。 特異点ソフィーが薬を出してくれてな」

 

「……そうですか」

 

「代償は相応のものを要求されたがな。 それはもう仕方がねーよ。 未来の騎士団副団長を失うわけにはいかないからな」

 

マティアスさんの表情からして。

 

恐らくは、正式な深淵の者所属を要求されたなと、リディーは悟る。

 

パイモンさんは、腕組みして座ったまま、目を閉じていた。回復に集中しているのだろう。

 

心配してルーシャの様子を確認。

 

心臓も動いているし。呼吸もしている。どうやら、此方も大丈夫ではあるようだが。

 

あの後、何があったのかを聞く。

 

スールは首を横に振った。

 

体中滅茶苦茶になっていて、レンプライアの王「傲慢」倒すと殆ど同時に意識を失ってしまったらしい。

 

パイモンさんも、意識が朦朧としていて、よく覚えていないそうだ。

 

オイフェさんは、ルーシャがこんな状態では、そもそも口を開かないだろう。

 

覚えていたのは、フィンブルさんだけだった。

 

マティアスさんを一瞥すると。頷きあってから、教えてくれる。

 

「戦いの後、応急手当を済ませると、ソフィー=ノイエンミュラーが何か術式を掛けて、黒いブロック状のものを生成していた。 恐らく、あの絵は今後も消えないのだろうが、そのブロック状のものが出来るのと同時に、周囲から感じる強烈な悪意が露骨に弱まったのを感じた」

 

「封印した、と言う事なんでしょうか」

 

「不思議な絵画は一度黒く染まると元に戻らない、王は何度でも復活する、そういう話であっただろう。 かといって、あの絵にはお前達でも一目で分かる高品質の素材がゴロゴロとしていた。 恐らくだが、絵を失う訳にもいかないし、かといってお前達に恩を売る必要もある……という事なのだろう」

 

「……フィンブルさん、流石ですね」

 

鼻を鳴らすフィンブルさん。

 

精悍な犬顔の頭を、ぼりぼりと掻く。

 

痒いのでは無く。余程、自分の無力に腹を立てているのだろう。

 

だが、この人も深淵の者に所属はもうしている。

 

ソフィーさんを個人的に嫌っていても。

 

深淵の者が、この世界に果たしている巨大な役割は、しっかり理解している、という事でもあるのだろう。

 

程なく、アンパサンドさんが運ばれてくる。

 

運んできた従騎士二人は、何も言わずに出ていった。

 

アンパサンドさんも、目を覚ましていない。鎧は脱がされ、体中包帯だらけ。リネンを着せられた姿は、兎に角痛々しかった。

 

これは、戦いが終わった直後、どんな状態だったかは、知らない方が良いだろう。

 

手指も数本欠損していてもおかしくなかったはずだ。

 

だが、それでもこの人は。

 

今までの邪神ほど力を軽減できておらず。

 

凄まじい悪意の力と、圧倒的な広域制圧力を最後の最後まで展開し続けた「傲慢」に対して。

 

一歩も屈せず、インファイトを挑み続け。

 

そして注意を惹くことで、他への被害を徹底的に打ち消してくれていた。

 

本物の騎士だ。

 

厳しい人ではあるけれど。

 

それでも、この人がホムである事で、馬鹿にする奴は騎士失格だろう。だけれども、この人のようになれる騎士なんて、殆どいないはずだとも思う。

 

しばしして。

 

ルーシャが目を覚ます。

 

かなり頭が痛むようで、寝ているようにオイフェさんに言われて。素直に従う。オイフェさんが自主的に喋る事は珍しい。だからこそに、従わなければならないとも、ルーシャは思うのだろう。

 

リディーはもう大丈夫だ。

 

歩いて帰るくらいは出来る。

 

スールを見るが、そっちも大丈夫そうである。

 

後は、薬の在庫を確認。

 

かなり減っている。

 

恐らくだが。リディーとスール、ルーシャとパイモンさん。前衛組の実力をソフィーさんは一目で見きり。途中でレンプライアとの戦闘をさせると、ぎりぎりの戦いにならないと判断したのだろう。

 

だから、道中ではあくまで精神攻撃に徹し。

 

物理的な脅威は、ティアナさんに駆除させ続けた。

 

何もかも計算の内。それも、的確に計算通りに作戦を成功させた。

 

いや、まて。

 

ひょっとして、今までの何度も繰り返している発言からして。

 

もう何度か、この件も繰り返しているのか。

 

レンプライア「傲慢」に敗れた世界が、何度もあったのだろうか。

 

スールが、肩を叩いた。

 

今は考えても仕方が無いと、無言での視線が告げていた。

 

頷くと、少し横になって休む。

 

スールの言う通りである。

 

今は、少しでも、力を回復する事に務めなければならないし。休憩した後は、出来るだけ急いでこの部屋を開けなければならない。

 

一刻ほど、横になって休んで。

 

アンパサンドさんが目を開ける。

 

神域の薬を使って、それでなお、一刻以上意識が戻るのに時間が掛かった。

 

普通だったら絶対に死んでいたはずだ。

 

それでも命を取り留め。しかも一刻で意識が戻った。

 

アンパサンドさんは、手を握ったり開いたりしている。この様子では、やはり手指を欠損した記憶があるのだろう。

 

声を掛けると。

 

アンパサンドさんは、頷いた。

 

「もう大丈夫なのです。 むしろ体が温かい位なのですよ」

 

「……それじゃあ、解散、ですね」

 

「レポートは出すように」

 

「分かっています」

 

釘を刺される。真面目に受け応えると、アンパサンドさんは、少しだけ考え込んでから、こっちを見た。

 

そして言う。

 

「多分戦闘力だけなら、二人揃ってネージュに並んだのですよ」

 

「えっ」

 

「……ありがとうございます」

 

驚いているのはスールだが。

 

リディーは、それは静かな事実として受け取った。アンパサンドさんは、リップサービスなどしない。客観的に自分も他人も見る人だ。この人がそういうと言う事は、多分事実なのだろう。

 

アンパサンドさんの乗った担架を、ひょいと担ぎ上げるマティアスさんとフィンブルさん。

 

二人も決して無傷では無いのだが。

 

「ブル、試験の対策はどうだ」

 

「後は受けるだけだ。 先達から既に色々教わっている」

 

「そうか。 頼むぜ、俺様は一人じゃ何にも出来ないからな。 アンとブルがいてくれないと困るんだよ」

 

騎士団の寮に移動するのだろう。

 

アンパサンドさんも、後は回復待ち。応接室を使う理由は無い。

 

ルーシャも、少し立ち上がるのに苦労したが。

 

オイフェさんが肩を貸して立ち上がると。

 

荷車に乗せられる。

 

後は、オイフェさんが全自動荷車を動かして、帰って行った。

 

パイモンさんが咳払いする。

 

「それでは儂も失礼する」

 

「パイモンさん。 最後の雷神の石、凄かったです」

 

「いや、アレは結局、「呆れてものが言えない」規模のもので、結局儂には限界を超えられないという事がよく分かったよ。 Sランクの称号は受け取るつもりだが、それはそれだ。 以降は深淵の者の指示をたまに受けながら、故郷で隠棲するつもりだ」

 

そうか。パイモンさんは、ラスティンに帰ってしまうのか。

 

ただ、もうしばらくはアダレットにいるという。

 

アダレットも、色々あってまだ完全に安定しているわけでは無い。もうラスティンは、主要都市の安定と。主要なインフラの強固なネットワークを「ここ数年」で完璧に仕上げたらしいのだけれど。

 

アダレットは、そうもいかない。

 

しばらくは、錬金術師が幾らでも必要だ。

 

フィリスさんが一人で、一年で百年分働くとしても。それでもインフラがどうにもならないほどにアダレットの状態は良くない。

 

それは、彼方此方を見てきてリディーもよく分かっている。

 

まだ、深淵の者が、パイモンさんに隠棲は許してはくれないだろう。

 

もしもリディーが、アルトさんの立場だったとしても。

 

パイモンさんには働いてほしいと思う。

 

部屋には、スールと二人だけ残った。

 

結局使わずに済めば良いと思ったN/Aは使わざるを得なかった。そして、あの破壊力。

 

出来れば普段は絶対に使わないようにしなければならない代物だ。

 

試験する余裕が無かったから分からなかったけれど。

 

あれはもう、人間が手を出して良い領域の爆弾ではない。

 

元は違う爆弾だったのかも知れない。

 

少なくとも、今見聞院にレシピが広まっているN/Aは、生半可な錬金術師には再現出来ない代物である一方。

 

生半可な輩が手を出したら、破滅しか無い超危険物でもある事がはっきりした。

 

スールに促されて、頷いて立ち上がる。

 

部屋の掃除を軽く済ませた後、部屋を出る。

 

役人が来たので、もう全員部屋を後にしたことを話すと。頷いて、掃除夫を呼んだようだった。

 

これで、Sランクのアトリエ。

 

国一番だ。

 

勿論、それが虚しい称号だという事は分かっている。ソフィーさんがいる時点で、国一番も何もあったものではない。

 

それでも、これで。

 

お母さんに報告に行ける。

 

ただ、ソフィーさんが、これで終わらせてくれるはずがない。

 

まだ何かある筈だ。

 

受付で、声を掛けられる。

 

モノクロームのホムである。ずっと世話になった役人だ。

 

幾つか話をする。

 

多分Sランク試験という事は、この人も知っていたのだろう。試験を突破出来ただろうと話すと。

 

自分の事のように喜んでくれた。

 

「多数怪我人が出ていたから心配していたのです。 合格出来たと思えるのであれば、良かったのですよ」

 

「有難うございます」

 

「今後も、薬も装備も爆弾も、幾らでも必要なのです。 頼むのですよ二人とも。 アダレットの未来は、二人の双肩に掛かっているのです」

 

苦笑は、しない。

 

この人は、多分深淵の者に所属していない。

 

それが分かってしまった。

 

今のリディーとスールの双肩には。

 

アダレットどころか。

 

この世界そのものが乗せられてしまっているのだ。

 

後は、疲れた体を引きずって、家に帰る。お父さんは、黙々と錬金釜に向かっていた。お薬を増やしていたらしい。

 

多分、負傷して戻ってくる事を想定していたのだろう。

 

リディーとスールの姿を見ると。心配していたと声を掛けてくれた。

 

そうか、前だったら絶対に素直に受け取れなかった言葉だ。

 

本当に心配していたのだろう。感謝をする。

 

だが、お父さんはきちんと引き締めてもくれた。

 

「レポートがあるなら、早めに済ませてしまえ。 今のうちにやっておかないと、後が面倒だ」

 

「うん。 お父さん、食事、最初にとってもいい?」

 

「……まだ夕方だが、その様子では仕方が無いな。 出来合いを買ってくるから、其所でまっていなさい」

 

調合を切り上げると。

 

お父さんは出来合いを買いに行く。

 

美味しいものではないけれど。

 

そもそもリディーが、もう疲弊しきっていることを、お父さんは見抜いたのだろう。

 

常時回復の錬金術装備を身につけていても、まだまだ回復が全然追いつかない。それについても、見抜いたはずだ。

 

三人で夕食を囲む。

 

軽く、黒い絵の中で、何があったか話した。

 

七つの大罪について話をすると、お父さんは厳しい表情で眉をひそめた。

 

「どれも、本来なら社会を構成するために必要な要素だな。 だが、強くありすぎるとエゴの怪物が出現してしまう。 確かに人の心の映し鏡である不思議な絵画が、もっとも汚染されれば。 そういったものが出現しても不思議ではない」

 

「お父さんの絵は、まだあれでも汚染されきっていなかったんだって、あの絵を見てよく分かったよ。 本当に落ちるところまで落ちると、原初的な欲望が剥き出しになるんだね」

 

「それで、錬金術師の残留思念は、助けてやるのか」

 

「……そうするつもり」

 

パイモンさんは、あの黒い絵を見て、駄作だと即座に断言した。

 

リディーもそれについては同感である。

 

だけれど、あの錬金術師に罪は無い。

 

駄作だろうが、不思議な絵画を仕上げたほどの人だ。

 

黒く塗りつぶされようが、それでもごく一部の錬金術師にしか手が届かない不思議な絵画を完成させた才覚の持ち主だったのだ。

 

残留思念になってまで、あの絵に留まっているのは。

 

悲しいから、口惜しいから。

 

そしてあの人は、甘やかすレンプライアに対して、何も反応していなかった。

 

誰かが、救わなければならない。

 

ソフィーさんが何かを今後言い渡してくるのは確実。お母さんは時間稼ぎが出来たが、どうにかして根本対策をしなければもたない。

 

とりあえず、まず最初に、ネージュに会いに行くところからだ。

 

ネージュが会ってくれるかが最初の関門だが。

 

お母さんの件についても相談は受けたい。ネージュの絵には、専門家であるお父さんも来て欲しい所だった。

 

軽く話しあっているうちに、夕食も終わる。

 

少し力が戻って来たので、レポートを仕上げてしまう。草稿を書いている間に、スールがコンテナをチェック。

 

ドンケルハイトを一とする、本来だったら手に入らない素材の幾つかを見て、メモを取っていた。

 

或いは死人を蘇生させる次元のお薬も、今であれば作る事が出来るかも知れない。

 

レポートが仕上がったので、スールとダブルチェック。

 

一晩眠って、翌朝には出しに行く。

 

これで、後はSランクアトリエの昇格の話を受けるだけ。

 

試験に落ちることはまずあり得ない。

 

むしろ、これからこなさなければならない事に関して、不安の方が大きかった。

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